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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第01話03 兎獣人のモモ
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「あら~、サイモンさん!お仕事探しに来たの??」
「そー。なんかない?モモ」
「そぉね~」
カーリーな長い髪が美しく艶めいている。
頭に白く長い耳。
前からでは見えないが、尻にも短いがふわふわとした尾。
赤く大きな瞳がサイモンの姿を映し瞬く。
大きく谷間の開いたミニ丈のドレスを着た目の前の女性は、
兎の獣人アルミラージの混血だ。
本来獣人と言えば、頭から爪先、骨格に至るまで
ほとんど動物のそれなのだが、
アルミラージのモモはそれらと大分異なった。
獣毛のない滑らかな肌、人の身体に人の頭、人の顔が乗っている。
有り体に言って、「ケモミミと尻尾」がついている以外は
ほぼ人間の女性の見た目だった。
人間との混血が進めばこういう見た目の獣人もいなくはないが、
こうも美しく完成した個体はそうはいない。
モモは夜の街の売れっ子看板娘だ。
開店前の午前の酒場。
裏路地の石畳を進んだ先、奥まった場所にあるその店の前。
モモは掃き掃除をしていた。日が暮れれば忙しくなる。
雑用を済ませるならこの時間というわけだ。
「うーん、少し前に取れかけた看板直してもらっちゃったしな」
「うんうん」
「あとなんだっけ?買い出しとかって頼んでいいのかな?」
「いや、それはさすがに店の男連中に頼んだら…?」
「えー、せっかく気を利かせて用事をひねり出してあげてるのに…」
「……そりゃどうも………」
サイモンは今、万屋を名乗って仕事を探している。
結局はあらゆる他人の雑用係だが…
頭脳が取り柄の彼にも、何かしらはさせてもらえると思ったのだ。
ところがどっこい、荒事NG頭脳労働中心、と掲げると
なんの仕事も来なかった。
それもそうだ。世はモンスターと戦が蔓延る16世紀末。
ガリガリひょろひょろの男に回ってくる高額労働など存在しなかった。
「うーーーーん………あっ!
そういやそこの角の精肉店が間違えて羊肉たくさん買っちゃったから、
売り子を探してるって言ってたよ。どうかな?」
「ああ、いいかも」
「サイモンさん力仕事いける?」
「…………いや、多分無理」
せっかく舞い込みそうだったそれなりの仕事。
真剣に考えると即無理そうで、項垂れるサイモンを見てモモがからからと笑った。
「…おい…!」
「アーハハハ!いやーー、ホンット男っぽいことなんにも出来ない人だね~!」
「うるせぇ、人には得意不得意があるんです。
あと、男っぽいことなんにも出来ないと言ったな?
昔お前を『買ってやった』恩を忘れたとは言わせないんだけど??」
「あっはいはい、その節はどーもで~す」
「軽い!軽いな!?」
「ふふふwww」
モモは2年前、この街にふらっとやってきた流れ者だった。
まぁ亜人獣人はほとんどがそういうタイプだが…
当時、職も何もない彼女と偶然出会い、
「一晩分の仕事」を頼んで少しの金銭を恵んだのは、
誰であろう成人したての頃のサイモンだった。
彼は彼でこの街に来て少し経ったくらいの時期だったので、
どうにもほっとけなかったというのが本当のところだが。
彼女とはそれ以来の縁だ。
「やー、でも力仕事NGとなるとやっぱ何もないよ?
うち従業員は可愛い女の子か腕っぷしの強い男しかダメだし…」
「別に飲み屋で働きたいわけじゃない…」
「あらそう?じゃあ今日はお仕事ないみたい。ごめんね」
モモが申し訳無さそうに眉尻を下げる。
「いや、いい。また来る」
別に期待してたわけじゃないし、お前が悪いわけでもない。
サイモンはそう言って薄く笑った。
モモが手を振るので、こちらも振り返す。
さて、ではあとはどこへ行こう。
「うーん、悪いね、今日は特にないかな」
「そうね~…また今度お願いしようかしら」
「そっか、兄ちゃんゴミの仕分けするかい?」
「じゃあこの本片付けてもらえるかしら」
本当に、本当に雑用しかしていない。
顔馴染みの所をぐるり一周して、
一応「金を払う」と言われた仕事は全部やってきた。
それでも当然小鳥の涙ほどしか稼げない。
いやまぁ、無一文で腹を空かせるよりはいいんだけど。
「はぁ…歩き回ってなんか疲れた…」
思わず独り言が漏れる。
これでパン一斤とクズ野菜くらいなら買えるだろうか。
パン一斤…何日食いつなげるだろう…。
いや、半斤とチーズと野菜にした方が腹持ちと健康にいいだろうか…。
しばし飯について思案していると、ついつい腹の虫もぐうと鳴いた。
(あー、そろそろ昼か…?)
頭上を見上げると、太陽がだいぶ真上に近い場所にあった。
煤けた石造りの建物たち、その隙間から現在の時刻を推測する。
いい加減一旦休憩した方が良さそうだ。
「そー。なんかない?モモ」
「そぉね~」
カーリーな長い髪が美しく艶めいている。
頭に白く長い耳。
前からでは見えないが、尻にも短いがふわふわとした尾。
赤く大きな瞳がサイモンの姿を映し瞬く。
大きく谷間の開いたミニ丈のドレスを着た目の前の女性は、
兎の獣人アルミラージの混血だ。
本来獣人と言えば、頭から爪先、骨格に至るまで
ほとんど動物のそれなのだが、
アルミラージのモモはそれらと大分異なった。
獣毛のない滑らかな肌、人の身体に人の頭、人の顔が乗っている。
有り体に言って、「ケモミミと尻尾」がついている以外は
ほぼ人間の女性の見た目だった。
人間との混血が進めばこういう見た目の獣人もいなくはないが、
こうも美しく完成した個体はそうはいない。
モモは夜の街の売れっ子看板娘だ。
開店前の午前の酒場。
裏路地の石畳を進んだ先、奥まった場所にあるその店の前。
モモは掃き掃除をしていた。日が暮れれば忙しくなる。
雑用を済ませるならこの時間というわけだ。
「うーん、少し前に取れかけた看板直してもらっちゃったしな」
「うんうん」
「あとなんだっけ?買い出しとかって頼んでいいのかな?」
「いや、それはさすがに店の男連中に頼んだら…?」
「えー、せっかく気を利かせて用事をひねり出してあげてるのに…」
「……そりゃどうも………」
サイモンは今、万屋を名乗って仕事を探している。
結局はあらゆる他人の雑用係だが…
頭脳が取り柄の彼にも、何かしらはさせてもらえると思ったのだ。
ところがどっこい、荒事NG頭脳労働中心、と掲げると
なんの仕事も来なかった。
それもそうだ。世はモンスターと戦が蔓延る16世紀末。
ガリガリひょろひょろの男に回ってくる高額労働など存在しなかった。
「うーーーーん………あっ!
そういやそこの角の精肉店が間違えて羊肉たくさん買っちゃったから、
売り子を探してるって言ってたよ。どうかな?」
「ああ、いいかも」
「サイモンさん力仕事いける?」
「…………いや、多分無理」
せっかく舞い込みそうだったそれなりの仕事。
真剣に考えると即無理そうで、項垂れるサイモンを見てモモがからからと笑った。
「…おい…!」
「アーハハハ!いやーー、ホンット男っぽいことなんにも出来ない人だね~!」
「うるせぇ、人には得意不得意があるんです。
あと、男っぽいことなんにも出来ないと言ったな?
昔お前を『買ってやった』恩を忘れたとは言わせないんだけど??」
「あっはいはい、その節はどーもで~す」
「軽い!軽いな!?」
「ふふふwww」
モモは2年前、この街にふらっとやってきた流れ者だった。
まぁ亜人獣人はほとんどがそういうタイプだが…
当時、職も何もない彼女と偶然出会い、
「一晩分の仕事」を頼んで少しの金銭を恵んだのは、
誰であろう成人したての頃のサイモンだった。
彼は彼でこの街に来て少し経ったくらいの時期だったので、
どうにもほっとけなかったというのが本当のところだが。
彼女とはそれ以来の縁だ。
「やー、でも力仕事NGとなるとやっぱ何もないよ?
うち従業員は可愛い女の子か腕っぷしの強い男しかダメだし…」
「別に飲み屋で働きたいわけじゃない…」
「あらそう?じゃあ今日はお仕事ないみたい。ごめんね」
モモが申し訳無さそうに眉尻を下げる。
「いや、いい。また来る」
別に期待してたわけじゃないし、お前が悪いわけでもない。
サイモンはそう言って薄く笑った。
モモが手を振るので、こちらも振り返す。
さて、ではあとはどこへ行こう。
「うーん、悪いね、今日は特にないかな」
「そうね~…また今度お願いしようかしら」
「そっか、兄ちゃんゴミの仕分けするかい?」
「じゃあこの本片付けてもらえるかしら」
本当に、本当に雑用しかしていない。
顔馴染みの所をぐるり一周して、
一応「金を払う」と言われた仕事は全部やってきた。
それでも当然小鳥の涙ほどしか稼げない。
いやまぁ、無一文で腹を空かせるよりはいいんだけど。
「はぁ…歩き回ってなんか疲れた…」
思わず独り言が漏れる。
これでパン一斤とクズ野菜くらいなら買えるだろうか。
パン一斤…何日食いつなげるだろう…。
いや、半斤とチーズと野菜にした方が腹持ちと健康にいいだろうか…。
しばし飯について思案していると、ついつい腹の虫もぐうと鳴いた。
(あー、そろそろ昼か…?)
頭上を見上げると、太陽がだいぶ真上に近い場所にあった。
煤けた石造りの建物たち、その隙間から現在の時刻を推測する。
いい加減一旦休憩した方が良さそうだ。
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