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屈服

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 扉が軋み、東堂の帰還を報せる。
 スポットライトに照らされたナツの艶かしい肉体が東堂を出迎えた。

「ただいまっと。外までえっちな臭いが漏れてたぞ」
「おあっ♡おおっ♡」

 ローターのランダムな振動に合わせて、ナツのだらしなく開いた唇から唾液と嬌声が垂れていく。股布には吸水機能を遥かに超えた粘液が端から泡立って太腿を伝う。貫通しきった愛液は絶えず糸を引いてとろとろと染みを作り上げていた。

「で、どう?」
「みとめましゅっ♡きもちぃのみとめましゅ♡だからっ、とめて♡とめてぇっ♡♡」
「よしよし、いい子だね」

 東堂は目を細めてナツの頭を撫でる。これで責め苦が終わるのだと安堵したナツだったが……

「でもちょっと遅かったかな?」

 東堂は満面の笑みでリモコンのスイッチから電池を抜き取り、遠くに投げる。コロコロと転がった電池は部屋の隅へと消えていった。
 ナツの顔からたちまち血の気が失せる。

「うそつきっ! うそつきっ! みとめたらとめるってぇっ!」
「あん?」

 東堂の裏切りを罵倒したナツは、すぐさまその報いを受けることになった。パン、と乾いた音が響いてナツの頰に痛みが走る。

「なんで叩かれたか分かるか?」
「ひっく、ううっ……うそつきっていったからぁっ……」
「反抗的な態度を取るなら、次は腹パンだからな」
「ごめんなさいっ……ごめんなさいぃ……」

 敵に謝罪し、泣きぐずりながらも身体は快感に揺れる。無垢な身体はもはやどこにもなく、ただ処女膜だけが無様にかつて無垢であることを語っていた。

「お願いするなら相応の立場ってモンがあるだろ?」
「すなおじゃなかくて、んっ♡ごめんなさっ、あっ♡この、ろぉたぁ?を、うあっ♡とめて、ください……んんっ♡」
「どうしよっかな」
「なんでも、しますっ♡なんでも、しますからっ♡」

 ナツの無様懇願を聞いた東堂は唇を歪めた。

「なんでもって言われてもなあ。今のお前に何ができんの?」

 最大限の譲歩すら、東堂の気を引くことすらできない。半狂乱になりながらナツは叫ぶ。

「なんでもしましゅっ♡キスもぉっ♡ふぇら?もっ♡がんばりまひゅからぁっ♡」

 自ら蹂躙を受け入れるという敗北宣言。一時の保身のために、未来を切り捨てる浅慮の極み。想像以上の屈服ぶりに東堂は目を見開いた。

「マジか、それじゃあまずはキスからしてもらおうかな」

 東堂が顔を近づけると、ナツは快感に悶えながら目を瞑る。硬く唇を一文字に結び、ファーストキスが奪われるのを許容した。溢れた唾液でぬるぬるの唇が塞がれる。

「んっ、ふうっ、んんっ」

 初めてのキスに緊張していたナツの表情はすぐに緩んだ。何度も角度を変え、唇を重ねるたびに甘い声が湧き上がる。唇という敏感な箇所が唾液でコーティングされたことで、ナツが想定していた以上の快感が嫌悪感を流し去る。
 ツンツンと唇をノックする東堂の舌を、ナツは自ら口内に迎え入れた。ちゅうちゅうと甘えるように東堂の舌に吸い付いて、舌を絡みつかせた。

「んむっ、ふうーっ、れろぉっ、んちゅっ」

 途中から逃げようとする東堂の舌を絡めとり、巻きつけてじょりじょりと肉ブラッシングを施す。太腿を伝う愛液の量はどっと増え、うっとりとした瞳で東堂の目を見つめ返していた。

「……ぷはぁっ、くそ、こいつマジでえげつねぇっ」

 フェラの感触を思い出し、危うく腰が砕け掛けた東堂は無理やりキスを中断した。相手を失った舌は寂しげに宙を彷徨わせ、八の字眉のナツが咎めるような視線で東堂を見つめる。

「とうどおっ♡とおどおっ♡もっと、キスするからぁっ♡」

 蠱惑的に舌を動かし、敵の名前を呼びながら誘惑するキャットナツ。その姿はヒーローというよりもビッチという単語が相応しい。『ローターを止める』という目的すら忘れ、敵との接吻に夢中だ。

 欲に負けた東堂が舌を突き出せば、ナツもまた舌を伸ばして絡ませる。ぬちゅ、ぬちゅと舌が絡まる光景をカメラが淡々と撮影している。

「んうっ、んちゅっ、あっ♡くりゅっ、きちゃうっ♡」

 限界を越えてもなお機械の愛撫を受けていた身体が、絶頂の足がかりに選んだのは精神的オーガズムと唇の快感だった。さらなる刺激を求めて腰をカクカクと振りながらナツは身を乗り出して東堂の唇に自ら重ねる。悲鳴をあげるコスチュームのことなどお構いなしだった。

「いきゅっ♡イ、くうううううっ!!」

 東堂に上半身を押しつけ、ディープキスをしながらナツは盛大に絶頂した。ぶちぶちとレオタードが破け、支えを失った股布がだらんと垂れ、ローターが水溜りに落ちる。同時に障害を失った潮が吹き出して、東堂のスラックスを汚した。
 体力が尽きたナツの頭部から猫耳が消え、無力な少女に戻る。完全に脱力しきった身体を、壁に繋がれた鎖と東堂が支えた。

「こりゃ逸材だわ。長く楽しめそうだ」

 東堂は舌舐めずりをして、気絶したナツのコスチュームから残りのローターを抜き取る。何も知らない本人は呑気に眠りを貪っていたのだった。
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