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上洛~姉川の戦い
観音寺城の茶会 後編
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相手がどうとかじゃなくて、間接ピョロピョロって何となく苦手なんだけど、かと言ってこの場で茶を飲まないという選択肢はない。
そういえば犬が水を飲むときって、容器に口をつけずに舌でぺろぺろとやってた気がするな。よしそうしよう。
「キュウンキュウン(お点前頂戴します)」
「ほほう、これはいと尊し」
皆の真似をしつつ義治の感嘆の声を聞きながら、茶を舌だけで飲んでみる。ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ……という音が平和な空間に響き渡った。
うん。茶の味とか正直よくわからんけど、普通だな。
「お茶を飲むプニ長様も中々にいいものですな」
「わかりますか?」
「ええ」
よくわからんところで意気投合する蒲生さんと六助を余所に茶を飲み終わる。茶碗は回収されて義賢の元へ戻った。
さて、茶も飲み終わったことだしこれで終わりかな? なんて思っていると、義賢がおもむろに立ち上がってこちらに歩み寄って来た。
「キュ、キュン(えっ、なに)」
そして俺の前に座って、予想だにしない言葉を吐いた。
「お点前頂戴します」
おじぎをして、俺を両手で丁寧に持ち上げたかと思えば、そのまま顔の横に持ってきて頬ずりをし始めた。
うおおおおお、どういうことだこれ! おいやめろ、やめてくれ~!
この世界に来てからというもの、不本意にもおっさんに頬ずりをされることには慣れたけど、それでもいきなりだと動揺してしまう。全身の毛という毛が逆立ち不快感をあらわにする中で、俺はとっさに助けを求めた。
「キュ、キュウンキュウン、キュキュ(おい、六助と秀吉よい、助けて~)」
「ほうほう、これはかなりのモフモフですなぁ。あ、こういった時はいとモフモフというべきでしょうか」
「キュキュキュ~(感想とかいいからやめろ~)」
暴れてみるも義賢の包容力が無駄に強くてどうにもならない。やだ、もしかしてこのおじさんったらムキムキな人……!?
「もがく姿もまたいと尊しでございますな」
「そうでしょうそうでしょう」
頬を緩ませながら感想を述べる蒲生さんに、六助が二度首肯する。
「親父殿、早く私にもモフモフを」
「そう急かすでない」
義賢が終わっても次は義治にモフモフされるのかよ。ってことは蒲生さんも?
隙を見て逃げ出すか、いっそのこと噛みついてやろうか、とか考えていると、義賢は満足したのか、俺を抱っこしたまま義治の方へと歩み寄る。
そして義治は両手を広げて俺を迎える体勢を作った。
「お点前頂戴します」
「お待ちください」
と、そこで突然秀吉が右手を張り出して待ったをかける。
「何か?」
「お茶と我らが君主では価値が釣り合いません」
「なるほど、言われてみれば」
いや、そもそも何で俺がお茶の代わりに差し出されてるんだよ。
あっさりと納得してしまった義治に対して、意地の悪そうな笑みを形作りながら秀吉が提案する。
「どうでしょう、ここは一つ交換条件というのは」
「ほほう。それはどのような?」
お主も悪よのう、とでも言わんばかりに、義治も眼を光らせつつ口角を吊り上げながら問い返した。
「六角家の支配する領土を自由に往来する許可を織田家に頂きたい」
「あ、それは普通にいいですよ。ねえ親父殿?」
「うむ。構わん」
秀吉の要求がいともあっさりとのまれてしまって驚愕していたら、遂に蒲生さんまでもが邪悪な雰囲気で微笑み出した。
「では逆に、この観音寺城を明け渡すのならば、今日残り一日をプニプニモフモフし放題にしていただけるのですか?」
「なっ……観音寺城を!? ……くっくっく、中々話がわかる御仁のようで」
「秀吉殿ほどではございません」
「いえいえ。六助殿もそれでよろしいか?」
「はい。プニモフは非常に尊いので、本来なら対価としては不釣り合いな条件ですが、城を明け渡しても構わないという心意気、そして今日の茶を振る舞っていただいたお礼として許可いたしましょう」
「キュキュン……(僕にも聞いて欲しいでしゅ……)」
何でこいつら俺の意志を無視して話を進めちゃうの? お前らは城を渡すから頬ずりさせてくれって言われたらさせるの?
やっぱり城なら俺もさせるかもな……と納得していると、遂に恐怖の試練が始まってしまった。俺の身体は義治の腕の中へと渡ってすりすりされてしまう。一応暴れてみるも、何故かこのおっさんもムキムキらしくどうにもならない。
「ふほほっ! いと尊し! いと尊し!」
「義治様、それが終わったら次は私ですよ」
「蒲生、落ち着け。時間は今日一日たっぷりとあるのだ。じっくり楽しもうではないか……ねえ、プニ長殿?」
「ワオ~~~~~~ン! (助けて~~~~~~!)」
悲鳴は深い森に阻まれて、帰蝶のところに届くことはなかった。
それからすぐに織田家の面々を観音寺城に呼び寄せたものの、俺は六角の屋敷に事実上幽閉されて、もみくちゃにプニモフされてしまった。うう、もうお嫁に……いや、お婿にいけない。
条件通りに観音寺城を織田家に明け渡した六角氏は甲賀ってところに知り合いがいるらしくて、そこでしばらくは過ごすらしい。一方、蒲生さんは自分の領有している日野城へと帰って行った。
蒲生さんは「今後何かあれば力をお貸ししますよ」と、織田家に協力する姿勢を見せてくれたけど、出来れば二度と会いたくはない。
全てが終わってようやく解放された次の日。俺以外が充分休息を取った織田軍は早くも京都へ向けての進軍を再開した。
それから数日後、相変わらずの大自然に囲まれた道を歩く行列の中。駕籠の中で自身の膝の上から一向に動こうとしない俺を、帰蝶は心配そうな顔で優しく撫でてくれている。
「本日はどうなさったのでございますか? 体調が優れないようでしたら、一旦美濃に帰国というのも……」
「キュウ~ン(大丈夫だよ~)」
このままで大丈夫、という意思表示をする為に軽くぱたぱたっと数回尻尾を振ってみる。これで帰蝶には通じるはずだ。
はあ、安心する……。もうお外怖い、ここから動きたくない。
出会ったばかりのおっさんどもに一日中頬ずりされたことで出来た心の傷をいやしていると、やがて京都に到着した。
街に入ってまず目に飛び込んで来たのは、ぼろぼろになった建物と寂れてしまった大通り。戦国時代の京都ってのは俺の元いた世界で言えば東京のようなものだと思っていたのに、これじゃまるでスラム街だ。
後で秀吉から聞いた話によれば、ただでさえ応仁の乱以降に乱れていた京都の治安は、義輝と三好長慶、そして三好三人衆との戦いを経てどんどん悪化していったとのこと。
もし京を制圧して治安を安定させることが出来たら、プニ長様がまた一歩天下に近付きますね……くっくっく、とも言っていたけど、その辺は六助とかに任せようと思う。俺はチワワに転生したただの元高校生ですので。
織田家はそのまま東福寺とかいう寺に到着したものの、いつの間にか義昭の入っていた駕籠はいなくなっていた。
駕籠から出ると早速六助がこちらに歩み寄って来る。
「プニ長様、長旅お疲れ様でした。本日はここで、帰蝶殿とごゆっくりなさってください。帰蝶殿とね。フゥ!」
微妙にうざいテンションにいらっとしたけど、こいつの言う通り長旅でだるいので相手をする気力もない。大人しく俺たちの為に用意された部屋に入って休むことにした。
翌日、寺の中にある広間のようなところで軍議を開いたところ、とにかく義輝を打ち取った三好三人衆を倒さなければだめじゃん、ということになった。そうでないと義昭を将軍にしたところで、安心して京都から離れられないからだ。
ていうか前も言ったけど、本当にこいつら三人衆が好きだな。四人衆とか五人衆はいないんだろうか。
そんなわけでまず織田軍は三好三人衆の一人、石成友通って人がいる青龍寺ってところに攻め入ることにしたらしい。よくわからんけど寺を城代わりにするとかまじで物騒だし罰当たりだなこいつら。
今回俺が出る必要はないということで、東福寺でのんびりしていると、先方の柴田隊やら何やらの人たちが大勝したという情報が入って来た。六助からの報告によれば、また真正面から突撃したらしい。
「プニ長様、おめでとうございます」
「キュ、キュン(お、おう)」
正直そんなこと言われても……という感じだけど、帰蝶が嬉しそうにしているのだから喜ぶふりだけはしておこう。尻尾をぶんぶんと勢いよく振ると、彼女はまた頭を数回撫でてくれた。
続いて他の三人衆を、と織田家は進軍を続けたものの、敵が相次いで逃亡した為にまともな戦にならないまま勝利を収める。摂津ってところの人たちも次々に織田家の仲間になったり降伏したりしたので、畿内平定は意外にもあっさりと終わってしまうのであった。
そういえば犬が水を飲むときって、容器に口をつけずに舌でぺろぺろとやってた気がするな。よしそうしよう。
「キュウンキュウン(お点前頂戴します)」
「ほほう、これはいと尊し」
皆の真似をしつつ義治の感嘆の声を聞きながら、茶を舌だけで飲んでみる。ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ……という音が平和な空間に響き渡った。
うん。茶の味とか正直よくわからんけど、普通だな。
「お茶を飲むプニ長様も中々にいいものですな」
「わかりますか?」
「ええ」
よくわからんところで意気投合する蒲生さんと六助を余所に茶を飲み終わる。茶碗は回収されて義賢の元へ戻った。
さて、茶も飲み終わったことだしこれで終わりかな? なんて思っていると、義賢がおもむろに立ち上がってこちらに歩み寄って来た。
「キュ、キュン(えっ、なに)」
そして俺の前に座って、予想だにしない言葉を吐いた。
「お点前頂戴します」
おじぎをして、俺を両手で丁寧に持ち上げたかと思えば、そのまま顔の横に持ってきて頬ずりをし始めた。
うおおおおお、どういうことだこれ! おいやめろ、やめてくれ~!
この世界に来てからというもの、不本意にもおっさんに頬ずりをされることには慣れたけど、それでもいきなりだと動揺してしまう。全身の毛という毛が逆立ち不快感をあらわにする中で、俺はとっさに助けを求めた。
「キュ、キュウンキュウン、キュキュ(おい、六助と秀吉よい、助けて~)」
「ほうほう、これはかなりのモフモフですなぁ。あ、こういった時はいとモフモフというべきでしょうか」
「キュキュキュ~(感想とかいいからやめろ~)」
暴れてみるも義賢の包容力が無駄に強くてどうにもならない。やだ、もしかしてこのおじさんったらムキムキな人……!?
「もがく姿もまたいと尊しでございますな」
「そうでしょうそうでしょう」
頬を緩ませながら感想を述べる蒲生さんに、六助が二度首肯する。
「親父殿、早く私にもモフモフを」
「そう急かすでない」
義賢が終わっても次は義治にモフモフされるのかよ。ってことは蒲生さんも?
隙を見て逃げ出すか、いっそのこと噛みついてやろうか、とか考えていると、義賢は満足したのか、俺を抱っこしたまま義治の方へと歩み寄る。
そして義治は両手を広げて俺を迎える体勢を作った。
「お点前頂戴します」
「お待ちください」
と、そこで突然秀吉が右手を張り出して待ったをかける。
「何か?」
「お茶と我らが君主では価値が釣り合いません」
「なるほど、言われてみれば」
いや、そもそも何で俺がお茶の代わりに差し出されてるんだよ。
あっさりと納得してしまった義治に対して、意地の悪そうな笑みを形作りながら秀吉が提案する。
「どうでしょう、ここは一つ交換条件というのは」
「ほほう。それはどのような?」
お主も悪よのう、とでも言わんばかりに、義治も眼を光らせつつ口角を吊り上げながら問い返した。
「六角家の支配する領土を自由に往来する許可を織田家に頂きたい」
「あ、それは普通にいいですよ。ねえ親父殿?」
「うむ。構わん」
秀吉の要求がいともあっさりとのまれてしまって驚愕していたら、遂に蒲生さんまでもが邪悪な雰囲気で微笑み出した。
「では逆に、この観音寺城を明け渡すのならば、今日残り一日をプニプニモフモフし放題にしていただけるのですか?」
「なっ……観音寺城を!? ……くっくっく、中々話がわかる御仁のようで」
「秀吉殿ほどではございません」
「いえいえ。六助殿もそれでよろしいか?」
「はい。プニモフは非常に尊いので、本来なら対価としては不釣り合いな条件ですが、城を明け渡しても構わないという心意気、そして今日の茶を振る舞っていただいたお礼として許可いたしましょう」
「キュキュン……(僕にも聞いて欲しいでしゅ……)」
何でこいつら俺の意志を無視して話を進めちゃうの? お前らは城を渡すから頬ずりさせてくれって言われたらさせるの?
やっぱり城なら俺もさせるかもな……と納得していると、遂に恐怖の試練が始まってしまった。俺の身体は義治の腕の中へと渡ってすりすりされてしまう。一応暴れてみるも、何故かこのおっさんもムキムキらしくどうにもならない。
「ふほほっ! いと尊し! いと尊し!」
「義治様、それが終わったら次は私ですよ」
「蒲生、落ち着け。時間は今日一日たっぷりとあるのだ。じっくり楽しもうではないか……ねえ、プニ長殿?」
「ワオ~~~~~~ン! (助けて~~~~~~!)」
悲鳴は深い森に阻まれて、帰蝶のところに届くことはなかった。
それからすぐに織田家の面々を観音寺城に呼び寄せたものの、俺は六角の屋敷に事実上幽閉されて、もみくちゃにプニモフされてしまった。うう、もうお嫁に……いや、お婿にいけない。
条件通りに観音寺城を織田家に明け渡した六角氏は甲賀ってところに知り合いがいるらしくて、そこでしばらくは過ごすらしい。一方、蒲生さんは自分の領有している日野城へと帰って行った。
蒲生さんは「今後何かあれば力をお貸ししますよ」と、織田家に協力する姿勢を見せてくれたけど、出来れば二度と会いたくはない。
全てが終わってようやく解放された次の日。俺以外が充分休息を取った織田軍は早くも京都へ向けての進軍を再開した。
それから数日後、相変わらずの大自然に囲まれた道を歩く行列の中。駕籠の中で自身の膝の上から一向に動こうとしない俺を、帰蝶は心配そうな顔で優しく撫でてくれている。
「本日はどうなさったのでございますか? 体調が優れないようでしたら、一旦美濃に帰国というのも……」
「キュウ~ン(大丈夫だよ~)」
このままで大丈夫、という意思表示をする為に軽くぱたぱたっと数回尻尾を振ってみる。これで帰蝶には通じるはずだ。
はあ、安心する……。もうお外怖い、ここから動きたくない。
出会ったばかりのおっさんどもに一日中頬ずりされたことで出来た心の傷をいやしていると、やがて京都に到着した。
街に入ってまず目に飛び込んで来たのは、ぼろぼろになった建物と寂れてしまった大通り。戦国時代の京都ってのは俺の元いた世界で言えば東京のようなものだと思っていたのに、これじゃまるでスラム街だ。
後で秀吉から聞いた話によれば、ただでさえ応仁の乱以降に乱れていた京都の治安は、義輝と三好長慶、そして三好三人衆との戦いを経てどんどん悪化していったとのこと。
もし京を制圧して治安を安定させることが出来たら、プニ長様がまた一歩天下に近付きますね……くっくっく、とも言っていたけど、その辺は六助とかに任せようと思う。俺はチワワに転生したただの元高校生ですので。
織田家はそのまま東福寺とかいう寺に到着したものの、いつの間にか義昭の入っていた駕籠はいなくなっていた。
駕籠から出ると早速六助がこちらに歩み寄って来る。
「プニ長様、長旅お疲れ様でした。本日はここで、帰蝶殿とごゆっくりなさってください。帰蝶殿とね。フゥ!」
微妙にうざいテンションにいらっとしたけど、こいつの言う通り長旅でだるいので相手をする気力もない。大人しく俺たちの為に用意された部屋に入って休むことにした。
翌日、寺の中にある広間のようなところで軍議を開いたところ、とにかく義輝を打ち取った三好三人衆を倒さなければだめじゃん、ということになった。そうでないと義昭を将軍にしたところで、安心して京都から離れられないからだ。
ていうか前も言ったけど、本当にこいつら三人衆が好きだな。四人衆とか五人衆はいないんだろうか。
そんなわけでまず織田軍は三好三人衆の一人、石成友通って人がいる青龍寺ってところに攻め入ることにしたらしい。よくわからんけど寺を城代わりにするとかまじで物騒だし罰当たりだなこいつら。
今回俺が出る必要はないということで、東福寺でのんびりしていると、先方の柴田隊やら何やらの人たちが大勝したという情報が入って来た。六助からの報告によれば、また真正面から突撃したらしい。
「プニ長様、おめでとうございます」
「キュ、キュン(お、おう)」
正直そんなこと言われても……という感じだけど、帰蝶が嬉しそうにしているのだから喜ぶふりだけはしておこう。尻尾をぶんぶんと勢いよく振ると、彼女はまた頭を数回撫でてくれた。
続いて他の三人衆を、と織田家は進軍を続けたものの、敵が相次いで逃亡した為にまともな戦にならないまま勝利を収める。摂津ってところの人たちも次々に織田家の仲間になったり降伏したりしたので、畿内平定は意外にもあっさりと終わってしまうのであった。
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