冒険者の受難

清水薬子

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女冒険者サナ

報復②※

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 部屋に追い詰められた私はあっさりとカインに捕まってしまった。
 淫魔に当てられたカインの体温よりも高く、熱く湿った息が首を掠めるたびに擽ったさに混じって鳥肌が立つ。
 私の腰と背中に回された彼の腕は力強く私を抱きしめていて、彼から借りたブラウスに皺が寄る。
 やることもないので気を紛らわせる為にぼんやりと彼の肩越しに見える夕焼けを見た。
 オレンジ色の太陽はとっくに山の向こうに消えて、今は一番星が輝き始めていた。
 屋根があるとはいえ、ここで夜を迎えたくないので躊躇いがちにカインに声をかけた。

「カインさん」
「黙れ、動くな、喋るな」

 先ほどからカインがこの調子で容態を聞くことすらままならない。
 淫魔に当てられたカインはどうやら精神力だけで耐え凌ごうとしているようで、私を抱きしめはするがその先に進めようとしない。
 呼吸は震えている上に荒く、時折呻き声を発しながら理性を辛うじて保っていた。
 いずれ欲に負けるだろうと身構えていたが、その気配は一向にない。

 欲を発散させれば楽になる。
 そのことは彼自身もよく分かっているはずなのに、どうして無理をするんだろう。
 我慢すればするほど、却って苦しくなるだけだ。
 その証拠に彼のズボンの布はすっかり張り詰めて、布越しというのに熱さえ感じとれそうだ。

「カインさん」
「頼むから、喋るなって……!」

 食いしばるように低い声でカインが呻く。
 抱きしめるというより絞め殺そうとしているのではないかと思うほど腕の力が強くなる。
 息をするのも苦しくなって彼の腕を軽く叩けば、ほんのわずかに力が緩んだ。
 この調子なら本気で淫魔の魔法が消え去るまで身動きすら許さないつもりのようだ。
 私は淫魔に当てられたわけでも男でもないので彼が今どれほど辛いのか正確には分からないが、司祭の話によれば自然に治癒することはないという。
 このまま耐えていても悪戯に体力や気力を消費するだけだ。
 無理くり体を動かしてカインの顔を覗き込もうとしたところ、頭を押さえつけられて彼の表情を知ることができなかった。

「動くなって、言っただろうがっ……」

 カインが呻くように呟くと私を抱きしめていた腕がさらに巻きつく。
 ピッタリと体がひっついて彼の胸板に顔を押し付けるような体勢になってしまった。
 魔草に混じって微かに汗と石鹸の匂いがした。
 私の匂いよりも彼の匂いの方がいい匂いのような気がする。
 これ以上嗅いでいると不審に思われそうなので、意識を逸らそうと試みるが、ガッチリと押さえつけられて動くことすらままならない。

「カインさん、苦しいです」

 解放されるためにほんの少しだけ誇張して彼の背中をポンポンと叩くが返事はない。
 代わりに頭を押さえていた手が離れた。

「…………」

 私の髪を軽く引っ張られたり、持ち上げられたりする感触が頭皮に伝わる。
 パチンとバレッタが外れる音が響いて纏めていた髪が解放された。
 髪を手で梳かすような動きで頭を撫でられるたびに、擽ったいような気がする。

「ああ、クソッ。どうしてこうなるんだ」

 掠れるような低い声で悪態をつきながら頭を撫でる手つきは乱暴とは言い難くて、すっかり抵抗する気力を奪われてしまった。
 抗議するはずの手は彷徨わせた挙句彼の背中に回すことにした。
 布越しであっても感じ取れるほど暖かい彼の体温と匂いに包まれていると不思議な感情が湧いてくる。
 居心地が良いような、居心地が悪いような。
 そんな落ち着かない気持ちを抱えたままでいると頭を撫でていた彼の手がスルリと頰に移動する。

「なあ、サナ……キス、してもいいか?」
「カインさんが、いいな–––––んう!?」

 言い終わる前にカインの唇に封じられた。
 息吐く間もなく、いつもより性急に何度も角度を変えて啄まれる。
 下唇を吸われながら甘噛みされて分厚い彼の舌が口内に入り込む。
 歯列をなぞられて、舌の先で上顎を擽られて、どちらのものかも分からない唾液が唇の端から溢れる。
 さすがに息を止め続けるのに限界が来て、彼の胸板を押し返せばようやく彼の舌が引っ込む。
 溢れた唾液を舐められていると頰にあった彼の手が胸に伸びて、服の上から胸を揉まれる。
 いきなりの刺激に変な声が出たが、息が整う前に舌が唇を舐る。

「サナ、舌、舌出せ」

 すっかり日が暮れて暗くなった室内に彼の瞳だけが鮮明に蒼く光る。
 その目に見据えられるとなんだか従わない方が良くない気がしてきて、言われるがままにおずおずと舌を出す。

「もうちょい。そう、いい子だ」

 外気に触れて冷えた舌を咥えられ、じゅるじゅると音を立てて啜られた。
 その間にもやわやわと揉む動きから胸の先をカリカリと引っ掻くような動きに変わる。

「ひう!」

 私の足の間にカインの足が割り入って、彼の太腿がグイグイと押し上げた。
 胸はまだしも陰核への強い刺激から逃れたいが背後は壁で、足を閉じることすら出来ない。
 舌を引っ込められないのでせめてもの抵抗に彼の肩を押すが、快楽を拾い始めた体では碌に力も入らなかった。
 やがて先端を引っ掻くのに飽きたのか、胸から手が離れてプチプチとボタンが外される。

「はあっ、はぁっ、焦ったいな」

 ブラウスのボタンが全て外されて、肌蹴られた隙間から外気が侵入して鳥肌が立つ。
 彼の掌が剥き出しの胸を強く揉む。
 指先が食い込むほどの強さに驚いて思わず彼の肩を反射的に殴った。

いてっ! すまん、加減を間違えた」

 痛みに怯んだカインが手を離すとうっすらと彼の手の跡が残る。
 その隙に腕を交差させて胸を庇いながら彼を睨みつければ、彼は眉を八の字にして小声で謝罪した。

 一応反省の色は見せたものの、手持ち無沙汰になったのか、狙いを定めて足の間に差し込まれたカインの太腿が不規則に押し付けられる。

「興奮、しているの、分かり、ましたからっ、足! 足グリグリするの、やめてくださいっ」

 胸を弄っていた手がガシッと腰を掴んで前後に動かし始めた。
 クロッチの布越しに彼の太腿が擦れる度にジンジンと熱が生まれる。

「カ、カイン、さ、んっ!」

 カインの肩を押しても効果がないので、腰を掴む手首を離させようともがく。
 その度に彼がグリグリと強く太腿を押し付けてくるせいで窘めようとした声に迫力がなくなってしまう。

「カイン、さんってばぁ!」
「しょうがないだろ、クソッ……人の気も知らずに煽るような真似しやがって」

 ようやく腰から手を離したかと思えば、カインは私の手を掴むと自身の腰に引き寄せる。
 これまで散々腰や太腿、下腹部に感じていた熱の中心に私の掌を押し付けてきた。
 薄々存在は知っていたし、なんなら三度ほど見かけたこともある。
 それでも自分にないものを改めて突きつけられると体が竦む。

「お前に酷い事をしたくないのは山々なんだが……いかんせん、これが言うことを聞いてくれない」

 引っ込めようとするが握られた手首がそれを許さない。
 片方の手で器用にベルトを緩めて、私の手を掴んだままズボンの中に突っ込む。

 私の掌ごと陰茎を包むように握りしめた。
 火傷してしまうのではないかと錯覚するほどの熱とビクビクと跳ねる感触が掌に伝わる。

「ひえっ、あの、この、あの、こんな強い力で握って大丈夫なんですか?」

 私が生まれ育った村で受けてきた性教育など高が知れているもので、男性の凸を女性の凹に差し込むことで『子作り』は完了するという一文で済むものだった。
 なんとなくベラドンナから魔道具を使った避妊方法と女性の体について話は聞いたことがある程度で、男性については全く知識がない。
 棒と玉があってどっちが蹴られても痛みはあるが、玉のほうが急所という下世話な冒険者の話を聞いたことがあるぐらいだ。
 所謂大事なところを今、カインは私の手ごと痛みを感じるほど強い力で握っている。

「あの、カインさん?」

 心配になってカインの顔を覗き込むと彼は唇を真一文字に結んで私の手を解放した。
 痛みを感じているわけではないようなのでひとまず胸を撫で下ろしながらそろそろと手を引っ込める。

「……俺は、最善を尽くした」

 ポツリとカインが呟いた。
 その呟きを心の中で反芻するが、さっぱり意味がわからなかった。
 彼の顔は相変わらず感情が読めなくて、なんとなく感じ取れる気配は怒っているような気がする。

「淫魔の魔法にかかった俺は勿論悪い。護衛対象だと考えて俺を殴らなかったお前も少し悪い」

 なんだか様子がおかしいカインの発言に気を取られている間に、いつのまにか彼の手は私の下着を下ろしていた。
 太腿の一番太いところを通過した下着は重力に従って地面に落ちる。
 反射的に閉じようとした足は彼の手に阻まれ、強引に彼の足が割り込む。
 そのまま右足を持ち上げられてスカートを捲り上げた。
 慌てて左足に力を入れつつカインの肩に掴まって転倒しないように踏ん張る。

「だから、今回の件はお互いに悪いな。うん」
「え? え? え!?」

 カインはズボンから陰茎を取り出すと、何一つ状況が飲み込めないでいる私を他所に彼はそれを私の膣口に押し当てる。
 据わった目に彼がこれからしようとする行為を理解して、今更ながらに焦りが生まれる。

「待って、ねえ、待って! いきなりは、あっ、く、うぅ」

 ズプリと先端が襞をかきわけて中に侵入する。
 入ってきた異物を拒んで体に力が入って、思わず息を止める。

「締めすぎ、だ」

 懸命に息を吐いて体の力を抜けば、下腹部の圧迫感が多少和らいだ。
 私の目尻に浮かんだ生理的な涙を舐めながらカインがゆるゆると腰を動かす。
 最初こそ様子を見ながら慣らすようにゆっくりとした動きだったが、徐々にペースが速くなった。

「ひ、うっ。も、もうちょっとゆっ、くり……」
「無理だ……はあっ、くっ、そっちこそ声、抑えろ」

 ガツガツと乱暴な抽送なのに的確に浅くザラザラした内側を執拗に擦る。
 そのせいで歯を食いしばっても上擦った声が漏れてしまう。
 いよいよ限界が近くなってきたその時。

『最近、村の中ピリピリしてるよな』
『お陰様で見回りしなきゃいけないもんな』

 二人組の男の声が聞こえる。
 どうやら村を見回っている自警団のようだ。
 突然聞こえてきた部外者の声に体が強張って、快感に染まっていた思考が晴れる。
 カインもその声に気づいて動きを止めた。

 荒い息を整えつつ素早く周囲を探る。
 幸いにも私たちのいる場所は部屋の奥で、明かりを使って照らさない限りすぐに見つかることはない。

「カインさん、彼らが通り過ぎたら移動しましょう」

 見回りの村人に聞こえないよう小声で囁くとカインの肩がピクリと跳ねた。

 一向に動こうとしないので不審に思っていると、彼は少し腰を引いた後最奥を抉るように押し付ける。
 漏れかけた嬌声は大口を開けた彼に飲み込まれた。
 止めさせようともがく以前に声を抑えるのに精一杯だ。
 視界が白く瞬き始めて、遠ざかっていたはずの限界が一気に近くなる。
 結合部から響く肌がぶつかる音と粘液に空気が混じって泡立つ音が鼓膜を震わせた。

『なあ、何か聞こえないか?』

 堪えなきゃ、という私の気持ちとは裏腹に体は与えられる刺激を敏感に拾い上げて高みに上り詰めた。
 子宮口を押し上げるように突かれた瞬間、快感が弾けて思考が真っ白に染まる。
 カインの体に縋り付けば、支えるように彼の腕が巻きつく。

『盗賊か、はたまた例の不審者か?』

 足音が近づいてきて、村人が持った明かりが部屋の中を照らした。
 カインの肩越しに部屋の窓を覗き込む彼らと目が合った。
 あられもない姿を見られたことで羞恥心が限界を超えてジワリと涙が滲む。

『誰かいたか?』
『いや。誰もいない』
『んー、気のせいじゃないか?』

 部屋を照らしていた明かりが消え、足音が遠ざかる。
 目が合ったはずなのに、彼らは私たちを認識しなかったらしい。
 確実に見られたと確信しただけに目を白黒させながら狼狽える。
 精神的な限界もあって、涙がボロボロと溢れた上にずっと一本足で立っていた影響なのか左足がガクガクと震える。
 村人が遠かったことで緊張の糸が切れたのか、カインが私の肩に額をくっつけた。

「俺、露出趣味はないはずなんだが……」

 私を覗き込んだカインの目はすっかり情欲に支配されきっていて、恍惚とした色を浮かべていた。

「お前のそんな顔を見れるなら悪くない、な」

 ぱちゅんと腰を打ち付けられる。

「ぉ゛ぁ゛!?」

 一切の遠慮のない抽送に達したばかりのそこは過敏に反応して、獣が唸るような声を発してしまう。
 そんな私を見てカインは口角を歪めて囁いた。

「そんな大声出していたら、さっきの連中が戻ってくるかもしれないぞ」

 彼の言うことは最もで、閑静な村なら叫び声が響いてしまう。
 それは件の不審者を呼び寄せて護衛対象のカインを危険に晒してしまう。
 片手で口を押さえて声を堪えようとしても、くぐもった声だけはどうしても漏れてしまう。

「さすがに、一日に二度も『光歪』の魔道具は、使えないからな。次は……」
「ふ、う゛ぅ゛……」

 先ほどの出来事が脳裏を過ぎって、要らぬことまで考えてしまう。
 無意識に彼の服を掴んでいたことに気付いて、思わずカインの顔を睨みつけた。

「ははっ、そんな顔するなって」

 涙目に真っ赤な顔では迫力も凄みもあったものじゃない。
 その証拠にカインはクツクツと喉の奥で笑いながら私の頬にキスを落とす。
 機嫌を伺うような優しいそれは、涙を吸い取ると終わりを見せた。

 右足をさらに高く持ち上げられて、左足の爪先が宙に浮く。
 突かれる度に壁に背中が擦れて、苦しい体勢でもしっかり快感を拾っている自分の体が恨めしい。

「はあっ、サナ、キス、キスしたい」

 それもこれも、目の前に立つカインのせいだ。
 何度もキスしたり、ねちっこく責めるせいですっかり体がおかしくなってしまった。
 苛立ちを込めながら不安定な左足を彼の体に巻きつけて、首に抱きついて彼の唇に自分のものを押し当てる。
 ガチンと歯がぶつかっても彼は私の唇を舐って割り入る。
 舌を絡めると鉄の味が口の中に広がった。
 ピチャピチャと水音を立てながら最奥に何度か突くと彼が限界を迎えて精液が体の中を迸った。

「はーっ、はーっ」

 カインが肩で息をしながら私の右足から手を離した。
 彼が体を引いた拍子に抜けて、栓をなくした精液が太腿を伝って滴り落ちる。
 その感触がトドメになって、これ以上立っていられなくなって壁に凭れ掛かりながら地面に座り込んでしまった。

 『事』が済むとこれまであまり感じなかった突き刺すような冷気に震える手でブラウスのボタンを留める。
 すっかり夜は深まって、吐いた息が白くその場にとどまるほど気温は下がっていた。
 昼間は太陽があったからそこまで寒さを感じなかったが、熱が引いて汗が冷えた今では斬りつけるような冷気が体を蝕んでいる。

「さすがに戻らないと体が冷えるな」
「そう、ですね」
「立てるか?」

 壁を支えに立ち上がろうとしたが、足がガクガク震えて使い物にならない。
 踏ん張ろうと力を入れると余計に足の間から液体が溢れてきそうでそれもできない。

「無理そうだな」

 目の前に立っていたカインは私を横抱きに抱え上げた。
 視点が高くなったことで部屋の変化に気づく。
 いつの間にか。割れていたはずの窓は何事もなかったかのように直っていた。
 呆けていた間に魔法で部屋を片付けたらしい。

「揺れるから掴まってろ」

 宿屋に向かってカインは歩き出した。
 言われた通り彼の首に手を回してしがみつく。
 腕越しに伝わる彼の体温はやはり暖かくて、ほんの少しだけ宿屋が近いことを残念に思ってしまった。
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