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4.思いがけない提案 ※

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「ん、ぁ……っそこ、きもち、い……あ……」

 横座りしていたアルヤはエーギルの膝に股がりなおし、ドロワーズを履いていない秘部を指で責められ、服を脱ぐ手間も惜しんでまずは挿入した。対面で抱き合いながら性器だけを露出させて交わるのは、いかにも余裕がない。いつもならソファで始めたとしてももっとゆっくり時間をかけて相手を焦らすのだが、エーギルの求めがあまりにも可愛くて、アルヤも我慢ができなかったのだ。

(エーギル様とするのは、不思議だわ)

 ぎっぎっとソファを揺らしながら、アルヤは嬌声をあげながら頭のどこかで考える。こんなふうに彼女が上に乗っているのならば、他の客ならアルヤが腰を振るところだが、エーギルは下から突き上げて、アルヤを貪りつつも彼女への奉仕をしている。

 これではどちらが客なのかわからない。

「はぁん……っイ、っちゃ……ぁんんっ」

「……っアル、ヤ……」

 ずんっと突き上げられて、うねった蜜壺がエーギルをぎちぎちと締めあげる。昨晩ならばそれだけでエーギルも達していただろうが、その締めつけを受けながら、まだ彼は腰を揺すぶっていた。

(ふわふわして……考えられなくなっちゃう……)

「んっんぅ」

 絶頂に至って背をしならせたアルヤの身体を、エーギルは支えたまま、背中を丸めて彼女の首筋に唇を押し当てる。性急にまぐわっているのにその口づけは酷く優しくて、余計にアルヤは乱れた。

「……そろそろ……出す、ぞ」

「来て……んぁっ……熱いの、ぁっあんんっ」

 腰をぎゅっと抱き締めた途端に、股を貫く肉棒がびくんと震える。昨晩も何度も吐き出したにもかかわらず、アルヤの最奥にびゅうびゅうと勢いよく子種が注ぎ込まれた。しかし、昨晩と同様にまだ満足しきっていない肉棒は硬い。

「アルヤ、もっと……」

(もっとシてください……)

 射精したばかりでそのまま突き上げを再開したエーギルのおかげで、アルヤの返事は嬌声で紡がれることはなかった。だが、繋がった身体はエーギルに彼女の気持ちを伝えて、彼の突き上げを求めた。そうして子種と愛液の混ざった水音を激しく響かせるのを許す。

 そうしてソファの上でまぐわいのあとに、ベッドに移ってドレスを脱がして喘がされ、エーギルが三度目に果てた後、横向きで寝そべりながら口づけを交わしているうちに、またすぐにエーギルの下半身は欲を訴え始めた。夕方すぐから行為が始まったから、まだまだ夜更けには早い。その証拠に、近くの部屋からはまだ別の娼婦の嬌声やベッドを揺らす音がかすかに漏れ聞こえてくる。

(昨日もあんなにシて、今日もシてるのに……エーギル様は本当にお元気だわ)

 くすくすと笑いながらアルヤはエーギルの男根に指を沿わせて、先端をくちゅくちゅと弄る。そこは先走りなのか先ほど吐き出したばかりの白濁の残滓なのか、あるいはアルヤの蜜なのかわからないものでとろとろだ。ぴくぴくと身体を震わせながら快感に喘いだのか、エーギルは眉間にわずかに皺を寄せる。

(……気持ちよさそう)

「アルヤ」

「今度はわたくしが上に乗っても?」

「っ……いや」

 息を呑んだエーギルは、一瞬唇を噛んでから、そっとアルヤの手を押しとどめる。

「昨夜も今日も、少し……貴女をむさぼりすぎた。今夜はここまでにしておこう」

(こんなにお元気なのに、わたくしを気遣ってくださるなんて。優しい方だわ)

「……わかりましたわ、エーギル様。では、またわたくしに会いに、ここへ来てくださいますか?」

 エーギルの肉棒を弄っていた手を彼の胸に当てて、アルヤはねだる。それは言葉だけ捉えれば娼婦としてのいつも通りのセリフにすぎないだろう。だというのに、彼女の心の中は全く逆だ。

(どうしてかしら。わたくし、エーギル様に期待しているわ)

 アルヤとエーギルは所詮、娼婦と客の関係でしかない。昨日も今夜も、無茶な横入りをしてアルヤと寝ている彼は、きっともう金がないに違いない。だが、あるいは、と思ってしまうのだ。

(昨日会ったばかりなのに)

 もっと会いたいと願っている。

 その気持ちを、娼婦らしくないと思いながらもアルヤは口にする。だが。

「いや。もう、ここには来ない」

「……あ」

 思わず小さく声をあげて、アルヤはすぐに次の言葉を探した。

「そう……です、か。寂しいですわ」

 わかっていたはずの答えが、やけに胸に刺さる。

(娼婦相手なんだから、嘘を言ってくださればいいのに。エーギル様は、真面目な方なのね)

 溢れそうになった涙をこらえて、アルヤはかろうじてエーギルに微笑んでみせる。

「ああ。それで、貴女がよければなんだが」

「……」

「俺に身請けされてくれないか」

 真摯に見つめる赤い瞳が、嘘を言っているようには見えない。だというのに、アルヤはぽかんとしてその言葉を反芻し、顔を歪めた。

「……いくらなんでも、それは酷い冗談ですわ」

(わたくしを、身請けできるはずないのに)

 彼女の身にかけられた身代金は、一生かかっても払いきれないほどの大金だ。アルヤの客はほとんどが貴族だが、どんな高位の貴族が来たときだって、冗談でもこんなことを言い出さなかった。身請けだなんて非現実的なことを言い出すのは、互いにリップサービスだとわかる間柄だけだろう。

 そう。きっとエーギルも、リップサービスを言っているのだ。昨日の言葉は嘘じゃなかったが、今日はそうじゃなかった。

(……だめね。わたくし)

 笑って受け流せばいい、『迎えに来てくださるのを待っていますわ』と嬉しそうに微笑めばいいのは頭ではわかっている。けれども今のアルヤにはそれができなかった。

(なんでこんなに胸が痛いのかしら)

「冗談ではない」

 赤い瞳を見つめていられなくて視線を逸らしたアルヤに、きっぱりとした否定が返ってきた。

「貴女が了承するならば構わないと、もう話をつけてある。金のことなら問題ない」

 弾かれたように顔をあげたアルヤと、再び視線を絡んだ彼は、変わらずまっすぐに彼女を見つめている。

 昨日出会ってから今まで、エーギルはずっと歯に衣着せぬ物言いしかしない。アルヤはこの娼婦の暮らしを続けてきて、嘘をついている男というのはなんとなくわかるようになった。だが、今のエーギルは嘘をついているようには見えない。それに、店に入ってきてからアルヤの部屋に来るまでに時間がかかったのは、その話をしていたからなのだと言われれば、納得もできよう。

 身請けなんてありえないとわかっているのに、彼の言葉も態度も、全てがこれが嘘なのではないとアルヤに訴えかけてくる。

「……本当、なのですね……?」

「ああ。……どうだろうか。貴女は、俺なんかに身請けされるのは、嫌か?」

 するりとエーギルがアルヤの頬を撫でる。懇願するように細められた彼の目に、先ほどとは違った意味で胸が痛くなる。

(これが、一晩の夢でも、いいわ)

 目を伏せたアルヤは、ふるふると首を振って、微笑んだ。

「嬉しいです、エーギル様」

 そっとエーギルの手に自らのものを重ね合わせて、アルヤは心からそう返事をした。
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