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Ⅵ クシュナ古代遺跡

3 兄妹地底に降りる

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マリアが身体を仰け反らせて痙攣する。
ガクッと脱力した後は暫く意識が遠退く様で、目を閉じて動かなくなる。
余韻が残るのか、荒い息を繰り返しながらときどき身体を震わせ甘い息を吐く。

この状態の時が一番顕著で、マリアともう一人のマリアが激しく入れ替わっている。
多分二人は無意識に同調していると思うのだが、この状態については、俺もジョージも本人達には聞けないでいた。
俺はマリアが浮気だと言って激怒するのが恐ろしいし、ジョージはマリアから別れ話を切り出されるのが恐ろしいのだ。

直に俺とマリアはこの世界を去るのだから、今は波風を立てない方が正解だと俺も思う。
残った二人は、俺達の貯めた財産が有るのだから、ここで幸せに暮らせると思う。

問題は俺達の方だ、この記憶を持ち帰った時に、俺は我慢しながら過ごせる自信が無い。

「兄ちゃんどうしたの」

マリアが気が付いた様だ。

「戻った時のことを少し考えてた」
「ふーん、ねっ、もっかいしよ」
「おーし、じゃっ、次はスペシャルに行くぞ」

取り敢えず今はこの一時を楽しもう。

「きゃっ、兄ちゃん。そこ駄目」

ーーーーー
あの後、ジョージも頑張ったので、今日も二人は完璧な寝不足だ。

「ほれマリア、寝るな。スープ零してるぞ」
「ふぁーい」

それは俺達だけじゃ無さそうで、ナナさん以外は皆眠そうだ。

「半鐘後には出発しますから忘れ物は無い様にお願いします。到着予定は昼をだいぶ過ぎますので、昼は籠の中でお弁当を食べて頂きます。到着後、遺跡周辺を確認してから商店街で買い物済ませて頂いてから宿にご案内します。夕ご飯は宿で召し上がって頂きます。なお、下は魔気が濃いので、魔気当りに注意して下さい。以上です、ご質問は・・・。無いようでした今日も宜しくお願いします」

俺達は王都を経由してるので、魔気当りの心配はないのだが、眠くて説明をするのも面倒なので黙っていた。
重い身体を引き摺って宿を出発、大洞窟の入り口から差し込む光が黄色く見えて眩しい。

待合室でだらけているのは俺達だけの様で、他の冒険者達は緊張で顔を強張らせていた。
係員から呼び出しが有り、木の筏に乗り込む。
筏がゆっくりと下降し、籠に横付された。

「さあ皆さん、乗り込んで下さい」

ーーーーー
クシュナ古代遺跡 鑑定術師兼迷宮探索補助員 ナナ

お茶を煎れようと思ったら、皆さん本格的に眠る様で、ソファーとテーブルを壁際に寄せ、マジックボックスから布団を取り出して敷き始めました。

遺跡に向かう人達は、皆ナーバスになっていると先輩から教わりましたが、この人達は関係が無いようです。
新しい許可証なので魔力は有ると思うのですが、情報の収集不足でここの遺跡の恐ろしさを知らないのかも知れません。
まあ、危なくなったら帰飛の水晶で逃げ帰るだけですけどね。
金貨五枚の高級魔道具ですが、地図のおかげで赤字にはならずに済みそうです。

お昼の用意は次の籠だし、お茶を飲みながらまったりと本でも読みましょう。

ーーーーー
地底に到着した。
まだ壁からの跳ね返りの陽が残っており、街にはまだ明かりが灯っていなかった。

ここは単に底の町と呼ばれている。
賑わいのある街中を歩いていると、ここが地上から二日も掛かる場所であることを忘れてしまう。

「それでは遺跡の確認へ向かいまーす」

遺跡の入口は町の中心にある。
古代神殿の様な建物を想像したのだが、高さが三十メートルくらいの、卵型の窓が無いツルンとした無機質な建物だった。
白い卵を四本の流線型の足が支える、古代神殿どころか超近代的な感じの外観だ。
その近代的な建物の回りを鎧と冑を纏った兵士が警戒に当たっている。
なんとも不思議な光景だ。

今日は遺跡には入らない、用事があるのは遺跡前の広場に絨毯を広げている情報屋だ。

ナナさんが擦り減ったん絨毯に座っている御爺さんのところに歩み寄った。

「ケラスさんですよね。ムラタナスさんの紹介で来ました、ナナと言います。以後お見知り置きを」
「はい、はい、よろしくな。でっお嬢ちゃん何を聞きたい。生憎儂は荷物持ち向けの情報はあまり持っておらんのじゃが」
「いえ、この人達冒険者さんなんです」
「こりゃ失礼した、申し訳ない。それで何が聞きたい」
「西の七十八階層の降口」
「・・・・・金貨十枚」
「よかろう」

ホークさんが巾着を取出し金貨十枚を手渡す。

「やれやれ、それじゃ付いて来なさい」

老人が絨毯を畳んで歩き始めた。

後に付いてゆくと、老人は広場に面した立派な商館の中に入って行った。

「会長、ご苦労さまでした」
「ご苦労さまです」
「御帰りなさい」

「うむ」

汚い恰好の老人だったので、表に摘まみ出されると思っていたのだが、職員が全員席を立って出迎えた。

「情報屋は趣味みたいなもんじゃ、生きたネタを時々拾えるんでな。本業はこっちじゃ」

応接室に案内された、若い女子職員がお茶を煎れてくれた。

「さてと、”時抜けの扉”か」
「そうだ、そこが目的地だ」
「復讐か」
「いや、この手から零れ落ちた命を拾いに行く」

老人が腕を組んで頷いている。
ナナさんは口に手を当てて固まっている。

「五年前に、五十年振りの大移動で遺跡の迷路が大きく入れ替わったのは知っておるか」
「ああ、勿論知ってる」
「この五年間で二十七組の冒険者”扉”に挑んで、辿り着いた者はいない。七組が戻れて二十組が迷宮に食われた、何れも超Sレベルの冒険者達じゃ」
「覚悟は出来ている。それでも行かねばならん」
「うむ、それなら十三地区の東壁に隠し扉がある。地図を寄越せ。うむ、ここじゃ。隠し扉から先は怨霊の世界だそうじゃ。戻れた組には何れも聖女が加わっていた。聖砂は無理してでも持てるだけ持って行け。アドバイスできるのはこれだけじゃ」
「助かった。これは追加だ」

ホークさんがテーブルに金貨五枚を積み重ねる。

「うむ、命は大事するんじゃぞ」
「ああ」

ーーーーー
クシュナ古代遺跡 鑑定術師兼迷宮探索補助員 ナナ

驚きました、海賊さん達の目的地は超難関の”時抜けの扉”でした。

正確には、扉まで到達した冒険者が二十七組です。
扉まで到達出来ないで諦めた組が八十一組で、今現在挑戦中の組が四十二組です。
最短の組で三年、大移動後直ぐに入って、まだ四十階層で奮戦してい組もあると聞きます。

まあ、私達迷宮探索補助員にとっては、長期間安定して高級品を搬出してくれる一番美味しい御客様なんですけでね。
先輩達に苛められなければ良いけどなー、ちょっと怖い。

商店街を案内しました。
皆さん帰飛の水晶は買われたんですが、聖砂も呪符も買われません。
ここの迷路は、強い怨霊が跋扈するので有名なんですが大丈夫でしょうか。

「あのー、皆さん聖砂と呪符はご準備されて来たんですか」
「いや、使わん奴がいるから必要ない」

ええ!なんか変な事言ってます、本当にこの人達は大丈夫なんでしょうか。
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