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29、赤い髪の騎士様

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「シャルロッテ様、私はアレン・フュリーマと申します。後ろに控える者達はエトスとジルレット、私の部下で御座います」

 褐色の肌に燃えるような赤毛、そして精悍な顔つきはとても男らしい。
 頬にある刀傷がかえってその精悍な魅力を増しているようにも見える。

(やっぱり、アレンさんだ)

 私は心の中でそう呟いた。
 王国の聖騎士で、準貴族にあたるナイトの称号を持っている。
 馬車の中から少しその姿が見えていたから、そうかなって思ってたんだけど。
 勿論、向こうは私がアレンさんのことを知っているなんて思わないだろう。

 アレン・フュリーマ。
 あのゲームにも登場した聖騎士様で、ランスエール伯爵様と同じぐらい強い人。
 伯爵様は細身のサーベルで華麗に戦って、アレンさんは両手で持つ大きな剣で相手を圧倒する感じ。
 ゲームでもそんなシーンが出てきたんだよね。

 そして王宮で健気に頑張るティアを見て、いつも無言で助けてあげる優しいお助けキャラ。
 その無口なところが可愛いって、友達がキャイキャイ言ってた気がする。

 重い荷物を持つティアを見て、無言でそれを手に取って運んであげたり。
 倉庫の扉が錆び重くなってて、頑張って開けようとしてるティアの後ろから黙って扉を押してあげたり。
 ティアと親しくなると会話のイベントも発生して、それが見たくて頑張ってた子達もいた。

 二十代後半だけど、歴戦の騎士っていう感じでちょっと渋い。
『銀色の髪の王子と7人の貴公子 ~でも貴方だけに恋して~』の七人の貴公子には入っていないんだけどファンは多かった。
 ファンサイトに、アレンルートを作ってなんて書き込みもかなりあったんだよね。
 ティアへの愛というよりは、幼いころに亡くした妹の姿をティアに重ねて温かく見守っていた優しい騎士様。

 こんな精悍な顔つきなのに動物が好きなんだよね。
 さっきからチラチラと、レアン君の抱いているウサギを見ているのを私は見逃さないよ。
 ティアを襲う刺客を間一髪で現れて倒したり、活躍シーンも結構あった。

 私もこんなお兄ちゃんがいたらいいなって思いながら、ゲームをしてた。
 年が離れたティアにアレンお兄ちゃんなんて呼ばれるルートもあって、精悍な顔を赤くして照れているシーンが有名。
 そんなことを考えていると、ランスエール伯爵様が私に言った。

「アレン達は戦禍にあった者達の支援の為に教会に派遣をされていたのですが、今回の復興事業に伴ってアドニス様の元働くよう国王陛下に命じられています。復興のカギとなるドルルエ公爵家の護衛であれば最適の仕事かと」

 アドニスも頷いた。

「ダルスンとの連絡役に誰かを付けねばと思っていたところだ。ならば避難民達の実情を知るアレンがいいだろう」

 アレンさんは、アドニスと伯爵様の前で膝をついて一礼する。

「シャルロッテ様はこの命に代えてもお守りをいたします。どうかご安心を」

「ああ、頼んだぞ。こいつときたら家から出るなと命じたその日に、俺との約束を破る女だからな」

 私はその言葉に頬を膨らませる。
 すかさず、伯爵様が優しくフォローをしてくれた。 

「心配でしょうがないんですよ、殿下は。勿論私も心配をしています、公爵家には私やアドニス殿下も毎日顔を出すつもりですからご安心下さい」

「は、はい……」

 本当に伯爵様は紳士。
 アドニスも少しは見習ってほしいよ。
 銀色の髪の王子様は、私に歩み寄るとキュッと抱き寄せる。

「あまり心配をかけるな。お前に何かあるのではと思うと仕事が手につかん」

 私は思わずぼうっとなってしまった。
 アドニスの髪の香りに包まれていく。
 その時、私のドレスのスカートをギュッと誰かが握った。

「レアン……」

 レアン君がこちらを見上げている。
 ちょっと不機嫌な様子だ。

 お母様がそれを見て微笑んだ。

「殿下がシャルロッテにあまりにお優しいので、レアンが妬いてますわ」

 レアン君が顔を真っ赤にしてその言葉を否定した。

「違います! この子がお姉様と遊びたがってると思ったんです! ずっと待ってたんですから」
 
 何なのこの天使は……可愛すぎるんですけど。
 アドニスはレアン君の頭とウサギを撫でて言った。

「そろそろ行くとしよう、エルヴィン。こいつとウサギのことを頼むぞ、レアン」

 レアン君はコクンと頷いた。
 うちのメイドの子達から溜め息が漏れる。

 アドニスとレアン君が絵になりすぎるんだよね。
 すぐそばには、伯爵様も立ってるし。
 私なんかよりも、レアン君を復興の公社のシンボルにした方が絶対いいと思う。

 アドニスと伯爵様が馬車に乗り込んで王宮に戻っていく。
 私達はそれを見送った後、護衛をしてくれることになったアレンさん達と一緒に屋敷の中に入った。
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