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第一章

17話 「少し考えさせてもらうよ」

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 クロカタゾウムシの拳がヒガンバナの顔面を捉える刹那、
 
 「甘いのよ」

 ぽつりと呟くと、迫り来る拳を冷静に観察し、首を軽く右に振ることで、いとも簡単に躱してしまう。
 さらに、躱した腕を掴んで上に引っ張ることで位置を反転させ、それまで地面に寝そべっていたクロカタゾウムシの身体が宙に浮いた。
 反対に地面に横たわる形になったヒガンバナは、2本の足でクロカタゾウムシの顎を蹴り上げる。
 
「ヴッッ!」

 顎を蹴り上げられた衝撃で、掴んでいた手を離してしまい、そのまま後ろに倒れ込みそうになったクロカタゾウムシだったが、空中で身体を回転させ、何とか足から着地することが出来た。

「ヒュ~‼︎とんでもなく強えな嬢ちゃん!危うく顎が無くなるところだったぜ!」

 蹴られた自身の顎をさすりながら語るクロカタゾウムシの口調には、全く焦りの色は見えず、表情も依然笑っている。

「しかし気になるな・・・。そんだけ闘えるなら、何でお仲間がやられてる時に助けてやんなかったんだ?・・・あ~!実は仲間とかじゃなく、ただ一緒にいるだけの連中でホントは嫌いだったとかか⁉︎それとも奴らがやられてる姿を見るのが好きなだけか⁉︎どちらにせよ、ロクな性格じゃない事だけは確かだな」

 フッと鼻で笑いながら、ヒガンバナを挑発するように大袈裟な身振りで話す。
 その発言に一瞬、顔をしかめクロカタゾウムシを睨みつけるが、すぐに目を閉じ、息を深く吐くことで感情的にならないよう抑えている。

「私のこの力は、私に敵意を向けた者に対してのみ使える力。誰かと協力して闘おうとしても上手く扱えない!だから皆んなが闘ってる間、私は見てることしか出来なかった‼︎」

 最初は冷静さを取り戻したかと思えたが、言葉が進むにつれ己の不甲斐なさや、あの時助けられなかった後悔が押し寄せてきて声を荒げてしまう。

「でも・・・・・・此処にくれば何の問題もないの。この華園には私とアナタしか居ない。だからアナタは私を狙うしかなくなる。さぁ、早く終わらせましょう」

 左手を伸ばし手のひらを上に向け手招きをする。これまで挑発され続けてきたヒガンバナが、今度は逆にクロカタゾウムシを挑発する。

「流石にオレもバカじゃねぇ。散々やられっぱなしの状況で、さらに無策で突っ込むほど頭イカれてねえよ。オレと嬢ちゃんしか、ここに居ないならむしろ好都合だ。少し考えさせてもらうよ」

「好きにしなさい。ただ、考えれば考えるほどアナタの思考はわ」

 ヒガンバナがこれまでにないほど不気味な笑みを見せる。
 その笑みに釣られるように、この華園の主である彼岸花は、風がないにも関わらず、まるで誰かを誘うように左右に揺れていた。
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