3 / 5
3
しおりを挟むゲームの中でのロゼンとヒロインの出会いはこうだ。
人気の少ない図書館の裏庭のベンチで私を待っていたロゼンは、その時ついうたた寝をしてしまう。そこにたまたま通りかかったヒロインが自分の制服の上着をかけてあげる。
ロゼンは上着のポケットに入っていた名前入りハンカチでヒロインの名前を知り、探して上着を返す。
そこから始まる──ってやつ。
極力ロゼンを待たせないように気をつけていたが、物語修正なのか、ついにイベントが起こってしまった。
くそー、昼ごはんのあと欲張って期間限定のパンを食べたからだ。しかも三つ。
放課後少しだけトイレの住人になってしまった。ロゼンが止めたとき、素直に言うことを聞けばよかった。
まさかその隙を狙われるなんて。アフェイユ・クロスド、一生の不覚。
上着をかけられた瞬間目を覚ましたロゼンは、直ぐにそれを返していて、現場を見てしまった私は思わず手を拭いたハンカチをぐしゃぐしゃに握りしめる。きぃーっ!
ヒロインとの接点が出来てしまった。
しまった、どうしよう。
半歩後ろを歩くロゼンに変わった様子はない。いつも通り、だと思う。
いやこいつ、いつも表情変えない従者の鏡みたいなやつだから雰囲気から察せない。なんてこったい。
自然な流れで私の鞄を持ち、決して私の前や隣を歩かない。
従者と主人の正しい距離感に何も言えない。
ゲームとは違う私とロゼンの関係。人間の尊厳を踏みにじったり、何かを強要したことはない。
軽い命令や頼み事、ちょっとだけ無理な願いは頻繁にしちゃっているが。
今世において人に命令や指示を出しても、罪悪感や嫌悪感は感じない。自責の念は感じるが。
前世の記憶があると言っても、このアフェイユというキャラクターの性格も少しは引き継いでいる。前世と比べると全くの別人と言ってもいい。
多分前世の私とゲームのアフェイユが混ざりあっているのだろう。憑依とも違う。だってこの体、魂は間違いなく私だと分かるから。
前世の記憶のおかげで、ロゼンと私の過去はゲームと現実では180度変わった。だがもっと過去、ロゼンの家が没落して家族に捨てられた過去は変えようがない。
ロゼンは隠しているようだが、彼が今もそれを引きずっていることに気づかないわけがなくて、たまに眠れていない様子になにか思わずにはいられない。
素直に大丈夫かと聞けない自分が恨めしい。ひねくれた性格はゲームのアフェイユのせいだと思いたい。
いじめっ子気質があるのか、ついついロゼンで遊んでしまう。ロゼンが可愛くて可愛くて困らせたくて、まるで好きな女の子をいじめてしまう男子小学生の気分。
今のロゼンが逆ハーレムを築くビッチ女に惚れるとは思わないが、もしも、がある。
過去も現在も未来でさえも、全て私が受け止めるから。だから、──私だけを見ていないと許さない。
10
お気に入りに追加
3,258
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
婚約破棄計画書を見つけた悪役令嬢は
編端みどり
恋愛
婚約者の字で書かれた婚約破棄計画書を見て、王妃に馬鹿にされて、自分の置かれた状況がいかに異常だったかようやく気がついた侯爵令嬢のミランダ。
婚約破棄しても自分を支えてくれると壮大な勘違いをする王太子も、結婚前から側妃を勧める王妃も、知らん顔の王もいらんとミランダを蔑ろにした侯爵家の人々は怒った。領民も使用人も怒った。そりゃあもう、とてつもなく怒った。
計画通り婚約破棄を言い渡したら、なぜか侯爵家の人々が消えた。計画とは少し違うが、狭いが豊かな領地を自分のものにできたし美しい婚約者も手に入れたし計画通りだと笑う王太子の元に、次々と計画外の出来事が襲いかかる。
※説明を加えるため、長くなる可能性があり長編にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる