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Ⅰ 王都へ
4 襲撃
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翔・・・主人公、高1十五歳
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
ーーーーーーーーーー
突然揺り起こされ、この数日の習慣で無意識に木刀へ手が延びる。
空が白み初めていた。
俺を揺り起こしたのはメルだった。
覗き込んだ顔が不安に覆われていた。
荷車が止まっており、荷車の中には緊張が満ちている。
身体を起こすと、彩音も目を擦りながら起き上がった。
荷車の全員が左方の森見つめていた。
荷車の前方には同じ様な荷車がもう一台、その先には横転した荷車が転がっている。
前の荷車の左脇で男達が右手に山刀、左手に小さな円形の木の盾を構えて森を睨んでいる。
反対側では女達が横転した荷車から怪我人や女子供を大急ぎで運び出して自分達の荷車に乗せている。
御者席に乗っていた若者は、荷車の護衛だった様で荷車の左脇で盾と山刀を構えて森を睨んでいる。
少女達が荷車の右側に寄り、左側で少年達が左手に小さな木の盾、右手に長さ六十センチくらいの和太鼓の撥の様な棒を持って身構えている。
前方から怒号が聞こえて来た。
狼のような、小さな角が二本生えた犬が男達に襲い掛かっている。
暗い森の中から犬が続々と姿を現す。
犬の動きは統制されている様に見える。
群での狩、狩の対象は俺達人間だ。
犬の群が徐々に横へ展開し、直に俺達の荷車の脇にも犬達との戦いが広がった。
犬の数がみるみる増えて行く。
次第に荷車の護衛達も捌き切れなくなった。
そしてついに護衛の脇をすり抜けた犬が一匹、俺達の荷車に飛び乗ろうと跳躍した。
「メン!」
”ギャン”
木刀が空中の犬を一撃で叩き落とす。
頭骨を叩き割られた犬が白目を剥いて痙攣している。
剣道二段、有段者の振る木刀は刃物に匹敵する。
二匹目がすり抜ける、その動きに護衛の注意力が散漫になっている。
そして三匹目がすり抜けた。
護衛達と合流した方が互いに有利と判断し、俺は荷車を飛び降りた。
「メン、メン」
三年間、毎日朝夕に棒を振っていれば嫌でも棒を振り慣れる。
身体に染み着いた動作で木刀を振ると、足下に犬が二匹転がった。
護衛達の脇に加わると、護衛も自分の前の犬に集中出来る様になり、山刀で堅実に目の前の犬を屠って行く。
護衛達は盾で一旦犬の攻撃を防いでから山刀を振り下ろすが、俺には犬を防ぐ動作が無い。
身構える犬の頭上に次々と木刀を振り下ろして行くだけだ。
犬は人を襲い慣れている様子で、山刀の間合いで身構えている。
だが、俺の木刀は山刀に比べて間合いが三十センチくらい長く、しかも両手で振り下ろす木刀は重くて早い。
次々と脳天を割られる仲間を見て、犬が劣勢を悟って逃げ出し始めた。
この怖じ気が徐々に横の犬にも広がって行く。
押され気味だった人が押し始め、やがて犬達が敗走し始めた。
犬達が去ったことを確認してから怪我人の治療が始まる。
少女達は手当の手伝いに呼び寄せられ、少年達は先頭の荷車を起こし、散乱していた荷物の積み込んを手伝う。
ポニーが二匹、首筋を食い千切られて死んでいた。
その作業を終えると男達が犬を拾い集め始めた。
俺も拾い集めるまでは手伝ったが、男達が犬を捌き始めるのを見て、慌てて退散することにした。
俺には無理だ。
だが、同じ荷車の少年達に呼び止められて、結局、肉を樽に入れて塩を振る作業を手伝わされてしまった。
男達が手際よく次々と犬の皮を剥いて、骨から肉を削ぎ落とす。
少年達が肉を運び、俺は吐き気を堪えながら肉を樽に漬け込んで行く。
すべてを樽に付け終わった時、俺は犬の肉片が目に焼き付いて、しばらく肉は食えない気がした。
朦朧としながら馬車に戻ると、少女達もちょうど怪我人の手当を終えて戻って来たタイミングだった。
彩音も身振り手振りで話しながら、中に混じって馴染んでいた。
「お兄ちゃん」
彩音が走り寄る、目の前に立つと眉間に皺を寄せて俺を嗅ぎ回った。
「お兄ちゃん犬臭い、上着脱いで貸して頂戴。手も洗って」
寒かったが、俺が渋々剣道着を脱いで渡すと、彩音が路端の雑草を一掴み抜き、一部を俺に渡して、残りを剣道着に擦り付け始めた。
俺も雑草で手を擦ってみる。
雑草から透明な汁が染みだして直ぐに乾いて行く。
「これって、メメ草って言って臭い消しになるらしいの」
「誰に聞いたんだ。言葉も喋れないのに」
「向こうの荷車の治療師の叔母ちゃんが手に付いた血の臭いをこれで消してくれたの、包帯洗うのもこれ使ってて、メメって呼んでた。ほらお兄ちゃん」
剣道着を受け取って臭いを嗅ぐと、臭いが落ちて微かなクレゾールの臭いがした。
怖々と手の臭いを嗅いでみると臭いが取れている。
消毒用石鹸液の様な感じか。
「それでこっちがグルノ草で傷薬らしいんだけど凄く良く利くの。お兄ちゃん怪我してない、少し滲みるらしいけど傷口がどんどん塞がってたよ」
彩音は右手の葱の様な植物を回して弄んでいる。
俺は彩音の逞しさに感心した。
既にこの世界の知識を吸収し、順応し始めている。
朝食は三台の荷車合同で振る舞われたが、悲しいことに、案の定肉料理がメインであった。
俺は犬が捌かれている光景が頭から離れず、ほとんど食えなかった。
同じ荷車の少女達は、他の荷車の女達に呼ばれて料理と給仕を手伝っていたのだが、何故か俺の世話を焼き始めた。
何か、もて期の予感がする。
彩音・・主人公の妹、中1十三歳
ニケノス・・・カルナの荷車の御者
メル(メルトス)・・・翔達の荷車の同乗者、小学生に見える少年。
ファラ(ファラデーナ)・・・メルの連れ合い、こちらも小学生に見える少女
カルナ・・・王命による地方から送られる少年少女の半強制移住者の呼び名、疫病の影響で減ってしまった都市部の少年少女を補充し、文化や技術を継承することを目的にしている。
ユニコ・・・眉間に輝く角を持つポニーくらいの馬。
ーーーーーーーーーー
突然揺り起こされ、この数日の習慣で無意識に木刀へ手が延びる。
空が白み初めていた。
俺を揺り起こしたのはメルだった。
覗き込んだ顔が不安に覆われていた。
荷車が止まっており、荷車の中には緊張が満ちている。
身体を起こすと、彩音も目を擦りながら起き上がった。
荷車の全員が左方の森見つめていた。
荷車の前方には同じ様な荷車がもう一台、その先には横転した荷車が転がっている。
前の荷車の左脇で男達が右手に山刀、左手に小さな円形の木の盾を構えて森を睨んでいる。
反対側では女達が横転した荷車から怪我人や女子供を大急ぎで運び出して自分達の荷車に乗せている。
御者席に乗っていた若者は、荷車の護衛だった様で荷車の左脇で盾と山刀を構えて森を睨んでいる。
少女達が荷車の右側に寄り、左側で少年達が左手に小さな木の盾、右手に長さ六十センチくらいの和太鼓の撥の様な棒を持って身構えている。
前方から怒号が聞こえて来た。
狼のような、小さな角が二本生えた犬が男達に襲い掛かっている。
暗い森の中から犬が続々と姿を現す。
犬の動きは統制されている様に見える。
群での狩、狩の対象は俺達人間だ。
犬の群が徐々に横へ展開し、直に俺達の荷車の脇にも犬達との戦いが広がった。
犬の数がみるみる増えて行く。
次第に荷車の護衛達も捌き切れなくなった。
そしてついに護衛の脇をすり抜けた犬が一匹、俺達の荷車に飛び乗ろうと跳躍した。
「メン!」
”ギャン”
木刀が空中の犬を一撃で叩き落とす。
頭骨を叩き割られた犬が白目を剥いて痙攣している。
剣道二段、有段者の振る木刀は刃物に匹敵する。
二匹目がすり抜ける、その動きに護衛の注意力が散漫になっている。
そして三匹目がすり抜けた。
護衛達と合流した方が互いに有利と判断し、俺は荷車を飛び降りた。
「メン、メン」
三年間、毎日朝夕に棒を振っていれば嫌でも棒を振り慣れる。
身体に染み着いた動作で木刀を振ると、足下に犬が二匹転がった。
護衛達の脇に加わると、護衛も自分の前の犬に集中出来る様になり、山刀で堅実に目の前の犬を屠って行く。
護衛達は盾で一旦犬の攻撃を防いでから山刀を振り下ろすが、俺には犬を防ぐ動作が無い。
身構える犬の頭上に次々と木刀を振り下ろして行くだけだ。
犬は人を襲い慣れている様子で、山刀の間合いで身構えている。
だが、俺の木刀は山刀に比べて間合いが三十センチくらい長く、しかも両手で振り下ろす木刀は重くて早い。
次々と脳天を割られる仲間を見て、犬が劣勢を悟って逃げ出し始めた。
この怖じ気が徐々に横の犬にも広がって行く。
押され気味だった人が押し始め、やがて犬達が敗走し始めた。
犬達が去ったことを確認してから怪我人の治療が始まる。
少女達は手当の手伝いに呼び寄せられ、少年達は先頭の荷車を起こし、散乱していた荷物の積み込んを手伝う。
ポニーが二匹、首筋を食い千切られて死んでいた。
その作業を終えると男達が犬を拾い集め始めた。
俺も拾い集めるまでは手伝ったが、男達が犬を捌き始めるのを見て、慌てて退散することにした。
俺には無理だ。
だが、同じ荷車の少年達に呼び止められて、結局、肉を樽に入れて塩を振る作業を手伝わされてしまった。
男達が手際よく次々と犬の皮を剥いて、骨から肉を削ぎ落とす。
少年達が肉を運び、俺は吐き気を堪えながら肉を樽に漬け込んで行く。
すべてを樽に付け終わった時、俺は犬の肉片が目に焼き付いて、しばらく肉は食えない気がした。
朦朧としながら馬車に戻ると、少女達もちょうど怪我人の手当を終えて戻って来たタイミングだった。
彩音も身振り手振りで話しながら、中に混じって馴染んでいた。
「お兄ちゃん」
彩音が走り寄る、目の前に立つと眉間に皺を寄せて俺を嗅ぎ回った。
「お兄ちゃん犬臭い、上着脱いで貸して頂戴。手も洗って」
寒かったが、俺が渋々剣道着を脱いで渡すと、彩音が路端の雑草を一掴み抜き、一部を俺に渡して、残りを剣道着に擦り付け始めた。
俺も雑草で手を擦ってみる。
雑草から透明な汁が染みだして直ぐに乾いて行く。
「これって、メメ草って言って臭い消しになるらしいの」
「誰に聞いたんだ。言葉も喋れないのに」
「向こうの荷車の治療師の叔母ちゃんが手に付いた血の臭いをこれで消してくれたの、包帯洗うのもこれ使ってて、メメって呼んでた。ほらお兄ちゃん」
剣道着を受け取って臭いを嗅ぐと、臭いが落ちて微かなクレゾールの臭いがした。
怖々と手の臭いを嗅いでみると臭いが取れている。
消毒用石鹸液の様な感じか。
「それでこっちがグルノ草で傷薬らしいんだけど凄く良く利くの。お兄ちゃん怪我してない、少し滲みるらしいけど傷口がどんどん塞がってたよ」
彩音は右手の葱の様な植物を回して弄んでいる。
俺は彩音の逞しさに感心した。
既にこの世界の知識を吸収し、順応し始めている。
朝食は三台の荷車合同で振る舞われたが、悲しいことに、案の定肉料理がメインであった。
俺は犬が捌かれている光景が頭から離れず、ほとんど食えなかった。
同じ荷車の少女達は、他の荷車の女達に呼ばれて料理と給仕を手伝っていたのだが、何故か俺の世話を焼き始めた。
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