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しおりを挟む相変わらず今日も教室はうるさいほど賑やかだ。原因はただ一つ。
ヒロインの周りに集まる見目のいい男達。ヒロインに向けられる嫉妬、羨望の目。
私は本を読む振りをしながらヒロインたちの会話に耳を傾けていた。
ゲームの登場人物であった彼らが、どのように動いてどのような会話をするのか元オタクとして気になったからである。
教室に来ているのは双子のアイシャ・レイリーとリイシャ・レイリー、公爵子息のフィオ・シェルジェだ。
王太子のセシル・ガランドは自分から逢いに行くタイプではなく、本の虫のアダムトア・リアは女がいるところには近寄らない。
臨時のジルグド・ソレインは一応先生なので節操ある行動をしている。ゲームでもヒロイン好き好きーって感じではなかった。緩そうに見えて、いつもどこか1歩引いてる感じだった気がする。
「ねーねー! 今度の休み僕達とデートしよう?」
あざと可愛い。みんな顔はいいんだよなー。やっぱゲームの攻略対象なだけある。ま、一番はうちの子だが。
「アイシャ様、私となんて......」
名前を当てられたアイシャは嬉しそうな顔をした後、すぐに不満そうな顔になった。隣にいるリイシャ──あ、ちなみに私は見分けられない。髪型変えろといつも思う。
とにかく隣のリイシャも不満そうな顔をした。
「なんでー、僕達と出掛けたくないの?」
おふ、可愛い。
ヒロインは他国の平民。片や双子は辺境伯子息さま。一緒に出かけることがダメという訳では無いが、この双子がヒロインに合わせて平民の格好をして王都の街を歩いている姿が想像できない。こいつら絶対すぐに貴族だとバレる。
そんないかにも貴族な双子とヒロインが街を歩いたらなんだなんだと注目の的になってしまうだろう。
まあ、ヒロインが貴族のような格好をしていれば問題ないのかもしれないが。うーん、でも貴族の気品とか優雅さとかこの女に出せるとは思えない。
てことで、ここは断るのが正解だろう。
あーでも、この時ゲームではヒロインどうしてたっけ? 三人で出掛けてなかった気がするけど。
「私、平民ですし......」
「えー! そんなの気にしなくていいよー。ね、ね? いこー?」
でも、と言いながらヒロインはちらっとフィオを見た。
あ、嫌な予感。
「私も一緒に行けば何も言われませんよ」
そりゃー君は現国王の側近である宰相の息子ですもんね! ついでに公爵子息!
文句なんて言えるわけないでしょうよ。この権力笠着り野郎。
「本当ですか? なら、みなさんで出掛けませんか? 沢山の方がきっと楽しいです」
はいバカー。ゲームではヒロインのこんな行動なんとも思わなかったけど、現実では非常識。
周り見えてんのかなーこいつら。周りの殺気立った雰囲気、特に女のヒロインを見る目が怖すぎる。私だったらチビりそうだ。
とくに悪役令嬢である彼女が殺さんばかりの目でヒロインを見ていて、私はこっそりため息を吐いた。ロゼンに会いたい。頬をムニムニして照れた顔をニタニタと愛でたい。
「私、セシル様やアダムトア様にも声を掛けてみます!」
「え、ええ!? なんでそいつらも!?」
「私大勢で出かけるの初めてなんです! 楽しみだなぁ」
「そ、そこまで言われると断れないじゃんかー」
「もー、しょうがないなー」
もう知らね。勝手にやっとけ。
もうどっちがどっちだか分からなくなった双子はブーブー文句を垂れていたが、ヒロインの様子にまあいっかと一緒になって楽しげに笑いあった。
屈強な騎士を排出している辺境伯に生まれた花の双子は、甘やかされて育った可能性がある。ゲームでは辺境伯生まれなのに、弱い自分にコンプレックスを抱いてる設定だった。実際にどんな境遇だったのかは知らない。
「ジルグド様はお仕事がありそうですが、.........ロゼン様は忙しいのでしょうか」
「え、ロゼン、って、ハウスードのこと?」
双子の片割れが目をぱちくりとさせながらヒロインに問いかけた。
「はい。話す機会がちょこちょこあって、ぜひお友達になりたいなと」
教室にいる人の視線が私に突き刺さる。そりゃ私の従者だからね。
「ハウスードは、やめた方がいいかと」
フィオが困ったような顔でヒロインに言った。
そうだそうだ、絶対誘いには乗らないだろうが、誘うんじゃない!
「それにあいつ、自分の主にしか興味ないやつだから友達とか無理だと思うよ」
『それにあいつ、自分の主以外に興味を持つことが許されてないから友達とか無理だと思うよ』
あ、セリフが違う。
ロゼンの現状が垣間見れるシーンでの双子の片割れの発言。覚えていたセリフと今のセリフが少し違った。
きっとそれは私が束縛をしていないから。ロゼンと友好な主従関係を築けているから。
変わったことに驚き、同時に意味を理解して歓喜した。
ヒロインもそのセリフの変化に気づいたのか、悔しそうに手を握りしめている。
ああ、なんて気分がいいんだろう。
「というか、あいつ連れ出すには許可取らないと!」
小声でヒロインに伝える双子。いや、聞こえてるから。
ヒロインはちらっとこちらを見たあと、あからさまに悲しそうな顔をした。
「今回は諦めます」
今回は、ね?
まあいつ誘おうとロゼンがそれに乗ることはないから。
あーもう、嫌になる。ヒロインのせいで晒し者にされてしまった。腹立つなー。
「私、みなさんに会えて良かったです」
急にどうしたヒロイン。
「一年間と短いですが、たくさんの思い出が作れそうです」
安心しろヒロイン、国に帰ってもヒーローが会いに来るから。誰か知らんけど。
ゲームでは語られなかったその後の物語。ヒロインも攻略対象者もそして私も、一体どうしているのだろう。
ハッピーエンドなんて言うけれど、それはその時がハッピーエンドなだけであって、その後もずっとハッピーだとは限らない。
ロゼンという従者を奪われたアフェイユはどんな人生を送ったのか。もちろん奪われないというエンドもあって、それもその後については語られていない。
今も、学園を卒業したあとの自分の人生なんて考えたことも無い。未来は誰にも分からない。
このまま行けば好きでもない人と政略結婚してって感じになると思うけど、私自身別に貴族という立場に固執している訳じゃない。
何かあれば地位を捨ててもいい。
先の未来に、ロゼンの姿は見えない。前にも後ろにも、隣にも。
それが少しだけ、怖い。
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読めば読むほどハマっていく!一気読みしました!!ロゼン視点も読んでみたいです!!
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更新まってます!!