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折れるプライド

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 がくん、と身体が落ちる感覚と鎖が擦れる音でナツは目を覚ました。いつのまにか意識を落としていたらしい。あれから何時間経ったのかナツには分からなかったが、相応の時間は経ったはずだと信じて救援を待つ。尿意にもぞもぞとしていると、暗闇から呼びかけられた。

「おはよう」

 聞こえてきたのは東堂の声。反射的にナツは超能力を発現させる。たちまちにぴこんと猫耳が生え、毛を逆立てた尻尾が現れる。
 吊り上がった目で睨みつけるその姿は、一度敵に敗北して生け捕りになるという失態を犯したとは思えないヒーローっぷりである。
 しかし、顔から下には敗北の兆しがしっかりと刻まれている。コスチュームの胸元には唾液が双丘の流れに従ってささやかな谷間へと流れ落ちていき、否が応でも男の視線を下腹部へと誘導する。
 腹部は焼き焦げたコスチュームがところどころ穴を開けていて、そこから腹パンで刻み付けられた青い鬱が覗く。

 年頃の娘ならば恥じらいに頰を染めるが、ナツは気にも留めない。それよりも東堂という、己よりも強大な敵が話しかけてくるものだから、己の衣服のことなど気にかける余裕はなかった。

 また照明が点灯され、カメラが回る。

「はいどうも、ケラウスでーす。本日は前回に引き続き高橋ちゃんとのコラボ動画になってます! 概要欄にURL乗っけておくから、是非見てくれ。今回はゲストの高橋ちゃんに視聴者プレゼントが届いたから、早速開封していくぜ」

 訝しむナツを他所に、東堂は地面に置いてあった箱を開封していく。丁寧に梱包されたそれは、今ナツが装着しているギャグボールと似たような構造をした口枷だった。両者の大きな違いは、口に噛ませるものの違いだろう。O型の鉄の輪のようなものがボールの代わりに取り付けられていた。一度でも下を向けば、コスチュームを汚す唾液の量が増えることは間違いない。
 二度も屈辱を味わうまいとナツは身体を捩り──

「暴れんな、っと!」
「うぐっ!? げほっ、げほっ」

 報復として電撃腹パンが与えられた。前回より強めの電撃と威力。予備動作もなく、腹筋に力を入れる猶予もなく腹を衝撃が襲う。
 激しく咳き込んだ瞬間、下半身の違和感に気づいたナツは顔を青ざめた。

(あっ!? だめ、止まって、止まってよう……!)

 前は嘔吐程度で済んでいたが今回は不幸にも、とある内臓が限界を迎えた。

 ──じょろ、じょろろろろろろ

 痛みは生理的欲求の蓋を無理やりこじ開け、レオタードの吸水性能を遥かに上回る量の液体が放出された。微かな呻き声と共に開脚したナツの太腿を黄色い液体がちょろちょろと伝い落ちる。ツンとした尿独特のアンモニア臭が周囲に広がった。

「あー、漏らしちゃったか」
「うっ、ふ、ううっ……」

 改めて言葉にされたナツは羞恥心に顔を染める。呆れたような東堂の視線から逃げるようにナツは顔を背けて目を瞑った。

「トイレは撮影前に済ませておけって言ったろ?」
(な、なんなのよコイツ!?)

 咎めるような東堂の言い振りを聞いて、ナツはきっと睨みつけた。涙が浮かんだ目では迫力もなにもあったものじゃない。

「ご覧ください、キャットがお漏らしをしてしまいましたー! 二度目でもまだ緊張している様子でぇす!」

 ヒーローとは思えない弱々しい眼光と健気に睨みつけてくる気概に、東堂の加虐心が大いに刺激された。三脚に設置していたカメラを取り外し、片手で持ちながら舐め回すようにナツの顔を、地面に広がるお漏らしを撮影していく。

「いいねぇ、その顔。すっごい唆る」

 顎を掴んで持ち上げる。今にも電撃が流されるのではないかと内心では怯えながらも、ナツは睨み付けるのをやめない。声がなくても相手に伝わると思っているかのようだ。
 口枷の端から透明な唾液がとろとろと顎を伝い、コスチュームにぽたぽたと落ちていく。
 ヒーローにあるまじき敗北姿、一般人とは思えない意志の強さ、それらは拘束具と相まって倒錯的で、この光景を見たものに後ろ暗い興奮を与えるだろう。

「折角だし、これで高橋ちゃんと遊ぼっかな」

 『遊ぶ』という単語にナツの瞳が恐怖に揺れる。カメラを三脚に戻し、壁のスイッチを操作する。ナツを拘束していた壁が動き出す。
 壁が迫り出し、膝カックンの要領でナツは地面に膝をつく。無理やりとはいえ、屈服したような体勢を取るのは屈辱的だった。膝に感じる生暖かい尿の感触が嫌悪感を強めている。
 しゃがんだ東堂がナツの髪を掴んで顔をカメラに向けさせる。カメラへ見せ付けるように、無防備な口内に親指を差し入れた。異物に呻き声をあげて吐き出そうとする舌を、指の腹で執拗に撫でる。
 柔らかい人の舌の感触を想像していた東堂は、指先に触れたざらざらとしたものに目を丸くする。
 身体構造を変化させて様々な能力を向上させるナツ特有の超能力の副産物である。

「へえ、ここもネコっぽくなるんだなあ~」
「あええっ、いあいっ!!」

 東堂はポケットからスマホを取り出してカメラを起動する。片手でナツの舌を引き摺り出し、ぱしゃりと撮影した。画面には、舌を掴まれた痛みで涙を目に浮かべる『キャットヒーロー』が無様な姿で切り取られていた。
 言葉にならない喃語はカメラに音声として記憶される。それを自覚したナツの心を沸々と怒りが込み上げた。

(許さないっ! こんな、こんなことをするなんてっ!)

 目を吊り上げて呻き声をあげるナツ。それを下卑た笑みを浮かべて見下ろす東堂。舌を突き出してから、ナツに顔を近づけた。
 反射的に逃げようとするナツだったが、忌々しい鎖を引きちぎるだけの力はない。

(やだ、キスするつもりなのっ!? やだやだやだ、やだよっ!)

 逃げることも抵抗も許されず、ファーストキスが奪われるよりも先に口内が敵に蹂躙される。乙女の純潔が弄ばれ、穢されていくというのに相手を罵倒することもできない。無力さを繰り返し叩き込まれる。

 ──クチュ、ヌチュ、ちゅる、れろ……

 触れた舌が絡み合ってぴちゃぴちゃと音を立てる。東堂はわざと塞ぐことはせず、音が聞こえるようにナツの口内をじっくりと舐った。
 せめて現実だけでも認識するまいと固く目を閉じる。

(うう、気持ち悪い! なまあったかくてぬるぬるしてて変な感じがするう……早く終わって……!)

 それを面白くないと思った東堂は、生意気な少女に身の程と現実を抑えるために顎を掴んで上を向かせた。急な角度変更に目を白黒させたナツを見下しながら、東堂は舌を突き出して唾液を流す。
 糸を引いた唾液がナツの舌に触れる。外気で冷やされたそれは、口内を舌で舐られた時よりも主張が激しかった。ディープキスとはまた違った嫌悪感がナツを襲う。

 吐き出そうと暴れるが、後頭部を掴む手は決してそれを許さない。東堂はもごもごと口を動かしては唾液をナツの口内へ注ぎ入れていく。

「げほっ、ごほっ、がはっ!」

 東堂はナツが咳き込んでも目を細めるばかりで、同情や憐憫するつもりはさらさらなかった。それどころか、あと何回注ぎ込めば自ら飲み込むかと予想を立てている。

「んぐっ、げほっ」

 五回目。ついに呼吸困難に陥ったナツは嫌悪感を忘れて唾液を嚥下した。控えめな喉骨が上下に動き、静かな撮影スタジオに『ごくん』という音が響いた。その音に東堂は口角を上げた。

「うんうん、上手に俺の唾液が飲めて偉いぞ。飲み込みが早いな、さすが学級委員長を任されているだけはある!」

 学校生活での役割を引き合いに出されたナツは精神的屈辱に目を吊り上げる。なおも折れないナツの態度を見た東堂は、立ち上がってズボンのベルトをかちゃかちゃと外す。

(ああ、やっぱりそれが目的なのね)

 ヒーローとして活動する時、もしかしたらこういう事態に陥るかもしれないと周りに引き止められていたことをナツは思い出す。それでも、困っている人がいるなら助けたいと思って、彼女は政府のスカウトを引き受けたのだ。

(他の子じゃなくてよかった。シルフィ先輩には好きな人がいるって聞いていたし……大丈夫、私なら大丈夫)

 気休めの言葉を己に何度も投げかける。なんの根拠もなく、けれど他人でなくてよかったと心の底から安堵した。己よりもっと幼い子であったなら、きっと一生消えない傷になるだろう。ヒーローの自分はバックアップの体勢も整っているから、万が一になっても問題ない。
 拭いきれない不安と恐怖を堪えて、ナツは気丈に振る舞った。それが東堂の加虐心を煽っているとも知らずに。

「そんじゃ、俺のチンコでも舐めてもらおうかな」

 前を寛げた東堂は、取り出したペニスをカメラとナツに見せ付けるように動かす。敗北無様生意気無能ヒーローの失禁と舌の感触で最高潮に興奮していた。血管が浮き出るほど膨張し、全体的に赤黒くなっている。

(こ、これが男の人の……?)

 保健体育の教科書に載る正常時と違って、完全に勃起したペニスを生まれて初めて見るナツは、その大きさと異様さに慄いた。目を見開いて、思わずまじまじとそれを見つめる。先刻の覚悟と気休めの言葉は所詮、無知から来る虚勢でしかなかったのだ。

「つーか、この場合は突っ込むことになるのか?」

 東堂はうすら笑いを浮かべながら、片手でスマートフォンの撮影アプリを起動する。グロテスクなペニスと口枷を装着した猫耳美少女。それがヒーローとして世を賑わせていたキャットとなれば、この一枚だけでネットは湧き立つだろう。
 さらにナツの柔らかく汚れを知らない頰にぺちぺちと当てる。だらだらと垂れる先走りが糸を引く感触と雄の臭いにナツは怯えた表情を見せた。

「あー、猫のフェラってどんなもんだろ。やばそうだな」

 生唾を飲み込みながら、東堂は先端を口枷にあてがう。ギャグボールもなく、ぽっかりと穴が空いた口内への侵入を阻むものは何もない。ナツの抵抗虚しく、ゆっくりと先端が唇を越えて中へと入った。
 他の女と変わらない感触に東堂は不満げに呟く。

「こりゃイマイチか……ん?」

 折角だからと嫌がるナツを押さえつけて、舌の感触を味わおうと腰を動かす。引き抜く際、ペニスの微かな凹凸やくびれに舌そのものが絡み付いて引っかかるような独特の感触があった。
 ネコ科特有の『糸状乳頭しじょうにゅうとうと呼ばれる突起によるものだ。
 味蕾という味覚のための小さな粒の先端が喉奥に向かって鉤爪のような形をして密集して生えている。本来は、唾液を長時間舌の上に留めておき、骨の肉をこそぎ落とす為の器官。

「んぐっ、ぶっ、おごっ!?」

 今では唾液という天然ローションを余さず保持し、ざらざらではなく粒々とした快感を与えることに特化している。奉仕者キャットにまで堕ちた、敵に快楽を与えるための惨め器官が発見された瞬間だった。
 ざらざらというよりはじょりじょりと細かいブラシのように敏感な所を全て刺激していく。

「お? おおっ? これ、思ってたよりやっば……!」

 東堂はナツの前髪を掴み、深いストロークで腰を動かす。喉奥に突き立ててもなお、根本には数センチの余裕がある。ゆるゆるとナツの口内を蹂躙していた彼の顔が快楽に歪む。

「くっそ、なんだこの口マンコ気持ちよすぎだろっ! もう出そうだっ」

 荒い呼吸を吐きながら、ラストスパートをかける東堂。喉を蹂躙される苦痛と未知への恐怖にナツの顔が歪む。東堂が腰を動かす度に混合唾液と雄の先走り汁がぽたぽたとコスチュームの汚れを上書きしていく。

「おごぉっ!?」

 苦しげな呻き声という振動すら、敵に快楽を与えていた。喉奥への刺激を嫌がったナツが暴れた。
 牽制の意味を込めて軽く電撃を流すと、ナツはすっと暴れるのをやめた。ヒーローが暴力に屈した姿を見て、東堂の精神的興奮がピークに達した。

「出すぞ、全部飲めよッ!」

 ついに限界を迎えた東堂は喉奥にある軟口蓋を子宮口に見立て、特濃の白濁精液を食道に流し込む。

「んごぉっ!? んぐっ、んぐっ、んぐっ、んぶっ、んおあっ……」

 太い肉棒に阻まれ、ゼリー状の雄汁は食道に感触を残しながら胃袋へと消えていく。どくどくと注がれた遺伝子情報を、ナツは喉を鳴らしながら飲み込む。

 ずるりとペニスを引き抜くと、敵に屈服した口内が暴露された。
 飲みきれない精液が舌に絡みついて、独特のえぐい苦味が敗北ヒーローの脳をリンチしていた。その無様ヒーローの痴態とクソ雑魚マンコ口が余さず動画機材のメモリーに刻印されていく。

「全部飲めって言ったんだが?」
「おんあっ、おんあおっ!!」

 目に涙を浮かべ、懸命に弁解を謀るナツ。喃語が東堂に伝わるはずもないが、ヒーローの屈服姿に上機嫌な彼はじっとその無様な姿を観察して何かに気づいた。戯れにナツの口内に指をねじ込む。

「うっわ、これ精液が舌のざらざらに絡みついてんのか。えっろいなあ」

 指で舌の上に残った精液を拭うが、塗り広がるばかりで舌から外れることはない。ぱしゃり、ぱしゃりとシャッターを切って、その官能的な光景を永久に残すべく撮影する。
 さて、敗北ヒーローはどんな言葉で吠えるのか。興味が湧いた東堂は口枷を留めていたベルトを外した。

「うあっ、げほっ、げほっ」

 まず、ナツは激しく嘔吐して喉奥にこびりついた精液の塊を吐き出そうともがいた。もし手が自由であれば、今頃は指で口内を掻き回してでも、精液を取り除こうとしただろう。
 次に、口内がより精液で汚れることになるのも構わずに上顎や歯に擦り付けて落とそうと足掻いた。ほんの少しでも味蕾への味覚レイプから逃げようとしたのだ。

「うええっ、おええっ、ぺっ、ぺっ、とれにゃい! とれにゃいいいっ!」

 半狂乱になりながら、首を振り回しながら暴れるナツ。敵の蹂躙に憤るよりも、彼女は不快感の排除を優先した。……ヒーローにあるまじき所業である。

「それ、超能力を解除すれば取れるんじゃないか」
「ふえ……?」

 キョトンとした顔で、ナツはアドバイスをよこした敵の顔を見つめる。コストが安い分、超能力を発現せずにいるメリットがなかった。
 そんな超能力を自ら解除するということはつまり──敵を前に己の武器を放棄するということを意味している。その目的が、不快の排除。

「それ、は……」
「俺の精液を味わいたいなら、別にそのままでも構わないけどな」

 東堂の言葉にナツの瞳が揺れた。
 逡巡し、悩んだナツは……無言で超能力を解除。
 辛うじて残っていたヒーローの面影を自ら消し、迅速に不快の排除を実行する。
 ナツは混合唾液と先走り汁でブレンドされた精液を吐き出して、自ら赤色のコスチュームを透明まじりの白濁液で汚した。そのあまりにも惨めな姿を、眩いシャッターがデジタルへと落とし込む。
 ナツが視線をあげると、スマホ越しに東堂が笑っていた。

「いいねぇ、その姿。すっげぇ惨め」

 映像の確認をする東堂。反射的に超能力をもう一度発現させ、明確な敵意を込めてその背中を睨み付ける。

「ゲスが……」

 小さな声でそう吐き捨てたナツだったが、拘束されて蹂躙を受けた身体では誰一人怯むことはなかった。
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