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【フラグ折りも楽じゃない】

家庭派ヒロインのスキル総なめなのでは?

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「アビゲイルさんに服を貸してもらったの」

 さっきまで着ていた制服を畳みながらアウレウスに言う。

「そうでしたか。アビゲイルさん、ありがとうございます」

 アウレウスが会釈して礼を告げる。補佐だとはいえ、なんでアウレウスがお礼を言うんだろう。

「いいいいいえ、元はと言えばわ、私のせいですから」

 ブンブンと手を振ってアビゲイルは言う。

「あああの、それから、その制服、あああ洗わせてください、しし染みに、なってしまいますから」

「えっでも」

「おお預かりします」

 さっと私から制服を奪うと、アビゲイルはシャワー室脇の手洗い場で、制服を洗い始めた。色の濃いソースもついていたが、見る間にその汚れが落ちていく。本当に熟練のメイドみたいな手さばきだ。

 平民なら姓がない筈だけど、彼女には『シェロン』という家名があるから、貴族のはずなのに、メイドさながらのこの技術は一体どこで磨いたんだろう? 凄いな!

「凄いね、アビゲイル。ありがとう!」

「あっああ、そんな……わわ私のせいなので……」

 ひとしきり汚れを落としたところでそう声をかけると、アビゲイルはまた恐縮する。

 と、その時、予鈴が鳴った。

「あっお昼休憩終わっちゃう!」

「あああああすみません、すみません、私のせいで」

 ぺこぺこと謝ってアビゲイルは今にも泣きそうだ。

「アビゲイルさんのせいじゃないよ! それに元々ギリギリに食堂来たのは私たちだし……」

 あはは、と笑って言う。けど、このまま授業に行くのは流石にお腹がすいちゃうかなあ……。

「先生には、トラブルで授業に遅れることを伝えてあるので、大丈夫ですよ」

 アウレウスはいつの間にか手に持っていた袋に、洗われた制服を入れながらそう言う。

「えっそうなの?」

「はい、まだクレア様は昼食を召し上がってませんしね」

 私結構急いで着替えた筈なんだけど、あの一瞬で先生に連絡して戻ってきたのか、アウレウス。

「あー……でも、もう食堂締まってる時間じゃない? 食べられるものないよ」

 苦笑いして私は言う。食堂の方からは後片付けをしている音がしているから、多分もう新しく作ってもらうのも難しいだろうな。

「私の食事は落ちてませんので、食堂に取り置いてもらっております。そちらをお召し上がりください」

「でもそれじゃあ、アウレウスのご飯がなくなっちゃうよ」

「私は一食程度抜いても、問題ございません」

 反論すると、アウレウスは笑って言う。私がだめ! と言おうとしたその時、目の前にバスケットが差し出された。

「あ、ああの、もしよかったら、こちらを食べてください」

「これは?」

 びっくりして問うと、アビゲイルはおずおずとそのバスケットを開けてみせる。中にはサンドイッチが入っていた。

「えっこれもしかしてアビゲイルさんの手作り!?」

「きき貴族の娘なのに、こんなみっともなくてすすすみません」

「えっ何が? すごい美味しそうだよ!」

 掃除も洗濯もできて、その上料理までできるなんて、家庭派ヒロインのスキルを総なめしてるのでは? 眼鏡取ったら美少女だし、これは着飾ったら一気にモテてしまうパターンの子じゃん。

 こんな設定モリモリの子が居たんだなあ! でも、ゲームにこんな子がいたのかどうか、本当に思い出せない。

「あっでも、これ食べちゃったらアビゲイルさんのお弁当なくなっちゃうんじゃない? だったらもらえないよ!」

「いいいいいいえ、私の分は、あるので! ……他の人に……渡すつもりだったんですが、い、いらなくなっちゃったみたいで……」

 バスケットを持ったまま、俯いてアビゲイルは呟く。

 その姿に、頭が一瞬白くなる。こんなシーンを見たことがある。あれは、ゲームの中で、グランツ・ゲムマの幼馴染が闇落ちした時のシーンだ。

 ……何で思い出せなかったんだろう。アビゲイルは、闇落ちする二人目の悪役令嬢だ。
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