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127、赤い尻尾

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 その時、部屋のドアがノックされると扉の外から侍女のミーナの声が聞こえた。

「ルナ様、アレクファート殿下がおみえです」

 ミーナの声に、私は少し気を取り直すと返事をした。

「入ってミーナ。ちょうど良かったわ、アレクにも聞いて欲しいことがあるの」

 カイの言葉通りなら、二人は山の向こうの国からやってきたことになる。
 だとしたら、私一人の力では荷が重い。
 アレクにも相談をしないと。

 許可をする私の声が聞こえたのだろう。
 ミーナが部屋の扉を開けて、彼女と一緒にアレクとルークさんが部屋に入ってくる。

「ルナ!」

 アレクはそう言うと、真っすぐにこちらに歩いてくる。
 その目は泥で汚れた私のドレスの胸元を見つめている。

「衛兵隊からの報告を聞いたぞ。また、勝手に城を抜け出して」

 それを聞いて、私は恨めし気にテラスから城門の方を眺めた。

(裏切者……アレクには黙っておいてって言ったのに)

 まあ、あんなところに突然王太子妃の私が現れたら、どうせ噂は広がっていくからアレクに報告しなくちゃいけないことは分かるけど。
 口を尖らせる私を見て、ミーナとルークさんは肩をすくめて笑いをこらえている。
 アレクのお説教が始まりそうなのをみて、ルークさんが助け船を出してくれた。

「アレクファート殿下。そんなに心配をなさらなくても大丈夫ですよ。ルナ様は聖王妃リディアの生まれ変わり、並みの護衛などよりもよっぽどお強いですから」

「そうよ。ピピュオだって一緒だったんだから平気なのに」

 私がそう言って再び口を尖らせると、アレクはそっと私の肩を抱く。
 そして、私のブロンドを撫でた。

「お前が心配なのだ、ルナ。王太子妃になった以上、どんな相手がお前を狙っているとも限らない。ルファリシオの時のようにな」

「そ、それはそうだけど……」

 優しく髪を撫でられると、それ以上文句を言う気にはなれなくなる。
 ルファリシオと対決した時や、その後、天空にいた時にはアレクにはとても心配をかけてしまったし。
 際だってハンサムなその顔が、私の傍で心配そうにこちらを見つめていると思わず赤面してしまう。
 結婚して一年経つけど、元アラサーのゲームオタクの私には相変わらず刺激が強い。
 そんな中──

「顔が近いぞ、アレクファート。全く、いつもながら我が妹に馴れ馴れしい」

 いつの間に現れたのか、アレクから私を奪うように抱き寄せて彼を睨んでいる貴公子の姿。
 白く揺らめくような髪と、アレクと引けを取らないほどの美貌。

「フェニックス! 来てたの?」

 私の体を抱き寄せたのは、天空の王である神獣フェニックスだ。
 ミーナがため息をつきながら私を見つめる。

「ええ、先ほど。ルナ様のカレーを食べに来たと仰られて」

「カレーって……」

 あれから何だかんだ言っては、エディファルリアに訪れるようになったフェニックスはすっかり私が作るカレーが気に入っている。
 前世の味が忘れられなくて、こちらの食材を使って工夫しながら料理を作ることがあるんだけどカレーもその一つ。
 今では、エディファンの名物料理の一つになっているぐらい。
 私は、フェニックスから身を離しながら咳払いする。

「カレーが食べたいなら、レシピは厨房のみんなに伝えているわ。私じゃなくても作ってくれるでしょ?」

「嫌だ。俺は、お前が作るカレーを食べに来たのだ」

 嫌だって……子供ですか?
 わざわざ、地上に私の手料理を食べに来るなんて。
 まったく、シスコンの神獣なんて聞いたことがない。

 再びアレクに身を寄せる私を少し睨みながら、フェニックスはその指先を振るう。
 白い羽根が私のドレスの周りに舞い散ると、まるで浄化されていくようにドレスの胸元についた泥が消えていく。
 皆が入ってきたのでピピュオの後ろに隠れていたカイとミアがそれを見て、その姿を見せた。

『お兄ちゃん、女神さまのお洋服綺麗になったよ!』

『ああ!』

 私の体を包む光が、カイやミアの泥も浄化して白く可愛らしい毛並みがあらわになっていった。
 泥で汚れていて今まで分からなかったけど、二人の毛並みは尻尾だけがまるで炎のように鮮やかな赤だ。
 この特徴を持つ犬たちのことは、本で読んだことがある。

(この尻尾……もしかしてこの子たち)

 アレクも子犬たちに気が付いて私に尋ねた。

「ルナ、この子犬たちは?」

「ええ、アレク。丁度良かった、実はあなたに相談したいことがあるの」
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