努力と根性と運が少々

切粉立方体

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17 四層

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 翌日は迷宮に潜らず、光石で作った鏃をマリアと検証した。

「難しいわね」

 マリアの魔力が尽きるまで試して貰ったが、光石の鏃と光矢の魔法が馴染まず失敗を繰り返した。

「俺は一年掛ったからね。地道に練習するしか無いかな。レベルアップまで経験値は後幾つ必要なの」
「二十、野犬を二匹倒せばレベルアップよ」
「魔力感知って言う技術能力は持ってるの」
「光矢を弓で打つ練習をしてたら生えて来たわ」
「それじゃ力業になるけど、レベルアップしたら弓術と魔力感知に成長付与値を三づつ振ろうか。取得が大分早くなると思うよ」
「何か勿体ない気がするわね。魔力に振った方が良くない、それだけのメリットが有るの」
「メリットはお釣りが来る程有るよ。この方法の利点って、物凄く大きいんだ。攻撃力が増して魔力が節約できることも大きなメリットだけど、その攻撃力自体を魔力だけに頼らない色々な方法で増やせるんだ。弓術の能力は勿論だけど、弓の強さや弓の品質、腕力や器用さ」
「それって、魔器を使う時と似てない」
「うん、魔器とよく似てるよね。剣術の技量を上げたり、腕力や器用さなどの攻撃力の関わる要素を上げたり高い魔器に買え変えたりとかさ。でもね、最大の利点は矢が刺さってると魔獣の回復を阻害できることに有るんだ、魔器と同じようにね。白金貨で買った魔器が魔獣に刺さったまま持ち逃げされたら溜まらないから、魔器が使える連中は魔器を絶対手から離さない。だから危険を冒してまで魔獣の攻撃に耐えながら、連携して魔器を刺し続けるんだ。でもね、矢なら刺さったまま放置できる。刺さったまま魔獣に逃げられても予備の矢は矢筒一杯持ってるからね。しかも弓は遠間からの攻撃だから、魔獣と直接戦う危険性も少ないんだ」
「ふーん、でもそんなに上手く行くのかしら。何だか眉唾だわ。だって魔獣の魔法障壁って堅いんでしょ」
「魔力感知の技能を伸ばして判ったんだけど、魔獣の魔法障壁って単なる物理攻撃には無茶苦茶強いけど、魔力を帯びた攻撃なら簡単にその障壁を突き破れるんだ。むしろ、障壁を修復した時の回復の能力の方が凄まじいから、そのために魔獣が纏っている魔法だと思ってる。皆、強い障壁だから弱い魔法は通じないと勘違いしてるだけんだ。試して見てないから判らないけど、刺さってる本数が多いほど、たぶん回復力も衰えると思う。だからこの魔法を取得した光属性の人達が協力して魔獣を針鼠にすれば、雪狼でも倒せると思う」
「それって凄くない」
「だから凄いって言っただろ。治癒魔法も有るんだから、光属性って最強だよ」
「私、弓術と魔法感知に五でも六でも振っちゃう」
「それは止めた方が良いよ。急激な変化は脳が制御しきれなくなって、頭痛で倒れるってガイドブックに書いてあったから」
「・・・うん、止めておくわ」
「それじゃ明日は、レベルアップしてから四層に潜ろう」
ーーーーー

 マリアが野犬を二匹倒してレベルアップした。

「う~ん、弓術と魔力感知に三だから残り十か」

 僕には見えないが、ステータス画面を開いて考えているようだ。
 成長付与値が十六だったようだ。

「視力がお勧めだぞ。早めに敵が発見できるし、矢が当たり易くなるよ」
「ふーん」

 四層の入り口を潜る。
 
 青空が上空に広がっていることにも驚いたが、入り口付近に大小のテントがびっしり並んでいるのにもっと驚いた。
 簡易修理と書かれた看板を掲げたテントから槌音が聞こえるし、魔器大安売りと書かれた看板を掲げたテントの店先には剣や槍が一杯並んでいる。
 簡易宿泊銀貨三枚と書かれた大きなテントからは防具に身を固めて探索者が引っ切り無しに出入りしているし、蜜蜂亭出張所と書かれたテントでは、高そうな防具を纏った人々が食事とお茶楽しんでいる。

 そんなテント群とは関係なく、入り口の壁際で疲れ果てた様に横たわっている人々もいる。
 皆薄汚れた防具を纏い、生気が感じられない。
 そんな中、一人の女性が突然に立ち上がり、マリアに走り寄って胸倉を掴む。

「マリア、何でここへ来たの!騙されちゃ駄目って、何度も教えたでしょ」
「姐さん落ち着いて、ちゃんと理由があるの。向こうで説明するからちょっと来て」

 マリアの知り合いらしい。
 マリアは女性の寝ていた場所に移動すると、座って何かの説明を始めた。
 その女性は目を見開き口を押さえて何度も頷いている。
 二人は抱き合ってから別れると、その女性は別の場所で横たわっている女性を起こし、何やら説明を始めた。

 草原に踏み出す、遙か彼方に森が広がっている。
 森の背後には木に岩に覆われた山々が、その背後には険しく聳える白い峰々が見える。
 
 入り口から森へ真っ直ぐ向かう踏み跡を五人ほどの集団が何組も歩いている。
 雪狼の討伐には数日を要し、四分の一日交替で戦い続けると聞いている。
 装備が少し高級なので、多分その交替要員なのだろう。

 草原の土を探ったが、魔法感知が偽物だと教えてくれた。

「本当に良く見える様になったわ。あれ狼でしょ」
「ああ、でもまだマリアの射程外だろ。風下から近づいて狩ろう」

 マリアは弓術技能のアップのお陰で光矢の威力も上がり、魔力六の光矢で草原狼を狩れた。

「こんなに直ぐ結果が出るのね」
「ああ、励みになるだろ」
「ええ、射の感触が全く違うし、身体に芯が通った感じだわ。自分の射の悪い所も感じられるし、射線もしっかり見える様になった。感じる世界が全然変わったわ」

 僕は土弾ではぎりぎり不足するので、石弾を使った。
 これも魔力感知が教えてくれる。
 周囲の草も抉れているので、威力が大分余っているようだ。
 抉れた後を見ていたら、直ぐにスルスルと草が伸びて来た。
 草を毟ってみると魔獣と同じように消滅したが、経験値には成らなかった。

 大鷲は上空から舞い降りて襲って来るのだが、遮る物が無い場所なので良く見える。
 僕らにとっては良い的にしか過ぎなかった。

 マリアが草原狼七匹と大鷲五羽を狩り、僕は草原狼を九匹と大鷲十六羽を狩って初日の猟を終えた。
 僕が狩った大鷲の数が多いのは、射程の差だ。
 倍以上違うのでマリアは驚いていたが、僕の弓術のレベルを説明したら納得した。

 迷宮を出る間際、マリアは先程の女性に魔石を触って見せていた。
 狩った者以外が魔石を触ると消滅するので、彼女が狩った証拠になる。
 目を見開いて驚く女性の顔が印象に残った。
 少し生気が戻ったような気がした。
 
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