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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第16話02 最後の控室
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『いや~、ビビりだなサイモン。
もうちょっとで声震えてただろ』
『当たり前だろ……!
下手したら首が飛ぶって聞いて、
平常心でいられる奴が
どこにいるんだよ……!』
地下闘技場内部、長い長い洞窟じみた地下通路。
正直ジルベールは一度も見たことない景色なので、
ビビるなという第一ミッションの時点で
無理!と叫びたかったが、
信じて待つ仲間のため
なんとか勇気を振り絞った。
一方ビッグケットは何度も歩いた知った道、
堂々と振る舞っている。
ジルベールはそんな彼女をちらりと振り返り、
小声で話しかけた。
『……ねぇ、ビッグケットちゃん……正直怖くないの?
予測とはいえ、相手オーガなんだろ。
君、オーガは唯一勝てない種族だって言ってたじゃないか。
なんでそんなにけろっとしてるの……?』
いつかの買い物で。
ビッグケットは確かにそう言っていた……
「オーガ以外なら負けない」と。
つまりオーガ相手だと負ける、
死ぬ可能性があるということだ。
正直、それを思うと足がすくむ。
立ち止まり、後ろの少女を連れて
逃げ出したい気分になる。
しかし黒猫は、
それを聞いても余裕の態度を崩さない。
『ああ、そりゃあ。
サイモンがなんとかしてくれるって思ってるからな。
それに予想以上の援軍もついた。
最悪絶対生きて帰れるんだ、
ビビるこたないだろ』
そう言ってカラリと笑う。
『……ま、私からは絶対白旗振らないけどな。
意地でも食らいついてやる。
策は色々あるんだ』
むしろ、ワクワクした様子すらある。
ジルベールは眉間にシワを寄せ、
下唇を噛んだ。
……本当に彼女を
奥まで連れて行っていいのか?
裏切りとか、薄情者とか、
例え非難されても。
友人を守るために
出来ることがあるんじゃないのか?
『サイモン』
歩みの遅いジルベールの葛藤を見透かしたのか、
ビッグケットがジルベールの肩を掴む。
ぐいと振り向かせた彼の瞳に映る黒猫の顔。
その金の瞳は闇の中丸く輝いている。
『私を信じろ。
大丈夫。大丈夫だ。行こう。
なんなら手を繋いでやるぞ』
『……いや、いい……
行く、ごめん』
その凄みある雰囲気に気圧されて、
ジルベールは慌てて前を向いた。
早足になる。
もう少しでこの通路が終わるようだ。
……さぁ、自分の仕事が始まるまでもう少しだ。
「…………がらんどうだ」
最深部に着く。
大きく開けた空間には、
サイモンに聞いた通り誰もいない。
……隅っこにうずくまる
ケットシーの姿以外は。
『ケットシーだ!!!』
ビッグケットは祖母以外の同族を
初めて見たようだ。
わっと駆け寄り、肩に手をかけた。
『アンタ、大丈夫か!
乱暴されてないか?
私達が絶対助けてやるぞ!』
「……!」
ジルベールがふと気づくと、
エリックに渡された目印……
小さなクサビが
ズボンのポケットから抜き出されていた。
……ということは、やはり。
ビッグケットが握っている。
黒猫はさり気なくそれをケットシーの、
恐らく少女に渡した。
何事か小声で話している。
多分これをずっと持っていてくれとか
そういうことを伝えているんだろう。
なんとお誂え向きなのか、
幸運にもケットシー語を解読出来る人間は
そういない。
少なくともこの場には他に誰もいないし、
魔法の気配もない。
完全に自分たち3人しか居ない。
(……拍子抜け。
警備ザルなのか?
それとも罠か……?)
ジルベールの背中がぞわりと粟立つ。
もし自分が主催者なら、
こんな瞬間は作らない。
それとも完全に舐められているのか?
魔法使いの知り合いなんて一切居ないと
タカくくられているのか?
その気になれば
ここでジルベールが強化魔法をかけるとか、
そういうことすら出来るのに。
『……誰もいないな』
『ああ、でも昨日もこんな感じだったぞ』
『……そうなのか……』
あ、じゃあ舐められてるんだ。
ジルベールは少しだけ胸をなでおろした。
ここは完全に
魔法使いが出入りしないと思われているんだ。
なんて間抜けな運営だろう。
「こんばんは」
そこで奥から声をかけられる。
ジルベール、つまり見た目サイモンが
慌ててそちらを向くと、
ビッグケットがすっと隣に寄ってきた。
『あれは運営の犬だ。
あまりビビるな』
『わかってる……』
蝋燭が照らす不気味で薄暗い洞窟内部。
二人の前には、ビッグケットにとって
5度目にして最後の邂逅。
一方ジルベールは初めて出会う、
黒服の男が立っていた。
190ほどありそうな、
すらりとしているが只者ではない気配を纏った男。
ぴしりと直立不動の姿勢をとっている。
「……来ていただけたんですね、光栄です。
……正直、今度こそ逃げ出すと思っていたよ。
ガッツあるな、アンタたち」
「あぁ。どんだけ怖くても
逃げるわけにゃいかないからな。
何より、こいつがどんな相手でも戦うって
聞かなくて」
昨日サイモンとこの男が
何を話したかはわからない。
ただし、ビッグケットがそう言うだろうことは
予想がつく。
ジルベールはあくまで無難なラインで
答えを返した。
「……ふふ、確かに言いそうだ。
昨日サイクロプス相手と知っても
あんだけ闘志むき出しにしてたんだ、
そうか。誰が相手でも怯まないか」
……今日の対戦相手。
サイモンとビッグケットはオーガと睨んだけど、
そういえばまだ正解をもらっていない。
もっと強かったらどうする?
いや、それもこれも会場に入ってからだ。
自分はとにかくこの場を切り抜けて
ビッグケットを会場まで
送り届けなくてはならない。
「……今日の対戦相手。
誰なんだ。
俺はオーガだと思ってるけどな」
「おや、予想出来ていたんですか。
当たりです。
それでも来たんですね、はてさて。
なんと強いハートなんでしょう」
ジルベールの質問に、黒服がしれっと頷く。
……当たったー……!!
嬉しいような、嬉しくないような。
まぁ、予想の範囲にドンピシャだったんだ、
喜ぶべきだろう。
ジルベールは内心の動揺を
相手に悟られないよう顔を繕いつつ、
後ろのビッグケットをちらりと見た。
『ビッグケットちゃん、
やっぱ今日の相手オーガだって。
ホントにやるの……?』
『ああやるとも。
ほら、いくらケットシー語だからって
気ぃ抜くな。
あいつに啖呵切ってこい』
『えっ無理……!
とりあえず会話終わらせるからね!』
酷薄な笑みを浮かべる黒服の男を前に、
ジルベールは思わず唾を飲み込む。
……さぁ、ここを切り抜ければ
自分の仕事は終わる……
喧嘩なんか売るもんか、
下手に騒ぎになっても仕方ないもんな!
ジルベールはキッと黒服の男を睨みつけ、
「…ふん、胸くそ悪い奴だな。
行くぞ、ビッグケット」
黒猫の手を掴んだ。
これで奥まで行けばミッションコンプリート。
あとはサイモンが作戦を決行、
つまり身体が入れ替わるまで待つだけだ。
ふぅやれやれ……。
そう思いながら歩き出そうとすると。
「お待ち下さい、オルコット様。
今夜は闘技場最終戦。
化け物相手に戦うこともわかっていたはず。
なので、改めて事前検査を
綿密にさせていただきます。
本日はビッグケット様登録者様、
共に身体検査決行。
その上で、
こちらが用意した服に着替えていただきます」
「!?」
もうちょっとで声震えてただろ』
『当たり前だろ……!
下手したら首が飛ぶって聞いて、
平常心でいられる奴が
どこにいるんだよ……!』
地下闘技場内部、長い長い洞窟じみた地下通路。
正直ジルベールは一度も見たことない景色なので、
ビビるなという第一ミッションの時点で
無理!と叫びたかったが、
信じて待つ仲間のため
なんとか勇気を振り絞った。
一方ビッグケットは何度も歩いた知った道、
堂々と振る舞っている。
ジルベールはそんな彼女をちらりと振り返り、
小声で話しかけた。
『……ねぇ、ビッグケットちゃん……正直怖くないの?
予測とはいえ、相手オーガなんだろ。
君、オーガは唯一勝てない種族だって言ってたじゃないか。
なんでそんなにけろっとしてるの……?』
いつかの買い物で。
ビッグケットは確かにそう言っていた……
「オーガ以外なら負けない」と。
つまりオーガ相手だと負ける、
死ぬ可能性があるということだ。
正直、それを思うと足がすくむ。
立ち止まり、後ろの少女を連れて
逃げ出したい気分になる。
しかし黒猫は、
それを聞いても余裕の態度を崩さない。
『ああ、そりゃあ。
サイモンがなんとかしてくれるって思ってるからな。
それに予想以上の援軍もついた。
最悪絶対生きて帰れるんだ、
ビビるこたないだろ』
そう言ってカラリと笑う。
『……ま、私からは絶対白旗振らないけどな。
意地でも食らいついてやる。
策は色々あるんだ』
むしろ、ワクワクした様子すらある。
ジルベールは眉間にシワを寄せ、
下唇を噛んだ。
……本当に彼女を
奥まで連れて行っていいのか?
裏切りとか、薄情者とか、
例え非難されても。
友人を守るために
出来ることがあるんじゃないのか?
『サイモン』
歩みの遅いジルベールの葛藤を見透かしたのか、
ビッグケットがジルベールの肩を掴む。
ぐいと振り向かせた彼の瞳に映る黒猫の顔。
その金の瞳は闇の中丸く輝いている。
『私を信じろ。
大丈夫。大丈夫だ。行こう。
なんなら手を繋いでやるぞ』
『……いや、いい……
行く、ごめん』
その凄みある雰囲気に気圧されて、
ジルベールは慌てて前を向いた。
早足になる。
もう少しでこの通路が終わるようだ。
……さぁ、自分の仕事が始まるまでもう少しだ。
「…………がらんどうだ」
最深部に着く。
大きく開けた空間には、
サイモンに聞いた通り誰もいない。
……隅っこにうずくまる
ケットシーの姿以外は。
『ケットシーだ!!!』
ビッグケットは祖母以外の同族を
初めて見たようだ。
わっと駆け寄り、肩に手をかけた。
『アンタ、大丈夫か!
乱暴されてないか?
私達が絶対助けてやるぞ!』
「……!」
ジルベールがふと気づくと、
エリックに渡された目印……
小さなクサビが
ズボンのポケットから抜き出されていた。
……ということは、やはり。
ビッグケットが握っている。
黒猫はさり気なくそれをケットシーの、
恐らく少女に渡した。
何事か小声で話している。
多分これをずっと持っていてくれとか
そういうことを伝えているんだろう。
なんとお誂え向きなのか、
幸運にもケットシー語を解読出来る人間は
そういない。
少なくともこの場には他に誰もいないし、
魔法の気配もない。
完全に自分たち3人しか居ない。
(……拍子抜け。
警備ザルなのか?
それとも罠か……?)
ジルベールの背中がぞわりと粟立つ。
もし自分が主催者なら、
こんな瞬間は作らない。
それとも完全に舐められているのか?
魔法使いの知り合いなんて一切居ないと
タカくくられているのか?
その気になれば
ここでジルベールが強化魔法をかけるとか、
そういうことすら出来るのに。
『……誰もいないな』
『ああ、でも昨日もこんな感じだったぞ』
『……そうなのか……』
あ、じゃあ舐められてるんだ。
ジルベールは少しだけ胸をなでおろした。
ここは完全に
魔法使いが出入りしないと思われているんだ。
なんて間抜けな運営だろう。
「こんばんは」
そこで奥から声をかけられる。
ジルベール、つまり見た目サイモンが
慌ててそちらを向くと、
ビッグケットがすっと隣に寄ってきた。
『あれは運営の犬だ。
あまりビビるな』
『わかってる……』
蝋燭が照らす不気味で薄暗い洞窟内部。
二人の前には、ビッグケットにとって
5度目にして最後の邂逅。
一方ジルベールは初めて出会う、
黒服の男が立っていた。
190ほどありそうな、
すらりとしているが只者ではない気配を纏った男。
ぴしりと直立不動の姿勢をとっている。
「……来ていただけたんですね、光栄です。
……正直、今度こそ逃げ出すと思っていたよ。
ガッツあるな、アンタたち」
「あぁ。どんだけ怖くても
逃げるわけにゃいかないからな。
何より、こいつがどんな相手でも戦うって
聞かなくて」
昨日サイモンとこの男が
何を話したかはわからない。
ただし、ビッグケットがそう言うだろうことは
予想がつく。
ジルベールはあくまで無難なラインで
答えを返した。
「……ふふ、確かに言いそうだ。
昨日サイクロプス相手と知っても
あんだけ闘志むき出しにしてたんだ、
そうか。誰が相手でも怯まないか」
……今日の対戦相手。
サイモンとビッグケットはオーガと睨んだけど、
そういえばまだ正解をもらっていない。
もっと強かったらどうする?
いや、それもこれも会場に入ってからだ。
自分はとにかくこの場を切り抜けて
ビッグケットを会場まで
送り届けなくてはならない。
「……今日の対戦相手。
誰なんだ。
俺はオーガだと思ってるけどな」
「おや、予想出来ていたんですか。
当たりです。
それでも来たんですね、はてさて。
なんと強いハートなんでしょう」
ジルベールの質問に、黒服がしれっと頷く。
……当たったー……!!
嬉しいような、嬉しくないような。
まぁ、予想の範囲にドンピシャだったんだ、
喜ぶべきだろう。
ジルベールは内心の動揺を
相手に悟られないよう顔を繕いつつ、
後ろのビッグケットをちらりと見た。
『ビッグケットちゃん、
やっぱ今日の相手オーガだって。
ホントにやるの……?』
『ああやるとも。
ほら、いくらケットシー語だからって
気ぃ抜くな。
あいつに啖呵切ってこい』
『えっ無理……!
とりあえず会話終わらせるからね!』
酷薄な笑みを浮かべる黒服の男を前に、
ジルベールは思わず唾を飲み込む。
……さぁ、ここを切り抜ければ
自分の仕事は終わる……
喧嘩なんか売るもんか、
下手に騒ぎになっても仕方ないもんな!
ジルベールはキッと黒服の男を睨みつけ、
「…ふん、胸くそ悪い奴だな。
行くぞ、ビッグケット」
黒猫の手を掴んだ。
これで奥まで行けばミッションコンプリート。
あとはサイモンが作戦を決行、
つまり身体が入れ替わるまで待つだけだ。
ふぅやれやれ……。
そう思いながら歩き出そうとすると。
「お待ち下さい、オルコット様。
今夜は闘技場最終戦。
化け物相手に戦うこともわかっていたはず。
なので、改めて事前検査を
綿密にさせていただきます。
本日はビッグケット様登録者様、
共に身体検査決行。
その上で、
こちらが用意した服に着替えていただきます」
「!?」
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