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吾妻と俺。
しおりを挟むやっと一段落した。結果、新薬は完成し、近々市場に出回るだろう。やっと研究から解放され3日間のお休みを頂いた。…うーん、独身で恋人もいない俺にとって長すぎる休みなんだが…とりあえず満喫しようか。
…あ、そーいえばあのゲイバーは昼間はやはり休みなのだろうか?…少し、様子を見に行こうかな。
「…あら?あらあらあらあらっ!福ちゃん、福代ちゃんじゃなーい!」
「あ、オーナー…って、うえぇぇ!?」
昼過ぎにバーの近くまでやってくると、丁度オーナーと鉢合わせした。荷物を抱えてるって事は買い物の帰りかな。
俺を見た瞬間荷物をボトッと地面に落とし俺との距離を縮めガバッと抱き締められた。…おぅ、身なりが女性で言葉使いも女性でも、やはり肌を密着させると男だってわかるね。うん、忘れそうだったよ。ゲイバーのオーナーだもんね。
「まだ開店前だけどぉ~福ちゃん久々に来てくれたから特別中に入れちゃう!」
「あ、有難うございます。…すみません、迷惑をかけてしまって。」
「んもぅ!謙虚なんだからん!いいのよ、ささっ!早く入って!なんかお邪魔虫が来そうな雰囲気がするから早く早く!」
お、お邪魔虫って…誰の事?
バーの中は綺麗に整えられており誰もいないので静かだった。オーナーが先ほど買ってきた食べ物を冷蔵庫の中に整理していく。…さっきボトッと地面に落としてたけど大丈夫か?
「コーヒーでいいかしら?すぐに出せるのそれしかないの~ごめんなさい。」
「あ、いいえ!…俺が営業時間前に来たのが悪いので…」
「もう!ほんと低姿勢ねっ!…あ、ところで吾妻くんと何かあった?」
「?…吾妻さんと、ですか?…いえ、特には。」
「そぉ?…なんかね、あの子最近ずっとここに入り浸って貴方の来店を待ってたのよぉ~。私てっきり吾妻くんが福ちゃんにオイタしたかもと思ってヒヤヒヤしてたのよぉ~!」
なにそれっ!?何故そんな話に?オイタ?いやいや吾妻には充分過ぎる程お世話になったのに避けるとかっ…な、なんかタイミング悪かったなぁ~あんな大仕事が入らなければ週一程度に通うつもりだったのになぁ~…なんか大事に話が膨らんじゃって…申し訳ないな…
「そ、そうだったんですか。すみません、仕事が忙しく全く遊びに来れませんでした。」
「いいのよん!今日来てくれたから!あ、今日は何用?ただ顔を出しにきただけかしら?」
「そうですね、遊びに来た…感じかな。俺ここ気に入ったんです。第一印象がとても良くて…月に何回来れるかわかりませんが暇ができたらお酒を飲みにきたいです。」
「あらぁ~ん!福ちゃんなら大歓迎よ!あ、でも…早めに帰った方がいいかもしれないわぁ」
「え、何故?」
「ん~っとね~…なんか吾妻が…」
バンッ!
急に店のドアが開いた。…あれ?ドアの前にはcloseの看板が立ててあったはずじゃなかった!?
ドアから乱暴に入ってきたのは吾妻だった。なんか凄く苛立ってる気がするんだけど…?
「やっと現れたか…」
「は?」
「ちょっと~吾妻くん?開店前に入って来ないでくれるぅ~?ほんと…出禁にしちゃうわよ?」
「えっ!?出禁?え、何故──うわぁ!!」
オーナーの話を無視してズカズカ中に入り俺の前に立ち思いっきり抱き締められた。…は?何この状況…
「え?あ、あの…?お、オーナー?」
「はぁ…さっきちょろっと話したわよね?吾妻くんが福ちゃん会いたさに毎日入り浸ってたって。なんかこの子、福ちゃんを気に入っちゃったらしいのよぉ~…」
「…え、だって…俺が求めてた相手は、後腐れない人を選んで…吾妻さん、守ってくれるって…」
「…その、つもりだったんだがな…お前の事、忘れられなくてな」
「っ!…オーナーっ!」
「はいはーい吾妻くん、離れなさい!これ以上私のお客様に迷惑かけるなら…容赦しないわよ?」
「…福代、話をさせてほしい。お前を家の近くまで送った後、俺に意味深な事を言っただろ?…あれは何だ?予言か何かか?」
「っ!…吾妻さん、スクラッチ買ったんだね。結果は…ああ、言わなくてもいいよ。」
「二人で話したい。頼む。」
「ちょっと…二人とも何の話をしてるの?福ちゃん大丈夫?」
「ああ、オーナーも口が硬そうだし、話を聞いてほしいんだけど…吾妻さん、ここで話してもいいかな?」
「福代が話してくれるなら何処でもいい。」
なんだか大事になったなぁ~…
とりあえず、ざっと昔話をする。高校に入り初彼ができて、その人に「アゲアナ」だと言われた事。…それから何人か付き合った人がいたが、別れを告げられ、別れた元彼は皆女性と付き合い結婚している事。そしてアゲアナの効果は俺を抱いた相手に幸運が一時的に付き、それは色んな事に効果が発揮するという事。暈しながらも二人に話をした。
「…まるで幸運を運ぶコウノトリみたいな存在ね福ちゃん…なんか話を聞く限り…苦労したのね。平凡な私じゃ想像付かないほどのね…」
「それで「後腐れない」、「口が硬い」相手を探していたわけだな。」
「はい…もう恋愛に対してはもう…。だから暫くは、ほんと信じれる人と出会わない限りは恋人はつくりたくないなって…」
「はぁ~…重い、重いわぁ~福ちゃん!その幸運は自分には効果ないの?」
「あるにはあると思います。今までの恋人は俺を凄く大切にしてくれましたし、職場も自分に合った仕事が見つかりましたし…」
「それは誰にでもある事よっ!…あぁ~福ちゃんがこんな苦労してるなんて思わなかったわぁ~!小柄で可愛いだけじゃなかったのねぇ~」
「こ、小柄で可愛いぃ~!?だ、誰がですかオーナー!」
「福ちゃんに決まってるじゃないのよぉ~!もうっ!自分には無頓着なんだから!」
「…確かに小柄で可愛いだけじゃなかったな。俺のもちゃんと受け入れたし満足させてくれたぞ?」
「きゃーー!吾妻くんエッチぃ!」
「…」
あ、なんかこのノリに着いてけない…
俺が可愛い?確かに小柄、だとは思うよ。認めたくないけど。けど可愛くはないと思うんだけどなぁ?顔はほんと、どこにでもいる平凡顔だし、身体だって女性とは違うし…どこが可愛いんだ?
「…ねぇ吾妻くん。福ちゃん、ほんと無自覚みたいよん?…困った子ねぇ」
「ああ、だから心配になるんだ。ほっとけない。」
「その気持ちわかるわぁ~。…ねぇ福ちゃん、暫く吾妻くんに相手してもらいなさい。吾妻くんなら絶対福ちゃんを傷つける事はしないから!私が保証するわ!」
「えっ!?あ、でも…」
「恋人になれ、とは言わない。だが他の奴にその体質?がバレて監禁されたらマズイだろ?」
「か、監禁!?お、大袈裟じゃ……」
「そうよぉ~?監禁なんて珍しい事じゃないのよ?いわゆる福ちゃんは「座敷わらし」の様な存在よ?ノンケでも抱けば福がもらえるし、それならずっと傍に置いきたがるに決まってるわ!…なんか福ちゃん危なっかしくて心配よぉ?すぐに騙されちゃいそう。だからね、今の話はこの三人の秘密よ!ね、だから今度相手をしてほしい時は吾妻くんに頼りなさい!ね?吾妻くんも福ちゃんに頼ってほしいわよね?」
「ああ。迷惑じゃないし、寧ろ歓迎する。」
オーナーぐいぐい来るなぁ…
うーん…特定の人を作る気はなかったんだけどなぁ…まぁ、吾妻が嫌がってるわけではないなら…いいかな。吾妻カッコイイし、その…身体の相性も悪くないとは思うし…
「…じゃあ、吾妻さんが、迷惑でなければ…」
「!…ああ。迷惑じゃない、歓迎する。これから宜しく。」
うーん…吾妻さん、本当にいいのかな?こんな…まぁ昼間は何してるのかとか、名前すら知らない人だけど、明らか優良物件だよね吾妻さんって。
なんか凄く愛おしそうに見てくるから、居たたまれなくなりトイレを借りて逃げる事にした。
「…吾妻くん、手助けしたんだから福ちゃんを幸せにしてあげなさいよ?」
「助かる、オーナー。絶対落としてみせる。」
「なんか、さっきの話を聞いてさらに福ちゃんが心配でならないわぁ。…守ってあげなさいね。」
「まずは連絡先とアパートを教えてもらう、から始めて徐々に絆されるよう大事に大事にするさ。」
「キャー!吾妻くんって意外と束縛強かったりするのぉ~?何年も吾妻くんを見てたけど、こんな他人に執着する姿なんて初めて見たわよぉ?」
「…俺も俺自身に驚いてる。」
「まぁ、頑張んなさい。あの子、まだ話してない事がありそうだし。闇は深そうよ。」
…俺がトイレから帰ると、二人が真面目な顔で話し合っていた。俺が現れるとパッと表情を緩め、オーナーが作ってくれた、軽く摘まめるお摘まみを出してくれた。
それから二人で少し話してるうちに開店時間になり店を開けると、ぞろぞろ常連客が来店し、何故か俺は取り囲まれた…
え、なにこの珍獣扱い。新規の客にはこんなおもてなしがあるわけ?オーナーに目配せすると「福ちゃん愛されてるわねぇ~!」と理解できない事を言われた。こんな…俺まだ二回しか店に来てないのに何この暑い歓迎は…
暫くいろんな人と話していると吾妻に腕を引かれおいとまする事になった。…なんか吾妻にブーイングが上がったが気にしてない素振りで店を出た。
「全く…煩い奴等だ。」
「ふふ…面白い方々だね。これからどこか行く?」
「福代は明日の予定は?」
「あ、俺は今日入れて3日間休みを貰ったんだ。最近ほんと忙しくて休みという休みがなかったから会社の方で各自申請して休みをもらったんだ。俺は独り身だからいつでも良いって言ったら今日になったんだ。」
「おいおい、それブラックなんじゃないか?」
「いや、これが当たり前な会社なんだ。前に薬品関係の仕事をしてるって言ったよね。俺は新薬の開発担当なんだ。それで大きなプロジェクトがきて忙しくなったんだ。ちゃんとその分、給料は羽織が良いよ?それに普段はそんなに忙しくないんだ。」
「…そうか。まぁ理不尽な仕打ちをされてないんならいいが。…じゃあ明日は休みなんだな。なら俺の家に来るか?」
「え…」
なんか吾妻も急に攻めてきたな…いや、ホテルはお金かかるしどちらかの家でできれば楽だけど…な、なんか凄く狙われてる感が凄くて…なんか、行きずらい。
でもこれからも相手をお願いするわけで…うん、まぁ問題ないだろう。
「…迷惑でなければ。」
「!そうか。じゃあ夕食も家でとるか。じゃあコンビニに…」
「あ、じゃあ俺が料理しますよ?」
「え?」
「部屋にお邪魔になるんだから、それくらいはしたいかな。コンビニじゃなくてスーパー行こう。近くにある?」
「あ、ああ…あるが…料理できるのか?」
「バーの料理の様な美味しい物は作れないけど、家庭料理の定番位は作れるよ。一人暮らしは長いからね。」
「そうか…わかった。任せる。」
料理くらいなら世話になるんだからやらせてもらおうか。どうもコンビニの濃い味が好きじゃなくて飽きてしまうんだよね。まぁオニギリ位は買うけど弁当とかは滅多な事がない限り買わないなぁ~。
やっぱ簡単な物は肉じゃがだよね。調味料とかは家にあるのか聞いてみたら…うん、料理しないという事で必要最低限の物しかない(塩とか砂糖とか)らしいので、他にみりんや本だしなどを一緒に買う。
吾妻はスーパー事態あまり来ないようで物珍しそうに俺の後を着いてくる。俺は必要な物をポイポイっとカートに入れていく。ついで晩餐もするとの事で酒も買う。
会計を済まし荷物を持ち…マンションへと入っていく。…うん、やはり金持ちか。
中は落ち着く色合いで観葉植物がありベランダも広い。…そして調理場。凄く綺麗。うん、使われてないようだ。冷蔵庫も…飲み物と、少量の調味料が入ってるだけだ。これ、ヤバくない?
「…吾妻さん?これは、さすがに心配レベルですよ?吾妻さん、今までどうやって食事してたんですか?」
「…デリバリーかコンビニだな。まぁ最近はバーで食べてたがな。」
「…よく、体壊さなかったね。ある意味凄いよ。太りもしなければ健康体だから。」
「そうか?…ほう、俺の体よく見てるな?」
「っ!ちょ!?なんか変な意味で言ったんじゃないからね!?」
「変な意味って何だ?」
なんか嫌な笑みでこっち見てくるんですが。オーナーも吾妻も恥ずかしい事を軽々と…俺はそんな免疫ないんだから勘弁してほしい。そして「顔赤いぞ?」と指摘するのもやめてほしい!それ自分でもわかってるから!火が付いたかと錯覚する程顔熱いしっ!
さて、ちゃちゃっと作りますよ~。米を炊いて野菜の皮を剥いて切って炒めて煮込みました。…その間、吾妻はというと…ずっと俺の後ろを陣取り腰に腕が添えられていました。どこぞのバカップルだよっ!ってツッコミたかった。けど意外と邪魔をしないよう気を使ってたようで問題なく料理が出来たんだよね。うん、不思議だねぇ~?密着して左右に腕を動かす度に絶妙な感じに吾妻が位置をずらして普通に邪魔にならなかった。
まぁ…邪魔にならなかったから好きにさせてたんだけどね…まさかこんな事になるとは思わなかったよ。
「いつか裸エプロンでやりてぇな…」
「冗談っ!…んああっ!…は、…も、止めっ!」
「いいだろ少しくらい味見したって…減るもんじゃないんだから。」
減る!主に俺の体力が!
一段落して後は煮込んで具が柔らかくなったら味付けして終わりってところでズボンを下ろされ襲われた…
…ねぇ、受け入れる側って凄く負担が大きいって知ってた?この後どーするんだよっ!しかも感覚的にまた生でやってるしっ!せめてそれだけは気を使ってほしかったなぁ!
…行為が終わり腰を支えられながら最後の仕上げをして調理完了。そのあと風呂場へと連れてってもらいまた一回やりました。…もう、夕飯前に体力使いすぎて食欲が落ちました…
俺は椅子に座らされ作った肉じゃがを吾妻が盛り付け、机の上に並べてくれた。食器などは貰い物があったらしく丁度良い器が合ったのでそれを軽く洗って水気を拭き使っている。茶碗に適量のご飯を盛り付け箸を並べてくれた。「いただきます」と互いに手を合わせて食べる。早速吾妻は肉じゃがに箸をつける。
「!…旨い。」
「お口に合ったようでなによりだよ。」
口を綻ばせてパクパク食べていく吾妻。うん良かった良かった。やっぱ自分が作った物を食べてもらって美味しいって感想もらえると嬉しいよね。
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