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25、メルファは渡しません
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とっても強く抱きしめられて、アドニスの体温がまだ残ってる気がする。
月の光のように美しいアドニスの髪が私の鼻をくすぐって、それだけで何だか私はとっても安心してしまった。
思わず見とれるぐらい整った顔、私になんか勿体ない。
ランスエール伯爵様もまた私の頬の涙を拭いてくれた。
(まだ、あのハンカチ返してないのに)
それにアドニスって呼べって言われた。
いいのかな、本当に。
そうだ、メルファが部屋の外で待ってるから安心させないと。
王妃様に怒られて、その後アドニスに連れていかれて……。
心配かけちゃったよねきっと。
そんなことを考えていたら、さっき部屋を出て行った侍女長のメリエッタさんが二人の侍女をつれて戻って来た。
そしてその後ろからメルファもこの部屋に入ってくる。
「シャルロッテ様!」
心配そうなメルファの手を私は握った。
「ごめんねメルファ、もう大丈夫だから」
私のその言葉を聞いて、メルファはほっと安堵の吐息を漏らした。
鞭で叩いてたシャルロッテをこんなに心配してくれるなんて、メルファって本当にいい子だよね。
メリエッタさんがアドニスに言った。
「お部屋の前でシャルロッテ様を心配していたので、連れて入りましたことをお許しください」
「俺は構わん。こいつが大事にしている者なら側にいさせてやれ」
アドニスのその言葉に侍女長は一瞬、驚いた顔をしてその後微笑んだ。
メリエッタさんは、王宮の侍女の中で一番偉い侍女長だから身分も高い。
この世界では王宮の侍女は官職によって順列がある女官で、キャリアウーマンっていう感じ。
誰に仕えるかによっても違うけど、貴族のお嬢様や奥様もいたりする。
メリエッタさんは、確か王妃様派の有力者のアヌエット伯爵の奥様だったと思う。
王妃様の身の回りのお世話をする侍女なんて、そんな人達ばかりでさっきも少し緊張した。
でも中にはティアのように努力と才能が認められて、下働きから徐々に昇格して侍女になれる子もいる。
それが、身分があまり高くない子たちにとっての一番のシンデレラストリーになっていて、ゲームをしてても楽しかった。
侍女になってからも身分の高い他の侍女からのイジメに耐えて、健気に頑張る姿にアドニスや貴公子達が心を奪われるんだよね。
ティアの類まれな才能を見抜いて侍女にしたのも、メリエッタさん。
レオナール王子の勢力と対立する、王太子のアドニスを心配している優しい人。
メルファが憧れの眼差しをメリエッタさんに向けている。
メルファ……王宮の侍女になりたいの?
私はメルファがいなくなったら寂しいよ。
「それにしても流石はドルルエ公爵夫人です。利発そうな子をシャルロッテ様にお付けしているのですね。私が尋ねることにも的確に答えてくれて王宮に欲しいぐらいですわ」
「そ、そんな私なんて……」
メルファ、なに頬を染めてるの?
私のジトっとした視線に気が付いたのか、メルファはコホンと咳ばらいをした。
メリエッタさん、メルファは渡さないよ。
……でもどうしよう、メルファにとってそれがいいことなら、私が我慢しないと。
あれ? でももし私が王太子妃になったらメルファも王宮に連れてきたらいいんだよね。
身分の問題はあるかもしれないけど、メルファなら大丈夫だよきっと。
アドニスにもお願いしておかないと。
そんなことを考えた瞬間、自分の顔が真っ赤に染まるのを感じた。
(何考えてるんだろ私……婚約を断るつもりなのに……)
そう思ったら胸が苦しくなった。
アドニスに抱きしめられた時の気持ちが胸に蘇ってくる。
私、どうしたらいいんだろう……。
アドニスを見て私は胸に手を当てる。
馬車に乗り込む時、必死に走ってきて私に向かって手を伸ばすアドニスの顔を見たら、とても安心して涙がボロボロと出た。
私を大事にしてくれてるっていう気持ちが伝わって来たから。
どんなに楽だろう、もし私がこの世界の人間じゃないってアドニスに話せたら。
そしたら、どんなに楽になれるだろう。
でも、そんな馬鹿げた話を出来るはずもない。
私は俯いてしまった。
メリエッタさんがそんな私を見て、アドニスとランスエール伯爵様に言った。
「さあ殿下、ランスエール伯爵。少しこの部屋を出て行って下さいませ、殿方が二人もいらっしゃってはご希望された仕事が出来ませんわ」
そう言えばメリエッタさんが連れてきた侍女達は大事そうに、綺麗な生地で出来た白いドレスを持っている。
何だろう、あのドレス。
アドニスがメリエッタさんの言葉に頷いた。
「ああ、行くぞエルヴィン。こいつも一応レディだ、着替えを見るわけにいかんからな」
「かしこまりました殿下」
月の光のように美しいアドニスの髪が私の鼻をくすぐって、それだけで何だか私はとっても安心してしまった。
思わず見とれるぐらい整った顔、私になんか勿体ない。
ランスエール伯爵様もまた私の頬の涙を拭いてくれた。
(まだ、あのハンカチ返してないのに)
それにアドニスって呼べって言われた。
いいのかな、本当に。
そうだ、メルファが部屋の外で待ってるから安心させないと。
王妃様に怒られて、その後アドニスに連れていかれて……。
心配かけちゃったよねきっと。
そんなことを考えていたら、さっき部屋を出て行った侍女長のメリエッタさんが二人の侍女をつれて戻って来た。
そしてその後ろからメルファもこの部屋に入ってくる。
「シャルロッテ様!」
心配そうなメルファの手を私は握った。
「ごめんねメルファ、もう大丈夫だから」
私のその言葉を聞いて、メルファはほっと安堵の吐息を漏らした。
鞭で叩いてたシャルロッテをこんなに心配してくれるなんて、メルファって本当にいい子だよね。
メリエッタさんがアドニスに言った。
「お部屋の前でシャルロッテ様を心配していたので、連れて入りましたことをお許しください」
「俺は構わん。こいつが大事にしている者なら側にいさせてやれ」
アドニスのその言葉に侍女長は一瞬、驚いた顔をしてその後微笑んだ。
メリエッタさんは、王宮の侍女の中で一番偉い侍女長だから身分も高い。
この世界では王宮の侍女は官職によって順列がある女官で、キャリアウーマンっていう感じ。
誰に仕えるかによっても違うけど、貴族のお嬢様や奥様もいたりする。
メリエッタさんは、確か王妃様派の有力者のアヌエット伯爵の奥様だったと思う。
王妃様の身の回りのお世話をする侍女なんて、そんな人達ばかりでさっきも少し緊張した。
でも中にはティアのように努力と才能が認められて、下働きから徐々に昇格して侍女になれる子もいる。
それが、身分があまり高くない子たちにとっての一番のシンデレラストリーになっていて、ゲームをしてても楽しかった。
侍女になってからも身分の高い他の侍女からのイジメに耐えて、健気に頑張る姿にアドニスや貴公子達が心を奪われるんだよね。
ティアの類まれな才能を見抜いて侍女にしたのも、メリエッタさん。
レオナール王子の勢力と対立する、王太子のアドニスを心配している優しい人。
メルファが憧れの眼差しをメリエッタさんに向けている。
メルファ……王宮の侍女になりたいの?
私はメルファがいなくなったら寂しいよ。
「それにしても流石はドルルエ公爵夫人です。利発そうな子をシャルロッテ様にお付けしているのですね。私が尋ねることにも的確に答えてくれて王宮に欲しいぐらいですわ」
「そ、そんな私なんて……」
メルファ、なに頬を染めてるの?
私のジトっとした視線に気が付いたのか、メルファはコホンと咳ばらいをした。
メリエッタさん、メルファは渡さないよ。
……でもどうしよう、メルファにとってそれがいいことなら、私が我慢しないと。
あれ? でももし私が王太子妃になったらメルファも王宮に連れてきたらいいんだよね。
身分の問題はあるかもしれないけど、メルファなら大丈夫だよきっと。
アドニスにもお願いしておかないと。
そんなことを考えた瞬間、自分の顔が真っ赤に染まるのを感じた。
(何考えてるんだろ私……婚約を断るつもりなのに……)
そう思ったら胸が苦しくなった。
アドニスに抱きしめられた時の気持ちが胸に蘇ってくる。
私、どうしたらいいんだろう……。
アドニスを見て私は胸に手を当てる。
馬車に乗り込む時、必死に走ってきて私に向かって手を伸ばすアドニスの顔を見たら、とても安心して涙がボロボロと出た。
私を大事にしてくれてるっていう気持ちが伝わって来たから。
どんなに楽だろう、もし私がこの世界の人間じゃないってアドニスに話せたら。
そしたら、どんなに楽になれるだろう。
でも、そんな馬鹿げた話を出来るはずもない。
私は俯いてしまった。
メリエッタさんがそんな私を見て、アドニスとランスエール伯爵様に言った。
「さあ殿下、ランスエール伯爵。少しこの部屋を出て行って下さいませ、殿方が二人もいらっしゃってはご希望された仕事が出来ませんわ」
そう言えばメリエッタさんが連れてきた侍女達は大事そうに、綺麗な生地で出来た白いドレスを持っている。
何だろう、あのドレス。
アドニスがメリエッタさんの言葉に頷いた。
「ああ、行くぞエルヴィン。こいつも一応レディだ、着替えを見るわけにいかんからな」
「かしこまりました殿下」
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