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上洛~姉川の戦い
撤退の道中
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「ふむ。噂に違わぬ程に美味ですね」
「…………(…………)」
六助の迫真の演技により浅井家の武士たちを華麗にやり過ごした俺たちは、松永とかいう怪しいおっさんの助けもあって京まで逃げのびた。
現在は美濃を目指していく道中、旧六角領である南近江の街中に居た。司寿隊が「行きに食し忘れた近江牛を食べて行きたい」とかほざき出したからだ。
「ささ、プニ長様もお召し上がりくだされ」
店のお座敷席? にて、皿に盛られた近江牛を箸を使って差し出して来る六助。 ここは浅井方の城も近いらしく、正直いつ敵がいて襲われるか気が気じゃないんだけど。
「…………(…………)」
「味はいかがですか?」
心配で味とかよくわからない……と思いきや中々に美味い。
近江牛を味わいながら咀嚼していると、通りすがりのお客さんに声をかけられてしまう。
「よお! あんたらここいらじゃ見かけねえ顔だなぁ! もしかして織田家の武将だったりすんのか?」
「いいえ。我々は織田家の武将ではありません」
「そうかそうか。まあゆっくりしていってくれや!」
がっはっは、と豪快に笑いながら去っていく客の後ろ姿を眺めながら、六助が口角を吊り上げて不気味な笑みを作った。
「まさか我々が近江の街中にいるなど思いもよらぬでしょう。人間がこうも単純な生き物だとは……くっくっく」
「キュウンキュウンキュン(お前にだけは言われたくないと思うけど)」
その後、料理を全て綺麗に平らげてから店を出た。
帰蝶にも近江牛を食べさせてやりたかったけど、戦国風のこの世界でお土産に肉なんて売ってるわけがなかった。日本でもお歳暮やらで肉を贈るのにはクール便が使われたりとか、ちょっとした手間なくらいだもんな。
いや、待てよ? プニ長としての今の俺なら、牛そのものを買い付けることが出来るんじゃ……。
そんな後から冷静になってみればアホなことを考えながら街中を歩いていると、横に並ぶ六助が声をかけてきた。
「さて、そろそろ美濃に帰りましょうか」
「キュン(だな)」
街の出口へと向かっていると、とある物が目に入る。
「キュ(あっ)」
「いかがなさいましたか?」
かんざしだ。思わず足を止めてしまったのは、その色合いやデザインが帰蝶にとても似合いそうだったからだろうか。
そういえばあの子、かんざしってつけてなかったよな。街中で見かける他の女の子はつけてるっぽいのに。
買って帰ったら喜んでくれるかな、どうしようかな……と悩んでいると六助が俺の視線の先にあるものを見ながら声をかけて来る。
「ははぁ、かんざしですか。帰蝶さんに似合いそうですね。プニ長様も隅に置けませんなぁ、このこの~」
「キュ、キュウン(やっ、やめろよぉ///)」
肘でうりうりとして来る六助。急に馴れ馴れしいなおい。
「ありあとやしたぁ~」
結局買ってしまった。これを渡したらどんな顔をするんだろうか……というか、自分で言うのもなんだけど犬から物を贈られるってどんな気持ちなんだろう。
そんなことを考えながら歩きつつ街を出たところで、早馬的な武士の人が慌てた様子でやって来る。
「プニ長様ぁー! プニ長様ぁー!」
「どうした! 何か急を要する事態か!」
「いえ、そう言った雰囲気を出したかっただけです!」
「なるほどな」
よくわからんが六助は納得出来たらしい。顎に手を当てて真剣な表情でうんうんと首を縦に振りながら続ける。
「緊迫した状況という非日常は心が躍るものな」
「そうなんですよ!」
「キュキュン(いいから早く帰ろうぜ)」
やってられねえぜと思い一人で先に歩き出すと、また新たな早馬がやはり慌てた様子でこちらに駆け寄って来る。
「プニ長様ぁー! プニ長様ぁー!」
「どうした! 急を要する事態ならもう間に合っておるぞ!」
「これは失礼を致しましたぁ!」
そう言って急激な方向転換をして去っていく新たな早馬。
「キュウンキュキュン(いやいや話ぐらい聞けよ)」
「プニ長様!? 皆の者、続け続けぇ!」
それを引き留めようと走ったら、六助が声をかけたせいで無駄に大勢で追いかけることになってしまった。
足を止めずにこちらを振り返り、涙目になる早馬。
「ひっ!? お許しください、お許しください!」
「キュン!? (何を!?)」
「待ていこの不届き者がぁ!」
「ワオワオ~ン! (お前ものってんじゃねえよ!)」
その後しばらくして、ようやく逃げた男を捕まえた六助が戻って来る。俺は途中から追いかけることに飽きてしまい、駕籠に戻って寝ていた。
だけど六助が男を盗賊扱いで成敗しようとしたので、吠えたり動いたりとあらゆる感情表現を駆使して止めに入り、ようやく落ち着いたところで男から話を聞くこととなる。
駕籠の中に俺がいて、それと向かい合うように男が正座をしている。六助たちは周りを取り囲むように立っていた。
話を切り出したのは六助だ。
「して、お主はどのようなことをプニ長様にお伝えしようとしたのだ?」
「はい、秀吉殿が撤退戦においてスネ毛を全てむしりとられたとの報せです!」
引き留めるんじゃなかった……本当に時間を無駄にしたな。
どうでもいい話であることを悟った俺は、一つ鼻息をついて駕籠の中で寝転び、適当に話を聞く態勢を整える。
「そうか。それでは我々はさっさと美濃に撤退するとしよう」
「キュキュウン(意外なまでの塩対応)」
また面倒くさいことになるのかと思えば、こうしてあっさりと美濃への撤退は再開された。
木下隊がしっかりと敵の追撃を防いでくれたおかげか、道中は慌ただしくも平和なものだった。相も変わらず蹴鞠と惰眠で時間を浪費していると、数日後には何事もなく美濃へとたどり着く。
城へ戻った俺を門のところで真っ先に迎えてくれたのは帰蝶だった。
「プニ長様、お帰りなさいませ!」
俺を駕籠の中から取り上げて抱っこし、プニプニモフモフし始める帰蝶。うお~いと尊し~!
気が済むと、抱っこで城の中へ運びながら尋ねて来た。
「急なお帰りでしたが、越前への遠征で何かあったのですか?」
織田家の動向は美濃本国には逐一伝わっていたらしい。でもさすがに、急な金ヶ崎からの撤退の情報はまだだったみたいだ。
そこに、六助が横を歩きながら会話に割って入る。
「それなのですが、少々大変なことになりましてな」
「大変なこと?」
「ええ。浅井殿がご謀反とのこと」
「まあ」
帰蝶は驚いたあと、宙に視線を躍らせながら続けた。
「浅井殿といえば、たしかプニ長様の妹君であるお市様の嫁ぎ先で……先日に亡くなられたと聞きましたが」
そこで六助が俺に代わって、帰蝶に事情を説明してくれる。
混乱の最中にあるはずの浅井家が裏切り、金ヶ崎へと進軍してきたこと。松永とかいう人のおかげで無事に京都へと戻れたこと。そこから美濃への道中で食べた近江牛が中々美味かったこと。
一通り話を聞き終わったところで、帰蝶はほっと胸を撫でおろした。
「そんなことがあったのですね。プニ長様がご無事で本当に良かったです」
「キュキュン(センキュウ)」
「それにしても、どうして浅井家はそのような行動をすぐに取れたのでしょう?」
首を傾げながらの帰蝶の問いかけに対して、六助は静かにかぶりを振った。
「わかりません。今はただ彼らが織田家を裏切って敵対したという事実だけを考えて一刻も早く態勢を整えることしか出来ません」
「そうですか。となると、今後浅井家に対しては……」
「相手の今後の出方次第ではありますが、味方に損害も出ていますし、反撃せざるをえないでしょう」
反撃せざるをえない、という点に関しては今回は同意だ。木下隊や明智隊を始めとしてかなりの損害が出ているだろうし、これを止めればさすがに家臣たちの反感を買うと思う。
とは言っても正直、六助が朝倉攻めを提案しなければ避けることが出来た事態ではあるんだけどな……。
「とにかく、まずは家臣らの帰還を待つほかありませんな」
「されば今日はプニ長様とゆっくり出来るのですね」
「キュ~ン(そうだよ~)」
「ふふっ、いと尊しでございます」
腕の中にいる俺を眺めながら、帰蝶が嬉しそうに言う。
「では私は色々とやることがありますので、これにて」
「はい。ご苦労様です」
こちらに一礼をして去っていく六助。
色々とやること、か。今まであまり考えたことなかったけど、六助ってああ見えて結構お偉いさんなんだよな。会議やらで場を仕切ってるのを見ても、家臣団の中で一番上の立場にあるみたいだし、何者なんだろう。
他と違って六助だけ俺が元いた世界の日本史にも登場していないから、何をしでかすのかも予測がつかないし本当に困る。いや、秀吉や明智も充分に何をしでかすかわからないんだけどね。
思索を巡らせているうちに城へと入る。が、俺は駕籠の中に忘れ物があることを思い出したので、身体をよじらせて降りたいアピールをした。
「あら。いかがなさいましたか?」
帰蝶がそっと下に降ろしてくれたのと同時に、駕籠の方へと駆け出して中から袋に入ったある物を口に咥えて取り出して見せると、彼女はそれを受け取りながらも首を傾げた。
「これを私に……ですか?」
「キュン(うん)」
「ありがとうございます」
そう言いながら袋の中身を取り出した帰蝶は、途端にぱっと瞳を輝かせ、花の咲いたような笑みを浮かべてくれた。
「わあ、可愛いかんざし……これ、私にいただけるのですか?」
「キュウン(そうだよ)」
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
早速かんざしをつけてくれる帰蝶。何だか難しそうだけど、差し方とかも知ってるんだな。
「似合いますか?」
「キュンキュウン(すごく似合ってるよ)」
「ふふ、嬉しいです」
言葉は通じてないけど、尻尾を振ったりしたので良く思っていることは伝わったみたいだ。とにかく喜んでもらえてよかった。
その後、上機嫌な帰蝶にプニプニモフモフされながら自室に戻った。
「…………(…………)」
六助の迫真の演技により浅井家の武士たちを華麗にやり過ごした俺たちは、松永とかいう怪しいおっさんの助けもあって京まで逃げのびた。
現在は美濃を目指していく道中、旧六角領である南近江の街中に居た。司寿隊が「行きに食し忘れた近江牛を食べて行きたい」とかほざき出したからだ。
「ささ、プニ長様もお召し上がりくだされ」
店のお座敷席? にて、皿に盛られた近江牛を箸を使って差し出して来る六助。 ここは浅井方の城も近いらしく、正直いつ敵がいて襲われるか気が気じゃないんだけど。
「…………(…………)」
「味はいかがですか?」
心配で味とかよくわからない……と思いきや中々に美味い。
近江牛を味わいながら咀嚼していると、通りすがりのお客さんに声をかけられてしまう。
「よお! あんたらここいらじゃ見かけねえ顔だなぁ! もしかして織田家の武将だったりすんのか?」
「いいえ。我々は織田家の武将ではありません」
「そうかそうか。まあゆっくりしていってくれや!」
がっはっは、と豪快に笑いながら去っていく客の後ろ姿を眺めながら、六助が口角を吊り上げて不気味な笑みを作った。
「まさか我々が近江の街中にいるなど思いもよらぬでしょう。人間がこうも単純な生き物だとは……くっくっく」
「キュウンキュウンキュン(お前にだけは言われたくないと思うけど)」
その後、料理を全て綺麗に平らげてから店を出た。
帰蝶にも近江牛を食べさせてやりたかったけど、戦国風のこの世界でお土産に肉なんて売ってるわけがなかった。日本でもお歳暮やらで肉を贈るのにはクール便が使われたりとか、ちょっとした手間なくらいだもんな。
いや、待てよ? プニ長としての今の俺なら、牛そのものを買い付けることが出来るんじゃ……。
そんな後から冷静になってみればアホなことを考えながら街中を歩いていると、横に並ぶ六助が声をかけてきた。
「さて、そろそろ美濃に帰りましょうか」
「キュン(だな)」
街の出口へと向かっていると、とある物が目に入る。
「キュ(あっ)」
「いかがなさいましたか?」
かんざしだ。思わず足を止めてしまったのは、その色合いやデザインが帰蝶にとても似合いそうだったからだろうか。
そういえばあの子、かんざしってつけてなかったよな。街中で見かける他の女の子はつけてるっぽいのに。
買って帰ったら喜んでくれるかな、どうしようかな……と悩んでいると六助が俺の視線の先にあるものを見ながら声をかけて来る。
「ははぁ、かんざしですか。帰蝶さんに似合いそうですね。プニ長様も隅に置けませんなぁ、このこの~」
「キュ、キュウン(やっ、やめろよぉ///)」
肘でうりうりとして来る六助。急に馴れ馴れしいなおい。
「ありあとやしたぁ~」
結局買ってしまった。これを渡したらどんな顔をするんだろうか……というか、自分で言うのもなんだけど犬から物を贈られるってどんな気持ちなんだろう。
そんなことを考えながら歩きつつ街を出たところで、早馬的な武士の人が慌てた様子でやって来る。
「プニ長様ぁー! プニ長様ぁー!」
「どうした! 何か急を要する事態か!」
「いえ、そう言った雰囲気を出したかっただけです!」
「なるほどな」
よくわからんが六助は納得出来たらしい。顎に手を当てて真剣な表情でうんうんと首を縦に振りながら続ける。
「緊迫した状況という非日常は心が躍るものな」
「そうなんですよ!」
「キュキュン(いいから早く帰ろうぜ)」
やってられねえぜと思い一人で先に歩き出すと、また新たな早馬がやはり慌てた様子でこちらに駆け寄って来る。
「プニ長様ぁー! プニ長様ぁー!」
「どうした! 急を要する事態ならもう間に合っておるぞ!」
「これは失礼を致しましたぁ!」
そう言って急激な方向転換をして去っていく新たな早馬。
「キュウンキュキュン(いやいや話ぐらい聞けよ)」
「プニ長様!? 皆の者、続け続けぇ!」
それを引き留めようと走ったら、六助が声をかけたせいで無駄に大勢で追いかけることになってしまった。
足を止めずにこちらを振り返り、涙目になる早馬。
「ひっ!? お許しください、お許しください!」
「キュン!? (何を!?)」
「待ていこの不届き者がぁ!」
「ワオワオ~ン! (お前ものってんじゃねえよ!)」
その後しばらくして、ようやく逃げた男を捕まえた六助が戻って来る。俺は途中から追いかけることに飽きてしまい、駕籠に戻って寝ていた。
だけど六助が男を盗賊扱いで成敗しようとしたので、吠えたり動いたりとあらゆる感情表現を駆使して止めに入り、ようやく落ち着いたところで男から話を聞くこととなる。
駕籠の中に俺がいて、それと向かい合うように男が正座をしている。六助たちは周りを取り囲むように立っていた。
話を切り出したのは六助だ。
「して、お主はどのようなことをプニ長様にお伝えしようとしたのだ?」
「はい、秀吉殿が撤退戦においてスネ毛を全てむしりとられたとの報せです!」
引き留めるんじゃなかった……本当に時間を無駄にしたな。
どうでもいい話であることを悟った俺は、一つ鼻息をついて駕籠の中で寝転び、適当に話を聞く態勢を整える。
「そうか。それでは我々はさっさと美濃に撤退するとしよう」
「キュキュウン(意外なまでの塩対応)」
また面倒くさいことになるのかと思えば、こうしてあっさりと美濃への撤退は再開された。
木下隊がしっかりと敵の追撃を防いでくれたおかげか、道中は慌ただしくも平和なものだった。相も変わらず蹴鞠と惰眠で時間を浪費していると、数日後には何事もなく美濃へとたどり着く。
城へ戻った俺を門のところで真っ先に迎えてくれたのは帰蝶だった。
「プニ長様、お帰りなさいませ!」
俺を駕籠の中から取り上げて抱っこし、プニプニモフモフし始める帰蝶。うお~いと尊し~!
気が済むと、抱っこで城の中へ運びながら尋ねて来た。
「急なお帰りでしたが、越前への遠征で何かあったのですか?」
織田家の動向は美濃本国には逐一伝わっていたらしい。でもさすがに、急な金ヶ崎からの撤退の情報はまだだったみたいだ。
そこに、六助が横を歩きながら会話に割って入る。
「それなのですが、少々大変なことになりましてな」
「大変なこと?」
「ええ。浅井殿がご謀反とのこと」
「まあ」
帰蝶は驚いたあと、宙に視線を躍らせながら続けた。
「浅井殿といえば、たしかプニ長様の妹君であるお市様の嫁ぎ先で……先日に亡くなられたと聞きましたが」
そこで六助が俺に代わって、帰蝶に事情を説明してくれる。
混乱の最中にあるはずの浅井家が裏切り、金ヶ崎へと進軍してきたこと。松永とかいう人のおかげで無事に京都へと戻れたこと。そこから美濃への道中で食べた近江牛が中々美味かったこと。
一通り話を聞き終わったところで、帰蝶はほっと胸を撫でおろした。
「そんなことがあったのですね。プニ長様がご無事で本当に良かったです」
「キュキュン(センキュウ)」
「それにしても、どうして浅井家はそのような行動をすぐに取れたのでしょう?」
首を傾げながらの帰蝶の問いかけに対して、六助は静かにかぶりを振った。
「わかりません。今はただ彼らが織田家を裏切って敵対したという事実だけを考えて一刻も早く態勢を整えることしか出来ません」
「そうですか。となると、今後浅井家に対しては……」
「相手の今後の出方次第ではありますが、味方に損害も出ていますし、反撃せざるをえないでしょう」
反撃せざるをえない、という点に関しては今回は同意だ。木下隊や明智隊を始めとしてかなりの損害が出ているだろうし、これを止めればさすがに家臣たちの反感を買うと思う。
とは言っても正直、六助が朝倉攻めを提案しなければ避けることが出来た事態ではあるんだけどな……。
「とにかく、まずは家臣らの帰還を待つほかありませんな」
「されば今日はプニ長様とゆっくり出来るのですね」
「キュ~ン(そうだよ~)」
「ふふっ、いと尊しでございます」
腕の中にいる俺を眺めながら、帰蝶が嬉しそうに言う。
「では私は色々とやることがありますので、これにて」
「はい。ご苦労様です」
こちらに一礼をして去っていく六助。
色々とやること、か。今まであまり考えたことなかったけど、六助ってああ見えて結構お偉いさんなんだよな。会議やらで場を仕切ってるのを見ても、家臣団の中で一番上の立場にあるみたいだし、何者なんだろう。
他と違って六助だけ俺が元いた世界の日本史にも登場していないから、何をしでかすのかも予測がつかないし本当に困る。いや、秀吉や明智も充分に何をしでかすかわからないんだけどね。
思索を巡らせているうちに城へと入る。が、俺は駕籠の中に忘れ物があることを思い出したので、身体をよじらせて降りたいアピールをした。
「あら。いかがなさいましたか?」
帰蝶がそっと下に降ろしてくれたのと同時に、駕籠の方へと駆け出して中から袋に入ったある物を口に咥えて取り出して見せると、彼女はそれを受け取りながらも首を傾げた。
「これを私に……ですか?」
「キュン(うん)」
「ありがとうございます」
そう言いながら袋の中身を取り出した帰蝶は、途端にぱっと瞳を輝かせ、花の咲いたような笑みを浮かべてくれた。
「わあ、可愛いかんざし……これ、私にいただけるのですか?」
「キュウン(そうだよ)」
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
早速かんざしをつけてくれる帰蝶。何だか難しそうだけど、差し方とかも知ってるんだな。
「似合いますか?」
「キュンキュウン(すごく似合ってるよ)」
「ふふ、嬉しいです」
言葉は通じてないけど、尻尾を振ったりしたので良く思っていることは伝わったみたいだ。とにかく喜んでもらえてよかった。
その後、上機嫌な帰蝶にプニプニモフモフされながら自室に戻った。
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