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不死鳥との契約編 後編 契約に従う者
エピローグ:尻から産まれしもの
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ゴバン周辺の草原地帯では人間もモンスターも、全ての生物が一様に空を見上げていた。
無論、大空を気持ちよさそうに舞う謎の生物に言葉を奪われてしまったからだ。
しかしそれもつかの間のことで、すぐに「あれはなんだ」とか「モンスターの襲来か!?」といった声が聞こえ始める。
モンスターも逃げ出したりヴオオォォと雄叫びをあげたりと思い思いの反応を見せていた。
そんなことも露知らず、件の謎の生物の背中では勇者パーティーが地上を見て感慨に浸っている。
本来ならすげえだの気持ちいだの言って騒ぐジンだが、ティナがヘルハウンド親子との別れによって少しばかり落ち込んでいるのでそうもいかないようだ。
ティナを心配そうに見やりながら、たまに声をかけている。
「ティナ。おやつ食うか?」
「うん……」
食うのか……元気はあるのかもしれない、とジンは心の中でつぶやく。
ジンの手から差し出されたおやつを受け取ったティナがぼりぼりとやり始めるとフェニックスが声をかけてきた。
『おいお主ら、人の背中でおやつを食べるな』
「別にいいだろ、ちょっとくらい」
『後で私にも少し寄越せば許してやろう』
「いいぞ」
『契約成立だな……』
案外ほいほい契約を成立させる不死鳥にジンが呆れていると、ティナが落ち込んだ表情のまま消え入りそうな声で言った。
「ねえ、フェニックス」
『どうした?』
「ぴーちゃんって呼んでもいい?」
『ぴーちゃんだと? 何だそれは』
「名前、そっちの方が可愛いかなって。フェニックスってちょっと長いし……だめかな?」
『いいぞ……』
「ありがとう」
「いいのかよ」
と、またしても呆れている間にフェニックスがゴバン上空へと到達していたことに気付き、ジンが慌てて指示を飛ばす。
フェニックスからジンは見えていないにも関わらず、中央広場を指差した。
「あそこだ。あの真ん中の広いところに降りてくれ」
『わかった』
そう返事をすると、フェニックスはゆっくりと中央広場の上を旋回しながら高度を落としていく。ある程度まで来たところで翼をはためかせ、中央広場の中心に垂直に降りていった。
ゴバン住民の反応は様々だ。慌てふためき逃げ惑う者。
面白いことやってんなぁとばかりに駆け寄って来る者。
そもそも気付いていない者。
そんな中、ついに中央広場へと降り立った不死鳥の背中に声がかかる。
「なんだぁ、変な鳥が飛んで来たから何かと思えば嬢ちゃんたちじゃねえか」
ドワーフのボス、ドルドだ。仕事中に慌ててこちらまで来たのか、商売道具が片手にあり服もあちこちに出来たてと思われる汚れやシミがついている。
ジンとティナがフェニックスの背中から降りながら応じた。
それに続いてのそのそと顔面蒼白のラッドが、そんな彼を支えるようにロザリアが降りる。
「よう、何か驚かせちまったみたいで悪いな」
「がっはっは、おもしれえやつらだ。で、オリハルコンは手に入ったのか?」
「「あっ」」
ジンとティナは顔を見合わせて声を揃えた。
「しまった、完全に忘れてたな……」
「でもあれって、ムコウノ山の頂上にあるって話だったよね? そんなの無かった気がするけど。ぴーちゃん、何か知らない?」
話を振られたフェニックスは肩乗りサイズにぽんっと戻ってから返事をする。
この時、周囲からは「おおっ」という声があがった。
『オリハルコン? それは何だ?』
「ムコウノ山の頂上にたまに落ちてる石なんだって」
「銀色で光沢のある鉱石だったな。発見された時の状態だと、一つ一つはそんなに大きくないぜ」
ティナの説明にドルドが補足を入れた。
『…………』
フェニックスはそこで口を閉ざし、何事かを考え込む素振りを見せる。
やがて少し首をかしげると『ふっ』という掛け声を発して力み始めた。
何が始まるんだという周囲の訝しむ視線が突き刺さる中、フェニックスの全身がぷるぷると震える。
「お、おい急にどうしたんだよ」
「ぴーちゃん、大丈夫?」
ジンとティナが心配そうな声をかけてから数瞬の出来事だった。
ぽこん、とオリハルコンが勢いよく排出されたのである。
フェニックスの、お尻から。
それからどこかすっきりしているようにも思える様子のフェニックスが、自身のお尻から出て来たものを顎で示してティナに尋ねた。
『もしやとは思うが、これのことではないのか?』
「…………」
「…………」
ジンとティナはそれをじっと見つめたまま固まり、ドルドは広場にいるドワーフたちの顔をひとしきり眺めている。彼らもまた口を開けたまま動けないものがほとんどであった。
少し回復してきたとはいえ、ラッドはまだ若干顔色の悪い様子で座り込み、ロザリアもその横で彼を心配そうに見つめている。
何とも言えない空気が中央広場を支配したが、次の瞬間にそれを破ったのはドワーフたちの割れんばかりの笑い声だった。
突然爆発したかのようなそれが、あっという間にティナたちの周りを包み込む。
「がっはっはっは! オリハルコンの正体が鳥の〇ンだったなんてなぁ! こりゃ傑作だ!」
ドルドの大口を開けて笑いながらの言葉に、ジンが抗議をする。
「おい、せめて○○こって言えよ! そっちの方が可愛いだろ!」
「そういう問題でもないよ! 私、これで造られた防具を着るんだよ!?」
『なにっ!? 我の尻から生まれしものが防具になるのか!?』
ティナの悲鳴にも似た叫びに、フェニックスが愕然とする。
中央広場はそのまましばらくの間、宴の時よりも賑やかになっていた。
やがて場が落ち着いて静かになると、ドワーフたちはまたそれぞれの生活へと戻っていく。
オリハルコンを拾い上げてからドルドが言った。
「それじゃあ約束通り防具は造っといてやる。明日の朝までには出来上がってると思うぜ」
「よろしくお願いします」
「おう任せとけ、じゃあな」
ティナが軽く一礼をすると、そう言い残して踵を返し、ドルドは去っていった。
後に残されたのはティナたちのみ。
いつの間にやらしれっと回復して気取った姿勢で立っているラッドがいることに気付き、ジンが声をかけた。
「ようやく回復したのか。ていうか何であんなに気分が悪くなってたんだ?」
「何のことだい? 僕は生まれてからずっと今の僕さ」
「何だこいつ」
露骨に面倒くさいという顔をするジンに、ロザリアが微苦笑をして口を挟む。
「ラッド様は高いところが苦手なのですわ」
「違うよロザリア。高いところから人間を見下ろす存在になってしまう自分に恐怖を覚えるだけさ」
「よくわからんけど元気になったんならさっさと宿屋に戻ろうぜ」
気付けば空は朱に染まりつつあり、仕事を終えたドワーフたちや、別に仕事に行ってなかったのか先程までここにいたドワーフたちが、中央広場に続々と集まってきている。
先ほどまでここにいた者たちは、どうやら家に酒を取りに戻っていただけらしく手には酒瓶やつまみを持っていた。
ジンの声を合図にして宿屋へと足を向けた一行の中で、ティナが大きく拳を突き上げながら声をあげる。
「よ~し、それじゃあ今日はぴーちゃんの歓迎会だー! お~!」
ティナ以外の三人と一匹は、そんな元気な勇者の姿を見て微笑みを交わし合うのであった。その夜、酒場では元気に鶏肉をつつく不死鳥の姿が見られたという。
そしてその翌日。朝まで騒ぎに騒いだティナたちは、昼頃になってようやくドルドの元を訪れていた。
もちろん、伝説の防具の受け取りの為である。
ドルド宅にある工房の中、完成した防具一式を挟んでドルドと勇者パーティーが対峙していた。
ティナを見据えながら、ドワーフのボスがゆっくりと口を開く。
「いいか嬢ちゃん、よく聞け。ご先祖様によるとな、この防具は魔王の必殺技みたいなスキルをいくらか無効化する為にあるらしい」
「必殺技みたいなスキル……?」
抽象的な言葉にティナが首を傾げていると、ドルドが頬をぽりぽりとかき、宙に視線を躍らせながら答えた。
「あー……なんて言ったかな。なんちゃら結界……とにかくその中に入るとやべえってスキルらしい。このゆうしゃ装備一式をつけてりゃ継続ダメージ以外は効かねえんだってよ」
「ってことはよ、魔王と戦う時はティナとの一騎打ちになるってことか?」
突然割って入ったジンの言葉に、ドルドがうなずいてから答える。
「だろうな。嬢ちゃん以外は何も出来なくなるだろうから、いても無駄だ」
「そうか……」
元々手を貸すことは精霊として許されないだろうが、それでも少し残念な様子のジン。わかってはいても、出来るだけティナの力になりたいというのが彼の行動における基本理念なのだから。
唸りながら考え込むジンの肩に手を置いて、ラッドが声をかける。
「まあ、しょうがないじゃないか。僕たちは魔王がいる部屋につくまで、出来る限りのサポートをするしかないさ」
「魔王がいる部屋……そう言えばさ、誰か魔王城の中がどうなってるのか知ってるやついるか?」
「「「…………」」」
ジンの問いかけに反応できる者はいない。当然ながら、魔王城に行った経験のある者などこの場にいるはずもなかった。
「そう言われればそうですわよね。魔王城に突入しても、そこからどうしたらいいのかがわかりませんわ。まさか魔王のいる場所まで一本道なんてことはないでしょうし……」
もっともなロザリアの言葉に、今度は全員が唸り声をあげて考え込む。
そんな少し淀み始めた空気を振り払うかのようにドルドの大きな声が響いた。
「まあ考えたってわかんねえ時はわかんねえさ! まあ、お前らならまたどうにかすんだろ! なあ!」
がっはっはと笑うドルドを見て、笑顔を見合わせる一同。
肩をすくめながら、仲間たちに向けてジンが言った。
「そうだな、とりあえず一度ミツメに戻るか」
「うん。それじゃあドルドさん、ありがとうございました」
ぺこりと一礼をするティナに、ドルドは腰に手を当てた姿勢で答える。
「おう。魔王を倒したらまた遊びに来やがれ」
「はい!」
満面の笑みでそう返事をしたティナは、踵を返して工房を後にする。ジンたちもそれに続くのであった。
無論、大空を気持ちよさそうに舞う謎の生物に言葉を奪われてしまったからだ。
しかしそれもつかの間のことで、すぐに「あれはなんだ」とか「モンスターの襲来か!?」といった声が聞こえ始める。
モンスターも逃げ出したりヴオオォォと雄叫びをあげたりと思い思いの反応を見せていた。
そんなことも露知らず、件の謎の生物の背中では勇者パーティーが地上を見て感慨に浸っている。
本来ならすげえだの気持ちいだの言って騒ぐジンだが、ティナがヘルハウンド親子との別れによって少しばかり落ち込んでいるのでそうもいかないようだ。
ティナを心配そうに見やりながら、たまに声をかけている。
「ティナ。おやつ食うか?」
「うん……」
食うのか……元気はあるのかもしれない、とジンは心の中でつぶやく。
ジンの手から差し出されたおやつを受け取ったティナがぼりぼりとやり始めるとフェニックスが声をかけてきた。
『おいお主ら、人の背中でおやつを食べるな』
「別にいいだろ、ちょっとくらい」
『後で私にも少し寄越せば許してやろう』
「いいぞ」
『契約成立だな……』
案外ほいほい契約を成立させる不死鳥にジンが呆れていると、ティナが落ち込んだ表情のまま消え入りそうな声で言った。
「ねえ、フェニックス」
『どうした?』
「ぴーちゃんって呼んでもいい?」
『ぴーちゃんだと? 何だそれは』
「名前、そっちの方が可愛いかなって。フェニックスってちょっと長いし……だめかな?」
『いいぞ……』
「ありがとう」
「いいのかよ」
と、またしても呆れている間にフェニックスがゴバン上空へと到達していたことに気付き、ジンが慌てて指示を飛ばす。
フェニックスからジンは見えていないにも関わらず、中央広場を指差した。
「あそこだ。あの真ん中の広いところに降りてくれ」
『わかった』
そう返事をすると、フェニックスはゆっくりと中央広場の上を旋回しながら高度を落としていく。ある程度まで来たところで翼をはためかせ、中央広場の中心に垂直に降りていった。
ゴバン住民の反応は様々だ。慌てふためき逃げ惑う者。
面白いことやってんなぁとばかりに駆け寄って来る者。
そもそも気付いていない者。
そんな中、ついに中央広場へと降り立った不死鳥の背中に声がかかる。
「なんだぁ、変な鳥が飛んで来たから何かと思えば嬢ちゃんたちじゃねえか」
ドワーフのボス、ドルドだ。仕事中に慌ててこちらまで来たのか、商売道具が片手にあり服もあちこちに出来たてと思われる汚れやシミがついている。
ジンとティナがフェニックスの背中から降りながら応じた。
それに続いてのそのそと顔面蒼白のラッドが、そんな彼を支えるようにロザリアが降りる。
「よう、何か驚かせちまったみたいで悪いな」
「がっはっは、おもしれえやつらだ。で、オリハルコンは手に入ったのか?」
「「あっ」」
ジンとティナは顔を見合わせて声を揃えた。
「しまった、完全に忘れてたな……」
「でもあれって、ムコウノ山の頂上にあるって話だったよね? そんなの無かった気がするけど。ぴーちゃん、何か知らない?」
話を振られたフェニックスは肩乗りサイズにぽんっと戻ってから返事をする。
この時、周囲からは「おおっ」という声があがった。
『オリハルコン? それは何だ?』
「ムコウノ山の頂上にたまに落ちてる石なんだって」
「銀色で光沢のある鉱石だったな。発見された時の状態だと、一つ一つはそんなに大きくないぜ」
ティナの説明にドルドが補足を入れた。
『…………』
フェニックスはそこで口を閉ざし、何事かを考え込む素振りを見せる。
やがて少し首をかしげると『ふっ』という掛け声を発して力み始めた。
何が始まるんだという周囲の訝しむ視線が突き刺さる中、フェニックスの全身がぷるぷると震える。
「お、おい急にどうしたんだよ」
「ぴーちゃん、大丈夫?」
ジンとティナが心配そうな声をかけてから数瞬の出来事だった。
ぽこん、とオリハルコンが勢いよく排出されたのである。
フェニックスの、お尻から。
それからどこかすっきりしているようにも思える様子のフェニックスが、自身のお尻から出て来たものを顎で示してティナに尋ねた。
『もしやとは思うが、これのことではないのか?』
「…………」
「…………」
ジンとティナはそれをじっと見つめたまま固まり、ドルドは広場にいるドワーフたちの顔をひとしきり眺めている。彼らもまた口を開けたまま動けないものがほとんどであった。
少し回復してきたとはいえ、ラッドはまだ若干顔色の悪い様子で座り込み、ロザリアもその横で彼を心配そうに見つめている。
何とも言えない空気が中央広場を支配したが、次の瞬間にそれを破ったのはドワーフたちの割れんばかりの笑い声だった。
突然爆発したかのようなそれが、あっという間にティナたちの周りを包み込む。
「がっはっはっは! オリハルコンの正体が鳥の〇ンだったなんてなぁ! こりゃ傑作だ!」
ドルドの大口を開けて笑いながらの言葉に、ジンが抗議をする。
「おい、せめて○○こって言えよ! そっちの方が可愛いだろ!」
「そういう問題でもないよ! 私、これで造られた防具を着るんだよ!?」
『なにっ!? 我の尻から生まれしものが防具になるのか!?』
ティナの悲鳴にも似た叫びに、フェニックスが愕然とする。
中央広場はそのまましばらくの間、宴の時よりも賑やかになっていた。
やがて場が落ち着いて静かになると、ドワーフたちはまたそれぞれの生活へと戻っていく。
オリハルコンを拾い上げてからドルドが言った。
「それじゃあ約束通り防具は造っといてやる。明日の朝までには出来上がってると思うぜ」
「よろしくお願いします」
「おう任せとけ、じゃあな」
ティナが軽く一礼をすると、そう言い残して踵を返し、ドルドは去っていった。
後に残されたのはティナたちのみ。
いつの間にやらしれっと回復して気取った姿勢で立っているラッドがいることに気付き、ジンが声をかけた。
「ようやく回復したのか。ていうか何であんなに気分が悪くなってたんだ?」
「何のことだい? 僕は生まれてからずっと今の僕さ」
「何だこいつ」
露骨に面倒くさいという顔をするジンに、ロザリアが微苦笑をして口を挟む。
「ラッド様は高いところが苦手なのですわ」
「違うよロザリア。高いところから人間を見下ろす存在になってしまう自分に恐怖を覚えるだけさ」
「よくわからんけど元気になったんならさっさと宿屋に戻ろうぜ」
気付けば空は朱に染まりつつあり、仕事を終えたドワーフたちや、別に仕事に行ってなかったのか先程までここにいたドワーフたちが、中央広場に続々と集まってきている。
先ほどまでここにいた者たちは、どうやら家に酒を取りに戻っていただけらしく手には酒瓶やつまみを持っていた。
ジンの声を合図にして宿屋へと足を向けた一行の中で、ティナが大きく拳を突き上げながら声をあげる。
「よ~し、それじゃあ今日はぴーちゃんの歓迎会だー! お~!」
ティナ以外の三人と一匹は、そんな元気な勇者の姿を見て微笑みを交わし合うのであった。その夜、酒場では元気に鶏肉をつつく不死鳥の姿が見られたという。
そしてその翌日。朝まで騒ぎに騒いだティナたちは、昼頃になってようやくドルドの元を訪れていた。
もちろん、伝説の防具の受け取りの為である。
ドルド宅にある工房の中、完成した防具一式を挟んでドルドと勇者パーティーが対峙していた。
ティナを見据えながら、ドワーフのボスがゆっくりと口を開く。
「いいか嬢ちゃん、よく聞け。ご先祖様によるとな、この防具は魔王の必殺技みたいなスキルをいくらか無効化する為にあるらしい」
「必殺技みたいなスキル……?」
抽象的な言葉にティナが首を傾げていると、ドルドが頬をぽりぽりとかき、宙に視線を躍らせながら答えた。
「あー……なんて言ったかな。なんちゃら結界……とにかくその中に入るとやべえってスキルらしい。このゆうしゃ装備一式をつけてりゃ継続ダメージ以外は効かねえんだってよ」
「ってことはよ、魔王と戦う時はティナとの一騎打ちになるってことか?」
突然割って入ったジンの言葉に、ドルドがうなずいてから答える。
「だろうな。嬢ちゃん以外は何も出来なくなるだろうから、いても無駄だ」
「そうか……」
元々手を貸すことは精霊として許されないだろうが、それでも少し残念な様子のジン。わかってはいても、出来るだけティナの力になりたいというのが彼の行動における基本理念なのだから。
唸りながら考え込むジンの肩に手を置いて、ラッドが声をかける。
「まあ、しょうがないじゃないか。僕たちは魔王がいる部屋につくまで、出来る限りのサポートをするしかないさ」
「魔王がいる部屋……そう言えばさ、誰か魔王城の中がどうなってるのか知ってるやついるか?」
「「「…………」」」
ジンの問いかけに反応できる者はいない。当然ながら、魔王城に行った経験のある者などこの場にいるはずもなかった。
「そう言われればそうですわよね。魔王城に突入しても、そこからどうしたらいいのかがわかりませんわ。まさか魔王のいる場所まで一本道なんてことはないでしょうし……」
もっともなロザリアの言葉に、今度は全員が唸り声をあげて考え込む。
そんな少し淀み始めた空気を振り払うかのようにドルドの大きな声が響いた。
「まあ考えたってわかんねえ時はわかんねえさ! まあ、お前らならまたどうにかすんだろ! なあ!」
がっはっはと笑うドルドを見て、笑顔を見合わせる一同。
肩をすくめながら、仲間たちに向けてジンが言った。
「そうだな、とりあえず一度ミツメに戻るか」
「うん。それじゃあドルドさん、ありがとうございました」
ぺこりと一礼をするティナに、ドルドは腰に手を当てた姿勢で答える。
「おう。魔王を倒したらまた遊びに来やがれ」
「はい!」
満面の笑みでそう返事をしたティナは、踵を返して工房を後にする。ジンたちもそれに続くのであった。
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