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Ⅱ 第二学年

14 夏休み2

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「はい、騎馬民族と農耕民族の違いと考えて頂いても結構です。人族の社会を荒らす行為は、我々にとって自らの首を絞める行為なんです。ですから我々が人族に害を及ぼす事はありません。勿論自分や家族の命を守る場合は別ですが」
「失礼いたしました。お引き留めして申し訳ありませんでした。どうぞ御帰り下さい」
「ありがとうございます。良かったです、ご理解いただけて。時々問答無用で我々に襲い掛かって来る人族の方がいらっしゃるんです。あなたを見た瞬間、物凄い数の鬼の念を纏ってらしたんで自分の鬼生はこれでお終いかと思って妻子の顔が頭をよぎりりました。それでは失礼いたします」

五人は頭を下げながら去って行ったが、最後はほとんど駆け出していた、余程僕が怖いらしい。

「ハル、念って見えるのかな」
「私には計測できませんが、思考の際に発生する電子の残留体でしょうか。生物が同族の為に残す外敵を示すマーカーかも知れません。アースしてみますか」

研修は翌日から始まった、ベースは僕の事務所で行っている訓練で、具象化した情報世界の中へ引き入れて感覚を掴んで貰う。
早い話がリアルなRPGゲームだ、情報世界の中に造った国で辺境から王都に向かって旅して貰い、途中で鬼のシュミーレーションと戦って貰う、イベントも無い比較的単純な内容だ。
だが祓術や符術がきちんと出来ていないと先に進めない、しかも鬼に殺されると物凄く痛い上にスタート地点に戻されてしまう。

初日は第一陣の二百人でスタート。
最初この内容を聞いて喜んで入って行った研修生達だったが、昼の休憩時間で戻った来た時には、げっそりした表情で言葉少なに飯を食っていた。
中でグループが出来上がっているようで、飯を食い終わった後、集まって真剣に議論していた。
そして午後からは決死の表情で入って行った。

「ハル、どんな様子かな」
「予想より苦戦しています。十日間での目標達成は難しいかもしれません」
「そーか、じゃっ基礎力の養成の部分を少し手厚くしておくか。講師の人に連絡しておいてくれ」
「はい、フェーズ11への移行を連絡します」

講師の人は一緒に中に入って監視して貰っている。
休む間もなくひたすら走り回っているので、追加が必要かも知れない。

研修の理解度が悪い者は、追加の研修を課すと最初の説明で伝えてある。
学院に講堂の追加使用を申請しておいた方が良いかも知れない、勿論パソコンの追加手配も必要だ。

脱落者が発生することも無く無事初日が終了した。
僕等には八時間だが、研修生達の体感した時間十日間だ。
自分の影に身構えたり、急に自動販売機の影に身を潜めたりと危ない奴が結構多い、ちょっと心配だ。

二日目、第二陣の二百名が加わる。
情報が伝わっている様で、皆真剣そのもので入って行った。
混雑防止のためにと日程をずらしたのだが、スタート地点に戻される連中が結構多くて旅立ちの村が混雑している。

「ハル、お願い」
「了解です、ではフェーズ36に移行します」

旅立ちの村が旅立ちの町の設定に変わった。

今更だと思うのだが、僕の事務所のメンバーも研修生として研修に加わっている、協会から特別扱いは出来ないと言われてしまったのだ。
僕も受験が必要か聞いてみたら、さすがにそれは特別扱いにしてくれるそうだ。

初日は舞、二日目は紅葉が加わっている、今後も順次僕の事務所のメンバーが加わって行く。
実力が違い過ぎるので、まあ実質、講師の先生役の様な感じになるだろう。

講師はおじさんの研究室の院生や助手の方をお願いしてある。
おじさんもこの手法には興味を持っており、もしこの研修が上手く行ったら講義に組み入れたいと、積極的に協力してくれたのだ。

そして八日目、遂に第一陣の最初のパーティーが王都の城に到達した、六人の獣族達で構成されたパーティーで実力が一枚も二枚も抜きん出ていた。
やっと僕の出番だ。

パーティーを宰相の執務室で待ち受ける、執務室に通されたメンバー達は僕の姿を見て肩から力抜く、試験終了と思ったようだ。
その気を抜いたタイミングを見計らって、僕は膨れ上がって魔王へと大変身する。
宰相が魔王だったと言う在り来りの設定の積りなのだが、素直に物凄く驚いて貰えた。

無意識なのだろうが、全員隠すのも忘れて尻尾を出し、股間に挟んで震えている。
掴み上げて口の中に押し込む、そして素の情報世界の中へと放り込んだ。
ただ錯乱しているだけなら城の外に放り出してやり直し、自己の存在に気が付けたなら出口を示して合格だ。

このパーティーは五回目でやっと出口を発見した。
パソコンの前で気が付いた彼らを係員が僕の待っている控室に案内する、研修終了を告げて認定証を交付するのだ。

係員から説明してあるのに、僕の部屋に入って来ても警戒して僕に近寄ろうしない。
素の情報世界に導く軽い演出の積りだったのだが、余程怖かったらしい。

「もう大丈夫ですよ、ここは現実世界ですから。早く尻尾を仕舞って下さい」

一日遅れで舞が引率したパーティーがやって来た。

「本物の魔王ってあんな感じなんだろうね、物凄く怖かった、解っていてもおしっこ漏らしそうだったもの」

第一陣の最後の研修生が無事出口に到達したのが二十日目、平均で十五日間掛かっていた。
認定証をびびりながら僕から手渡された後、初めて実感が湧くらしく、皆一緒に行動したメンバーと抱き合って泣いていた。
体感的には五ヶ月一緒に過ごしたことになる、強い絆が作られた様だ。

講堂を五室、パソコンを千台、講師を五名多く手配してして受け入れ体制を整える。
そして無事、夏休みが終わる前に四十日間に及んだ研修が終了した。
研修参加者から広まったのか、この研修は”魔の十日研修”と呼ばれ超ハードな研修として知られることとなった、そして。

「雷人、あんたの所為だからね。中二病じゃあるまいし恰好悪い」
「そーだよな、巫女としても外聞が悪いよな。弥生、香」
「そーですよ、他の設定は無かったんですか」
「雷人、お前は良いよ、どうせその外見なんだから。可憐な乙女の私達としちゃとっても迷惑なんだよ」

知らない間に僕の事務所は魔王窟と呼ばれており、僕は魔王と呼ばれていた。
研修中にくっ付いたカップルから結婚式の招待状が送られて来たのだが、雷夢魔王様と真剣に間違われるくらい世間一般に認知されてしまったらしい。
獣族や亜人の人達は、真剣に僕が魔族だと信じている、困った事だ。

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