君に噛み跡を遺したい。

卵丸

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噛み跡

首輪

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絢斗はそこまで秀悟と親しい訳では無いがやはり知ってる人が亡くなるのは非常に悲しかった。

それに彼が自殺する3日前に誰も使わなくなった旧倉庫から小さい悲鳴が聞こえて絢斗が気になり開きにくいスライド式のドアを開けると上半身裸で腹には紫になって痛々しい痣が何個も出来ていて口元は吐瀉物がこびりついて、床も吐瀉物で汚しており、虚な瞳で静かに泣いている秀悟が2人の男子生徒にいじめられていた。
1人は秀悟の脇に腕を絡ませて逃げないようにしてもう1人は彼をサンドバッグにして腹を殴っていた。

「あーあ、お前のα様は電話にでなかったし、他の野次馬が来やがったな!!」

「うがっ!!」

生徒はもう1発秀悟の腹を思いっ切り殴ると口から少量の黄色い胃液が流れ落ちた。

「ぎゃはは、汚ねー!!」

見るに耐えなくなった絢斗は恐ろしい事で有名な体育の先生の名を叫んだ。

仁藤にとう先生こっちに来てください!!」

先生の名前に男子生徒達は怯えた顔をして秀悟を放り投げて絢斗に「死ね」と捨て台詞を吐いてから急いで旧倉庫から出て行った。

「・・・嘘だよ、ばーか!」

遠くにいる男子生徒達に暴言を吐いた後、絢斗は倒れている秀悟にゆっくり近づいた。

「・・・・大丈夫か?」

絢斗の聞いた後、秀悟は声を押し殺して静かに涙を流した。絢斗はそれを黙って静かに見つめていた。
秀悟が泣いてから数分が経ち、落ち着いたのか秀悟はゆっくりシャツを着た後、小さい声で独り言を呟いたがそれは絢斗にも聞こえてしまった。

「・・・やっぱり、先輩達は僕が剣道で良い結果を残したのが気に食わなかったんだ・・・それに博君はどうして電話にでてくれなかったの・・・・。」

秀悟の言葉に対して絢斗は慰めようと成る可く明るい声で口を開いた。

「多分、戸塚は外せない用事があったんじゃないかな?」

「・・・・・そうだといいんだけど・・・・でも、Ωだからって調子に乗ってないし、努力して10位になったのにどうして性だけで虐められなきゃいけないの!・・・ってαの氷室君に言っても困るよね・・・。」

秀悟の言葉に絢斗は何も言えなくて黙っていると秀悟は旧倉庫から、とぼとぼ歩いて出て行った。

***

剣道で有名になった事もあり秀悟の自殺はメディアで大きく取り上げられた。
後は遺書もあったらしいがそれは秀悟の母親が隠して話してくれなかったが秀悟が亡くなってから1週間後の朝、学校の掲示板に生徒達が大勢見に来ていた。それを絢斗は腐れ縁の静雄と掲示板に見に行った。生徒達に押されながらも掲示板の近くに着くとそこには殴り書きで書かれている秀悟の遺書が貼っていた。


『僕はΩに生まれたせいで尊敬している人に嫌われました。何回もやめてと言ったのに僕を殴るのをやめてくれない先輩達、そのせいで眠れない夜が続き、ご飯も喉が通らなくなりました。生きるのが辛いです。なので僕は今から楽になります。お母さん、お父さん、親不孝な息子でごめんなさい。博君、ざまぁみろ!
もう一度生まれ変わるなら次はαがいいな
木島 秀悟』

「ヤバくない?」

「誰が木島の遺書を貼ったんだよ!」

「あれ、汚れてるの涙だよね?」

「博って戸塚の事だよな?あいつ何かしたのか?」

「これ撮ったらバズるかな!」

「やめろよ呪われるって!!」

生徒達の騒ぎに先生達が注意しにきて生徒達はつまらなそうに教室に帰って行った。

「・・・静雄、嫌なもん見てしまったな」

「・・・・そうだね、だけど掲示板に貼るとかマジで悪趣味。」

「だよな」

2人は教室に帰って来たがやはり生徒達は遺書の話で教室中は騒がしかった。

***

放課後になり絢斗と静雄は校舎を出たが絢斗が教室にペンポーチを忘れたので静雄には1人で帰ってもらい絢斗は教室に向かった。
教室に入り机からペンポーチを取って鞄に入れて教室を出ていくと隣のクラスから秀悟の名前が聞こえて気になり絢斗はドアに隠れて聞き耳をたてた。そこには3人の男子生徒がいてその1人が博だった。

「マジで博が木島の遺書を貼ったのかよ!」

「あれって本物?」

「うん、本物だよ。」

「でも、お前ってさ木島と番だったのに、あんなえげつない事をしていいのかよ?」

男子生徒の言葉に博は嘲笑い、聞き捨てならない言葉を吐いた。

「あいつの事を番なんて思った事はなかったよ。」

「えっでもさ、チョーカーあげてたじゃん!」

「あ~・・・あれはチョーカーだけど俺にとっては首輪だよ、首輪これを使って試してみたんだよ。」

「試すって?」

「Ωの幸せって番になる事みたいだしさ、1回番になって、あいつが虐められてんの知ってるから、俺に話しかけてくると思ったんだよね、だから・・・突き放したらチョーカー首輪を外すかなと思ったんだけど、まさか自殺しちゃった。」

***

秀悟が亡くなる2日前は休日で彼は博の家に来た。博の部屋で秀悟は泣きながら昨日の旧倉庫の電話の事を問い詰めた。

「どうして・・・電話に出てくれなかったの?」

「・・・・・・・。」

「僕は博君とパートナーだよね?ずっと一緒だったよね?」

「・・・・・・・。」

「どうして黙っているの?・・・僕、辛いよ・・・・・死にたいよ。」

秀悟の言葉に博は心底面倒くさそうにため息を吐き、彼を冷たい瞳で睨みつけた。

「じゃあ、死ねばいいじゃないか」

博の冷たい言葉に秀悟は息を飲んだ。

「・・・・・・っえ?」

「だって死にたいほど辛いんでしょ?」

「でっでもさ・・・。」

「それに俺はいつでも秀悟の隣にいる訳じゃないし・・・その首輪だって」

「・・・首輪?」

「そう、俺はチョーカーを首輪って呼んでる。少しゲームをしたくなってさ、君の番になって突き放したらチョーカーを外して番を解消したら俺の勝ちでまだ番でいるなら俺の負けってやつ。」

博の残酷な言葉に秀悟は何も言葉が出なかったが涙だけが頬を伝った。
その後、どうやって博の部屋から出て行ったか覚えてなくていつの間にか自分の部屋にいた。

「・・・・・・。」

αで尊敬していた博に遊ばれていた事実を知って秀悟は悔しくてまた泣いた。

「・・・・・チョーカーを外したらあいつの手の平の中だよね・・・・。」

そして深夜、遺書を書いて机に置くとベランダの風の気持ちよさそうに微笑みながら秀悟は笑顔で6階から飛び降りた。
秀悟のお葬式に博は仕方なく出向くと涙を流して目がつり上がっている秀悟の母親にいきなり頬を叩かれた。

「・・・・・手紙に書いてあったんだけど・・・・アンタ、番と嘘ついて私の大切な息子を虐めたの。あの子嬉しそうに話してたのよ、大好きな博君と番になれたって・・・それなのにアンタは・・・うぅ・・・・・ああああ・・・・この人殺し!!」

母親は泣き崩すのを博は冷ややかな目で睨みながら線香を上げに行こうと思ったが博は好奇心で秀悟の部屋に入りある物を見つけた。

「・・・簡単に見つかるもんだなぁ。」

博は机の上にある遺書を見つけて何の躊躇いも無く遺書を読んで鼻で笑った。

「ざまぁみろって・・・死んだら元も子もねーじゃん、Ωはやっぱり、頭が悪いなぁ。」

博は運良く遺書に書かれた物と同じ封筒を引き出しから見つけると成る可く秀悟の字に似せるように「遺書」と書き、「ばーか」と書かれた紙を折り畳み封筒に入れて机に置き、秀悟が書いた遺書をカバンの奥に押し込んだ。

「あいつのババアに叩かれたし、それぐらい許されるよな。」

博は線香を素早くあげて何も言わずに秀悟の家を出て行った。

***

「いやぁ~遺書がこんなにも盛り上がるとは思ってなかったよ・・・あぁ~最高だった。」

博が高笑いをした途端、乱暴にドアが開く音がして全員が振り向くと額に青筋を立てている絢斗が真顔で早歩きをし、博の前に立つと思いっ切り彼の頬をぶん殴った。

「ぐべらぁ!」

「おっおい、氷室何してんだよ!」

「うわぁ~痛そう」

博は立ち上がろうとしたが先に絢斗が動いて彼の上に馬乗りになり顔面を何回も拳で殴った。

絢斗は殴りながら秀悟が嬉しそうにチョーカーを撫でながら話していたのを思い出していた。

『尊敬してる人から貰えるなんて嬉しすぎるよ!えへへ』

鼻血や涙で拳が汚れたが気にせずに先生が来るまで殴り続けた。
その後、博は学校に来なくなり3日後に退学をして、絢斗は1週間の謹慎になってしまった。

***

絢斗は何もする事が無く、ベッドで寝そべっていると母親がドアを叩いてきた。

「絢斗~緑川みどりかわ君が来てくれたわよ!」

「うん・・・入っていいよ。」

母親は呆れながらドアを開けて静雄を部屋に入らせた。

「相変わらず、部屋汚いな。」

「うるせぇ!」

少しの間、黙っていたが静雄はさり気なく絢斗が謹慎になった分の書いたノートを机の上に置いた後、静かに事件の話を聞いてきた。

「秀悟を馬鹿にした博をどうして殴ったんだ?」

「・・・・あいつ、本当に番になれて嬉しそうだったんだよ。なのにあれは全部遊びなんて悲しいだろ」

「でも、絢斗は関係ないじゃないか?」

「・・・・あの馬鹿をそのまま野放しにしてたらまた被害が遭うかも知れないし、木島が報われないじゃないか!」

絢斗の真剣な眼差しに静雄はやれやれと息を吐くと立ち上がり絢斗の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で回した。

「おっおい、やめろ!!」

「他人の事に真剣になり過ぎていつか絢斗が崩れそうで俺は恐ろしいよ。」

絢斗は嫌がって叫んでいたが彼は全く止めずに撫で回した後、満足してカバンを持って帰宅準備をした。

「母さんのBARの手伝いあるし、帰るわ!」

「・・・ったく髪ボサボサにしやがって・・・・・静雄。」

「ん?」

「・・・・・・ありがとう」

素直になれない絢斗のお礼は静雄にしっかり届いて彼は『可愛くない奴』と思いながら吹き出した。笑われた事により絢斗は睨んだが静雄は怯まずに手を振って帰った。
静雄が帰った後、絢斗は再びベッドに倒れ込んで小さく呟いた。

「番か・・・。」

『俺もいつか出来るだろうか?』

絢斗は番の事を考えていたがいつの間にかぐっすり眠っていた。
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