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37 薬の作用
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カムが囲まれる前に、サラは素早く脱出して女性用の控え室に逃げ込んだ。
カムの周りの人の山を振り返り安堵の息を漏らす。
サラでもごつい男達に囲まれるのは遠慮したい。
脇のワゴンからワインの注がれたグラスを取り飲み干す。
王家が祝宴に出すワインなので旨い。
久々のワイングラスの口当たりも良く、茶碗で飲むよりも旨く感じる。
幸い邪魔者のカムも居ない。
舌なめずりしながら二杯目に手を伸ばす。
サラの手がグラスに届く前に、脇から手を伸ばした女がグラスが奪い取る。
憤慨して奪い取った女をサラが睨むと女もサラを目を三角にして睨みつけている。
厄介事の予感と共に女の顔に昔良く知っていた顔の面影を重ねていた。
「サラさんですよね。私は王宮薬師のカイラです。あなたに聞きたいことがあります」
偉そうにふんぞリ返って聞いてくる。
喧嘩を売る気が満々で肩に力が入っているが胸は小さい。
「今王都に新型の惚れ薬が出回っています。効果抜群との噂が広まり金貨五枚で流通していると聞きました。私も薬を取り締まる役目がありますから業者から入手して調べました。なんですかあれは。茶の成分にナムセラとケムラの汁を少々加えただけじゃないですか。あれで金貨五枚は詐欺です」
「卸値は一枚だけどしょうがないわね。あなたナムセラの作用って知ってる」
卑しくも王国薬師に問いかける話ではない、カイラは憤慨しながら答える。
「幻覚作用と弱い習慣性ですけど」
「それは通常の摂取量の話で微量の時の作用はセレナも教わったはずよ」
セレナとはタナス国の薬師の大祖と賞される人物でカイラの祖母である。
子娘が呼び捨てにして良い名ではない。
「あなた失礼よ。私のお婆様を呼び捨てなんて」
「私は良いの。兄弟弟子だから。私の先生が教えた筈なんだけどね」
カイラが疑わしげに問いかける。
「あなたね、お婆様の先生はケスラ様よ。いい加減な事を言うと許さないわよ」
「私の師はケスラだけど」
これは嘘である。
サラがクルベで薬学を教えていた時の名がケスラである。
正確には師ではなく本人である。
カイラがクルベの民を意識していることも察している。
「ケスラ様は時の厄災で亡くなられたはずよ」
「誰に聞いたか知らないけれどそれは間違いよ。師は今北大陸に居るのよ」
事実である、本人が言ってるので間違いは無い。
カイラの瞳が驚愕に染まる。
「ナクセラの作用は記憶力の強化。飲用時の記憶が強く残るのよ。古い文献ではハセラって記述が多いんだけどハって言うのは薄めるとの接頭語よ。ハセラはナムセラを薄めたとの意味よ。ケムラも同じよ。ハムラって文献に書かれているのはケムラを薄めたものよ。じゃ、ハムラの作用は何」
「発情ホルモンの分泌、弱い発情、記憶の覚醒です。芳香性の香りが特徴」
「正解よ。良く勉強してるわね。その香りが弱い習慣性を引き起こすのよ。それと精神の安定作用、気持ちを落ち着かせるのよ。もう一つセレナが教わっていることはね」
サラが掌を上に向け掌で小さな空気玉を弾かせる。
「同じ魔法でもこう使えば」
サラが空気玉を警備兵の股間に飛ばし鎧の中で弾けさせる。
先ほどからやたらと女性の控え室覗いていた。
警備兵が股間を押さえて槍と盾を石の床に取り落とし、大音響に周囲の人間が振り返る。
兵士は周囲に気が付かずにアンダーアーマーを慌てて脱ぎ捨てる。
周りの女性から悲鳴が上がり、他の警備兵に連れ出される。
「な、薬もこれと一緒。人の環の中での使い方によって効果が変わるの。人の存在を考えないで薬効だけ考えてはだめよ。薬は弱ければ弱い程良いのよ。強い薬は世の理を乱すのよ。解った」
「はい」
サラに見つめられて素直に返事を返してしまった。
瞳を見ていると祖母に教わっていた少女に戻ってしまう。
「でね、高いのは使用法の説明代よ。惚れ薬って聞くと発情作用を想像するけどそれは間違いよ。この薬はね、気持ちを落ち着かせて記憶を少し良くして少しはっきりさせるのよ。これがこの薬のコアよ」
カイラは素直に頷いてしまう。
「好きな人とお茶を飲ませるのよ対面でね。落ち着いた気分の時に記憶に残すの。何度か繰り返させるのよ、記憶させることと思い出させることを。少しづつ記憶の底へ落としてゆくのよ。それと隠し味が女性ホルモンの分泌と弱い発情作用なの。ただね、誤算があったわ、皆綺麗に成ってきちゃったの。綺麗よりも魅力的って言った方が良いかもね」
カイラはただ聞き入る。
「でね、これが今回新しい所でね。行くとこまで行ったら香水に混ぜるの。自分自身をお茶にして一生分記憶に残すのよ。新しいでしょ、一生円満に暮らして貰うの。惚れ薬じゃなくて幸せを作る薬かしらね。凄いでしょ」
「はい、凄いです。失礼しました」
カイラは素直に謝る、降参である。
「私の手元では全員成功よ。都だと処方の指導が十分できないので八割位ね。記録させてるから後で検証しようと思ってるの」
都ではサラの薬は奪い合いである。
カイラは理由を納得した。
「ただね、成功率が高いのは薬以外の理由もあるのよ。結婚相手と意識すると皆高望みはしなくなるのね。一生の伴侶としての相性を無意識に考えるみたいなの。だから薬は引込思案な背中を押す手助けかしらね。薬はね本来人の持つ力を手助けするものなの。人を良く見て人を考えて人の生活や世の環を良く見て考える。薬の効果だけ覚えちゃだめよ」
「はい、反省します。ありがとうございました」
「先生、サラ先生」
部屋の外から薬務処長のマルスが手を振って呼び掛ける。
「あの馬鹿が、先生って大声で恥ずかしい」
サラとカイラがマルスの元へ移動する。
カムの周りの人の山を振り返り安堵の息を漏らす。
サラでもごつい男達に囲まれるのは遠慮したい。
脇のワゴンからワインの注がれたグラスを取り飲み干す。
王家が祝宴に出すワインなので旨い。
久々のワイングラスの口当たりも良く、茶碗で飲むよりも旨く感じる。
幸い邪魔者のカムも居ない。
舌なめずりしながら二杯目に手を伸ばす。
サラの手がグラスに届く前に、脇から手を伸ばした女がグラスが奪い取る。
憤慨して奪い取った女をサラが睨むと女もサラを目を三角にして睨みつけている。
厄介事の予感と共に女の顔に昔良く知っていた顔の面影を重ねていた。
「サラさんですよね。私は王宮薬師のカイラです。あなたに聞きたいことがあります」
偉そうにふんぞリ返って聞いてくる。
喧嘩を売る気が満々で肩に力が入っているが胸は小さい。
「今王都に新型の惚れ薬が出回っています。効果抜群との噂が広まり金貨五枚で流通していると聞きました。私も薬を取り締まる役目がありますから業者から入手して調べました。なんですかあれは。茶の成分にナムセラとケムラの汁を少々加えただけじゃないですか。あれで金貨五枚は詐欺です」
「卸値は一枚だけどしょうがないわね。あなたナムセラの作用って知ってる」
卑しくも王国薬師に問いかける話ではない、カイラは憤慨しながら答える。
「幻覚作用と弱い習慣性ですけど」
「それは通常の摂取量の話で微量の時の作用はセレナも教わったはずよ」
セレナとはタナス国の薬師の大祖と賞される人物でカイラの祖母である。
子娘が呼び捨てにして良い名ではない。
「あなた失礼よ。私のお婆様を呼び捨てなんて」
「私は良いの。兄弟弟子だから。私の先生が教えた筈なんだけどね」
カイラが疑わしげに問いかける。
「あなたね、お婆様の先生はケスラ様よ。いい加減な事を言うと許さないわよ」
「私の師はケスラだけど」
これは嘘である。
サラがクルベで薬学を教えていた時の名がケスラである。
正確には師ではなく本人である。
カイラがクルベの民を意識していることも察している。
「ケスラ様は時の厄災で亡くなられたはずよ」
「誰に聞いたか知らないけれどそれは間違いよ。師は今北大陸に居るのよ」
事実である、本人が言ってるので間違いは無い。
カイラの瞳が驚愕に染まる。
「ナクセラの作用は記憶力の強化。飲用時の記憶が強く残るのよ。古い文献ではハセラって記述が多いんだけどハって言うのは薄めるとの接頭語よ。ハセラはナムセラを薄めたとの意味よ。ケムラも同じよ。ハムラって文献に書かれているのはケムラを薄めたものよ。じゃ、ハムラの作用は何」
「発情ホルモンの分泌、弱い発情、記憶の覚醒です。芳香性の香りが特徴」
「正解よ。良く勉強してるわね。その香りが弱い習慣性を引き起こすのよ。それと精神の安定作用、気持ちを落ち着かせるのよ。もう一つセレナが教わっていることはね」
サラが掌を上に向け掌で小さな空気玉を弾かせる。
「同じ魔法でもこう使えば」
サラが空気玉を警備兵の股間に飛ばし鎧の中で弾けさせる。
先ほどからやたらと女性の控え室覗いていた。
警備兵が股間を押さえて槍と盾を石の床に取り落とし、大音響に周囲の人間が振り返る。
兵士は周囲に気が付かずにアンダーアーマーを慌てて脱ぎ捨てる。
周りの女性から悲鳴が上がり、他の警備兵に連れ出される。
「な、薬もこれと一緒。人の環の中での使い方によって効果が変わるの。人の存在を考えないで薬効だけ考えてはだめよ。薬は弱ければ弱い程良いのよ。強い薬は世の理を乱すのよ。解った」
「はい」
サラに見つめられて素直に返事を返してしまった。
瞳を見ていると祖母に教わっていた少女に戻ってしまう。
「でね、高いのは使用法の説明代よ。惚れ薬って聞くと発情作用を想像するけどそれは間違いよ。この薬はね、気持ちを落ち着かせて記憶を少し良くして少しはっきりさせるのよ。これがこの薬のコアよ」
カイラは素直に頷いてしまう。
「好きな人とお茶を飲ませるのよ対面でね。落ち着いた気分の時に記憶に残すの。何度か繰り返させるのよ、記憶させることと思い出させることを。少しづつ記憶の底へ落としてゆくのよ。それと隠し味が女性ホルモンの分泌と弱い発情作用なの。ただね、誤算があったわ、皆綺麗に成ってきちゃったの。綺麗よりも魅力的って言った方が良いかもね」
カイラはただ聞き入る。
「でね、これが今回新しい所でね。行くとこまで行ったら香水に混ぜるの。自分自身をお茶にして一生分記憶に残すのよ。新しいでしょ、一生円満に暮らして貰うの。惚れ薬じゃなくて幸せを作る薬かしらね。凄いでしょ」
「はい、凄いです。失礼しました」
カイラは素直に謝る、降参である。
「私の手元では全員成功よ。都だと処方の指導が十分できないので八割位ね。記録させてるから後で検証しようと思ってるの」
都ではサラの薬は奪い合いである。
カイラは理由を納得した。
「ただね、成功率が高いのは薬以外の理由もあるのよ。結婚相手と意識すると皆高望みはしなくなるのね。一生の伴侶としての相性を無意識に考えるみたいなの。だから薬は引込思案な背中を押す手助けかしらね。薬はね本来人の持つ力を手助けするものなの。人を良く見て人を考えて人の生活や世の環を良く見て考える。薬の効果だけ覚えちゃだめよ」
「はい、反省します。ありがとうございました」
「先生、サラ先生」
部屋の外から薬務処長のマルスが手を振って呼び掛ける。
「あの馬鹿が、先生って大声で恥ずかしい」
サラとカイラがマルスの元へ移動する。
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