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第一章
強固な橋
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「優はさ、きっと自分に自信がないんだよ。 もっと自分に自信を持っていいと思う」
彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
自分に自信を持つ?
そういう考え方から既に僕とは違う世界に住んでいると思う。
自分に自信を持てる人なんて、アピールポイントのある優秀な人間とか、後先考えられない馬鹿くらいだ。
日本人は特にそうだ。
人の目を常に気にして、自分の評価をなるべく落とさないように周りに合わせて生きていく。
あるいは、存在感を出さない、といったところか。
「僕だって、出来ることなら明梨や玲だったり、澤谷先生のような人間になりたかったよ。 君たちとは住む世界が違うんだ」
あくまでも冷静に、ゆっくりと話す。
今日は僕にとってはお別れを伝えにきたようなものだ。
ここでヒートアップしても、先週の二の舞になる。
けれど、明梨の言葉には段々と熱を帯びてきているようだった。
「優だってなれるんじゃないかな。 自分を認めて、もっと堂々と生きたら、優は変わる」
「なぜ僕がそうなる必要がある? 僕みたいな暗い奴は部屋の隅の埃のように溜まっておけばいい、そう本音では思っているんじゃないのか?」
「なんで、悪いこともなにもしていない優をそうやって扱う必要があるの? 優だって、そんな扱いを受けるのは嫌でしょ?」
「君らにはわからないだろ。 僕が君らのようになろうとしても、完全になりきれないことを。 明梨や玲のような生活を夢見ても、それは夢で終わってしまうんだよ」
「なんで……」
明梨の言葉から勢いが失われていく。
今にも虚空に吸い込まれそうな細い声で、明梨は続ける。
「別に、優のことは暗い人間だなんて私は思っていないし、仮に優が一般的に暗い人間って呼ばれていたとしても、私は仲良くなりたいと思うよ……」
ペラペラで、中身がないような言葉にしか聞こえない。
中学でこういう言葉は嫌というほど聞いてきた。
コーヒーを流し込んで、僕は言い放つ。
「上っ面だけの関係なんてごめんだよ。 良くて知り合い以上、友達未満ってところだろ。」
「違う! そんなのじゃない!」
「じゃあ何だって言うんだよ! 上下関係だとか、カーストだとか……そういう些細なことから決められる身分が無くならない限り、僕と君が対等になる術はないんだ!」
「それを決めるのは私たちじゃない。 周りの人達でしょ? だからといって、人と関わらないっていう方法は間違ってる。 優は……人と関わることを軽視しすぎ。 優が思うような態度を取る人だっているけど、みんながそんな考えをしているんじゃ、ない。 優はまだ全然分かってない」
明梨は冷たく、しかし僕を諭すように言い切った。
彼女の言いたいことはわかる。
でも、そう簡単なものじゃない。
人を信じ、相手を知ることが、僕に出来るだろうか。
暫し静寂が流れた後、口を開いたのは彼女だった。
「先週の優の態度には、驚いた。 でも、怒ってはないよ。 優の思っていることが少し分かったような気がして、むしろ嬉しかった…………。 ねえ、私たちと出会ってから1週間、優は楽しかった?」
僕は閉口する。
楽しかったとはっきり言い切れないが、楽しくなかったと言えば嘘になる。
そうして僕はおずおずと言葉を発する。
「僕、は…………。 いつもよりは、楽しかった……かな」
「そっか。 良かった、そう言ってくれて。 私だけだったらどうしようかと思ったよ」
そういって、明梨は今日、僕に初めて笑顔を見せる。
その笑顔は、どこか寂しそうな笑顔だった。
ああ、この人はいい人だ。
僕のせいで、こんな表情をしている。
彼女に、こんな笑顔は似合わない。
彼女の屈託のない笑顔が見たいと、そう強く思った。
「ん」
彼女が机の上に手を差し出す。
数秒経って意図に気づき、一瞬躊躇ったが、僕も同じように手を差し出す。
ーーぎゅっと、彼女の小さい手が僕の手を握る。
「僕は、変わるよ」
そう明梨に言うと、彼女はさっきとは違った寂しさのない笑顔を見せて言う。
「なんか、ありがとう。 改めてよろしくね、優」
「礼を言うのは僕のほうだよ。 それと、ごめんね。 こちらこそよろしく、明梨」
友達ってこういうのを指すのだろうか。
崩れかかっていた関係が、より強いものに生まれ変わったような気がした。
彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
自分に自信を持つ?
そういう考え方から既に僕とは違う世界に住んでいると思う。
自分に自信を持てる人なんて、アピールポイントのある優秀な人間とか、後先考えられない馬鹿くらいだ。
日本人は特にそうだ。
人の目を常に気にして、自分の評価をなるべく落とさないように周りに合わせて生きていく。
あるいは、存在感を出さない、といったところか。
「僕だって、出来ることなら明梨や玲だったり、澤谷先生のような人間になりたかったよ。 君たちとは住む世界が違うんだ」
あくまでも冷静に、ゆっくりと話す。
今日は僕にとってはお別れを伝えにきたようなものだ。
ここでヒートアップしても、先週の二の舞になる。
けれど、明梨の言葉には段々と熱を帯びてきているようだった。
「優だってなれるんじゃないかな。 自分を認めて、もっと堂々と生きたら、優は変わる」
「なぜ僕がそうなる必要がある? 僕みたいな暗い奴は部屋の隅の埃のように溜まっておけばいい、そう本音では思っているんじゃないのか?」
「なんで、悪いこともなにもしていない優をそうやって扱う必要があるの? 優だって、そんな扱いを受けるのは嫌でしょ?」
「君らにはわからないだろ。 僕が君らのようになろうとしても、完全になりきれないことを。 明梨や玲のような生活を夢見ても、それは夢で終わってしまうんだよ」
「なんで……」
明梨の言葉から勢いが失われていく。
今にも虚空に吸い込まれそうな細い声で、明梨は続ける。
「別に、優のことは暗い人間だなんて私は思っていないし、仮に優が一般的に暗い人間って呼ばれていたとしても、私は仲良くなりたいと思うよ……」
ペラペラで、中身がないような言葉にしか聞こえない。
中学でこういう言葉は嫌というほど聞いてきた。
コーヒーを流し込んで、僕は言い放つ。
「上っ面だけの関係なんてごめんだよ。 良くて知り合い以上、友達未満ってところだろ。」
「違う! そんなのじゃない!」
「じゃあ何だって言うんだよ! 上下関係だとか、カーストだとか……そういう些細なことから決められる身分が無くならない限り、僕と君が対等になる術はないんだ!」
「それを決めるのは私たちじゃない。 周りの人達でしょ? だからといって、人と関わらないっていう方法は間違ってる。 優は……人と関わることを軽視しすぎ。 優が思うような態度を取る人だっているけど、みんながそんな考えをしているんじゃ、ない。 優はまだ全然分かってない」
明梨は冷たく、しかし僕を諭すように言い切った。
彼女の言いたいことはわかる。
でも、そう簡単なものじゃない。
人を信じ、相手を知ることが、僕に出来るだろうか。
暫し静寂が流れた後、口を開いたのは彼女だった。
「先週の優の態度には、驚いた。 でも、怒ってはないよ。 優の思っていることが少し分かったような気がして、むしろ嬉しかった…………。 ねえ、私たちと出会ってから1週間、優は楽しかった?」
僕は閉口する。
楽しかったとはっきり言い切れないが、楽しくなかったと言えば嘘になる。
そうして僕はおずおずと言葉を発する。
「僕、は…………。 いつもよりは、楽しかった……かな」
「そっか。 良かった、そう言ってくれて。 私だけだったらどうしようかと思ったよ」
そういって、明梨は今日、僕に初めて笑顔を見せる。
その笑顔は、どこか寂しそうな笑顔だった。
ああ、この人はいい人だ。
僕のせいで、こんな表情をしている。
彼女に、こんな笑顔は似合わない。
彼女の屈託のない笑顔が見たいと、そう強く思った。
「ん」
彼女が机の上に手を差し出す。
数秒経って意図に気づき、一瞬躊躇ったが、僕も同じように手を差し出す。
ーーぎゅっと、彼女の小さい手が僕の手を握る。
「僕は、変わるよ」
そう明梨に言うと、彼女はさっきとは違った寂しさのない笑顔を見せて言う。
「なんか、ありがとう。 改めてよろしくね、優」
「礼を言うのは僕のほうだよ。 それと、ごめんね。 こちらこそよろしく、明梨」
友達ってこういうのを指すのだろうか。
崩れかかっていた関係が、より強いものに生まれ変わったような気がした。
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