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来嵐2
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ライルの行動の意図が読めず、反応してしまった身体にも動揺しユノンは一歩後ずさった。
ライルは縋るような表情で口を開く。
「あんたは兄のことが好きなのか?」
なぜそんなことを問うのか。自分がタリアスのことを好きかどうかは、彼の妻であるということとは関係ない。
好きか嫌いかと問われれば、好きだ。けれどタリアスは人望も厚く、城の者はきっと皆王のことをよく思っている。
「……好きです。僕は、タリアス様ーー僕の夫を、愛しています」
妻ならばこう答えて当然だという返答だ。
少々意地悪を働くが、ユノンの身体が傷つかないよう心を砕いてくれ、朝はゆっくりと休ませてくれる。
王宮暮らしに早く馴染めるよう気を配ってくれてもいるし、愛の言葉も惜しまない。
取り柄もなく生きてきた自分には、タリアスはもったいない夫だ。
「本当に? あんたは出会ったばかりの夫を、心から愛していると言えるのか?」
「なぜそんなことを訊くのです? あなたには関係のないことだ」
まったく考えが読めない。それに、ある種の必死さが垣間見える彼の表情も。
馬鹿にしているとか冷やかしているとか、そういう心境ではないだろう。
気味が悪い。ここから離れたい。でも、ーー彼の考えを、知りたい。
「関係なくなんかない。俺は、……」
そこまで言い、言葉を詰まらせた。
ユノンは続きが気になるが、ライルは小さく「まぁ、いい」と吐き捨てた。
「あんたが兄のことを愛してるらしいのはわかったよ。だが、俺は俺のやりたいようにさせてもらう」
ライルが近づいて来て手を伸ばす。ユノンは反射的に逃げようとした。
しかし俊敏なライルの動きには敵わず、腕を掴まれて引き寄せられる。
「なっ、何を……人を呼びますよ」
「呼ぶなら呼べ」
がっしりと腕の中に抱え込まれ、ユノンはもがこうとした。
しかしそれより早く、ライルの唇が再び自分のものと重ね合わされる。
(どうして、こんなこと……)
ユノンの身体は、肉食獣に狩られてこと切れた獲物のように弛緩する。
ぬるりと唇を割って舌が侵入してき、ユノンのそれと絡まり合う。
拒絶は、できなかった。
甘く吸われたり、噛まれたりすると頭の中が麻痺しそうになる。
このわけのわからない状況の理解に努めることが一気にどうでもよくなって、ユノンは目を閉じた。
つい先刻の確かな興奮が下半身に戻ってくる。
「あ……ふぅ、ん……ふぁ……」
ぴちゃ……くちゅ……と粘膜の触れ合う音が頭に響く。ユノンはもどかしさに腰をもぞもぞと動かしてしまう。
「……ふ、んん……」
ライルの舌はユノンの小さな口腔内を余すところなく探る。
息苦しさすら心地良くて、気づけばユノンも必死にライルの舌を追っていた。
「んん、んう……!」
(だめ、気持ちいい。触りたい……)
腰をライルに擦り付けるように動かしてしまう。
そうすると喉の奥でライルが笑った気配がして、身体を軽く押された。
「ふあ……? あん……」
「淫乱だな、あんた。夫以外の相手とでも、いつでも盛れるのか?」
小馬鹿にするような声に、顔がかっと熱くなった。
「なっ……!」
「とんだあばずれが妃になったもんだ」
ライルは口元を歪めながら、親指で自らの唇を拭う。
ユノンは後先考える間もなく、手を上げた。そして無礼な相手に向かって振り下ろすも、腕は軽く掴まれてしまう。
ぎりぎりと強く握られ、ユノンは痛みに顔をしかめた。
「おまけにすぐに頭に血が上る。まるで子どもだ」
ライルはこちらを嘲るような態度を崩さない。
ユノンにだって幼い頃から妃となるべく教育を受けてきた矜持がある。
こんな風に目的も明かさず煽ってくるような男に、やられっぱなしではいられない。
「……その子どもに、隠れていかがわしいことを働くのはどこの誰ですか」
「なに?」
ユノンは掴まれている方と逆の手で、思い切ってライルの頬を張った。
ぱしん、と尖った音が立つ。
利き手ではないので上手く力を入れられず、自らの手のひらまで無駄に痛い。
けれどやり返してやったという達成感でユノンは自然と口元が綻んだ。
掴まれていた腕も解放される。
打たれてかしいだライルの顔が、ゆっくりとユノンの方を見据えた。
「……あんた、こんなことができるのか」
赤くなった頬をさするライルは、目を見開いてユノンを見つめる。
見つめ合う時間は、とても長く感じた。実際にはほんの少しの間のはずなのに、次は何をされるかとユノンは一瞬たりとも気が抜けない。
ライルは頬に手を置いたまま、ユノンの方へ一歩足を踏み出す。
その瞬間、目が覚めたようにユノンは扉の方へ走った。
やり返したのだから、とにかくこの場を去らなければと思ったのだ。
わけのわからない男といつまでも一緒にいても危険なだけだ。
扉を開け、何人かの使用人とぶつかりそうになりながら夢中で自室へ走った。
部屋で一人になり施錠すると、改めて脚が震えてきた。
(あの人は、怖い。それに僕も僕で、なんてことを……)
その場にへたり込み、身体を抱いてうずくまった。
王の弟に無理やり接吻されてはしたなくも感じ、その後で平手打ちを返してしまった。
一体どんな状況なのか。自分が何をしたというのか。
理解できないことだらけだが、最後に見たライルのあの目が頭から離れない。
あれは心底驚いている目だった。怒りではなく、むしろユノンの反応を好ましく思っているような……。
(そんなはずない。僕はきっと厳しく追及されるだろう。殿下が黙っているわけがない)
もうおしまいかもしれない。自分はオルトア家に戻され、居場所を失うだろう。
ユノンは身体を抱きしめたまま床に倒れ込んだ。
これからの自分の行く末など考えなくともわかる。
王が自分を気に入ってくれ、しばらくは平穏に暮らせると思っていた。それがこんな風に王の身内によって崩されることになるなど、思いもしなかった。
とても疲れていたので、ユノンは取りあえず目を閉じた。水を飲みたかったが、もう部屋から出たくなかった。
ライルは縋るような表情で口を開く。
「あんたは兄のことが好きなのか?」
なぜそんなことを問うのか。自分がタリアスのことを好きかどうかは、彼の妻であるということとは関係ない。
好きか嫌いかと問われれば、好きだ。けれどタリアスは人望も厚く、城の者はきっと皆王のことをよく思っている。
「……好きです。僕は、タリアス様ーー僕の夫を、愛しています」
妻ならばこう答えて当然だという返答だ。
少々意地悪を働くが、ユノンの身体が傷つかないよう心を砕いてくれ、朝はゆっくりと休ませてくれる。
王宮暮らしに早く馴染めるよう気を配ってくれてもいるし、愛の言葉も惜しまない。
取り柄もなく生きてきた自分には、タリアスはもったいない夫だ。
「本当に? あんたは出会ったばかりの夫を、心から愛していると言えるのか?」
「なぜそんなことを訊くのです? あなたには関係のないことだ」
まったく考えが読めない。それに、ある種の必死さが垣間見える彼の表情も。
馬鹿にしているとか冷やかしているとか、そういう心境ではないだろう。
気味が悪い。ここから離れたい。でも、ーー彼の考えを、知りたい。
「関係なくなんかない。俺は、……」
そこまで言い、言葉を詰まらせた。
ユノンは続きが気になるが、ライルは小さく「まぁ、いい」と吐き捨てた。
「あんたが兄のことを愛してるらしいのはわかったよ。だが、俺は俺のやりたいようにさせてもらう」
ライルが近づいて来て手を伸ばす。ユノンは反射的に逃げようとした。
しかし俊敏なライルの動きには敵わず、腕を掴まれて引き寄せられる。
「なっ、何を……人を呼びますよ」
「呼ぶなら呼べ」
がっしりと腕の中に抱え込まれ、ユノンはもがこうとした。
しかしそれより早く、ライルの唇が再び自分のものと重ね合わされる。
(どうして、こんなこと……)
ユノンの身体は、肉食獣に狩られてこと切れた獲物のように弛緩する。
ぬるりと唇を割って舌が侵入してき、ユノンのそれと絡まり合う。
拒絶は、できなかった。
甘く吸われたり、噛まれたりすると頭の中が麻痺しそうになる。
このわけのわからない状況の理解に努めることが一気にどうでもよくなって、ユノンは目を閉じた。
つい先刻の確かな興奮が下半身に戻ってくる。
「あ……ふぅ、ん……ふぁ……」
ぴちゃ……くちゅ……と粘膜の触れ合う音が頭に響く。ユノンはもどかしさに腰をもぞもぞと動かしてしまう。
「……ふ、んん……」
ライルの舌はユノンの小さな口腔内を余すところなく探る。
息苦しさすら心地良くて、気づけばユノンも必死にライルの舌を追っていた。
「んん、んう……!」
(だめ、気持ちいい。触りたい……)
腰をライルに擦り付けるように動かしてしまう。
そうすると喉の奥でライルが笑った気配がして、身体を軽く押された。
「ふあ……? あん……」
「淫乱だな、あんた。夫以外の相手とでも、いつでも盛れるのか?」
小馬鹿にするような声に、顔がかっと熱くなった。
「なっ……!」
「とんだあばずれが妃になったもんだ」
ライルは口元を歪めながら、親指で自らの唇を拭う。
ユノンは後先考える間もなく、手を上げた。そして無礼な相手に向かって振り下ろすも、腕は軽く掴まれてしまう。
ぎりぎりと強く握られ、ユノンは痛みに顔をしかめた。
「おまけにすぐに頭に血が上る。まるで子どもだ」
ライルはこちらを嘲るような態度を崩さない。
ユノンにだって幼い頃から妃となるべく教育を受けてきた矜持がある。
こんな風に目的も明かさず煽ってくるような男に、やられっぱなしではいられない。
「……その子どもに、隠れていかがわしいことを働くのはどこの誰ですか」
「なに?」
ユノンは掴まれている方と逆の手で、思い切ってライルの頬を張った。
ぱしん、と尖った音が立つ。
利き手ではないので上手く力を入れられず、自らの手のひらまで無駄に痛い。
けれどやり返してやったという達成感でユノンは自然と口元が綻んだ。
掴まれていた腕も解放される。
打たれてかしいだライルの顔が、ゆっくりとユノンの方を見据えた。
「……あんた、こんなことができるのか」
赤くなった頬をさするライルは、目を見開いてユノンを見つめる。
見つめ合う時間は、とても長く感じた。実際にはほんの少しの間のはずなのに、次は何をされるかとユノンは一瞬たりとも気が抜けない。
ライルは頬に手を置いたまま、ユノンの方へ一歩足を踏み出す。
その瞬間、目が覚めたようにユノンは扉の方へ走った。
やり返したのだから、とにかくこの場を去らなければと思ったのだ。
わけのわからない男といつまでも一緒にいても危険なだけだ。
扉を開け、何人かの使用人とぶつかりそうになりながら夢中で自室へ走った。
部屋で一人になり施錠すると、改めて脚が震えてきた。
(あの人は、怖い。それに僕も僕で、なんてことを……)
その場にへたり込み、身体を抱いてうずくまった。
王の弟に無理やり接吻されてはしたなくも感じ、その後で平手打ちを返してしまった。
一体どんな状況なのか。自分が何をしたというのか。
理解できないことだらけだが、最後に見たライルのあの目が頭から離れない。
あれは心底驚いている目だった。怒りではなく、むしろユノンの反応を好ましく思っているような……。
(そんなはずない。僕はきっと厳しく追及されるだろう。殿下が黙っているわけがない)
もうおしまいかもしれない。自分はオルトア家に戻され、居場所を失うだろう。
ユノンは身体を抱きしめたまま床に倒れ込んだ。
これからの自分の行く末など考えなくともわかる。
王が自分を気に入ってくれ、しばらくは平穏に暮らせると思っていた。それがこんな風に王の身内によって崩されることになるなど、思いもしなかった。
とても疲れていたので、ユノンは取りあえず目を閉じた。水を飲みたかったが、もう部屋から出たくなかった。
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