拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀

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第三章

言葉の続き

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 プシュー。

 陽が傾き、昼夜の境目が訪れる。
 迎えのバスが来たのを見て、明梨がもう一度お婆さんに挨拶をする。
 お婆さんの方も、今日1日がよほど楽しかったのだろうか、心なしか若返ったような雰囲気が感じられた。

 動き出すバスの中からお婆さんに手を振ってお別れをすると、皆はすぐに睡魔に呑まれてしまった。
 後ろ側の座席を見ても、ほとんどの生徒が寝てしまっている。
 行きのバスの様子とは打って変わり、ここには優しい静けさが広がっていた。

 いつの間にか澤谷先生も寝てしまっている。
 先生の方も疲れが溜まっているのだろう。

 そんな状況に対して、僕は全く眠気を感じていなかった。
 昨日に比べてかなり動いたはずなのに、終わってみれば疲れなどは全く残っていなかった。
 昨日のこともあって、今日は班の人からもよく絡まれたが、それも嫌じゃなかった。

 きっとこの充実感が僕にとってとても新鮮なものだから、疲れなんて感じている暇もなかったのだろう。

 なんて、今日の出来事を振り返っていると、隣に座っている明梨が僕の肩に頭を乗せてきた。
 いつもの甘い香りに少し土の匂いが混ざっている。

 「……明梨、起きてるでしょ?」
 「…………やっぱりわかるよね。 ……でも、ちょっとこのままにさせて…………」

 きっとこんなところを見られたら、また付き合ってるだなんて噂をされたり、ネタにされるのだろうけど、今はそんな心配は必要ない。
 僕は無言で彼女を受け入れる。

 まだ付き合ってから1週間も経っていないが、明梨の態度には大きな変化が見られた。
 こうして僕に甘えてくるようになったのだ。
 今まで僕は明梨のことを頼れるお姉さんみたいなタイプと見ていたが、意外に甘えたがりなタイプだとわかった。
 こうしている時間が僕にとっては幸せだから、むしろプラスだけど。

 「ねえ……」
 「……ん?」
 「優って、私のことどう思ってるわけ……?」
 「え?」

 突然、肩に頭を乗せている明梨が小声で質問を飛ばしてきた。

 「どう思うって、どういうこと? 僕は明梨が大好きだよ。 二股だとか浮気だとか、そんなものはそもそも僕には出来ないだろうし、仮に出来たとしても……僕は明梨だけのものだよ」

 少し恥ずかしかったが、僕は心の中にあることを嘘偽り無く述べた。
 それを聞いた明梨は、ほんのりと頬を赤く染める。

 「……っ、そこまで言われると照れる…………。 私が……聞きたいのは……」

 後半の方は何も聞き取れなかったが、何かを言おうとしている明梨を待つ。
 しかしーー

 「……ううん、やっぱりなんでもない。 私も大好きだよ、優」

 なんでもないってことは、他にも何かあったのだと勘繰ってしまうが、それも彼女の最後の言葉で打ち消されてしまった。
 僕もさっきの明梨と同じように顔を赤くして、『そ、そっか』と答えることしか出来ず、彼女の言葉の続きを知ることはなかった。
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