努力と根性と運が少々

切粉立方体

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3 町と迷宮

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「それじゃ行くぞ」

 町へ向かう村の子供達を乗せた馬車の護衛を兼ね、狩人達が隊を組んで、狩った獲物の革や牙を町へ売りに行く。
 草鼠や角兎の革は村の雑貨屋で売り払うのだが、野犬や狼や猪の革は値が張るうえ村では需要が無いため、年に一回、領都から来る馬車と同行して町で買い取って貰う。
 一年分の革が三台の荷車に満載されており、この荷車と馬車を護衛しながら町へと向かう。
 ヴェルディ村が他の村より豊かなのはこの収入があるからだ。
 僕は爺さんに頼み込み、町の迷宮に潜るため、この隊に混ぜて貰った。

 迷宮の在る場所は必ず町になる。
 迷宮が発見されたら領主はその場所を町に指定し、広く知らしめる。
 後は迷宮に潜って経験値を得ようとする連中が集まるし、迷宮の魔獣から得られる魔石は魔道具の動力として高値で取引されるから、人も金も集まって、放っておいても発展する。
 迷宮探索者は、魔石を売った金で町を潤す。
 迷宮探索を引退した者は、迷宮で伸ばした自分の能力を生かして商売を始め、迷宮探索者から金を得る。
 店頭には高い能力に裏打ちされた品物が並び、人々の活気や明るい声が村との違いを鮮明にする。

 僕らが向かうのはクーラルというカラサナ大森林の中にある小さな町で、規模の小さな迷宮が町の中央にある。
 領都からの馬車は、途中数カ所の村に寄ったので時間が掛ったが、ヴェルディ村から直接向かえば一日の距離だ。
 闇と光が入れ替わる少し前、門前に辿り着き、手続きを終える。
 馬車で連れて来られた連中は僕達と違い、粥と布を与えられて広場に放り出せれるのではなく、馬車を降りると宿屋へと引率されて行った。
 僕らの荷車はそのまま町の石造りの店が建ち並ぶ中央通りを進み、町外れの煙の立ち上る地区に入って行った。
 職人ギルドと書かれた看板のある大きな建物の裏庭に入り、爺さんが裏口から入って行った。
 やがて爺さんがギルドの職員を連れてくると、検品が始まった。

「野犬の革が五千五百三十二枚だから大銀貨百十枚と銀貨六十四枚、狼の革が三十枚だから大銀貨十五枚、猪の革が十枚だから大銀貨十枚、狼の牙と爪が大銀貨十枚、猪の牙が同じく大銀貨十枚、合計大銀貨百五十五枚と銀貨六十四枚だ」
「それでお願いする」
「それじゃ、倉庫に運び込んでくれ」

 集落の狩人は大体五十人なので、一人当たり大銀貨三枚。
 これに村人に売る肉が年間大銀貨一枚位なので、年収は大体大銀貨四枚だ。

 農夫の年収は銀貨四十枚位と言われているので、十倍程の年収差がある。
 しかも狩人は肉が食い放題、実感の生活差はもっと大きいだろう。
 雑貨屋のケイトが僕に色目を使う筈だ。

 ただこれは村の中だけの話で、町と村とをくらべると、町の安宿ですら一泊銀貨一枚、店頭には大銀貨数枚の商品が平気で並んでいる。
 おそらく町の人達の年収は大銀貨二十枚を超えている筈だ。
 農夫の、土属性の者達の収入が低すぎるのだ、狩人ですら低い。
 弱い立場に付け入られ、農作物の買い取り価格を抑えられているのだろう。

 倉庫に革や牙を運び終わると、爺さん達は水路と塀で囲まれた町の歓楽街へ向かった。
 半裸の女性の姿絵が並ぶ門で滞在許可証を提示し、橋を渡る。
 今日と明日の二日限りの滞在許可証だ。
 歓楽街の女達は皆土属性で、銀貨一枚で買えると狩人仲間から聞かされた。
 このため、歓楽街は町の中に在りながら町の外として扱われ、女達の滞在を許している。
 ただし、彼女達は歓楽街から出たら牢屋へ放り込まれる。
 町中の宿は村人の宿泊を拒否されるので、狩人達はここを定宿にしているらしい。

「小僧どうする」
「宿を確認したら、折角だから迷宮を覗いて来る」
「そうか、無理をするなよ」
「うん」
ーーーーー

 迷宮は町の中央広場の度真ん中にあり、昼間の仕事終わりに経験値を稼ごうという人々で溢れていた。
 迷宮への入り口は虹色に光る石碑だった。
 石碑は塀で囲まれており、正面の事務所の入口を通過しないと入れない仕組みだった。
 右側が銅貨十枚を受け取って迷宮に入る入口で、十カ所程が設営されており人が並んでいる。
 入口を通った人々が次々に石碑へ吸い込まれて行く。
 左側は迷宮から戻った探索者の出口で、魔石の買い取りを行うため、入口の倍近く設営されている。
 石碑の裏側が迷宮からの出口のようで、裏側から続々と人が湧いて、事務所の出口へ向かう。
 僕は一番短い列に並び順番を待つ。
 係員は弓矢を背負った僕を不審そうに眺めていたが、銅貨十枚を受け取ってくれた。
 僕は人の波に乗り、虹色に輝く石碑に飛び込んだ。

 石碑は到達した階層の門へと送ってくれる。
 初めて迷宮に潜る僕は、当然ながら一層の門前に送られた。
 背後には虹色に光る壁、これがこの階層の門だ。
 目の前には淡い光を放つ石壁の通路が延びていた。
 一層は鼠の魔獣が出る迷路、雑貨屋で買い求めた古びたガイドブックに書いてあった。
 一層は初心者の階なので、羽化式から一月以上過ぎたこの時期は人の気配が無い。
 弓を構えながらガイドブックの地図を見て慎重に進む。
 逃げ道を確保しながら進まないと、複数の鼠に囲まれて死ぬらしい。

 最初の鼠に遭遇した。
 鼠の癖に、通路の真ん中で僕を威嚇している。
 弓を構え、鼠との距離を目算する。
 呼吸を整え、練習通りと心の中で唱える。

 ”土弾”と小さく呟き矢を放つ。
 練習通りに鏃が魔法を纏って飛んで行き、矢は見事に鼠に命中。
 次の矢を構えて身構えるが、鼠は小さな魔石を残して消えて行った。

「よっしゃー!」

 一年間の苦労が実った瞬間だった。
 思わず雄叫びを上げてしまった。
 理不尽に領都を追い出された悔しさが晴れた気がした。
 土属性でも成長できる、嬉しさに涙が滲んできた。

 微かな物音がした気がして振り返ると、二匹目の鼠が近づいて来る。
 気を引き締め弓を構える。
 まだ迷宮内だ、小さな油断が命取りになる。

「ステータスオープン」

 迷宮内で使える自分の能力を確認する魔法だ、ガイドブックにそう書いてあった。
 魔力が無くなったので、虹色の壁の前に戻り、今日の成果を確認する。
 ガイドブックによると鼠を倒した時に得られる経験値は一、今日は十二匹倒したので十二の経験値が得られた筈だ。
 目の前に透明な板が浮かぶ、そこに僕の能力が書いてあった。

 氏名:クルト
 性別:雄
 種族:人
 年齢:13
 付与属性:土
 獲得魔法:土弾、地質感知
 属性レベル:1
 
 腕力:12
 脚力:12
 知力:12
 魔力:12
 生命力:12
 体力:12
 器用度:12
 反応力:12
 視力:12
 聴力:12
 臭力:12
 魔力値: 0/12
 生命値:12/12
 体力値: 8/12

 鍛冶:1
 革工:1
 木工:1
 弓術:1 
 短剣術:1
 刀術:1
 罠術:1
 調理:1
 清掃:1
 
 経験値:12/100

 虹色の壁から外へ出る。
 陽はすっかり落ちており、空には満天の星が広がっている。
 事務所の出口に向かい、鼠の魔石を売り払う。

「銀貨一枚と銅貨二十枚になります。宜しいですか」
「はい」
「それと迷宮は初めてですか」
「はい」
「それではこの札にお名前を記入の上、血を一滴垂らして下さい」
「あのー、これは」
「町民権票です。これを提示すれば全ての町、都へ無料で滞在出来ます。おめでとうございます。これであなたも正式な町民です」
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