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「新入りだ、仲良くやれよ。」

その夜、看守に連れられて、俺の同室者となる新入りがやって来た。
周りの房の連中が、妙にザワザワしている。

「おいおい、あんな美人が新入りか?」
「すげぇな、お姫様かよ…。」

そんな囚人達の声が聞こえ、俺は突っ伏していた枕から顔を上げた。
2段ベッドの下から新入りの囚人をチラリと見ると、確かに彼はとんでもなく綺麗な青年だった。

サラサラの金髪に、ブルーとイエローのオッドアイ。
背も高く決してひ弱な感じはしないけど、筋肉隆々の囚人達にしてみれば、お姫様なんだろう。
俺も一瞬、いやだいぶ見惚れたけど、周りの房の奴らは、うるさいくらい色めきだっていた。

「や、やあ、俺はマナト。」
「………グレイだ。」

左右で色の違う瞳が、上から下まで俺を見つめる。

「……変わった気配がするな。魔術師か?」

そして、リオンと同じ様なことをまた聞かれた。
俺は、異世界云々は避けつつ、検査で魔力はないと言われたことや、これまでの経緯について一通り話す。

「…冤罪ね。」

グレイは綺麗な顔でそれだけ言うと、2段ベッドの上に上がって横になった。

「グレイは、どうしてこんな所に?」
「色々やり過ぎて忘れた。」

その答えに、思わずビビる。
とんでもなく綺麗な顔をした極悪人なんだろうか…っ!?
途端に黙り込んだ俺に、

「…これくらいでビクビクするなよ。結構可愛い顔してるし、気をつけねーと襲われるぞ。」

グレイはそう言って、あっさり眠ってしまった様だ。
静かな寝息が聞こえてくる。

確かに、ビクビクしていても仕方がない。俺もとりあえず眠ることにした。

しかし深夜になると、隣の房からまた怪しい声が聞こえてきた。
リオンがいい様にされていると思うと、耳を塞ぎたくなる。
俺も、同じ様にするしかないんだろうか。
綺麗な顔をしたグレイは、これからどうするんだろう。
そんなことを考えていると、なかなか睡魔はやってこなかった…。





翌朝。
一応先輩として、俺はグレイを食堂へ案内していた。
房の外へ出るや否や、囚人達がやたら俺達をジロジロと見てくる。

「あれが噂のお姫様かよ。すげーべっぴんだな。」
「あんなお姫様とお嬢ちゃんが同室じゃあ、勿体ねぇ。」

好き勝手言ってくる囚人達に、グレイは綺麗な眉を顰めて始終不快そうだ。

食堂で席を探していたら、先にテーブルについていたリオンを見つけた。
今日はジャックの隣に座らされている。
俺の視線でリオンもこちらに気づいた様だけど、俺の隣のグレイを見るとなぜか真っ青になった。

「おっ、隣のかわい子ちゃん達じゃねぇか。こっち座れよ。」

ついでに目があってしまったジャックから、声をかけられた。
青ざめているリオンが、痛々しい。
どうせ誰かにヤられるなら、ジャックを選べばリオンの負担が少なくなるかもしれない…。
そんな苦肉の選択をして、俺はジャックの目の前に座った。

すると、なぜかグレイもついて来て、俺の隣に腰を下ろす。
リオンは、そんなグレイを見て泣きそうな顔をしていた。

「素直なかわい子ちゃん達じゃねぇか。俺はジャックだ。」
「お、俺はマナト。」
「…グレイだ。」

ジャックが、ニヤニヤと嫌な視線を向けてくる。グレイは、淡々と朝食を食べ始めた。

「年はいくつだ?」
「25です…。」
「18。」
「マナトはもっと若く見えたぜ。で、何しでかしたんだよ?」
「………。」
「王子を夜這いした。」

グレイの台詞に、リオンが咽せた。
俺も驚いたけど、ジャックは楽しそうに微笑っている。

「面白そうなお姫様じゃねぇか。なぁ、俺の所へ来いよ。イイ思いさせてやるから。」

ジャックがそう言って、グレイの左手にいやらしく手を重ねる。

「…お、おいっ! 若い子にばかり手を出さずに、俺にしとけよ…!」

せめて20歳くらいだと言えば良かったと後悔しながらそう言うと、

「こういうのは、夜だけにしてくれよ。」

グレイは、自分で重ねられた手をさり気なく引き、どこか色っぽい言い方をした。

「…なかなか話がわかりそうだ。今夜から俺の房へ来いよ。看守には、話をつけておいてやる。」
「わかった。俺も一晩中あんたらのヤラシイ声聞かされて、溜まってたんだ。」

グレイはリオンをチラリと見て、意味ありげに言った。
昨夜、隣の房の2人がイロイロしていた声を、グレイも聞いていたらしい。
リオンは、居た堪れない様な表情になっている。

そしてジャックは上機嫌で、看守に話をつけに行ってしまった。
残された俺達の間に、気まずい空気が流れる。

「久しぶりだな、リオン。なかなか強かに生き抜いてるじゃん。」
「……グレイ様。」

どうやら2人は知り合いだった様だ。
リオンは、恥いるように俯いている。

「グレイ、そんな言い方はないだろ!」

俺はつい、そう言ってしまっていた。
こんなことで傷つけ合うのは良くない。
グレイだって、今夜は……。

「別にイヤミじゃねーよ。今夜、仇を取ってやるから。」

その一言に、リオンがハッと顔を上げた。

「魔法が封じられていては、いくらグレイ様でも…。」
「まぁ、見てな。」

心配そうなリオンの頭を、グレイがポンっと軽くたたく。そして、

「マナトもリオンの知り合いだったんだな。」
「昨日、会ったばかりだけど…。」
「へぇ、それで庇ってやろうとしたんだ?」

体を差し出そうとしたことを言われ、ずっと冷たい顔だったグレイが、俺にも笑顔を見せてくれた。
綺麗なだけじゃなく、何だか頼もしい笑顔だ。
リオンも表情が柔らかくなり、俺に色々と説明してくれる。

グレイは、この国でトップクラスの実力を持った天才魔術師らしい。
2人は、何度か一緒に仕事をした仲なんだそうだ。

そしてグレイもリオンと同じ様に、傍若無人な第二王子の命令に背いたため投獄されたと話していた。
加勢を迫られ断ったら、夜這いされそうになったらしい。
夜這いしたわけじゃなかったのか…。

「加勢を断ったからといって、体まで奪われそうになったのですか!?」
「めちゃくちゃだろ? 最近の第二王子は本当におかしいぜ。ひどく禍々しい気配もするしな…。」
「何かの呪いでしょうか…?」
「……いや、普通の呪いじゃない。第二王子が魔王の封印を解いて契約したっていう噂があって、俺は古の魔王なんて信じちゃなかったけど、本当かもしれねーな…。」

グレイの台詞に、リオンが持っていたフォークを落とした。
俺も、食べていた手が止まる。
『魔王』なんてものがいるのか…!?
さすが異世界だと感心してしまい、

「じゃあ、魔王を倒さないと…!」

つい勢い込んで言った俺に、グレイとリオンが一瞬ポカンとした。

「マナト、そうしたいのは山々ですが、こんな所に投獄されては…。でも、もし魔王が蘇ったのなら聖女様も…。」

グレイは冷めた横顔で朝食の続きを食べているが、リオンが言うには、古の昔に魔王を封印したのは異世界から来た聖女とこの国の魔術師だったらしい。
だから、今回も…という話の様だ。

異世界から来た聖女…?
俺はひとり考え込んだ。
俺も一応、異世界から来たけど…。
でも俺は男だし、自分から名乗り出るには何の力もなさすぎる。

「その、異世界から来る人って、結構多かったりする…?」
「…魔王討伐時代以来、聞いたことねぇな。さすがに異世界なんて迷信だろ。お国のために、脱獄でもするしかねーか…。」

グレイは、そう言ってため息をついている。

しょっちゅう異世界から来るわけじゃないなら、俺は一体…。
いやでも、どう考えても聖女ではないよな…。

俺はひとり自問自答しながら、結局異世界から来たことは言い出せなかった。

























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