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Ⅳ 裏大陸

2 職探し

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熱帯雨林の中は、生き物数が多すぎて気配を探るのが難しい。
特に樹の上から地上の気配を探ろうとすると、途中の葉の上に住んでいる無数の虫達の気配が重なって、物凄く難しいのだ。
周囲は無人と思っていたのだが、誰かに見られていたらしい。

「鳥人って、捕まえると高く売れるのか」
「私もまだ言葉が良く判らないから詳しく聴けなかったけど、煮て脳味噌を食べるって言ってたわ」
「・・・・」

自分が喰われる対象になってみると、周囲が皆危険な人食い人種に見えて来るから不思議だ。
簡単に殺されない自負はあるが、この大陸の人達がどんな武器を持っているのかすら知らない。
森に戻るのを遅らせて、この大陸の人達を少し観察する必要があるだろう。
万が一鉄砲でも持っていたら、確実に殺されてしまう。

翌朝宿を引き払って、仕事を捜しに行く。
ギルドの中にも求人機関は存在せず、自分で探し回るしか方法が無かった。
町の周囲のバラック地帯に労働力はいくらでも存在しているので、極端な買い手市場だったのだ。

俺は船の荷卸しの仕事で金を稼いだ。
仕事と言っても、船が岸壁に着くと、岸壁でたむろっていた人々が我先にと船に走り寄って、勝手に荷卸しを手伝って最後に小遣いを貰う。
手軽だが、早い者勝ち、年寄りも子供も入り乱れた乱暴な修羅場だった。

そんな状態だから、船の渡り板から、担いだ荷と一緒に滑り落ちる奴もいる。
荷を弁償する金が有る奴は払うし、無い奴は見せしめの為に船乗り達によって袋叩きにされて半殺しにされる。
半殺しにしても船主としては利益にならない、なので予防策として、船乗り達が渡り板を登って来る奴の様子を見て、足取りが不安定な奴は海に蹴り落とていた。

当然どさくさに紛れて荷を盗もうとする奴もいる。
そんな連中には容赦が無く、船の上から目を光らせている弓兵が少しでも不審な行動をする奴は問答無用で射殺してしまう。
遺体は岸壁から海の中に放り込まれ、後は人食い魚が掃除してくれる、ここでは人の命が軽い。

船が着く度に、僅かな銅貨を求めて船に群がる人々と海に蹴り落とされる人々、射殺される連中とで壮絶な命懸けの修羅場が展開する。

俺はどんなに渡り板の勾配がきつくても、熱術で氷を作って足裏を渡り板に貼り付けるから問題ない。
人間どんな状態でも序列を作りたがるもので、数日で一目置かれる様になり、周囲が遠慮するようになった。

マリアも食堂の給仕の仕事を見付けた。
これも勝手に食堂の給仕を手伝うもので、客からのチップを受け取って収入にする。
過当競争なので、店は相手が女の子であっても、邪魔と判断すれば容赦無く殴り付けて店の裏口から放り出す。
マリアから聞いた話によると、放り出してもしつこく店に入って来る奴はいるそうで、最後には裸に剥いて縛って裏通りに放り出すらしい。
仲間が居れば拾いに来るし、町に来たばかりで仲間が居ない奴は、数人の男達が来て何処かへ連れ去られてしまうらしい。

当然ながら皆自己アピールに必死で、布地の面積はどんどん小さくなる。
その辺のボリューム感に乏しいマリアは、手作りの普通の服でトライしたのだが、片言の裏大陸語の新鮮さと露出の少ない清楚な感じが却って良かったようで、無事追い出されないで店に入り込めている。
他の女の子達と違い、客からの売春のお誘いに応じないのも評判になっているらしい。
マリア情報によると、一回銅貨五十枚、日本円にして五百円という格安らしい。
マリアを迎えに行った時に、マリアの同僚のボリュームたっぷりの美人さんを眺めていたら、心の声が顔に出たらしく、ワンコ達に足をガシガシ咬まれてしまった。

最初は治癒師の仕事を捜そうとしたのだが、ここでは怪しげな祈祷程度の物しか存在しなかったので諦めた。

寝る場所はバラックの立ち並ぶ地区の一画に確保した。
この町で生まれ育った荷運び仲間が紹介してくれたのだ。
潮が満ちて来ると、目の前の水路へ汚物を満載した排水が逆流して来るのには閉口したが、月銀貨三枚の家賃は格安で、雨の多いこの町で、貧相ながら屋根のしたで過ごせるのは嬉しかった。
幅二メートルの奥行が二メートル、隣家との間は葭簀よしずのような物で区分けされており、マリアと俺とワンコ達が寝るには十分だった。

目の前の水路に棒を突っ込んで掻き回すと、人食い魚が喰いついて来る。
ぱさぱさして余り美味く無かったが、この地区の人々の主食だった。
むしろ薪や穀物の値段が高く、この地区の人々は苦労しているようだった。
ちなみにここの魚は寄生虫がいるので生では食えない。
ここでも俺の熱術は役にたって、薪を使わないで済んだ。

町に住み始めてから三週間が過ぎた。
鳥人の噂は収まるかと思っていたのだが、逆に町へやって来る狩人の数はどんどん増えている。
中には、明らかに軍隊と思われる人達も混じっており、マリア情報によると、酒場では鳥人情報が有料でやり取りされているらしい。
マリアも客から聞かれるので最新の情報を仕入れて転売するのだが、チップよりも良い稼ぎになるらしい。
酒場の女の子達は、この騒動を喜んでせっせと稼いでいる。

なぜ、そんなに鳥人が人々の関心を呼んでいるかというと、ここの言葉が判るようになって知ったのだが、鳥人の脳味噌を月夜草の実と陽追花の種で三日三晩煮込み、人魚の油で抽出すると、長寿の妙薬が得られると信じられているのだ。
鳥人の脳味噌を求めて高地に登ろうとする者もいるのだが、成功した者はいないそうで、壁の麓に死体が転がっていたそうだ。

王侯貴族から鳥人の脳味噌には金貨一万枚の懸賞金が既に掛かっており、競売に掛ければその十倍から百倍には値が吊り上ると言われているそうなのだ。
その御宝がジャングルの中をうろうろしている、しかも二つもだ。
大陸中に噂が駆け巡り、一攫千金を狙う冒険者達、王侯貴族の間で大騒ぎになっている、これもマリアが銅貨十枚で仕入れた情報だ。

目撃場所の情報は、末端価格で金貨一枚まで高騰しているらしい。

そんなある日、商船組合の事務所に呼ばれた、俺達荷卸しにとって、商船組合の人達は神様みたいな存在だ。

「旦那様、どのようなご用事でしょうか」

応接室に通されると、身形の良い、良く日に焼けた中年の男性が待っていた。

「ジョージ、お前は奥地出身と聞いたが本当か」

当初、言葉が喋れない理由を奥地出身者と説明していた。

「へい、さいでやすが」
「ストラント国の方が案内人を捜している」
「あのー、奥地と一言で言っても無茶苦茶広いんで案内と言われましても」
「おまえ口は堅いか」
「へい、一応」
「なら、これからの話は他に漏らすな、良いか。漏らしたら射殺すぞ」
「へい」

男が地図をテーブルの上に広げる。

「目的地はここだ。この周辺の案内はできるか」

驚いた事に、俺達の小屋の場所をかなり正確に把握していた。
俺達を狙う連中の情報を把握する良い機会だろう。

「できます」
「なら、明日客に引き合わせる。出発は一週間後、報酬は一日銀貨十枚、後払いだ。成功した暁には別途報酬の上積みがある」
「へい判りやした。連れ合いも同伴で飯は相手方持ち、犬を十匹程連れていきやす」
「良かろう、話しておこう」
「それじゃ宜しくお願いしやす」
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