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【運命に抵抗したいのは私だけじゃない】
永遠にフラグ回避ということでよろしいですね?
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馬車を降りた所で、見覚えのある頭が視界に映った。綺麗に撫でつけられた茶色のストレートヘアの女生徒、そしてその隣には緑の髪の男子生徒だ。
今までなら2人並んで登校するということはなかったのだろうけれど、先日の事件を通して2人は気持ちが通じあったのだし、一緒に行動するようになったのだろう。その変化が嬉しい。
2人は先を歩いていたが、馬車から降りてきたのが気になったのか、女生徒の方が振り返った。
「ク、クレア様!」
振り返った女生徒――アビゲイルは驚いた顔で私の名前を呼ぶと、わざわざ引き返してこちらに歩み寄ってきた。
「も、もう大丈夫なんですか?」
「うん、心配かけてごめんね」
私がアビゲイルに返事していると、男子生徒――グランツもおずおずと近寄って来た。
「聖女様……おはよう」
何故かどことなく気まずげな雰囲気のグランツに首を傾げる。
「おはようございます」
一応挨拶を返すものの、グランツは目を泳がせている。何だろう?
「……ごめん」
「はい?」
急にグランツに頭を下げられて、驚いてしまう。理由が判らず助けを求めてアビゲイルに目線を送ると、彼女は苦笑していたし、アウレウスを見れば、やれやれ、と呆れたような顔をしている。しかし、事情が判っている風のアウレウスは口出しをする気がないようだ。
「俺、アビゲイルと婚約したから」
それが何故頭を下げて謝られることなのかは判らないけど、おめでたい報告だね!
「おめでとうございます! アビゲイル、おめでとう!」
「ああ、あり、ありがとうございます」
気まずい笑みを浮かべていたアビゲイルが赤面しながらもはにかむ。うーん、影のないいい顔! これは永遠に2人関連のもろもろのフラグが折れたと見てよろしいかな? よろしいね! やった! でも何でそれが、『ごめん』なの?
「聖女様を口説いてたけど、俺はもうアビゲイルしか見ないから……だから、悪かった」
頭を下げたままのグランツが言ったことで、ようやく合点がいった。2人が元鞘に収まって安心して忘れてたけど、そういえば一途な愛を教えてとか言ってたね……。え、待って、何で私がフラれてるみたいになってるの? あと、校門の目立つ所で頭下げるのやめてほしい、周りの人がチラチラ見てるじゃん! まるで私が悪いことしてるみたいじゃない!?
「頭を上げてください、ゲムマさん。元々私はゲムマさんのお相手をするつもりはありませんでしたし、アビゲイルが幸せなのが一番なんです」
だから早く! 気まずい謝罪をひっこめて!
「聖女様……」
「ク、クレア様……!」
グランツは信じられないものを見るような目で、呆然と呟く。そして、私の言葉は掛け値なしの本音ではあるけど、アビゲイルからそんなキラキラした目線を向けられると偽善発現をしたみたいでちょっと居心地が悪い。
「ありがとう……ございます」
グランツは顔を歪めて笑いながらそう言った。
「では校舎に参りましょうか。もうすぐ予鈴が鳴るのでは?」
「あ、そうだね。行こうか」
アウレウスの促しで、私たち4人は校舎に向かって歩き始めた。
「ク、クレア様……あの、その……お話、した方がいいことが……」
歩き始めてすぐに、アビゲイルが小声で言う。
「グランツとの婚約の詳しい話?」
「そっ!」
私の質問に、アビゲイルが大きな声を出しかけて、はっと口を自分で抑えた。顔が真っ赤で可愛い。
「そそ、その話も、なんですけど……あ、あの、先日の、補習の時の、わ、私のことについて……」
口から手をそっと離してから、アビゲイルは再び小声で言う。
「そのことについては、この往来で話すべきではないでしょう」
「あっ」
珍しくアウレウスが口を挟んだので、アビゲイルがびくりと肩を震わせた。
「そうだね……ちょうど、私たちも話さないといけないと思ってたんだよね」
「何の話?」
小声で話していた所に、グランツが問いかけてくる。
「グランツさんにも関係があるでしょう。もしよろしければ、明日は休みですし、教会でグランツさん、アビゲイル嬢を交えて、先日の補習の時の話をできればと思いますが、いかがですか?」
アウレウスの台詞に、グランツの顔が険しくなった。
「そう、だな……。話したほうがいいだろう……」
考えるようにして、グランツが言う。
「その時、テレンシアも呼んでいいかな?」
私が言うと、グランツが解せないという視線をこちらに向けてくる。当然だよね、婚約者のデリケートな話を、当事者でもない人も交えて話したいっていうんだから。
「……テレンシアにも関係がある話なの」
声を潜めて言うと、アウレウスが「そうですね」と賛同してくれる。
「詳しいお話は、その時に。よろしいでしょうか?」
「……わかった」
「わ、わかりました」
グランツとアビゲイルは、訳が判らないながらも、頷いてくれた。モンスター化の原因究明、明日手かがりが掴めるといいな。
まずは今日、ルーナ先生のフラグ折りを頑張ろう。
今までなら2人並んで登校するということはなかったのだろうけれど、先日の事件を通して2人は気持ちが通じあったのだし、一緒に行動するようになったのだろう。その変化が嬉しい。
2人は先を歩いていたが、馬車から降りてきたのが気になったのか、女生徒の方が振り返った。
「ク、クレア様!」
振り返った女生徒――アビゲイルは驚いた顔で私の名前を呼ぶと、わざわざ引き返してこちらに歩み寄ってきた。
「も、もう大丈夫なんですか?」
「うん、心配かけてごめんね」
私がアビゲイルに返事していると、男子生徒――グランツもおずおずと近寄って来た。
「聖女様……おはよう」
何故かどことなく気まずげな雰囲気のグランツに首を傾げる。
「おはようございます」
一応挨拶を返すものの、グランツは目を泳がせている。何だろう?
「……ごめん」
「はい?」
急にグランツに頭を下げられて、驚いてしまう。理由が判らず助けを求めてアビゲイルに目線を送ると、彼女は苦笑していたし、アウレウスを見れば、やれやれ、と呆れたような顔をしている。しかし、事情が判っている風のアウレウスは口出しをする気がないようだ。
「俺、アビゲイルと婚約したから」
それが何故頭を下げて謝られることなのかは判らないけど、おめでたい報告だね!
「おめでとうございます! アビゲイル、おめでとう!」
「ああ、あり、ありがとうございます」
気まずい笑みを浮かべていたアビゲイルが赤面しながらもはにかむ。うーん、影のないいい顔! これは永遠に2人関連のもろもろのフラグが折れたと見てよろしいかな? よろしいね! やった! でも何でそれが、『ごめん』なの?
「聖女様を口説いてたけど、俺はもうアビゲイルしか見ないから……だから、悪かった」
頭を下げたままのグランツが言ったことで、ようやく合点がいった。2人が元鞘に収まって安心して忘れてたけど、そういえば一途な愛を教えてとか言ってたね……。え、待って、何で私がフラれてるみたいになってるの? あと、校門の目立つ所で頭下げるのやめてほしい、周りの人がチラチラ見てるじゃん! まるで私が悪いことしてるみたいじゃない!?
「頭を上げてください、ゲムマさん。元々私はゲムマさんのお相手をするつもりはありませんでしたし、アビゲイルが幸せなのが一番なんです」
だから早く! 気まずい謝罪をひっこめて!
「聖女様……」
「ク、クレア様……!」
グランツは信じられないものを見るような目で、呆然と呟く。そして、私の言葉は掛け値なしの本音ではあるけど、アビゲイルからそんなキラキラした目線を向けられると偽善発現をしたみたいでちょっと居心地が悪い。
「ありがとう……ございます」
グランツは顔を歪めて笑いながらそう言った。
「では校舎に参りましょうか。もうすぐ予鈴が鳴るのでは?」
「あ、そうだね。行こうか」
アウレウスの促しで、私たち4人は校舎に向かって歩き始めた。
「ク、クレア様……あの、その……お話、した方がいいことが……」
歩き始めてすぐに、アビゲイルが小声で言う。
「グランツとの婚約の詳しい話?」
「そっ!」
私の質問に、アビゲイルが大きな声を出しかけて、はっと口を自分で抑えた。顔が真っ赤で可愛い。
「そそ、その話も、なんですけど……あ、あの、先日の、補習の時の、わ、私のことについて……」
口から手をそっと離してから、アビゲイルは再び小声で言う。
「そのことについては、この往来で話すべきではないでしょう」
「あっ」
珍しくアウレウスが口を挟んだので、アビゲイルがびくりと肩を震わせた。
「そうだね……ちょうど、私たちも話さないといけないと思ってたんだよね」
「何の話?」
小声で話していた所に、グランツが問いかけてくる。
「グランツさんにも関係があるでしょう。もしよろしければ、明日は休みですし、教会でグランツさん、アビゲイル嬢を交えて、先日の補習の時の話をできればと思いますが、いかがですか?」
アウレウスの台詞に、グランツの顔が険しくなった。
「そう、だな……。話したほうがいいだろう……」
考えるようにして、グランツが言う。
「その時、テレンシアも呼んでいいかな?」
私が言うと、グランツが解せないという視線をこちらに向けてくる。当然だよね、婚約者のデリケートな話を、当事者でもない人も交えて話したいっていうんだから。
「……テレンシアにも関係がある話なの」
声を潜めて言うと、アウレウスが「そうですね」と賛同してくれる。
「詳しいお話は、その時に。よろしいでしょうか?」
「……わかった」
「わ、わかりました」
グランツとアビゲイルは、訳が判らないながらも、頷いてくれた。モンスター化の原因究明、明日手かがりが掴めるといいな。
まずは今日、ルーナ先生のフラグ折りを頑張ろう。
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