62 / 126
62、私からの提案
しおりを挟む
メルファは扉の側まで歩いていくと、アレンさんに声をかける。
「はい、シャルロッテ様はお目覚めでいらっしゃいます。アレン様、少しお待ちくださいませ」
(こんなに朝早くどうしたのかしら、もしかしたら!)
私は慌ててベッドを降りると、部屋の窓に駆け寄った。
そして、窓に手を当てて屋敷の玄関の方向を見る。
昨日までは感じたことが無い気持ちに、胸が高鳴った。
でも私の視界に期待していたものが映っていないのを知って、自分の心が急にしぼんでいくように感じる。
昨日の朝のようにアドニスの白い馬車がそこにあるんじゃないかって、アドニスが来たことをアレンさんが知らせに来たのかと思った。
ううん、無意識に期待していた。
(私……)
昨日までは、心のどこかで必死にブレーキをかけていた気がする。
アドニスのことは、本当は好きになったらいけないんだって。
婚約だって断って元の世界に戻ることを考えないって。
私は自分の頬に手を当てた。
まだ、アドニスの唇が触れていた熱さを感じる気がする。
俯いて胸に手を当てる。
何だか怖い。
ここから先に進んだら、私はどうなってしまうのだろうか。
もし元の世界に帰れる方法が分かった時、私はどうするのだろう?
ティアがアドニスの前に現れて、もしもアドニスにとって私が邪魔になったら……。
気が付くとメルファが隣に立って私の手を握ってくれていた。
そして、微笑む。
「シャルロッテ様、ご安心下さいませ。明日また必ずいらっしゃると、昨日アドニス殿下は帰り際に仰られましたから」
「メルファ……うん」
私がそう答えると。
メルファが慌てたように私の手を握りしめる。
「どうされたのですか? シャルロッテ様。何か悲しいことでもあったのですか!?」
気が付くと自然に涙が零れていた。
私は慌てて涙を拭くと、心配をするメルファに微笑んだ。
「ごめんね、何でもないの。おかしいよね、私。大丈夫だから心配しないで」
私はメルファにこれ以上心配をかけないように着替えを始める。
昨日みたいな失敗は公爵令嬢に相応しくないよね。
メルファが白の清楚なドレスを選んでくれた。
「王太子殿下が、お好きな色だと思います。シャルロッテ様が白いドレスを着ているとジッとご覧になっていますし」
「そ、そう?」
メルファに勧められるがままに、そのドレスに腕を通す。
メルファは外着のままだったので、私の着替えが終わると部屋の扉を開いてアレンさんを迎え入れた。
「アレン様、おはよう御座います」
礼儀正しくそう朝の挨拶をするメルファに、アレンさんも頭を下げる。
そして、私に深々と頭を下げた。
「シャルロッテ様、朝早くからお騒がせを致しました。実は、このご婦人が先ほど参られてとても心配をなさっていたので、失礼かと思いましたが声をお掛け致しました」
アレンさんの後ろには、慎ましく清楚な感じの女性が立っている。
「あ、あのシャルロッテ様にあの子が何か粗相をしていないかと心配で。申し訳ありません!」
そう言って私に頭を下げたのは、エルナのお母さんだ。
名前はミーアさん。
ミーアさんは私の部屋を覗き込み、レアン君の服を引っ張りながら寝返りを打っているエルナを見て真っ青になる。
「エルナ! あの子ったら、ドルルエ公爵様のご嫡子様に!!」
エルナは私達が見ているなんて全く気付いていないから、また大きく寝返りを打って可愛らしく寝言を言う。
「……違うもん……シャルロッテお姉ちゃんは、エルナのお姉ちゃんだもん」
「あの子ったら! シャルロッテ様のお優しさに甘えて!!」
ミーアさんが、部屋の中に入ろうとするのを私はそっと口に人差し指をあてて止める。
何だか、レアン君とエルナの寝ている姿を見ていたら自然に笑顔になれた。
「ふふ、もう少し寝かせて上げてはいけませんか?」
私の言葉にミーアさんは何度も頭を下げて、その後に私の手を握りしめる。
「お嬢様は、私達母娘にとって女神様も同然です。どうかミーアとお呼びください」
その言葉に、私は頷いた。
ミーアさんはこのお屋敷の客間の一つに泊ったはず。
メルファが私に教えてくれた。
「ミーアさんは、ツベルクの町で料理店を営んでいらしたんですよ、お嬢様。エリンとも話してたんですけど、ミーアさんにぜひあの地方のお料理を教えて頂こうって。ツベルク地方のお料理って美味しいことで有名なんです」
どうやら私のベッドで寝てしまう前に、メルファやエリンはミーアさんと親交を深めたらしい。
でも料理屋さんだったんだ、エルナのお母さん。
何だか憧れる。
……アドニスが訪ねてきた時に、私が作った料理を出して上げたら喜ぶかな?
アドニスの口に合うかは分からないけど作ってあげたい。
「あ、あの。私も教わってもいいですか?」
それを聞いてミーアさんは深々と頭を下げる。
「そんな! シャルロッテ様に私の料理を教えるなんて。いずれは王太子妃殿下になられる尊いお方にそんな、恐れ多いことです……」
「……お母さん?」
エルナがベッドの上で身を起こす。
お母さんの声が聞こえたからだろう。
私がエルナをベッドまで迎えに行くと、エルナは寝ぼけまなこでベッドを降りる。
「エルナ、おはよう」
「お姉ちゃん!」
ようやく少し目が覚めたのか、元気に私に挨拶をする。
そして、ミーアさんに気が付くと駆け寄って抱き付いた。
「お母さん! エルナ、お母さんのスープが飲みたい!」
ミーアさんがそれを聞いて、困った顔をしている。
二人のそんな姿を見て、私はいいことを思いついた。
そして、メルファに提案する。
「ねえ、メルファ。うちの厨房でミーアさんに朝ご飯を作ってもらうのってどう?」
「はい、シャルロッテ様はお目覚めでいらっしゃいます。アレン様、少しお待ちくださいませ」
(こんなに朝早くどうしたのかしら、もしかしたら!)
私は慌ててベッドを降りると、部屋の窓に駆け寄った。
そして、窓に手を当てて屋敷の玄関の方向を見る。
昨日までは感じたことが無い気持ちに、胸が高鳴った。
でも私の視界に期待していたものが映っていないのを知って、自分の心が急にしぼんでいくように感じる。
昨日の朝のようにアドニスの白い馬車がそこにあるんじゃないかって、アドニスが来たことをアレンさんが知らせに来たのかと思った。
ううん、無意識に期待していた。
(私……)
昨日までは、心のどこかで必死にブレーキをかけていた気がする。
アドニスのことは、本当は好きになったらいけないんだって。
婚約だって断って元の世界に戻ることを考えないって。
私は自分の頬に手を当てた。
まだ、アドニスの唇が触れていた熱さを感じる気がする。
俯いて胸に手を当てる。
何だか怖い。
ここから先に進んだら、私はどうなってしまうのだろうか。
もし元の世界に帰れる方法が分かった時、私はどうするのだろう?
ティアがアドニスの前に現れて、もしもアドニスにとって私が邪魔になったら……。
気が付くとメルファが隣に立って私の手を握ってくれていた。
そして、微笑む。
「シャルロッテ様、ご安心下さいませ。明日また必ずいらっしゃると、昨日アドニス殿下は帰り際に仰られましたから」
「メルファ……うん」
私がそう答えると。
メルファが慌てたように私の手を握りしめる。
「どうされたのですか? シャルロッテ様。何か悲しいことでもあったのですか!?」
気が付くと自然に涙が零れていた。
私は慌てて涙を拭くと、心配をするメルファに微笑んだ。
「ごめんね、何でもないの。おかしいよね、私。大丈夫だから心配しないで」
私はメルファにこれ以上心配をかけないように着替えを始める。
昨日みたいな失敗は公爵令嬢に相応しくないよね。
メルファが白の清楚なドレスを選んでくれた。
「王太子殿下が、お好きな色だと思います。シャルロッテ様が白いドレスを着ているとジッとご覧になっていますし」
「そ、そう?」
メルファに勧められるがままに、そのドレスに腕を通す。
メルファは外着のままだったので、私の着替えが終わると部屋の扉を開いてアレンさんを迎え入れた。
「アレン様、おはよう御座います」
礼儀正しくそう朝の挨拶をするメルファに、アレンさんも頭を下げる。
そして、私に深々と頭を下げた。
「シャルロッテ様、朝早くからお騒がせを致しました。実は、このご婦人が先ほど参られてとても心配をなさっていたので、失礼かと思いましたが声をお掛け致しました」
アレンさんの後ろには、慎ましく清楚な感じの女性が立っている。
「あ、あのシャルロッテ様にあの子が何か粗相をしていないかと心配で。申し訳ありません!」
そう言って私に頭を下げたのは、エルナのお母さんだ。
名前はミーアさん。
ミーアさんは私の部屋を覗き込み、レアン君の服を引っ張りながら寝返りを打っているエルナを見て真っ青になる。
「エルナ! あの子ったら、ドルルエ公爵様のご嫡子様に!!」
エルナは私達が見ているなんて全く気付いていないから、また大きく寝返りを打って可愛らしく寝言を言う。
「……違うもん……シャルロッテお姉ちゃんは、エルナのお姉ちゃんだもん」
「あの子ったら! シャルロッテ様のお優しさに甘えて!!」
ミーアさんが、部屋の中に入ろうとするのを私はそっと口に人差し指をあてて止める。
何だか、レアン君とエルナの寝ている姿を見ていたら自然に笑顔になれた。
「ふふ、もう少し寝かせて上げてはいけませんか?」
私の言葉にミーアさんは何度も頭を下げて、その後に私の手を握りしめる。
「お嬢様は、私達母娘にとって女神様も同然です。どうかミーアとお呼びください」
その言葉に、私は頷いた。
ミーアさんはこのお屋敷の客間の一つに泊ったはず。
メルファが私に教えてくれた。
「ミーアさんは、ツベルクの町で料理店を営んでいらしたんですよ、お嬢様。エリンとも話してたんですけど、ミーアさんにぜひあの地方のお料理を教えて頂こうって。ツベルク地方のお料理って美味しいことで有名なんです」
どうやら私のベッドで寝てしまう前に、メルファやエリンはミーアさんと親交を深めたらしい。
でも料理屋さんだったんだ、エルナのお母さん。
何だか憧れる。
……アドニスが訪ねてきた時に、私が作った料理を出して上げたら喜ぶかな?
アドニスの口に合うかは分からないけど作ってあげたい。
「あ、あの。私も教わってもいいですか?」
それを聞いてミーアさんは深々と頭を下げる。
「そんな! シャルロッテ様に私の料理を教えるなんて。いずれは王太子妃殿下になられる尊いお方にそんな、恐れ多いことです……」
「……お母さん?」
エルナがベッドの上で身を起こす。
お母さんの声が聞こえたからだろう。
私がエルナをベッドまで迎えに行くと、エルナは寝ぼけまなこでベッドを降りる。
「エルナ、おはよう」
「お姉ちゃん!」
ようやく少し目が覚めたのか、元気に私に挨拶をする。
そして、ミーアさんに気が付くと駆け寄って抱き付いた。
「お母さん! エルナ、お母さんのスープが飲みたい!」
ミーアさんがそれを聞いて、困った顔をしている。
二人のそんな姿を見て、私はいいことを思いついた。
そして、メルファに提案する。
「ねえ、メルファ。うちの厨房でミーアさんに朝ご飯を作ってもらうのってどう?」
0
お気に入りに追加
3,916
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪逆皇帝は来世で幸せになります!
CazuSa
恋愛
周りの人間の暴走により、あらゆる非道の濡れ衣を着せられた皇帝リヴェリオ。
傲慢なるその統治に痺れを切らした善良なる貴族・騎士・市民の革命戦争によって、彼は公開処刑された。
そんな前世を持つ公爵令嬢エスティの目標は今世こそ平穏無事に幸せになること。
しかし、10歳になるとき紹介された許嫁はなんとこの国の第2王子ヴァリタスで!?
しかも彼の前世の正体は、リヴェリオを手に掛けた幼馴染で親友の騎士だということも判明し……。
平穏な人生のためにも、この婚約、絶対解消してみせます!
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる