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風神龍と炎の薔薇
vs『炎の薔薇』
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先制したのはラスナだった。
地面代わりの屋根を勢いよく蹴り、風魔法で加速して踏み出すと、一瞬で相手の目前に迫る。
袈裟斬りの軌道で振り下ろされるクロスを、『炎の薔薇』は左手に装備している小手で受け止めた。
攻撃を防御されることによりラスナに発生したわずかな隙の中で、メアリーは右手の鞭を振りかぶろうと腕をひく。しかしラスナは、咄嗟に身体を時計周りに回転させ、右足でメアリーに回し蹴りを入れた。
ガードされたものの、インパクトの瞬間に風魔法の後押しが入った蹴りはメアリーを後退させる。
しかし、距離が空いたのはラスナにとっては有利とは言えない。
後退してすぐに体勢を立て直すと、メアリーは左手をラスナの方に向けてかざした。彼女は不敵な笑みを浮かべながら、脳内に火と水を合成した、爆発魔法のイメージを形成する。
(大したことないじゃない)
メアリーがそう思ってしまうのも仕方がないことだった。その理由は二つ。
まず一つは、ラスナの魔力量だ。
先ほどの追いかけっこで、本気でメアリーを追いかけているように見えたラスナの移動速度は彼女の本気よりもかなり遅かった。風魔法による移動速度の速さは、魔法の威力、つまり魔力量に依存する。
これは、魔力の最大量ではメアリーが大幅に上回っているということであり、単純に一つの魔法をぶつけあったときに、間違いなくメアリーの魔法が勝ることを意味していた。そしてそれは、ラスナの魔法を用いた防御は薄皮一枚程度の厚さも持ち合わせていないということになる。
魔法さえ命中させれば勝てる――――メアリーはそう思っていた。
もう一つは、この世界における戦闘の常識。
天界では魔法が使えて当然だ。地球で生まれ、地球で暮らしている人間ですらも天界にいれば魔法が使えた。
そうなれば必然と戦闘の際には魔法があることを前提とした立ち回りが要求されることになる。
天界での戦闘というのは、極論を言えば魔法のぶつけ合いだ。
お互いの魔法をぶつけ合い、『抵抗』し合って、魔力量がより多く、より熟練度の高い方が攻撃を貫通させ、相手にダメージを与える。もちろん戦いの組み立て方や、相手が繰り出してくる魔法に対して相性のいい魔法を出して効率的に『抵抗』したりといった駆け引きもいくらかは存在するが、魔力量が多く、それを活かしきる熟練度があればそれすらも必要ない。
また、回避をするという発想はなかった。
イメージで魔法が発動するこの世界では、照準を定めるというのは脳内で行われる作業であり、発動した魔法は、発生や弾速の遅い魔法でなければほぼ確実に相手に命中する。避けることは不可能だ。だから、回避をするという行動をとることはあってもそれは、立ち回りの一環として相手をかく乱する手段や、一時的に体勢を立てなおす為に行うものに過ぎない。
こういったことからメアリーの、いや全天界人の頭の中には、回避をするために回避をする人間がいるという常識は存在しない。
しかし、この世界にはたった一人だけ魔法が使えない、つまりこれらの常識が通用しない人間がいるということを、メアリーは知らなかった。
回し蹴りの動作を終えたラスナは、メアリーの方を振り向いて彼女が左手をこちらにかざすのを確認した。それからクロスを手放して、後ろに風魔法混じりの素早いバックステップをすると、ちょうどラスナの元いた位置に爆発魔法が発生する形になる。
(!?)
メアリーは目を見開いた。しかし、ただの偶然だろう。実戦では一度くらいなら回避されるのもよくあることだ。次はない……。
そう思って、再び爆発魔法を撃った。
ラスナは、一度目のバックステップをしながら後ろを振り向き、建物の屋根が続いていることを確認すると、そのままバク転に移った。またもラスナのいた位置に爆発魔法がさく裂する。
(どういうことよ!!あり得ないわ……!!)
今度はメアリーは、ならばせめて体勢を崩そうとたて続けに二発、土魔法で屋根から突起状のものを発生させる。ラスナの足元から障害物がせりあがってくる形になった。
しかし、ラスナはそのままバク転を続けてこの二つも回避。もはや風魔法すらも使っていない。しかも、メアリーが魔法を撃つのをやめると、ラスナもぴたりとバク転をやめて体勢を立て直し、クロスを手に取って構えた。
(攻撃が……読まれている!?どうやって!?)
ボンッ、ボンッ、ドンッ、ドンッ。
ガルド国のお姫様による派手な魔法の応酬。そして、それを華麗に回避する謎の戦士。
二人が戦っている建物群の下に徐々に集まりつつあったギャラリーは、その信じられない光景に沸き立った。
「おいおい、何だあれ!!」
「相変わらずメアリー様の魔法はド派手でかっこいいな!!」
「いや、戦ってる相手もすげえぞ!魔法を避けるやつなんて見たことねえよ!」
「偶然だろ!?」
「でも今の四発全部避けたぞ……?」
実際にはこれらのギャラリーは、メアリーが注目を浴びるような場所をわざと選んで戦場とし、集めたようなものだった。しかし、それが裏目に出ていると言わざるを得ない。今は観客の興奮が、彼女の動揺をより一層増幅させる材料となっている。
ラスナの回避行動は、正確には相手の行動を読んでいるからできるというわけではない。
小さい頃から魔法を使えず、周りの子供たちから身を脅かす脅威としてそれを認識していたラスナには、ある一種の超人的な感覚が身に付いていた。
それは、魔法が発生する気配を察知する能力。
これは細かく言えば魔力がうねって大気が微妙に変化し、魔法を使う者のイメージが、イメージから魔法へと姿を変える瞬間を捕らえる能力だ。
それに加えて、小さい頃から鍛え続けたもののうちの一つである驚異的な反射神経によって、魔法が発生する瞬間を察知してから回避している。
格闘アクションゲーム界発祥の有名なテンプレを使えば、「見てから回避余裕でした」と言えばわかりやすいだろう。ただ、ラスナ以外では「見る」ということがまずできないのだが。
ただ、具体的に魔法が発生する位置に関してはピンポイントでは予測できず、その能力に加えて相手の視線やどういう戦い方をするかなどの「読み」も加えて察知しているらしい。だからメアリーが「読まれている」と思ったのは完全に間違いというわけでもなかった。
(うお~っ、めっちゃ怖え~!!)
一方、当のラスナはというと、自分に対して初めてまともに向けられる実戦レベルの攻撃魔法に、ただひたすらにびびっていた。
実際、ソドム兵士長や学校のクラスメイトたちに魔法でからかわれたことがあるとはいってもそれは、実際に傷を負わせたりするつもりのないものだ。
ましてや合成魔法に分類される爆発魔法となると、使い手も限られてくる。
だから先ほどの四発だけとってみても、ラスナには見たことはあっても自分に向けられたことはない、派手な魔法の応酬だった。
(さて、どうしたもんかな……)
攻撃を全て読まれてしまうと考えたメアリーは、ラスナの出方を窺うことにしたようだ。二人とも睨み合っている。
(こっちから行ってみるか)
埒が明かないと判断したラスナは、再び風魔法を使いながら地面代わりの屋根を蹴って、クロスを構えたまま前進。
それを見たメアリーは、ラスナの行く先、自らの正面に置くようにして爆発魔法を撃つ。
(これならっ……!!)
急ブレーキをかけることの不可能な速度で前進するラスナを見て、次こそ自分の魔法の命中を確信する。自分の魔法で無残に吹き飛ぶ相手の男の姿を想像し、愉悦に浸るのも束の間。
ラスナは魔法の気配を察知すると、まずクロスを手放し、魔法が発生すると予測したポイントの少し手前左に風魔法の壁を作り、それを蹴った。
すると彼は、右斜め上方向に弧を描くように、空中で前方向に身体を回転させながら爆発魔法の上を軽やかに通過した。
信じられない光景を目の当たりにしながらも、隙だらけと見て、メアリーは更にラスナの行く先に爆発魔法を撃つ。しかしラスナもまた同じように魔法発生予測地点手前に空気の壁を作り、今度は左斜め下方向に避ける。
(嘘でしょ!?)
繰り返される派手な魔法と華麗な回避の応酬。
宵闇に照らされる二人の間に煌めく、数多の魔法陣。
いつしかギャラリーは、幻想的な儚さと迫力を備えた光景に、二人の戦士の戦いに夢中になっていた。
数度の回避の為にジグザグに空中を飛んでいたラスナ。
やがて再びメアリーの真正面に着地すると、クロスを手に取って前進。
二人の中間地点に魔法が発生することを、今度は予測し、ぎりぎりまで腰を落とした前傾姿勢のまま風魔法を使って急加速する。
爆発。しかし、立ち込める煙の下から姿を現したラスナに対し、メアリーはもう成す術を残していない。
身体を左側に捻って溜めを作り、メアリーを見上げながらラスナは全力でクロスを切り上げた。
クロスの刀身は戦闘前にラスナの手によって切れないように変化しているので、太い棒状のもので叩きつけたようなものだが、それでもラスナの斬撃はメアリーにかなりのダメージを与えた。
後ろに派手に吹き飛ばされて地面に転がされたメアリーは、疲れ果てていた。発生も早く、威力も高いからと使いやすい爆発魔法を連発したせいで既に魔力も尽き掛けている。
のろのろと身体を起こして片膝をつくメアリーの元に歩み寄ったラスナは、両手をポケットに突っ込んだまま見下ろしながら、そんな彼女に声をかけた。
「どうする?まだやるのか?」
その言葉に彼女が何を思ったのかは、俯いているせいで目元が見えず、読み取れない。しかし、少しの間を空けて、その口には笑みが浮かんだ。
「やるわよ!とことんねえ!」
メアリーはそう言いながら立ち上がって鞭を握りしめると、その鞭に炎を纏わせた。ばしんと、屋根に鞭をうつ音が響き渡る。
ラスナは少しだけ驚き、目を見開いた。
もはや相手に残っているのは、自らの意地と誇りをかけて戦う心だけだ。体力も魔力ももうほとんどないのは見ればわかる。
ラスナは、微笑みながら頭をかき、クロスを構えながら言う。
「参ったな、そういうの……嫌いじゃねえんだよな」
その後はもう単なる泥仕合。
ただ鞭と剣を打ち合うだけの、よくわからない友達同士の喧嘩のようなものだ。
しかし、その後もギャラリーは戦う二人の姿に歓喜し、大いに盛り上がる。
リオクライドに、誰を応援するとも取れぬ歓声が、夜空の下にいつまでも響き渡っていた。
地面代わりの屋根を勢いよく蹴り、風魔法で加速して踏み出すと、一瞬で相手の目前に迫る。
袈裟斬りの軌道で振り下ろされるクロスを、『炎の薔薇』は左手に装備している小手で受け止めた。
攻撃を防御されることによりラスナに発生したわずかな隙の中で、メアリーは右手の鞭を振りかぶろうと腕をひく。しかしラスナは、咄嗟に身体を時計周りに回転させ、右足でメアリーに回し蹴りを入れた。
ガードされたものの、インパクトの瞬間に風魔法の後押しが入った蹴りはメアリーを後退させる。
しかし、距離が空いたのはラスナにとっては有利とは言えない。
後退してすぐに体勢を立て直すと、メアリーは左手をラスナの方に向けてかざした。彼女は不敵な笑みを浮かべながら、脳内に火と水を合成した、爆発魔法のイメージを形成する。
(大したことないじゃない)
メアリーがそう思ってしまうのも仕方がないことだった。その理由は二つ。
まず一つは、ラスナの魔力量だ。
先ほどの追いかけっこで、本気でメアリーを追いかけているように見えたラスナの移動速度は彼女の本気よりもかなり遅かった。風魔法による移動速度の速さは、魔法の威力、つまり魔力量に依存する。
これは、魔力の最大量ではメアリーが大幅に上回っているということであり、単純に一つの魔法をぶつけあったときに、間違いなくメアリーの魔法が勝ることを意味していた。そしてそれは、ラスナの魔法を用いた防御は薄皮一枚程度の厚さも持ち合わせていないということになる。
魔法さえ命中させれば勝てる――――メアリーはそう思っていた。
もう一つは、この世界における戦闘の常識。
天界では魔法が使えて当然だ。地球で生まれ、地球で暮らしている人間ですらも天界にいれば魔法が使えた。
そうなれば必然と戦闘の際には魔法があることを前提とした立ち回りが要求されることになる。
天界での戦闘というのは、極論を言えば魔法のぶつけ合いだ。
お互いの魔法をぶつけ合い、『抵抗』し合って、魔力量がより多く、より熟練度の高い方が攻撃を貫通させ、相手にダメージを与える。もちろん戦いの組み立て方や、相手が繰り出してくる魔法に対して相性のいい魔法を出して効率的に『抵抗』したりといった駆け引きもいくらかは存在するが、魔力量が多く、それを活かしきる熟練度があればそれすらも必要ない。
また、回避をするという発想はなかった。
イメージで魔法が発動するこの世界では、照準を定めるというのは脳内で行われる作業であり、発動した魔法は、発生や弾速の遅い魔法でなければほぼ確実に相手に命中する。避けることは不可能だ。だから、回避をするという行動をとることはあってもそれは、立ち回りの一環として相手をかく乱する手段や、一時的に体勢を立てなおす為に行うものに過ぎない。
こういったことからメアリーの、いや全天界人の頭の中には、回避をするために回避をする人間がいるという常識は存在しない。
しかし、この世界にはたった一人だけ魔法が使えない、つまりこれらの常識が通用しない人間がいるということを、メアリーは知らなかった。
回し蹴りの動作を終えたラスナは、メアリーの方を振り向いて彼女が左手をこちらにかざすのを確認した。それからクロスを手放して、後ろに風魔法混じりの素早いバックステップをすると、ちょうどラスナの元いた位置に爆発魔法が発生する形になる。
(!?)
メアリーは目を見開いた。しかし、ただの偶然だろう。実戦では一度くらいなら回避されるのもよくあることだ。次はない……。
そう思って、再び爆発魔法を撃った。
ラスナは、一度目のバックステップをしながら後ろを振り向き、建物の屋根が続いていることを確認すると、そのままバク転に移った。またもラスナのいた位置に爆発魔法がさく裂する。
(どういうことよ!!あり得ないわ……!!)
今度はメアリーは、ならばせめて体勢を崩そうとたて続けに二発、土魔法で屋根から突起状のものを発生させる。ラスナの足元から障害物がせりあがってくる形になった。
しかし、ラスナはそのままバク転を続けてこの二つも回避。もはや風魔法すらも使っていない。しかも、メアリーが魔法を撃つのをやめると、ラスナもぴたりとバク転をやめて体勢を立て直し、クロスを手に取って構えた。
(攻撃が……読まれている!?どうやって!?)
ボンッ、ボンッ、ドンッ、ドンッ。
ガルド国のお姫様による派手な魔法の応酬。そして、それを華麗に回避する謎の戦士。
二人が戦っている建物群の下に徐々に集まりつつあったギャラリーは、その信じられない光景に沸き立った。
「おいおい、何だあれ!!」
「相変わらずメアリー様の魔法はド派手でかっこいいな!!」
「いや、戦ってる相手もすげえぞ!魔法を避けるやつなんて見たことねえよ!」
「偶然だろ!?」
「でも今の四発全部避けたぞ……?」
実際にはこれらのギャラリーは、メアリーが注目を浴びるような場所をわざと選んで戦場とし、集めたようなものだった。しかし、それが裏目に出ていると言わざるを得ない。今は観客の興奮が、彼女の動揺をより一層増幅させる材料となっている。
ラスナの回避行動は、正確には相手の行動を読んでいるからできるというわけではない。
小さい頃から魔法を使えず、周りの子供たちから身を脅かす脅威としてそれを認識していたラスナには、ある一種の超人的な感覚が身に付いていた。
それは、魔法が発生する気配を察知する能力。
これは細かく言えば魔力がうねって大気が微妙に変化し、魔法を使う者のイメージが、イメージから魔法へと姿を変える瞬間を捕らえる能力だ。
それに加えて、小さい頃から鍛え続けたもののうちの一つである驚異的な反射神経によって、魔法が発生する瞬間を察知してから回避している。
格闘アクションゲーム界発祥の有名なテンプレを使えば、「見てから回避余裕でした」と言えばわかりやすいだろう。ただ、ラスナ以外では「見る」ということがまずできないのだが。
ただ、具体的に魔法が発生する位置に関してはピンポイントでは予測できず、その能力に加えて相手の視線やどういう戦い方をするかなどの「読み」も加えて察知しているらしい。だからメアリーが「読まれている」と思ったのは完全に間違いというわけでもなかった。
(うお~っ、めっちゃ怖え~!!)
一方、当のラスナはというと、自分に対して初めてまともに向けられる実戦レベルの攻撃魔法に、ただひたすらにびびっていた。
実際、ソドム兵士長や学校のクラスメイトたちに魔法でからかわれたことがあるとはいってもそれは、実際に傷を負わせたりするつもりのないものだ。
ましてや合成魔法に分類される爆発魔法となると、使い手も限られてくる。
だから先ほどの四発だけとってみても、ラスナには見たことはあっても自分に向けられたことはない、派手な魔法の応酬だった。
(さて、どうしたもんかな……)
攻撃を全て読まれてしまうと考えたメアリーは、ラスナの出方を窺うことにしたようだ。二人とも睨み合っている。
(こっちから行ってみるか)
埒が明かないと判断したラスナは、再び風魔法を使いながら地面代わりの屋根を蹴って、クロスを構えたまま前進。
それを見たメアリーは、ラスナの行く先、自らの正面に置くようにして爆発魔法を撃つ。
(これならっ……!!)
急ブレーキをかけることの不可能な速度で前進するラスナを見て、次こそ自分の魔法の命中を確信する。自分の魔法で無残に吹き飛ぶ相手の男の姿を想像し、愉悦に浸るのも束の間。
ラスナは魔法の気配を察知すると、まずクロスを手放し、魔法が発生すると予測したポイントの少し手前左に風魔法の壁を作り、それを蹴った。
すると彼は、右斜め上方向に弧を描くように、空中で前方向に身体を回転させながら爆発魔法の上を軽やかに通過した。
信じられない光景を目の当たりにしながらも、隙だらけと見て、メアリーは更にラスナの行く先に爆発魔法を撃つ。しかしラスナもまた同じように魔法発生予測地点手前に空気の壁を作り、今度は左斜め下方向に避ける。
(嘘でしょ!?)
繰り返される派手な魔法と華麗な回避の応酬。
宵闇に照らされる二人の間に煌めく、数多の魔法陣。
いつしかギャラリーは、幻想的な儚さと迫力を備えた光景に、二人の戦士の戦いに夢中になっていた。
数度の回避の為にジグザグに空中を飛んでいたラスナ。
やがて再びメアリーの真正面に着地すると、クロスを手に取って前進。
二人の中間地点に魔法が発生することを、今度は予測し、ぎりぎりまで腰を落とした前傾姿勢のまま風魔法を使って急加速する。
爆発。しかし、立ち込める煙の下から姿を現したラスナに対し、メアリーはもう成す術を残していない。
身体を左側に捻って溜めを作り、メアリーを見上げながらラスナは全力でクロスを切り上げた。
クロスの刀身は戦闘前にラスナの手によって切れないように変化しているので、太い棒状のもので叩きつけたようなものだが、それでもラスナの斬撃はメアリーにかなりのダメージを与えた。
後ろに派手に吹き飛ばされて地面に転がされたメアリーは、疲れ果てていた。発生も早く、威力も高いからと使いやすい爆発魔法を連発したせいで既に魔力も尽き掛けている。
のろのろと身体を起こして片膝をつくメアリーの元に歩み寄ったラスナは、両手をポケットに突っ込んだまま見下ろしながら、そんな彼女に声をかけた。
「どうする?まだやるのか?」
その言葉に彼女が何を思ったのかは、俯いているせいで目元が見えず、読み取れない。しかし、少しの間を空けて、その口には笑みが浮かんだ。
「やるわよ!とことんねえ!」
メアリーはそう言いながら立ち上がって鞭を握りしめると、その鞭に炎を纏わせた。ばしんと、屋根に鞭をうつ音が響き渡る。
ラスナは少しだけ驚き、目を見開いた。
もはや相手に残っているのは、自らの意地と誇りをかけて戦う心だけだ。体力も魔力ももうほとんどないのは見ればわかる。
ラスナは、微笑みながら頭をかき、クロスを構えながら言う。
「参ったな、そういうの……嫌いじゃねえんだよな」
その後はもう単なる泥仕合。
ただ鞭と剣を打ち合うだけの、よくわからない友達同士の喧嘩のようなものだ。
しかし、その後もギャラリーは戦う二人の姿に歓喜し、大いに盛り上がる。
リオクライドに、誰を応援するとも取れぬ歓声が、夜空の下にいつまでも響き渡っていた。
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