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2、気が付くとそこは

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 いや、正確に言うと見覚えの有る部屋に佇んでいた。

「シャ、シャルロッテ様……あ、あのいかがなされました?あ、あのまだ続けますか?」

 私の直ぐ側では、まるでメイドカフェの店員のような姿の少女が私を怯えたように見ている。

(あ、あの……貴方誰ですか?)

 とてもバイトの店員とは思えないほど、その衣装がしっくりきている。
 それに続けるって何を?

「ひっ!!」

 私の手には鞭があった、馬を叩くときに使うような鞭。
 丁度それを振り上げて、誰をぶつような姿勢で私の動きは止まっている。
 私は思わず声を上げてしまった。

 目の前に涙で顔を塗らした少年が、ぐっと唇を噛み締めてこちらを睨んでいる。
 少年が誰なのか私には直ぐ分かった。
 ブロンドの柔らかな髪、まるで女の子みたいに可愛らしい顔。

『銀色の髪の王子と7人の貴公子 ~でも貴方だけに恋して~』

 そこに出てきた7人の貴公子の1人である。
 名前はレアン・ドルルエ。
 主人公のティアの敵役であるシャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢の弟である。
 美人だがプライドが高く意地悪な姉と違い、どんなに辛いときでも明るく優しいティアに惹かれる少年だ。

 実は私はレアン君は結構お気に入りで、王子ルートをクリアする前にレアン君ルートを何度もクリアしていた。
 年下の可愛い男の子に上目遣いに見られて告白されるのはドキドキする。

 私のスマホの中では、いつも私に微笑んでいてくれた可愛いレアン君がこちらを見ている。
 その手の甲は、誰かに酷くぶたれたように赤くはれ上がっている。
 憎しみさえ篭ったその瞳に、私は怯えて手に持っていた鞭を落としてしまった。

(ちょっと待って! もしかして、レアン君を鞭で打ったのは私!?)

 部屋にある大きな鏡に自分の姿が映る。

(そんな! 一体どうなってるのこれ!?)

 ブロンドの巻き髪に、綺麗だが意地悪そうな美貌。
 それにこの部屋は見覚えがある。
 主人公のティアを陥れる為に色々な罠を画策するときに映し出された、シャルロッテ・ドルルエ公爵令嬢の部屋だ。
 私は自分がシャルロッテになっていることに気が付いて、驚きのあまりその場に尻餅をついた。

「もう行ってもいいですかお姉様? 僕が壊したティーカップは、弟の僕よりもお姉様にとって大事なものだったんですね。」

 憎しみと悲しさの入り混じったような目で私を見るレアン君
 私は周りを見渡した。
 目の前には、綺麗な柄が描かれたティーカップが割れて転がっている。
 おそらく弟のレアン君が壊したのだろう。
 3人のメイド服の女性が目を伏せて、不憫そうにレアン君を見て涙ぐんでいる。

(え? え!? ちょっと待って! こんな子供がティーカップを壊しただけで、こんな鞭で叩いていたの!?)

「レ、レアン……く……」

 私は尻餅をつきながら、レアン君にすがるように手を伸ばした。

(ちょっと待ってレアン君!! そんな目で見ないで!!!)

 レアン君は侍女の1人に付き添われて部屋を出る瞬間、冷たい目で私を見つめて一言、言った。

「僕の友達は、お姉様のことを美しくて羨ましいなんて言うけど。僕は大嫌いだ!! お姉様のことなんか!!!」

 気が付くと私は侍女たちを部屋から追い出して、シャルロッテの部屋にある天蓋付きのベッドに突っ伏していた。
 きっと今、私は死んだ魚ような目をしているだろう。

(一体何なのこれ!!どうなってるのよ!!!)

 そう、気が付いたときには私は

『銀色の髪の王子と7人の貴公子 ~でも貴方だけに恋して~』

 その世界に迷い込んでいた。
 やっぱり、私はあの車に跳ねられて死んでしまったのだろうか?
 あの白い光の手は何だったのだろうか?
 分からない……
 驚きや、前の世界の家族にもう会えないのかと思うと流れ出る涙。
 その日は一日中ベッドに突っ伏して泣いていた。

(嘘でしょ……どうしてゲームの中に? しかもシャルロッテなんて……シャルロッテ……嘘! もしそうなら私もしかして!!!)

 もしこれがあのゲームの中の世界なら、これをクリアしたら元の世界に戻れるかもしれない。
 そんな一縷の望みが心に浮かんだ瞬間、わたしは気が付いた。

 もし私がシャルロッテになっているのなら、その運命は恐ろしいものだ
 王子と聖妃の愛を邪悪な企みで何度も妨害し、時にはティアの命を狙ったこともあるシャルロッテは最後は火あぶりの刑に処せられる。

 スマホの画面で見たリアルで残酷なそのシーンの描写は凄かった。
 パチパチと燃える薪がシャルロッテの体を焼く
 美しいブロンドの髪が燃え白い肌が焦げる。
 今思うとあのゲームは普通では無かった。
 やたらとリアルで臨場感に溢れていた、だから沢山の女子生徒が嵌ったていたのだろう。

 ごくりと喉が鳴る。
 自分が大きな木の柱にくくり付けられて、生きたまま焼かれる事を想像した。
 足元から火がついて生きたまま焼かれていく。
 主人公のティアがどのルートに行ったとしても、シャルロッテは同じ運命から逃れる事が出来なかった。
 どのルートに行っても、ゲームの中盤から後半にかけて処刑されるのだ。

「やだぁ……助けて……焼き殺されるなんていやぁ……」

 また涙が出る。
 弟を鞭で叩くぐらいだ、もう至る所でその意地悪振りを発揮しているのだろう。
 王子も、もう私を焼き殺す薪の準備をしているのかもしれない。
 そこでふとわたしは気が付いた。

(レオン君、いつもより幼く見えたけど……)

 私は慌ててベッドから身を起こすと、大きな鏡の前に走っていく。
 はぁはぁと息を切らせながら、自分が映る鏡を見るとそこには12、13歳ぐらいの少女の姿が映る。

(これって!)

 あのゲームの中の主人公やシャルロッテの年齢は16歳
 王子は1つ年上の17歳である。
 レアン君はシャルロッテの2歳下の弟だからゲームの中では14歳

 だけど、さっきのレアン君はどう見ても小学生ぐらいに見えた。
 私が今いるのはあのゲームの世界とは少し違う、その世界よりも数年前の世界なのだ。
 私はじっと鏡の中の自分を見つめる。

(もしかしたら、まだチャンスはあるかもしれない……)

 この日から、私がこの世界で生き残る為の戦いが始まったのである。
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