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最終回 身分を超えた絆で平等な社会を作ろう!
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スチュワード家の治める領地のなかでも僻地に位置する村。その村から少し離れた、人気のない山の洞窟を私たち人民解放軍は根城としていた。
私は窮屈な胸当てと背中にあたる慣れない剣の存在に顰めかけた眉を堪える。
「ジュリア様、革命は成功です。今や世論の八割が我々を支持しています!」
赤いバンダナを巻き、頰に泥のついたリリアが嬉しそうに報告してきた。
胸元で揺れるアーティファクト『天の涙』による回復効果は凄まじく、ここ数回の市街地戦における死亡者は零人である。彼女は人民解放軍において愛の天使という異名で知られている。
その傍らにいるヘンリーは諦観の笑みを浮かべながらリリアを見つめている。髪の艶は消え、顔は余分な肉がこそげ落ちまさに戦士といった風貌だ。
卒業パーティーから一週間ほどリリアを説得していた彼。しかしリリアの『一緒に革命しよ♡ダーリン』には勝てなかったようだ。愛は盲目とはこのことなのだろう。
もう侍女ではないというのに私の世話を焼くソフィア。腰に下げた二対の短剣で幾人もの刺客を葬り、今では私の護衛を務めている。
彼女から紅茶を受け取り、口に含む。屋敷にいた頃より品質は落ちたものの気軽に飲めるので嬉しい。
「ジュリア様による商会の買収作戦は予想以上の効果でした。武器の調達や資金の工面にさほど困窮せず、賛同者を育成できたのが強いですね」
悪徳貴族による税収に嫌気を差していた商会や武器防具職人の連合を戦争があると唆して味方につけた。
正直に言って確実に人道に反しているが、戦いに勝つためには仕方なかった。好き好んで戦争商売やってる奴らと仲間になりたかったわけではない。
「ただいま戻りました、ジュリア様!西の都の制圧は無事完了しました。反乱の恐れはありません」
返り血で真っ黒に変色した鎧をガッシャガッシャと鳴らしながらアランが帰還してきた。赤く錆びた刀身を抜き身で持ち歩く癖はやめてほしい。
「よくやりましたね、アラン。長期の遠征で疲れたでしょう。そこの椅子に座るといいわ」
「お気遣い頂き感謝します、我が主よ」
彼の忠義の重いこと重いこと!
国軍四万に対し人民解放軍五千という負け戦も同然の戦いがあった。士気駄々下がりで全滅覚悟の雪山の防衛戦においてアーティファクトの『血の涙』を使った雪雪崩攻撃は伝説となりつつある。
卒業パーティーから上手いことやっているおかげであれから一度も死んでいない。途中、革命をやめようと提案したところ殺されかけたけど。
平和でスローライフな人生は送れないんだなって……思います。もう、引き返せないところまで革命も進んでいるのでどうしようもない。
「ジュリア様、商会からの知らせが届きました」
元警察隊騎士のダルクから手紙を受け取る。三回目の死に戻りでアランに敗北していた彼は当然、四回目でも勝てるわけがなかった。
彼は国王陛下への忠誠と自分の命を天秤にかけた結果、自分の命を選んだ。
最初は他のメンバーも彼を信頼していなかった。だがこの男はそれにめげず、他の警察隊騎士の首を討ち取って忠誠心を証明した。笑顔で首を食卓に置いてきたので怖すぎて幹部のポストをあげるしかなかった。
本音をいうならこんなやばいやつとは一秒でも早く縁を切りたい。最近彼からのアプローチが凄い。ソフィアと仲良くなってからアプローチを仕掛けてくる辺り、彼は中々の策士だと思う。
「ありがとう、ダルク。うん、スチュワード家の傘下も粗方取り込めた。これでもうどの貴族も我々には逆らえなくなったね」
いやー、まじかー。一国支配しちゃったよ。まさか職業選択の自由を保証する法案だけで大抵の商会が味方になるなんて思わなかった。ゆるゆる憲法知識でなんとかなっちゃったよ。
「ついにここまで来てしまったな、思えば長い戦いだった……」
ヘンリーが一筋の涙を流した。その涙は浸して悔恨かそれとも己の人生が否定されたからか。この革命が成功したことによって彼は王太子としての身分を失う。覚悟していたとはいえ、辛いものがあるのだろう。震えるその手をリリアが握る。
「ヘンリー様、いえヘンリー。これでようやく私たちは対等になれましたね」
「リリア……。そうだな、これで君と同じになれるんだな」
上手いこと手玉に取られているヘンリー。微笑ましい光景ですね。ちなみにここで結婚式などの話題に触れると死にそうなので口を閉じておく。
二人の甘い空気が落ち着いたところで私は椅子から立ち上がり、広間へと向かう。広間にはかつて私の取り巻きだった貴族だけでなく、平民や傭兵たちがわいわいと騒いでいた。
私に気づくとものの数秒で喧騒が消える。彼らの闘争に飢えた視線を浴びながら剣を天に掲げる。
「これより我ら人民解放軍は進軍する。目指すは首都、国王が座して待つ王城!皆よ、準備はいいか!」
人民解放軍はそれぞれの武器を天に突き上げる。
「「おおーー!」」
顔に大きな傷とギラギラとした瞳を見つめながら、私はひたすらこう思う。
どうして、こんなことになったんだろう。
そして同時にもこう思うのだ。
きっと、どうあがいても反乱軍としての選択肢しかなかったのだ。それならば、私という犠牲を払ってより良い未来を作っていくしかないのだ。
王太子としての道しかなかったヘンリー、貴族に苦しめられたリリア、国を捨てたことを後悔していたアラン、そして私が貴族だったからこそ知り合ったソフィアや貴族達。
貴族として得たものは多いだろう。失ったものは計り知れない。生まれながらに未来が定められ、肩にかかる重圧を感じながら生きてきた貴族達が貴族制度廃止を推進している。
最初は身分差による内部衝突もあったが今では一致団結し、身分を超えた絆で平等な社会を作るために行動している。
不確定な現実に正解はないけれども、互いが議論できる社会はきっと間違いじゃない。
そのために私は人民解放軍を設立したというのことにしておこう!!
だって成り行きで設立したっていったら確実にアランとリリアが殺しにくるから!!
もうスローライフは送れないけど、私はこれからみんなが笑って暮らせる国を作るために頑張ります!
私は窮屈な胸当てと背中にあたる慣れない剣の存在に顰めかけた眉を堪える。
「ジュリア様、革命は成功です。今や世論の八割が我々を支持しています!」
赤いバンダナを巻き、頰に泥のついたリリアが嬉しそうに報告してきた。
胸元で揺れるアーティファクト『天の涙』による回復効果は凄まじく、ここ数回の市街地戦における死亡者は零人である。彼女は人民解放軍において愛の天使という異名で知られている。
その傍らにいるヘンリーは諦観の笑みを浮かべながらリリアを見つめている。髪の艶は消え、顔は余分な肉がこそげ落ちまさに戦士といった風貌だ。
卒業パーティーから一週間ほどリリアを説得していた彼。しかしリリアの『一緒に革命しよ♡ダーリン』には勝てなかったようだ。愛は盲目とはこのことなのだろう。
もう侍女ではないというのに私の世話を焼くソフィア。腰に下げた二対の短剣で幾人もの刺客を葬り、今では私の護衛を務めている。
彼女から紅茶を受け取り、口に含む。屋敷にいた頃より品質は落ちたものの気軽に飲めるので嬉しい。
「ジュリア様による商会の買収作戦は予想以上の効果でした。武器の調達や資金の工面にさほど困窮せず、賛同者を育成できたのが強いですね」
悪徳貴族による税収に嫌気を差していた商会や武器防具職人の連合を戦争があると唆して味方につけた。
正直に言って確実に人道に反しているが、戦いに勝つためには仕方なかった。好き好んで戦争商売やってる奴らと仲間になりたかったわけではない。
「ただいま戻りました、ジュリア様!西の都の制圧は無事完了しました。反乱の恐れはありません」
返り血で真っ黒に変色した鎧をガッシャガッシャと鳴らしながらアランが帰還してきた。赤く錆びた刀身を抜き身で持ち歩く癖はやめてほしい。
「よくやりましたね、アラン。長期の遠征で疲れたでしょう。そこの椅子に座るといいわ」
「お気遣い頂き感謝します、我が主よ」
彼の忠義の重いこと重いこと!
国軍四万に対し人民解放軍五千という負け戦も同然の戦いがあった。士気駄々下がりで全滅覚悟の雪山の防衛戦においてアーティファクトの『血の涙』を使った雪雪崩攻撃は伝説となりつつある。
卒業パーティーから上手いことやっているおかげであれから一度も死んでいない。途中、革命をやめようと提案したところ殺されかけたけど。
平和でスローライフな人生は送れないんだなって……思います。もう、引き返せないところまで革命も進んでいるのでどうしようもない。
「ジュリア様、商会からの知らせが届きました」
元警察隊騎士のダルクから手紙を受け取る。三回目の死に戻りでアランに敗北していた彼は当然、四回目でも勝てるわけがなかった。
彼は国王陛下への忠誠と自分の命を天秤にかけた結果、自分の命を選んだ。
最初は他のメンバーも彼を信頼していなかった。だがこの男はそれにめげず、他の警察隊騎士の首を討ち取って忠誠心を証明した。笑顔で首を食卓に置いてきたので怖すぎて幹部のポストをあげるしかなかった。
本音をいうならこんなやばいやつとは一秒でも早く縁を切りたい。最近彼からのアプローチが凄い。ソフィアと仲良くなってからアプローチを仕掛けてくる辺り、彼は中々の策士だと思う。
「ありがとう、ダルク。うん、スチュワード家の傘下も粗方取り込めた。これでもうどの貴族も我々には逆らえなくなったね」
いやー、まじかー。一国支配しちゃったよ。まさか職業選択の自由を保証する法案だけで大抵の商会が味方になるなんて思わなかった。ゆるゆる憲法知識でなんとかなっちゃったよ。
「ついにここまで来てしまったな、思えば長い戦いだった……」
ヘンリーが一筋の涙を流した。その涙は浸して悔恨かそれとも己の人生が否定されたからか。この革命が成功したことによって彼は王太子としての身分を失う。覚悟していたとはいえ、辛いものがあるのだろう。震えるその手をリリアが握る。
「ヘンリー様、いえヘンリー。これでようやく私たちは対等になれましたね」
「リリア……。そうだな、これで君と同じになれるんだな」
上手いこと手玉に取られているヘンリー。微笑ましい光景ですね。ちなみにここで結婚式などの話題に触れると死にそうなので口を閉じておく。
二人の甘い空気が落ち着いたところで私は椅子から立ち上がり、広間へと向かう。広間にはかつて私の取り巻きだった貴族だけでなく、平民や傭兵たちがわいわいと騒いでいた。
私に気づくとものの数秒で喧騒が消える。彼らの闘争に飢えた視線を浴びながら剣を天に掲げる。
「これより我ら人民解放軍は進軍する。目指すは首都、国王が座して待つ王城!皆よ、準備はいいか!」
人民解放軍はそれぞれの武器を天に突き上げる。
「「おおーー!」」
顔に大きな傷とギラギラとした瞳を見つめながら、私はひたすらこう思う。
どうして、こんなことになったんだろう。
そして同時にもこう思うのだ。
きっと、どうあがいても反乱軍としての選択肢しかなかったのだ。それならば、私という犠牲を払ってより良い未来を作っていくしかないのだ。
王太子としての道しかなかったヘンリー、貴族に苦しめられたリリア、国を捨てたことを後悔していたアラン、そして私が貴族だったからこそ知り合ったソフィアや貴族達。
貴族として得たものは多いだろう。失ったものは計り知れない。生まれながらに未来が定められ、肩にかかる重圧を感じながら生きてきた貴族達が貴族制度廃止を推進している。
最初は身分差による内部衝突もあったが今では一致団結し、身分を超えた絆で平等な社会を作るために行動している。
不確定な現実に正解はないけれども、互いが議論できる社会はきっと間違いじゃない。
そのために私は人民解放軍を設立したというのことにしておこう!!
だって成り行きで設立したっていったら確実にアランとリリアが殺しにくるから!!
もうスローライフは送れないけど、私はこれからみんなが笑って暮らせる国を作るために頑張ります!
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