精霊王の愛娘 ~恋するケダモノ達~

美袋和仁

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 思わぬ展開 ~後編~

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「.....で?」

 寝室の椅子に座って脚を組み、イライラMAXな顔で睨め下ろすリィーア。

 その足下で正座するのは黒装束の男ども三人とバース。彼らは神妙な面持ちで背を丸めていた。
 しどろもどろな説明を聞いて総合してみれば、リィーアを王とするために変化の魔法を解こうと突撃してきたらしい。
 魔法が解ければ、否応無くリィーアが王になる。ならざるをえまい。そう考えての事だそうだ。
 王弟殿下と面会するのだと耳にしたバースは千載一遇のチャンスが来たと判断した。
 王弟とリィーアは近しい血縁者だ。それの傍にあれば、当然、例の静電気とやらを感じるだろう。
 王弟を前にすれば感じて当たり前。自覚のある静電気だ。それを不思議には思うまい。ならそこを突けば、従兄弟のウォルフが近づいても気づかないかもしれないと、今回の乱入を画策したらしい。
 王弟を狙う振りをしたら、リィーアはきっと逃げ出さないだろう織り込み済みで。

 .....頭、痛ぇ.....

「お前らのせいで、僕の計画が台無しなんだけどっ?!」

 きゃんきゃん吠たえる精霊王の愛し子様。

 リィーアとしては、このまま王弟殿下が回復するのを待ち、ファビルへ王位を譲ってもらい、近々、国を平定するつもりだったのだ。
 これから養生すれば王弟も国政を手助けしてくれるだろう。何の憂いもなくリィーアは妻として隠れていられる。
 最低限の公務のみをこなし、まったりのんびりファビルと穏やかな家庭を築くつもりだった。
 ファビルが王として認められた形なのだ。王家の血を引いていると誰もが思う。リィーアから銀髪や紫眼の子供が産まれても、誰も疑問には思うまい。

 理想の未来が目の前にあったはずなのに。

 そう説明するリィーアを見て、思わずバースが噛みついた。

「正しき王統へ戻すべきでありましょうっ!」

 声高に宣う脳筋様を見据え、リィーアは国法を口にする。

「王となれるのは王家の血をひく成人男子のみ。この件を忘れてねぇか? お前ら」

 そこまで耳にして、はたっと我に返るバース達。

 その通りだった。

 国法では、そのようになっている。係累が女子だけな場合、王統の誰かを婿とし、紋章を受け継いでいく。
 この場合でも王となるのは婿で、王女が女王となる事はない。

 .....あれ? 何処で間違えた?

 将軍からは前王の遺児は息子だと聞いている。それがいつの間にか王女となり、さらには王統と一切関係なさげな不義の子供である王太子の妻となっている謎。

 .....あれぇ~? と狼狽える四人。

 .....阿呆ぅどもが。

「あ~、もう、どうすんだよっ! こんな見てくれじゃあ人前にも出られないじゃないかっ!!」

 少なくとも、この国では。

 王家の色は特別だ。王都でこの色を知らない者はいない。
 ファビルを王とするならば、リィーアは絶対に人前へ出る訳にはいかなかった。

「魔法さえ解けなきゃ、このままファビルの妻として暮らせたけど..... もう無理だな」

 はあぁぁぁ~っと深い溜め息をつくリィーアに、ファビルが慌てて詰め寄る。

「待ってくださいっ! なぜですかっ?!」

 片手で顔をおおい、情けない表情で王太子を見るリィーア。

「ちょいと考えたら分かるべな。僕の見てくれはモロ王族だよ? 君と並んだら、人々はどう思うかな?」

「あ.....」

 ようやくファビルも思い当たったようだ。

 正統な王位継承者がどちらであるかなど一目瞭然。ファビルが手にした王家の紋章にも物議が醸されるだろう。
 そして皆噂する。やはり、王太子は不義の子供だと。
 そんな人間を王と認める者はいない。新たな針のむしろが用意されるようなモノだった。
 そして正当な王族を維持しようと、リィーアに多くの愛人をあてがうよう画策するだろう。

 淡々と説明するリィーア。

 たぶん、その予想は当たっている。

「.....あ。私は..... 我慢します。貴方といられるなら、立場なんて.....」

 気丈に振る舞うファビルだが、その顔には悲壮感が漂い、声もか細く力ない。
 だが、その決意をリィーアが一刀両断にする。

「僕が嫌なのっ!! そんな家畜みたいに番わされて子供を産むだけの人生なんて、真っ平御免に決まってんじゃんよっ!!」

 あからさま過ぎて身も蓋もない言い様。

 事実、その通りではあるかもしれないが、もう少し言葉を選んで欲しいと思うバース達である。

「あーーーっ! もうっ、ほんっと、いらん事してくれたなぁっ! お前らっ!!」

 がーっと頭を掻きむしり、気炎を上げるリィーアに、ひたすら土下座しか出来ないバース。
 ファビルに王家の紋章が与えられた時点でリィーアが王女なことは分かっていたのに。
 そして国法で、王女が王位を継げないことも知っていたのに。
 護衛武官として共にあったせいだろうか。バースは彼女を男性としてしか見ていなかったのだ。

 実際、前は両性具有だったので、バースの考えも間違いではない。

「僕がいなくなれば、ファビルに女があてがわれるだろうし、その女に王家の紋章が現れなかったら、また何かとゴタゴタするだろうし.....っ、はぁぁぁ、いったい、どうしたら.....」

「もう一度、変化の魔法をかけたら良いのでは?」

 おずおずと問いかける王弟殿下。それをじっとりと見据え、リィーアは小さく首を振る。

「変化の魔法は一度しかかけられないんだよ。解けたら二度の上書きは不可能なんよね」

 そこで、ふとリィーアは眼から鱗が落ちた。

 王として紋章を手に入れたファビル。どこからどう見ても正当な王位継承者の自分。並び立つ二人の王族。

 その正当性は.....?

 ぱあっと顔を閃かせ、リィーアは周囲の人々を一瞥する。

 なんだ。これで良いんじゃん? 僕が人前に出ないだけで話が終わるんじゃん? ただっ広い後宮で子供らと楽しく暮らせば良いだけじゃない。

 面倒事は全部ファビルやバースらに丸投げして、疲れて帰ってきた旦那様を念入りに癒してあげるだけの愉しい御仕事。

 ふっふっふっと肩を揺らし、晴れやかな笑顔でリィーアは周りを見渡した。

「一芝居打つぜ? 手伝えよな?」

 にっと笑うリィーアの含み笑いに怖じ気づき、バースらは全身を粟立てる。

 最初は何食わぬ顔でファビルの妻におさまるつもりだったリィーアだが、その計画は木っ端微塵となった。
 ならば、逆転の発想よ。どうせ姿を消さねばならないのなら、せいぜい華々しく盛り上げて消えてやろうじゃないか。

 リィーアが雲隠れするための新たな計画を聞き、眼を皿のように見開く王弟殿下一同。
 バースらにいたっては魂の抜けたかのような顔をしている。

「毒を食らわば皿までだ。最後まで付き合ってもらうからね?」

 にぱーっと笑う精霊王の愛し子様。

 あらゆる人々を巻き込み、物語は結末に向かい突き進んでいく。

《また、無茶をやる.....》

《らしいっちゃ、らしいじゃない?》

 精霊王の揶揄や溜め息が、そこかしこで漏れていた事をリィーアも知らない。
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