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……可愛い
しおりを挟む膨れっ面の美人さんと睨めっこすること数分。仕方ないから私から目を逸らし、負けてあげた。
「ぎゃははははは!」
獣耳男性が息も絶え絶えになりながら笑っている。
笑う要素あった? いやそもそも美人さんの怒りポイントが分からない。
獣耳男性の笑い声は無視して、美人さんにもう一度目を向けて首を傾げる。
ただ膨れ面を私に送るだけの美人さんに変わって、多分笑いすぎて目に涙を浮かべているシャドウが口を開いた。
「彼はうさぎの獣人であることをコンプレックスに感じているんですよ。……ほら、うさぎって可愛い生き物でしょう?」
彼? 美人さんって男だったんだ。
まあ確かに、男で垂れ耳うさぎ獣人はキツいか。でも、似合ってて可愛いけどな。ラブリーチャーミーで羨ましい。
「ご、ごめんちゃい。うさしゃん、ごめんちゃい」
傷つけたことに変わりはないので、素直に謝る。
「うさぎじゃない! ボクはオクト!」
「えと、オクト、ごめんね」
「許さないけど」
「う、うえっ、ご、ごめんちゃい!」
許して貰えないことにショックを受け、段々と目に涙が溜まってくる。
それを見たパパが、鋭利な視線をオクトに向けた。パパから感じる殺意に、喉の奥がひぅっと詰まる。
オクトが小さな声でやっぱり許すと言ってくれたが、それどころじゃない。
パパのこういう態度を見ると、いつ自分に向けられるんだろうとビクビクしてしまう。
今日は違ったけど、じゃあ明日は? 明後日は?
だばーっと溜まりきれない涙が溢れ出した。えぐえぐする私に、パパは殺意を引っ込め、少し困った様子で私の涙を下手くそに拭う。袖でしたら痛いよパパ。
見かねたシャドウがそっとハンカチを差し出してくれた。ありがたく受けとり涙を拭う。
「おこ、だめ!」
「……おこ?」
「ぷりぷりなの」
和ませようと怒っているを、おこ、と表現したがパパには伝わらなかった。説明の仕様がなくて擬音で表現してしまう。
「お前には怒っていない」
そうかもしれないけど普通に怖すぎるから私の前では怒らないで欲しい。軽くパパの胸を叩いてやった。
まあ、強く叩いても衝撃は変わらないかもしれないが。
「リフレシア様、沢山涙を流していらっしゃいますのでこちらのミルクをお飲み下さい」
シャドウがいつの間に用意したのか火傷しない程度のホットなミルクを差し出してきた。
両手を伸ばし受け取ろうとすると、私の手がコップに触れた瞬間、支えるようにパパの大きな手が上から被さった。
零さないように目の前まで近づけると、わあっ!
「ふわふわ!」
なんと、チョコレートで可愛くお花の絵が描かれている。さっきまで泣いていたことなど忘れて、見てみてとニコニコ笑いながらみんなを見渡す。
「ふわふわ、かぁいいね」
「うっ、リフレシア様には負けます」
胸を打たれているシャドウに満足しつつ、まずガウォンを見る。なんか親指立ててた。
オクトは小さな声で誰にでも出来るしとひねくれていた。耳生えてなかったら私の右ストレートが炸裂してるからな。
パパはどんなかなーと見上げると、えっ、なんか衝撃を受けてるんだけど。シャドウの真似? え、やめて?
「パパ?」
瞬きもしないパパに、コップにチョンと口をつけつつ上目遣いで眉を下げる。
パパは無表情のまま段々と顔を近づけ、ちゅっと可愛らしい音が私のおでこから聞こえた。
ポカンと間抜けな顔をしてしまう。
「ちゅー?」
ハッと我に返ったように瞬きを再開したパパは、なんだか吹っ切れたようにもう一度おでこ、目元、頬へ唇を落とす。
後ろの方で羨ましいと歯ぎしりが聞こえた。多分犯人シャドウ。
「……可愛い」
ぎょええええ! パパにか、かか可愛いって言われちゃった! は、初めて言われた。
パパが最後に頭のてっぺんに唇を落とすと、もう一度可愛いの声。
ぽぽぽぽと頬が赤くなるのを誤魔化すようにミルクをごくごくと飲む。お花のアートなんてもうどうでもいい。
よく飲んでいるミルクなのに、なぜだかいつもより甘い気がした。
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