負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

文字の大きさ
上 下
111 / 137
第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第15話05 大根役者

しおりを挟む
 10代の女の子に縋り付く
 年齢3桁のエルフ……
 しっかりしろ。

 ていうか人の身体で
 ビッグケットにベタベタしないでくれ、
 心臓に悪い。

「……これ、事前にテストして良かったね。
 寸前だったらサイモン君が混乱して
 失敗するとこだった」

「そうですね、
 最初にあちらに潜入するのは
 サイモンさんですから、
 それがシャキッとしないことには……」

 中身サイモンが隣のジュリアナと会話する。
 せっかくなのでジルベールを演じた状態で、だ。
 それを聞いた中身ジルベールは、
 べそをかくのをやめて上体を起こした。
 気持ち居丈高な様子で。

「はァン?馬鹿にしてもらっちゃ困るな、
 お、俺にかかれば闇闘技場なんて?
 ちょちょいのちょいだっつの。
 見てろよ、絶対成功させてみせるゼ」

「…………」

 無言の空間が少し生まれた後。

「噛むな」

「男っぽさの表現がオーバーな気がします……
 サイモンさんは今日さっき出会ったばかりですが、
 さすがにそれは挙動不審です」

「いや、マジでさっき会ったばっかのオレでも
 それはないわ」

 サイモン、ジュリアナ、エリック
 それぞれから酷評された。
 中身ジルベールがギュッと胸を掴み、
 眉間をキュッと寄せる。

「難しいよ~!
 僕元々普通にお坊ちゃんなんだよ、
 そんなガラの悪い話し方したことないよ!」

「……いや、俺も元上寄りの中流なんですけど。
 むしろ、ガラ悪くなったのここ数年の話なんだけど。
 ……初めてマトモに『俺』って言うようになったの
 いつだっけなぁ、
 けっこう遅かったんだけどなぁ」

「へぇ、サイモンさんて僕っ子だったんです?」

「僕っ子ってなんだよ、
 子って年じゃないだろ。

 うーん、
 ……12歳くらいまでけっこう普通に
 『僕』だったなぁ、
 なんかみんなが続々オレに変わってくのが
 逆にダサい気がしてさー」

「あー、逆に?
 突っぱねちゃうと変えるタイミング失うよな、
 わかる」

「それで……あっ」

 話が逸れ過ぎた。
 ビッグケットが耳を捻って
 イライラしたようにこちらを見ている。
 こっちでぺらぺら盛り上がってるのに
 ついていけないから御立腹だ。

『……ナ、共通語ワカンナイト大変ダロ。
 早ク覚エヨウナ』

『そんなことより、飯は?
 いつ来るんだ』

 あっ、そっちか。そういや遅いな。
 こないだはあっという間に来たのに。
 なんとなしに厨房を見ると、
 丁度ニコラスが慌ててワゴンに料理を乗せ、
 運んでくるところだった。

「悪い!!
 昼時で厨房がてんやわんやになっちゃって。
 ここのことすっかり後回しになっちまった。
 はい、頼まれてたメニュー!
 冷めてるわけじゃないから食べてくれ!」

 続々料理が置かれていく。
 ビッグケットはそれを見て
 心底嬉しそうな笑顔を浮かべたのち、
 ハッと何か気づいた顔をした。

 隣の中身ジルベールの肩を叩く。
 驚く中身ジルベールの目の前で
 こっそりニコラスを指差す。
 口の前で指を開いたり閉じたり……

 そうか、俺の……サイモンのふりをして
 何か言ってみろとジェスチャーしてるんだ。
 中身ジルベールはそれに気づいて
 一瞬焦った素振りをしたが……
 やがてこほんと咳払いし、ニコラスを見た。

「全く。
 困るぜ、みんなお腹ぺこぺこなんだからさぁ。
 今度から気をつけてくれよなぁ」

「え?あっ、ああ……悪いな……」

 それを聞いたニコラスは
 あれ?という反応。
 訝しげな表情を返した。
 ……失敗。

 中身サイモン他、
 魔法使い二人と黒猫は各々無言で
 あちゃー……というリアクションをした。

 まさか、ジルベールがこんなに大根だったとは。
 いや……演じるっていうのはある意味特殊な動作だ。
 本気で「誰かになりきる」という気概がないと、
 必ずどこかでボロが出る。
 独特の羞恥心があるからだ。
 さてこれをどうやって克服させるか……。

「さ、とりあえずご飯食べよ。
 詳しい話はまたあとで。
 はいみんな食事タイムーっ」

 一方、中身サイモンによる
 ジルベールのフリはそこそこ安定している。
 ジルベールとの付き合いもそれなりの深さだし、
 何よりサイモンには「人を騙す心得」が備わっている。

 それすなわち動揺しないこと。
 堂々としていること。
 ハッタリに欠かせないのは度胸だ。

(……演技指導……
 本当なら時間かけて慣れてもらうのが
 一番なんだろうけど。
 ザクッと完成させるためには
 どうしたらいいんだろ)

 全員でわいわい食事を取りながら。
 中身サイモンはひたすらあれこれ考えていた。
 タイムリミットは今日の夕刻。
 それまでに詳しい作戦を詰めてアイテムを揃えて、
 演技指導も終わらせなければならない。

(……あーーーっめんどくせえええ!!!)










『ご馳走さま!!』

「……すごいな……アレを食べきるなんて……」

 食後。
 例によってチャレンジメニューと
 同量の食事を完食したビッグケットに、
 エリックがドン引きしていた。
 黒猫は言葉が通じないにせよ、
 その表情すら意に介さない。
 満腹まんぷく!と嬉しそうに腹を叩いていた。

「じゃ、お会計サイモン君よろしくね」

 金は中身ジルベールが持っている。
 なので中身サイモンが支払いを促すと、
 ぎこちない笑みを浮かべた中身ジルベールが鞄を漁り、
 なんとか金貨袋を取り出した。

 チャリンチャリン。
 今日は人数もいたおかげで銀貨の支払いだ。
 それを見届け、三つ葉食堂をあとにする。

「まいどあり!また来いよ!」
「ああっ、またな……!」

 ニコラスが手を振っている。
 中身ジルベールはまた鈍い反応を返した。
 店を出てしばらくして……
 ジュリアナと中身サイモンがじとりと彼を睨む。

「なーんかしっくり来ないですね、受け答えが」

「お前はまず“サイモン”って呼ばれるのに
 馴れないとだな」

「うう……頑張ります……
 これ、僕の命にも関わるもんね……
 やるよぉ、やりますよぉ……」

 中身ジルベールは相変わらず
 腑抜けたリアクションだ。
 しかしこれにばかりかまっていられない。
 これから今日の作戦に必要な
 アイテムを集めなくては。

「えーとジュリアナちゃん、
 結局何が必要なんだっけ?
 手分け出来そう?」

「そうですね……
 細かいところは私とエリックさんで話して
 マジックアイテム屋に行きます。
 具体的にはナイフ、仕込み武器、
 肉体移動に必要な術式原料いくつか、あとは……?」

 中身サイモンが
 ジルベールのフリをしつつ尋ねると、
 ジュリアナが答え、隣のエリックを見る。

「あとは全脱出用、
 そして魔法防御を固めるための術式原料、
 オレたちの変装道具だな。
 その辺は素人に説明しても
 わからないだろうからいいよ。

 とりあえず、まず二人の肉体を交換します。
 しました、
 そんでオレたちが集めたアイテム及び
 魔法で現地解除出来るようにします、
 あと万が一相手が強い魔法で反撃してきても
 サイモンさんが即死しないよう色々弄くります。

 最後に最悪ヤバヤバのヤバだったら、
 合図ひとつで全員+生贄枠とやらごと
 逃げ出せるようにします。
 以上!って感じ?

 これを叶えるためのアイテムを、買います。
 馬鹿みたいに高いのは買わないから安心して」

「はい、わかった。
 じゃあ僕達に出来ることはなさそう?」

 エリックの説明を聞いて、中身サイモンが
 ジュリアナに視線を送る。
 小さな魔法使いはふむ、と考える素振りをした後、
 静かに人差し指を上げた。

「とりあえず演技練習を兼ねて
 3人でしばらく一緒に行動してて下さい。
 アイテムが全部集まったら
 準備タイムに入るので」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 伴侶は自分で選びます。

キャロル
恋愛
獣人と人間が共存する世界でお互いの国が協定を結び共通の脅威である魔物を排除すべくお互いの特性を生かし平和に暮らしていた。 ある一点おかしな法律を除いては、………。 獣人の竜種と狼種は番以外には発情しない為種族繁栄のため人間が番と判断された場合、婚約者がいようが恋人がいようが番と結婚しなければならない………獣人には番はわかるが人間にはわからないが、人間が獣人の番の場合生まれた時に心臓の位置に紋様が現れる。逆に獣人も人間が番の場合同じ位置に同じ紋様が出るため紋様がある者は同族と婚姻できない。 ………なんだそりゃ、まるで呪いじゃないの、冗談じゃない 私はそんなのごめんです。幸い天才的な魔道具作りの才能を持つ私。番とは認識させてやるもんか! 伴侶は自分で探します。いや、いらないかも。

自分の嫉妬深さに嫌気がさしたので、あえて婚約者への接触を断ってみた結果

下菊みこと
恋愛
ゾッコンだった相手から離れてみた結果、冷静になると色々上手くいったお話。 御都合主義のハッピーエンド。 元サヤではありません。 ざまぁは添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

【R18】アナタとの結婚なんてありえません

迷い人
恋愛
錬金術師である私『シャル・オーステル』が、業務提携相手を探しに社交界にもぐりこんだ日。 見ず知らずの男に責め立てられた。 『オマエは、僕と結婚しただけで気が済まず、こんなところにまで追いかけてきたのか!! 下賤の屑が!』 だから、アンタ誰よ!! なんか色々と罵倒されましたけど、彼がいいたかったのは、  運命の相手を虐めるな。  妻にしてやっただけでも感謝しろ。  金寄越せ。  慰謝料払って離縁しろ。 こんな感じ? 私には婚姻の記憶はなく、両親にたずねてみれば、6年前に国王陛下が王族に連なる者との縁組を持ち掛けてきたことがあるとか。 王命は下されていたものの実際には婚姻はなされておらず、国王陛下の命令を遂行していなかった事実に焦った男は、 「僕と結婚しろ!!」 と迫ってきた。 だから、私には将来を約束した恋人がいますから!! じゃれ合い程度のエロの場合☆マークが入ります。 濃厚、強引、乱暴なシーンの場合★マークが入ります。 回避の目安にしてください

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

その勇者、変態につき。

桜月みやこ
恋愛
町の食事処で働いているミラは、町からの依頼で魔獣の討伐に訪れた勇者・エルラントから出逢った瞬間にプロポーズされた。 けれどエルラントがミラに惹かれたのは顔でも性格でもなく、太腿──!? *なとみ様主催「足フェチ祭り」参加作品です *色々ゆるっゆるです。お祭りやっほい!で頭空っぽでどうぞ *全5話です。えちえちは後半で *※表紙絵は井笠令子さま(Twitter ID:@zuborapin)に頂きました♪

召喚されて声を奪われた聖女ですが、何としてでも幸せになります!

星宮歌
恋愛
瘴気の侵食によって徐々に追い詰められていたアルトラ王国。 時の王太子、アルヴァン・フォム・アルトラは、禁じられた魔法を扱う黒魔女による、聖女召喚を決意する。 そうして、聖女召喚は成功したものの、黒魔女によって、聖女はその声を奪われてしまうのだった。

私の好きな人には、他にお似合いの人がいる。

下菊みこと
恋愛
ものすっごいネガティブ思考で自己中かつ心の声がうるさいおかしな主人公と、一見するとクソみたいな浮気者にしか見えない婚約者のすれ違いからの修復物語。 両者共に意外と愛が重い。 御都合主義なファンタジー恋愛。ふわっと設定。人外好きさんいらっしゃい。 頭を空っぽにして読んでください。 小説家になろう様でも投稿しています。

人嫌いと獣人

リュウセイ
恋愛
人を嫌いになった主人公 斉藤 玲美は、 嫌いながらも社会に馴染もうと 生きていた。そんなある日 知りもしない男に間違って殺される。 その後、神に出会い他の世界でなら 馴染めるかもしれないと同情され 獣人の世界に転生される……が、 美男ばかり、女性が少ない世界だった!? そこで、愛を知り。旦那をつくれだって!? ……神様、無理です!!!! 今すぐ動物か、知能無い単細胞にしてください!!

処理中です...