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45、盲目の少女

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(あれ?)

 私は少しだけ違和感を感じた。
 復興事業もこれから始まるんだし、その為にアドニスやお父様が教会を訪れたはず。
 それなのに、修道女達の顔はなぜか少し曇っている気がする。
 気のせいだろうか?

 修道女達は、私達を教会まで案内してくれた。
 白くて大きな大聖堂、そしてそのすぐ近くには見上げるような大きな礼拝塔がある。
 レアン君はそれを見上げて、私の修道女の衣服をキュッと握った。
 私はその頭を撫でる。

 大聖堂の前に広がる広場には、この間馬車の中から見えた女神像が立っていた。
 その周りには、女神ファリアンネに祈りを捧げる人達がいる。
 修道女の一人がアドニスに言う。

「大聖堂の二階の祈りの間で大司教様が殿下をお待ちでいらっしゃいます。ドルルエ公爵様とランスエール様もご一緒にとのことでした」

 アドニスは頷くと、アレンさん達に命じる。

「アレン、俺は大司教と復興事業についての話がある。お前達はシャルロッテ達に、教会の中を案内してやってくれ」

 アドニスの言葉にアレンさんは一礼する。

「かしこまりました殿下。それではシャルロッテ様、レアン様、エトリーズ婦人参りましょう」

 アレンさんの言葉にアドニスは頷くと、伯爵様とお父様を連れて大聖堂の入口の左右にある白い階段を登っていく。
 大司教様がいるお部屋には、その階段を通じて上るみたい。
 私達はアレンさんの案内で、大聖堂の大扉を開けて中に入っていく。
 隣でメルファが思わず息を呑んだ。

(凄い……)

 聖堂の中には、数百人の人達がひしめいている。
 みんなあの戦争で家を無くした人達。
 遠くから教会を見た時は女神像の側に集まる人達しか見えなかったから、こんなに沢山の人がいるとは思わなかった。
 奥からは美しい光が、淡く差し込んでいる。
 聖堂の奥の壁にある窓にはめ込まれた、ステンドグラスから差す光。

 広場ので人々が祈りを捧げていたように、そのステンドグラスの窓の側に佇む女神像に多くの人達が祈りを捧げている。
 慈愛に満ちた瞳。
 女神ファリアンネは愛と希望の神だから、戦禍を逃れてきた人達にとってはその優しい瞳が大きな救いなのだろう。

 クリスティーナさんが避難している人達を眺めている。
 真剣な眼差し、そして口を開く。

「フュリーマ様、彼らの様子をもう少し近くで見せて頂けますか?」

 その言葉にアレンさんは頷くと、私達は聖堂の奥へと進んでいく。
 怪我をしている人たちもいる。
 小さな子供を抱いて祈っているお母さんも……。

 クリスティーナさんは、女神ファリアンネに救いを求める人々を目に焼き付けるように見つめていた。
 その時、私に小さな女の子がぶつかった。
 レアン君よりも小さい。
 まだ5、6歳ぐらいだろうか?
 尻餅をつく女の子を私は慌てて抱き起した。

「ごめんね、大丈夫?」

 私の問いかけに、女の子は笑った。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 でも視線は私を見ていない。
 
(もしかして、この子……)

 気が付くとアレンさんが膝をついて、その子に話かけていた。

「偉いな、エルナ。またお母さんの薬を取りに行くのか?」

 エルナと呼ばれた少女が、コクンと首を縦に振る。
 呆然とその子を見つめる私に気が付いて、アレンさんが私の方に優しく手を置いた。

「エルナは目が見えません。ですが、今回の戦争で怪我を負った母親の看病をしているのです」

「あ、あの。この子のお父さんは……」

 アレンさんは首を横に振る。

「二人を守って亡くなったそうです」

 エルナはアレンさんの声を聞いて嬉しそうに言った。

「アレンのお兄ちゃん。どこに行ってたの? 急にいなくなっちゃうから、エルナ寂しかった」

「そうか、悪かったなエルナ」

 そう言ってアレンさんは、優しくエルナの髪を撫でる。
 盲目の少女は微笑んでいた。
 アレンさんの視線の先で一人の女性がお辞儀をしている。

 恐らく、この子の母親だろう。
 その周りには、怪我をしている人達が沢山いた。
 この子だって目が見えないのに、お母さんの為に……
 メルファが口元を抑えて涙ぐんでいる。

「駄目……メルファ、泣いちゃ駄目だよ」

 私は唇を噛みしめてそう言った。
 だって、この子は笑顔だから。
 私達が泣いたりしたら駄目だよ……。
 
「シャルロッテ様」

 メルファは私の言葉に頷いた。
 私はエルナの手を握る。

「一緒に行きましょう。私はシャルロッテ、貴方はエルナよね」

 少女は嬉しそうに私を見上げた。

「うん、シャルロッテお姉ちゃん。ありがとう!」
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