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68、公爵家へ(アドニス視点)
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俺は侍女達から、白と赤の薔薇で美しく彩られた花束を受け取りながらメリエッタに答えた。
「王妃に相応しいか……。メリエッタ、俺はそんなことはどうでもいい。ただあいつに笑顔でいて欲しい、そう思うのだ」
俺の言葉を聞いてメリエッタは微笑んだ。
「どうやら、私が差し出がましいことを申し上げる必要など御座いませんわね。シャルロッテ様は幸せですわ、そこまで殿下に想って頂けるのですから」
俺があいつを……。
俺は手にした薔薇を見つめる。
あいつはこれを見て喜ぶだろうか。
またいつものように無邪気に笑ってくれるだろうか。
俺はメリエッタと侍女達に礼を言うと、薔薇園を後にする。
中庭を出ると、白い馬車が俺達を待っている。
俺はエルヴィンを少し睨む。
「時を置かずに殿下がお出かけになると思いまして。僭越だとは存じましたが、待たせておきました」
全くこいつときたら、手回しがいいことだ。
俺が苦笑をすると、華麗に馬車の扉を開ける。
エルヴィンは御者に公爵家に向かうように伝えた。
すぐに馬車は走り出す。
俺は馬車の椅子に腰を下ろしたまま手にした花束を見ると口を開いた。
「こんなことならば、クリストファー・シュバイツにでもレディとやらの扱いを聞いておくのだったな」
俺のその言葉にエルヴィンは珍しく顔を顰めた。
「殿下、悪い冗談です。あの男は反面教師にはなりえたとしても、とても良い見本にはなりえませんから」
「ははは、そうだな。それはそうだ」
クリストファーならシャルロッテをどう描いただろうか。
あの天才ならば。
俺はふとそんなことに興味を馳せながら窓の外を眺める。
エトリーズ婦人、あの画家の前で俺はあいつの本当の姿を知りたいと言った。
あいつの全てを。
エルヴィンがそんな俺の姿を眺めながら、静かに口を開いた。
「シャルロッテ様は不思議なお方です。いつも新しい驚きを私達に与えてくださる。ですが殿下、あのお方の全てを知る必要などないのではありませんか? アドニス様は、ありのままのあのお方を受け入れて差し上げれば良いのです」
エルヴィン・ランスエール。
女であればその美しい瞳に見つめられれば赤面せざるを得ない、知性と武勇に優れた青の貴公子。
こいつには全てお見通しだ。
「ああ。その通りだな、エルヴィン」
俺に何かを言いかけたあいつの顔を思い出す。
だが、あいつの不安の原因がどこにあるのか、それを無理に問いただすことなど必要はない。
俺に言えぬことなら、その不安も含めてあいつを受け入れてやればいいのだ。
エルヴィンはそう言いたいのだろう。
俺は思わず笑みを浮かべた。
「エルヴィン。お前がその気になれば、クリストファー以上の女たらしになっていたであろうな」
俺のその言葉にエルヴィンは心底不快そうに答えた。
「殿下のお言葉でも、それだけは首を縦に振りかねます」
俺はそれを聞いて腹の底から笑った。
あいつが、シャルロッテがいなければ、エルヴィンとこうやって笑いあうことも無かったのかも知れない。
(全てを知る必要などないのだ。ただあいつの全てを受け入れてやればいい。そうだな、エルヴィンの言う通りだ)
しばらく走ると馬車の窓から公爵家が見えてきた。
あいつはもう起きているだろうか?
思えば、女に花束など渡したことがない。
俺はもう一度、手にした立派な白と赤の薔薇の花束を眺める。
そして、それを渡したときのあいつの反応を色々と想像して、期待と不安を感じながら馬車に揺られていた。
「王妃に相応しいか……。メリエッタ、俺はそんなことはどうでもいい。ただあいつに笑顔でいて欲しい、そう思うのだ」
俺の言葉を聞いてメリエッタは微笑んだ。
「どうやら、私が差し出がましいことを申し上げる必要など御座いませんわね。シャルロッテ様は幸せですわ、そこまで殿下に想って頂けるのですから」
俺があいつを……。
俺は手にした薔薇を見つめる。
あいつはこれを見て喜ぶだろうか。
またいつものように無邪気に笑ってくれるだろうか。
俺はメリエッタと侍女達に礼を言うと、薔薇園を後にする。
中庭を出ると、白い馬車が俺達を待っている。
俺はエルヴィンを少し睨む。
「時を置かずに殿下がお出かけになると思いまして。僭越だとは存じましたが、待たせておきました」
全くこいつときたら、手回しがいいことだ。
俺が苦笑をすると、華麗に馬車の扉を開ける。
エルヴィンは御者に公爵家に向かうように伝えた。
すぐに馬車は走り出す。
俺は馬車の椅子に腰を下ろしたまま手にした花束を見ると口を開いた。
「こんなことならば、クリストファー・シュバイツにでもレディとやらの扱いを聞いておくのだったな」
俺のその言葉にエルヴィンは珍しく顔を顰めた。
「殿下、悪い冗談です。あの男は反面教師にはなりえたとしても、とても良い見本にはなりえませんから」
「ははは、そうだな。それはそうだ」
クリストファーならシャルロッテをどう描いただろうか。
あの天才ならば。
俺はふとそんなことに興味を馳せながら窓の外を眺める。
エトリーズ婦人、あの画家の前で俺はあいつの本当の姿を知りたいと言った。
あいつの全てを。
エルヴィンがそんな俺の姿を眺めながら、静かに口を開いた。
「シャルロッテ様は不思議なお方です。いつも新しい驚きを私達に与えてくださる。ですが殿下、あのお方の全てを知る必要などないのではありませんか? アドニス様は、ありのままのあのお方を受け入れて差し上げれば良いのです」
エルヴィン・ランスエール。
女であればその美しい瞳に見つめられれば赤面せざるを得ない、知性と武勇に優れた青の貴公子。
こいつには全てお見通しだ。
「ああ。その通りだな、エルヴィン」
俺に何かを言いかけたあいつの顔を思い出す。
だが、あいつの不安の原因がどこにあるのか、それを無理に問いただすことなど必要はない。
俺に言えぬことなら、その不安も含めてあいつを受け入れてやればいいのだ。
エルヴィンはそう言いたいのだろう。
俺は思わず笑みを浮かべた。
「エルヴィン。お前がその気になれば、クリストファー以上の女たらしになっていたであろうな」
俺のその言葉にエルヴィンは心底不快そうに答えた。
「殿下のお言葉でも、それだけは首を縦に振りかねます」
俺はそれを聞いて腹の底から笑った。
あいつが、シャルロッテがいなければ、エルヴィンとこうやって笑いあうことも無かったのかも知れない。
(全てを知る必要などないのだ。ただあいつの全てを受け入れてやればいい。そうだな、エルヴィンの言う通りだ)
しばらく走ると馬車の窓から公爵家が見えてきた。
あいつはもう起きているだろうか?
思えば、女に花束など渡したことがない。
俺はもう一度、手にした立派な白と赤の薔薇の花束を眺める。
そして、それを渡したときのあいつの反応を色々と想像して、期待と不安を感じながら馬車に揺られていた。
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