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28、歌姫
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衣装合わせも終わって、私はまたドレスを着替えた。
ちょっと残念だけど、仕方ないよね。
侍女長のメリエッタさんがアドニスに尋ねる。
「それでは、殿下。このドレスで宜しいですね?」
「ああ、メリエッタ。大切に保管してくれ」
アドニスにそう命じられてメリエッタさんは頷くと、侍女の二人と共に部屋を後にする。
「ふむ、馬子にも衣装といったところだな。俺の目に狂いはなかった」
アドニスは自分が選んだドレスが評判が良くて満足している様子。
私はその言葉にジッとアドニスを睨んだ。
「どういう意味ですか?」
さっきは天使だって言ったくせに。
それはあの素敵なドレスに比べたら色あせるかもしれないけどこれだって、メルファが選んでくれたんだからね。
メルファは私の耳元で囁いた。
「シャルロッテ様は素敵です。そのドレスもとてもよく似合ってますもの、殿下は照れていらっしゃるんです」
メルファは私を甘やかしてくれる。
褒められて伸びるタイプなんだよね私は。
ランスエール伯爵様も私に微笑んだ。
「ええ、シャルロッテ様。勿論そのドレスも良くお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
伯爵様とメルファは私の癒しだよね。
ふと何かを思いついたように伯爵様が渋い顔をする。
「どうされたんですか? 伯爵様」
伯爵様がこんな顔をされるのは珍しい気がする。
私が尋ねると伯爵様は、苦笑して私に答えた。
「クリストが先ほどのシャルロッテ様のことを聞きつけたら、さぞかし大変だと思いまして」
伯爵様の言葉にアドニスがしかめっ面をする。
「クリスト? ああ、あのキザな男か」
私はその名前を聞いてすぐに分かった。
クリストファー・シュバイツ。
『銀色の髪の王子と7人の貴公子 ~でも貴方だけに恋して~』に登場する貴公子の一人。
シュバイツ子爵家の嫡男で作曲家でもある。
それだけじゃなくて芸術分野ではいろんな才能を持った貴公子で、絵や彫刻の分野でも実力を認められている。
でもすっごいプレーボーイで、その恋の相手は星の数ほど。
貴族の令嬢だけではなくて、他の貴族の奥様に手を出して命を狙われたこともある。
私はちょっと苦手だったんだけど、ゲームのコンプリートの為に頑張ってクリアした。
レオナール王子のレオルートと一緒で、少しエッチなシーンも出てくるから嵌っている子は結構いたみたい。
いわゆるクリスルートマニアって人達。
意外なんだけどランスエール伯爵様のご学友で、奥さんに手を出された貴族に狙われたクリストファーさんがランスエール伯爵の家に逃げ込んで居候するシーンがあったりした。
結構仲がいいのかな?
どう考えても水と油な感じだけど。
でもその才能は凄くて、この国のオペラ座で演奏される楽曲も沢山書いてる。
クリスルートの場合はティアは王宮の侍女を途中でやめてしまう。
クリストファーさんがティアの歌の才能を見出して、オペラ座の歌手にするんだよ。
歌姫(ディーバ)ってみんなに呼ばれるティアも恰好良かった。
……もしかしてクリストファーさんなら、あの曲のことを知ってるのかな?
そしたら、私をこの世界に引っ張り込んだあの光のことも何か分かるかも。
私はそんなことを考えながら、ちょっと頬を染めた。
レオルートもそうだけど、クリスルートでもティアは愛というよりも相手の巧みな手管に落ちていく感じ。
相手の腕の中で吐息を漏らしながら、清楚な白い百合のようなティアが艶やかな赤い薔薇に変えられていく。
朝、ベッドの上で動けなくなっているティアのシーンが生々しかった。
あれが自分だったらと思うと、ちょっとやっぱり近づけない。
そんな私の様子をジロリと眺めるとアドニスが言った。
「あいつはお前の学友だったな? エルヴィン」
「はい、殿下。恥ずかしながら」
伯爵様も結構クリストファーさんに対しては酷い。
「なら言っておけ、もしこいつに手を出したら俺の目の前で火あぶりにしてやるとな」
「分かりました、伝えておきましょう」
そう言った後、伯爵様は真顔になった。
「ですが殿下、その必要はありません。あの愚か者が、もしこのお方に指一本でも触れるようなら、私がその場で始末をいたします」
そう言って腰から提げた美しいサーベルの鞘に手をあてる。
伯爵様は剣聖って呼ばれるほどの剣の達人、アドニスの護衛も兼ねている。
凄く綺麗な顔だから真面目な顔でそう言われると少し怖いぐらい。
「あ、あの。触れたられたぐらいなら、大丈夫ですきっと」
私がそう言ったらアドニスと伯爵様に怒られた。
「俺は許さん!」
「私も許しません、シャルロッテ様が汚れます」
よっぽど日頃の行いが悪いらしい。
仕方ないけど、あの曲のことを聞くのは諦めようかな。
結局この日は、アドニスと伯爵様に家まで送ってもらった。
馬車の中では、美男子二人が側にいてメルファがドギマギしていて可愛かったんだよね。
私も最初はそうだったから良くわかるよメルファ。
王妃様のことは気になるけど、アドニスが「俺に任せておけ」って言うから素直に従うことにした。
家に着くとお母様とレアン君が出迎えてくれる。
メイドの子達も総出だったけど、お父様はまだ仕事から戻ってないってロートンさんが言っていた。
私のウサギを抱いて立っているレアン君が可愛い。
エリンが私に微笑みながら報告する。
「レアン様は、ずっとシャルロッテ様が帰って来られるのを待っていらしたんですよ。そのお姿がとてもお可愛くていらっしゃって」
「エリン! ま、待ってなんかいません。この子がお姉様を待っていたから僕も一緒に待ってただけです」
頬を少し染めて私を見上げるレアン君は本当の天使のよう。
アドニスはレアン君の頭を撫でる。
「シャルロッテの弟だったな。レアンと言ったか? そのウサギを大事にしてやってくれ」
レアン君はアドニスと話すのは初めてなのだろうか?
私のドレスに少しだけ隠れてお辞儀をする。
どうして君はそんなにお姉様の弱点を知っているの?
可愛すぎて思わず抱きしめてあげたくなる。
アドニスが護衛の騎士を数人呼んで私に言った。
「お前を家に閉じ込めておこうとしても無理なようだからな。もし外に出るのなら、この者達を必ず護衛につけろ」
三人の屈強な騎士の先頭に立つ人物に、私は見覚えがあった。
ちょっと残念だけど、仕方ないよね。
侍女長のメリエッタさんがアドニスに尋ねる。
「それでは、殿下。このドレスで宜しいですね?」
「ああ、メリエッタ。大切に保管してくれ」
アドニスにそう命じられてメリエッタさんは頷くと、侍女の二人と共に部屋を後にする。
「ふむ、馬子にも衣装といったところだな。俺の目に狂いはなかった」
アドニスは自分が選んだドレスが評判が良くて満足している様子。
私はその言葉にジッとアドニスを睨んだ。
「どういう意味ですか?」
さっきは天使だって言ったくせに。
それはあの素敵なドレスに比べたら色あせるかもしれないけどこれだって、メルファが選んでくれたんだからね。
メルファは私の耳元で囁いた。
「シャルロッテ様は素敵です。そのドレスもとてもよく似合ってますもの、殿下は照れていらっしゃるんです」
メルファは私を甘やかしてくれる。
褒められて伸びるタイプなんだよね私は。
ランスエール伯爵様も私に微笑んだ。
「ええ、シャルロッテ様。勿論そのドレスも良くお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
伯爵様とメルファは私の癒しだよね。
ふと何かを思いついたように伯爵様が渋い顔をする。
「どうされたんですか? 伯爵様」
伯爵様がこんな顔をされるのは珍しい気がする。
私が尋ねると伯爵様は、苦笑して私に答えた。
「クリストが先ほどのシャルロッテ様のことを聞きつけたら、さぞかし大変だと思いまして」
伯爵様の言葉にアドニスがしかめっ面をする。
「クリスト? ああ、あのキザな男か」
私はその名前を聞いてすぐに分かった。
クリストファー・シュバイツ。
『銀色の髪の王子と7人の貴公子 ~でも貴方だけに恋して~』に登場する貴公子の一人。
シュバイツ子爵家の嫡男で作曲家でもある。
それだけじゃなくて芸術分野ではいろんな才能を持った貴公子で、絵や彫刻の分野でも実力を認められている。
でもすっごいプレーボーイで、その恋の相手は星の数ほど。
貴族の令嬢だけではなくて、他の貴族の奥様に手を出して命を狙われたこともある。
私はちょっと苦手だったんだけど、ゲームのコンプリートの為に頑張ってクリアした。
レオナール王子のレオルートと一緒で、少しエッチなシーンも出てくるから嵌っている子は結構いたみたい。
いわゆるクリスルートマニアって人達。
意外なんだけどランスエール伯爵様のご学友で、奥さんに手を出された貴族に狙われたクリストファーさんがランスエール伯爵の家に逃げ込んで居候するシーンがあったりした。
結構仲がいいのかな?
どう考えても水と油な感じだけど。
でもその才能は凄くて、この国のオペラ座で演奏される楽曲も沢山書いてる。
クリスルートの場合はティアは王宮の侍女を途中でやめてしまう。
クリストファーさんがティアの歌の才能を見出して、オペラ座の歌手にするんだよ。
歌姫(ディーバ)ってみんなに呼ばれるティアも恰好良かった。
……もしかしてクリストファーさんなら、あの曲のことを知ってるのかな?
そしたら、私をこの世界に引っ張り込んだあの光のことも何か分かるかも。
私はそんなことを考えながら、ちょっと頬を染めた。
レオルートもそうだけど、クリスルートでもティアは愛というよりも相手の巧みな手管に落ちていく感じ。
相手の腕の中で吐息を漏らしながら、清楚な白い百合のようなティアが艶やかな赤い薔薇に変えられていく。
朝、ベッドの上で動けなくなっているティアのシーンが生々しかった。
あれが自分だったらと思うと、ちょっとやっぱり近づけない。
そんな私の様子をジロリと眺めるとアドニスが言った。
「あいつはお前の学友だったな? エルヴィン」
「はい、殿下。恥ずかしながら」
伯爵様も結構クリストファーさんに対しては酷い。
「なら言っておけ、もしこいつに手を出したら俺の目の前で火あぶりにしてやるとな」
「分かりました、伝えておきましょう」
そう言った後、伯爵様は真顔になった。
「ですが殿下、その必要はありません。あの愚か者が、もしこのお方に指一本でも触れるようなら、私がその場で始末をいたします」
そう言って腰から提げた美しいサーベルの鞘に手をあてる。
伯爵様は剣聖って呼ばれるほどの剣の達人、アドニスの護衛も兼ねている。
凄く綺麗な顔だから真面目な顔でそう言われると少し怖いぐらい。
「あ、あの。触れたられたぐらいなら、大丈夫ですきっと」
私がそう言ったらアドニスと伯爵様に怒られた。
「俺は許さん!」
「私も許しません、シャルロッテ様が汚れます」
よっぽど日頃の行いが悪いらしい。
仕方ないけど、あの曲のことを聞くのは諦めようかな。
結局この日は、アドニスと伯爵様に家まで送ってもらった。
馬車の中では、美男子二人が側にいてメルファがドギマギしていて可愛かったんだよね。
私も最初はそうだったから良くわかるよメルファ。
王妃様のことは気になるけど、アドニスが「俺に任せておけ」って言うから素直に従うことにした。
家に着くとお母様とレアン君が出迎えてくれる。
メイドの子達も総出だったけど、お父様はまだ仕事から戻ってないってロートンさんが言っていた。
私のウサギを抱いて立っているレアン君が可愛い。
エリンが私に微笑みながら報告する。
「レアン様は、ずっとシャルロッテ様が帰って来られるのを待っていらしたんですよ。そのお姿がとてもお可愛くていらっしゃって」
「エリン! ま、待ってなんかいません。この子がお姉様を待っていたから僕も一緒に待ってただけです」
頬を少し染めて私を見上げるレアン君は本当の天使のよう。
アドニスはレアン君の頭を撫でる。
「シャルロッテの弟だったな。レアンと言ったか? そのウサギを大事にしてやってくれ」
レアン君はアドニスと話すのは初めてなのだろうか?
私のドレスに少しだけ隠れてお辞儀をする。
どうして君はそんなにお姉様の弱点を知っているの?
可愛すぎて思わず抱きしめてあげたくなる。
アドニスが護衛の騎士を数人呼んで私に言った。
「お前を家に閉じ込めておこうとしても無理なようだからな。もし外に出るのなら、この者達を必ず護衛につけろ」
三人の屈強な騎士の先頭に立つ人物に、私は見覚えがあった。
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