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75、食後のデザート
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私は、駆け寄ってお父様の手を握った。
「お父様って素敵!」
「シャルロッテ! そうか、素敵かお父様は! ふふ、そうだろう、そうだろう!」
さっきまで威厳があったのに、娘の私に手を握られてすっかりデレッとなっているのが分かる。
伯爵様の言うとおりだった。
娘に対しては本当に親バカだけど商人ギルドを束ねるぐらいだもん、やっぱりただの狸じゃない。
お父様は真顔に戻るとミーアさんに言った。
「それに、シャルロッテもすっかりエルナを気に入っておる。そなた達を公爵家の客人としてこの屋敷に迎えようと思うのだが」
「公爵様……」
ミーアさんは、お父様に手渡されたレシピを胸に抱きしめながら頭を下げた。
コンラッドさんはそれを見て頷いた。
「そりゃあいい考えです旦那様。ミーアさんがいてくれりゃあ、私も時々はゆっくりと休暇が貰えそうですからね」
料理長の冗談に、私達は顔を見合わせて笑った。
お父様が愉快そうに笑うと。
「コンラッド、残念だがそうはいかん。うちの訪れる商人達は皆、お前の料理を楽しみにしておるでな」
お父様の言葉に肩をすくめる料理長。
貴族と料理人だけど、二人には主従関係だけではなくて信頼関係があるのが分かる。
暫くすると、厨房からトーマスがやってきた。
「皆様、失礼いたします」
トーマスは、食卓の横に用意された白いテーブルに見る。
(そう言えばこのテーブルって何だろう? いつもは食卓の横にこんなものないのに)
トーマスは私達の前でお辞儀をすると、そのテーブルの上に用意された白く美しい平皿を食卓並べていく。
卵を割るときも感じたんだけど、その動きは本当に繊細で滑らか。
明るくてひょうきんなタイプだから気が付かないけど、コンラッドさんが息子なのに料理の腕を褒めるぐらいだもん。
でも目の前の白いお皿には何も置かれていない。
アドニスは不思議そうにトーマスに尋ねた。
「トーマスと言ったな。これは何だ?」
「はい、殿下。シャルロッテ様のデザートで御座います」
スープと鳥肉のステーキを、みんなが食べ終わるころを見越してやってきたんだろう。
(じゃあ食卓の傍にあるこのテーブルは、トーマスが用意したのかしら?)
私はテーブルの上を見る。
その上には大きく浅い入れ物がおいてあり、その上には白い布がかけてあった。
アドニスが私をじっと見た後トーマスに言った。
「よりによってミーアの料理を食べた後に、シャルロッテのデザートか?」
(アドニス! 何その言い方。棘があるような気がするけど!)
私が頬を膨らませると、アドニスは溜め息を吐いて伯爵様に言った。
「エルヴィン、どう思う? まさかこいつが料理に興味があるとは。シャルロッテと結婚したら、俺は毎日こいつの料理を食べることになるのか?」
そりゃあアドニスが喜んでくれるなら毎日だって作ってあげたいけど、嫌なら結構ですから!
ランスエール様は優雅に頷かれると答える。
「私は、シャルロッテ様がお作りくださるのならば毎日でも喜んで。殿下もそうではありませんか?」
さすが伯爵様は紳士。
伯爵様の奥様になる方は幸せだよ。
「ま、まあ食べてはやるだろう。俺の為に作ったのであればな」
そう言って少しだけデレるアドニスが可愛い。
(でも、そんなに食べるのに覚悟がいるようなものなんて作りませんから!)
実際に調理したのはトーマスだし。
トーマスが食卓に座る皆に頭を下げる。
そして、白いテーブルに置かれた大きな入れ物をかかっている白い布をとる。
傍に立っていたお父様が中をのぞき込む。
「ふむ、これは井戸水で冷やしているのか? 小さな器がいくつも入っているようだが」
「はい、それでは早速皆様に召し上がって頂けるよう準備を致します」
トーマスはそう言うと、よく冷えているように見えるその小さな器を一つとるとアドニスに歩み寄りお辞儀をした後、アドニスの目の前に用意された平皿の上に器を逆さまにする。
するとその器からプルンとした黄色いものが平皿の上に落ちてくる。
「ふぁああ! お姉ちゃん! プルプルしてるよ?」
思わずそう言って、目を輝かせるエルナを見て私は笑った。
アドニスが首をかしげる。
「ふむ、一体何だこれは?」
トーマスが今度は先に細い注ぎ口がある美しい器を手に取ると、その中に入っているものをかけていく。
茶色いソースが絡まって、普段私がよく食べていたデザートになっていく。
大好きなのよね私。
「ふふ、プリンっていうの。とっても美味しいんだから!」
「お父様って素敵!」
「シャルロッテ! そうか、素敵かお父様は! ふふ、そうだろう、そうだろう!」
さっきまで威厳があったのに、娘の私に手を握られてすっかりデレッとなっているのが分かる。
伯爵様の言うとおりだった。
娘に対しては本当に親バカだけど商人ギルドを束ねるぐらいだもん、やっぱりただの狸じゃない。
お父様は真顔に戻るとミーアさんに言った。
「それに、シャルロッテもすっかりエルナを気に入っておる。そなた達を公爵家の客人としてこの屋敷に迎えようと思うのだが」
「公爵様……」
ミーアさんは、お父様に手渡されたレシピを胸に抱きしめながら頭を下げた。
コンラッドさんはそれを見て頷いた。
「そりゃあいい考えです旦那様。ミーアさんがいてくれりゃあ、私も時々はゆっくりと休暇が貰えそうですからね」
料理長の冗談に、私達は顔を見合わせて笑った。
お父様が愉快そうに笑うと。
「コンラッド、残念だがそうはいかん。うちの訪れる商人達は皆、お前の料理を楽しみにしておるでな」
お父様の言葉に肩をすくめる料理長。
貴族と料理人だけど、二人には主従関係だけではなくて信頼関係があるのが分かる。
暫くすると、厨房からトーマスがやってきた。
「皆様、失礼いたします」
トーマスは、食卓の横に用意された白いテーブルに見る。
(そう言えばこのテーブルって何だろう? いつもは食卓の横にこんなものないのに)
トーマスは私達の前でお辞儀をすると、そのテーブルの上に用意された白く美しい平皿を食卓並べていく。
卵を割るときも感じたんだけど、その動きは本当に繊細で滑らか。
明るくてひょうきんなタイプだから気が付かないけど、コンラッドさんが息子なのに料理の腕を褒めるぐらいだもん。
でも目の前の白いお皿には何も置かれていない。
アドニスは不思議そうにトーマスに尋ねた。
「トーマスと言ったな。これは何だ?」
「はい、殿下。シャルロッテ様のデザートで御座います」
スープと鳥肉のステーキを、みんなが食べ終わるころを見越してやってきたんだろう。
(じゃあ食卓の傍にあるこのテーブルは、トーマスが用意したのかしら?)
私はテーブルの上を見る。
その上には大きく浅い入れ物がおいてあり、その上には白い布がかけてあった。
アドニスが私をじっと見た後トーマスに言った。
「よりによってミーアの料理を食べた後に、シャルロッテのデザートか?」
(アドニス! 何その言い方。棘があるような気がするけど!)
私が頬を膨らませると、アドニスは溜め息を吐いて伯爵様に言った。
「エルヴィン、どう思う? まさかこいつが料理に興味があるとは。シャルロッテと結婚したら、俺は毎日こいつの料理を食べることになるのか?」
そりゃあアドニスが喜んでくれるなら毎日だって作ってあげたいけど、嫌なら結構ですから!
ランスエール様は優雅に頷かれると答える。
「私は、シャルロッテ様がお作りくださるのならば毎日でも喜んで。殿下もそうではありませんか?」
さすが伯爵様は紳士。
伯爵様の奥様になる方は幸せだよ。
「ま、まあ食べてはやるだろう。俺の為に作ったのであればな」
そう言って少しだけデレるアドニスが可愛い。
(でも、そんなに食べるのに覚悟がいるようなものなんて作りませんから!)
実際に調理したのはトーマスだし。
トーマスが食卓に座る皆に頭を下げる。
そして、白いテーブルに置かれた大きな入れ物をかかっている白い布をとる。
傍に立っていたお父様が中をのぞき込む。
「ふむ、これは井戸水で冷やしているのか? 小さな器がいくつも入っているようだが」
「はい、それでは早速皆様に召し上がって頂けるよう準備を致します」
トーマスはそう言うと、よく冷えているように見えるその小さな器を一つとるとアドニスに歩み寄りお辞儀をした後、アドニスの目の前に用意された平皿の上に器を逆さまにする。
するとその器からプルンとした黄色いものが平皿の上に落ちてくる。
「ふぁああ! お姉ちゃん! プルプルしてるよ?」
思わずそう言って、目を輝かせるエルナを見て私は笑った。
アドニスが首をかしげる。
「ふむ、一体何だこれは?」
トーマスが今度は先に細い注ぎ口がある美しい器を手に取ると、その中に入っているものをかけていく。
茶色いソースが絡まって、普段私がよく食べていたデザートになっていく。
大好きなのよね私。
「ふふ、プリンっていうの。とっても美味しいんだから!」
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