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123、魔女の家
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「でもあの人にもそう言って欲しかった。アドニス、貴方なら変えられるかもしれない。呪われた私たちの運命さえも」
美しい泉のほとりに立つ少女。
やはり、先程までの光景は幻か。
もしも本当の炎であれば、エルヴィンたちが黙ってはいないだろう。
俺は静かに目の前の女に尋ねた。
「そろそろ教えてもらおうか。何故、シャルロッテにこんな真似をした? お前がいう運命とは一体何のことなのだ」
俺の言葉に、シャーリーは暫く何も答えずに泉を眺めていた。
そして、静かにこちらに向き直ると口を開く。
「やはり、貴方たちは何も知らないのですね」
美しいその瞳は、シャルロッテのものであってそうではない。
それは、俺ではなく遠い日の何かに思いを馳せているかのように見えた。
「シャーリー!」
先程の道を駆けてくる白い狼。
「アドニス様!!」
「殿下!」
エルヴィンたちもこちらにやってくる。
アッシュは、俺を睨みつけながらシャーリーに言う。
「シャーリーどうしてこいつに肩入れするんだ! こいつはシャーリーを裏切ったあいつと同じだ、きっといつか裏切るに決まってる!!」
「やめなさいアッシュ。彼は私との約束を守った。あの炎の中で、決して後ろを振り返ろうとはしなかった」
「嘘だ、そんな人間がいるはずがない。だって、みんな石を投げたじゃないか! 初めはみんな、シャーリーを聖女だって讃えていたくせに」
シャーリーは俯く子狼を眺めながら俺に促した。
「アドニス王子、ついてきなさい。貴方に伝えたいことがあります」
それを聞いてアッシュが驚いたように目を見開いた。
「どうしてだよシャーリー! どうして、こんな奴の力なんて借りるんだ? 復讐は二人でするって言ったじゃないか!」
「アッシュ、私たちだけでは運命は変えられない。そんな気がするのです」
少女の瞳の中にある強い意思が、アッシュを従わせたのだろう。
白い狼は俺たちを睨みつけながらも、誘導するかのように歩き始める。
「……ついてこい人間」
シャーリーと共に、泉のほとりを歩く白い狼。
俺たちはその後に続いた。
泉のほとりには美しい花々が咲き、立派な木々が生えている。
その中でもまるで数百年はそこにあったであろうという、立派な巨木が一際俺たちの目を引いた。
太い幹、そこにはまるで家の扉のような入り口がついている。
シャーリーとアッシュはその木の根元まで歩いていくと、その扉を開いて中に入った。
アレンが警戒するように俺の前に出る。
「殿下! 私が先に中の様子を」
「アレン、構わん。今更そんな真似をしたところで、結局はあの女の招待を受けるしかないのだからな」
エルヴィンは静かに頷いた。
ここまで来て帰るという選択肢はない。
エルヴィンの青い瞳はそう言っている。
俺はふと思った。
あの炎の中で、こいつならどうしただろうと。
「何が可笑しいのですか? 殿下」
「いや、何でもないエルヴィン。行くぞ」
「ええ、参りましょう」
魔女と呼ばれる女の住処。
その家の中に足を踏み入れるのに、少しの躊躇いも見せないその横顔。
きっとこいつも、あの炎の中で前に進んだに違いない。
シャルロッテが、レオナールに唇を奪われた時に俺は嫉妬に我を失いかけた。
一方で、こいつは命をかけてレオナールと剣を交えた。
その身分や地位さえも捨てるつもりで。
「エルヴィン、お前はレオナールなどよりもよっぽど手強い相手だな」
「殿下?」
不思議そうに首を傾げるエルヴィンと共に、俺は魔女の住む家の中に足を踏み入れる。
「これは……」
そこに広がる光景を見て、思わず俺たちは息をのんだ。
とてもそこは巨木の中とは思えない。
広々とした部屋に、数々の絵が並んでいる
まるで、誰かの思い出を封じ込めている場所のように。
ふと気が付くと目の前の少女の雰囲気が変わっている。
どこか放っておけない、危なっかしいその雰囲気。
凛としているかと思えば、子供のように無邪気な笑顔を見せるあいつだと俺には直ぐに分かった。
俺はしっかりとその体を抱き締める。
「シャルロッテ! お前なんだな!?」
「アドニス……私」
「何も言うな、もう少しこうさせてくれ」
シャルロッテの体温を感じる。
俺はシャルロッテを抱き締めながら、部屋の奥の椅子にいつの間にか座っている人物を見つめていた。
彼女は椅子から立ち上がる。
「私の家にようこそ。アドニス王子」
改めて挨拶をする女に俺は静かに答えた。
「泉に住む聖女。お前が本物のシャーリーだな」
※お知らせ
皆さん、いつもお読み頂いてありがとうございます!
今日から新しい作品の連載を始めました。
タイトルは『元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちには大人気です!』になります。
元獣医の主人公が、異世界で恋に冒険に頑張りながら成長していく話になります。
画面下に新作へのリンクを貼っておきましたので、そこから作品ページに飛べるようになっています。
こちらの作品もぜひ一度ご覧になって下さいね!
美しい泉のほとりに立つ少女。
やはり、先程までの光景は幻か。
もしも本当の炎であれば、エルヴィンたちが黙ってはいないだろう。
俺は静かに目の前の女に尋ねた。
「そろそろ教えてもらおうか。何故、シャルロッテにこんな真似をした? お前がいう運命とは一体何のことなのだ」
俺の言葉に、シャーリーは暫く何も答えずに泉を眺めていた。
そして、静かにこちらに向き直ると口を開く。
「やはり、貴方たちは何も知らないのですね」
美しいその瞳は、シャルロッテのものであってそうではない。
それは、俺ではなく遠い日の何かに思いを馳せているかのように見えた。
「シャーリー!」
先程の道を駆けてくる白い狼。
「アドニス様!!」
「殿下!」
エルヴィンたちもこちらにやってくる。
アッシュは、俺を睨みつけながらシャーリーに言う。
「シャーリーどうしてこいつに肩入れするんだ! こいつはシャーリーを裏切ったあいつと同じだ、きっといつか裏切るに決まってる!!」
「やめなさいアッシュ。彼は私との約束を守った。あの炎の中で、決して後ろを振り返ろうとはしなかった」
「嘘だ、そんな人間がいるはずがない。だって、みんな石を投げたじゃないか! 初めはみんな、シャーリーを聖女だって讃えていたくせに」
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それを聞いてアッシュが驚いたように目を見開いた。
「どうしてだよシャーリー! どうして、こんな奴の力なんて借りるんだ? 復讐は二人でするって言ったじゃないか!」
「アッシュ、私たちだけでは運命は変えられない。そんな気がするのです」
少女の瞳の中にある強い意思が、アッシュを従わせたのだろう。
白い狼は俺たちを睨みつけながらも、誘導するかのように歩き始める。
「……ついてこい人間」
シャーリーと共に、泉のほとりを歩く白い狼。
俺たちはその後に続いた。
泉のほとりには美しい花々が咲き、立派な木々が生えている。
その中でもまるで数百年はそこにあったであろうという、立派な巨木が一際俺たちの目を引いた。
太い幹、そこにはまるで家の扉のような入り口がついている。
シャーリーとアッシュはその木の根元まで歩いていくと、その扉を開いて中に入った。
アレンが警戒するように俺の前に出る。
「殿下! 私が先に中の様子を」
「アレン、構わん。今更そんな真似をしたところで、結局はあの女の招待を受けるしかないのだからな」
エルヴィンは静かに頷いた。
ここまで来て帰るという選択肢はない。
エルヴィンの青い瞳はそう言っている。
俺はふと思った。
あの炎の中で、こいつならどうしただろうと。
「何が可笑しいのですか? 殿下」
「いや、何でもないエルヴィン。行くぞ」
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その家の中に足を踏み入れるのに、少しの躊躇いも見せないその横顔。
きっとこいつも、あの炎の中で前に進んだに違いない。
シャルロッテが、レオナールに唇を奪われた時に俺は嫉妬に我を失いかけた。
一方で、こいつは命をかけてレオナールと剣を交えた。
その身分や地位さえも捨てるつもりで。
「エルヴィン、お前はレオナールなどよりもよっぽど手強い相手だな」
「殿下?」
不思議そうに首を傾げるエルヴィンと共に、俺は魔女の住む家の中に足を踏み入れる。
「これは……」
そこに広がる光景を見て、思わず俺たちは息をのんだ。
とてもそこは巨木の中とは思えない。
広々とした部屋に、数々の絵が並んでいる
まるで、誰かの思い出を封じ込めている場所のように。
ふと気が付くと目の前の少女の雰囲気が変わっている。
どこか放っておけない、危なっかしいその雰囲気。
凛としているかと思えば、子供のように無邪気な笑顔を見せるあいつだと俺には直ぐに分かった。
俺はしっかりとその体を抱き締める。
「シャルロッテ! お前なんだな!?」
「アドニス……私」
「何も言うな、もう少しこうさせてくれ」
シャルロッテの体温を感じる。
俺はシャルロッテを抱き締めながら、部屋の奥の椅子にいつの間にか座っている人物を見つめていた。
彼女は椅子から立ち上がる。
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改めて挨拶をする女に俺は静かに答えた。
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