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Ⅱ 王都にて

33 ドレス

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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者だった小学生に見える少年、細工職人
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女、細工職人
ケビン・・・カルナの旅で一緒だった少年

マッフル・・・王都冒険者ギルドの幹部
ファネル・・・元公爵の御婆ちゃん、翔の骨董仲間でこの国の実力者

東部下マナ原・・・王都の川向にある東部平原地帯

ーーーーー
(カケル)

「彩、俺が貴族になったらどうする」
「どうしたのお兄ちゃん、突然」
「骨董繋がりの知り合いに公爵を引退したお婆ちゃんが居るんだけど、そんなこと言われたんだ」
「ふーん、私も時々貴族の家に往診に行くけど、皆偉そうにしてるからあんまり好きにはなれないな」
「へー、俺の知り合いはみんな良い人だけどなー」
「きっとお兄ちゃんの知り合いは特別よ。プライドばっかり高い人が多くてさー、文句が多いの。そのくせ、治療費が高いって、けち臭いこと言うのよ」

彩音は貴族が嫌いらしい、時々拳固を握って力説する。
そう言えば、彩音の先生も働かない奴は食うなと言っていた、もっとも働く奴にも給料は出さないが。

「ふーん、じゃっ、彩は舞踏会に招かれても行きたくないよな」
「ううん、行きたい。綺麗なドレス着て美味しい物一杯食べてみたい。そんな話が有るの」
「今日マッフルさんの家へ挨拶に行ったら、メリッサ王女の成人祝賀舞踏会に呼ばれるかも知れないって言われたんだ。ダンス覚えるのが面倒だし、どうせ行っても隅っこで立ってるだけだから断ろうと思ってたんだ」

この国の第ニ王女様が今年十五歳になったのでそのお祝いだ。
国民総出で祝う習慣らしく、一週間が祝日になり、その一週間の中で連続して行われるイベントの中に舞踏会が組み込まれている。

何日いつなの」
「七日と十ニ日だよ、どちらかに顔出せば良いとは言われたけど彩も忙しいだろ」

例年新年の休みは最初の一週までだが、王室の祝事が有る年はさらに休みが一週間延びる。
都中で祝賀行事が行われるとは聞いていたが、俺には関係ない事と思い、釣り竿でも買って、河岸で鰻釣りを楽しもうと思っていた。
正直、王族なんて心底興味が無い、ファネルさんにあんな事言われなければ思い出さなかっただろう。
ファネルさんが言いたかったのは、たぶん、王室が一方的に気にしてるから、警戒しろ、王室からの誘いは無視するな、と言う事なんだと思う。
鬱陶しい、鰻の蒲焼のレシピを考えていた方が有意義な時間だと思う。

無料ただなんでしょ」
「ああ、貴族や大商人はお祝いの献上品を持って行くらしいけど、庶民の招待客は必要ないってマッフルさんが言ってた」
「じゃっ行こうよ、勿体ないから。王族のお祝いのお祭りって凄いらしいよ、私一回でいいから舞踏会へ行ってみたいし、王女様にも会ってみたい。先生に予定を変えて貰うよ。じゃっ、お兄ちゃん明日からダンスの特訓だよ」
「ダンスの先生も新年でお休みだから無理じゃないか。隣の奴の真似でもすれば大丈夫だろ」
「駄目、練習するの。確かファラが踊れた筈よ、明日行ってみましょ。それにドレス作らないと、早く言ってよお兄ちゃん、後五日じゃぎりぎりよ。お兄ちゃんもお腹引っ込めて、私お腹の出た人と踊るの嫌よ」

俺も今日マッフルさんから聞いたばっかりだ、文句ならマッフルさんと王室に言って欲しい。
でも彩音はやる気が満々だ、まあ、彩音が楽しみにしてるなら良しとするか。

「これ凄く美味しいわね、カケルがぶくぶくになる訳が良く解るよね」
「宝物の審査って凄い役得が有るって本当なんだね」

メルとファラの部屋に彩音と二人でお邪魔している、昨日包んで貰った料理の残りを持参して、朝食代わりに四人で突っついている。

「昨日は特別だよ、今は忙しくて馳走して貰う暇なんか無いぞ、メル、この角煮も旨味が出てて美味しいぞ」
「どれどれ、本当だ美味い。しかし祝賀舞踏会に招かれるなんて末代までの名誉だぞ。なあ、ファラ」
「ええ、そうよ。メル、この角煮半分頂戴、うん、美味しい。それを断ろうと思ってなんて酷いわよね、アヤ」
「そうなのファラ、王族の話題振っても空返事ばっかりなのよ。ファラ、このお豆も美味しいわよ」
「どれどれ、うん、美味しい。でもアヤはドレスが無いんでしょ」
「うん、そうなの。お兄ちゃんの分と合わせて四日で服作って貰える店ってあるのかな」
「うーん、聞いてみないと判らないけど、今日からたぶん店開けてると思うからこれ食べ終わったら行ってみようか。仮縫いの服を並べてる店だから試着も出来るよ」
「ありがとう、ファラ。お兄ちゃんはもう食べちゃだめ!、服が入らないよ」

「まあ、まあ、まあ、祝賀舞踏会に招待されていらっしゃるの。それなら大優先で作らせて頂くわ」

神殿地区から通り二本離れた裏通りに有る仕立て屋さんだ、様々な神官服が並んでいるから、そちらがメインの商売らしい。
店の奥に通されたら、フリフリが一杯付いたドレスが並んでいた。

「今年の流行は緑色なのよ、お若いから黄緑の方が映えて良いでしょうね。ケビン、二階のクローゼットからY3の黄緑持って来て」
「はーい、先生」

名前は男だが、メイド服を着た店員の少女が服を取りに行った、なんか俺の事をちらちら見ていた。
両手に一杯ドレスを抱えて階段を下りて来た、一枚一枚丁寧にハンガーに架け、壁際に並べる。
ファラと彩音が一枚一枚手に取って吟味している、これは時間が掛かりそうだ。
俺のは直ぐに決まっている、そもそも種類が少なかった。

少女が俺の側に寄って来た、可愛い子なので悪い気はしない。

「カケルさん、御無沙汰してます」

えっ!俺はこの子知らない。

「大断層でスノートの人達と一緒に降ろして貰ったケビンです」

えっ、顔をじっと見る、うん思い出した、キャル達を下に降ろす時背負子に放り込んだ少年だ。

「今僕はお針子修行してるんです」
「ケビン、借留め手伝って」
「はーい、先生」

走って行く後ろ姿は、どう見ても女性だ、スカートの裾が揺れている。

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