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001.筋肉至上主義
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気がつけばため息を吐いてる自分に気がつく。
幸せが逃げるなんて言う、迷信だか都市伝説だか分からないものは信用してないけど、ため息ばかり吐いてる自分を好意的には受け止められない。
つまり、よろしくない。
「梨紗、昨日の合コン……は、その様子からしてあんまりだったみたいね」
正面の椅子に座った同期のエリは、ランチののったトレイを置きながら苦笑いを浮かべた。
医者と合コンとか、弁護士との合コンとか、そんなのどうでも良い。
「梨紗は人気高いのに、勿体ない」
何が勿体ないものか、と思う。
私が求めているのはハイスペックではない。重量級マッチョ!
細マッチョ? ハッ、臍で茶を沸かすわ。マッチョとは、マッシブさを伴ってこそなのよ!
「本当に、梨紗ってば残念美人よねぇ」
「うるさい」
ランチのペンネを口に入れる。
適当に選んだ割には美味しかった。うちの食堂のメニューは大変ありがたい事に外れがない。
筋肉に目覚めてからと言うもの、その鍛え抜かれた肉体と並んで遜色のないように己を磨いて磨いて磨いて。
努力の結晶と言えるプロポーション。長く伸びた黒く艶やかな髪。
にっこり微笑む時の角度も研究を重ね、一番良く見える笑顔も鏡の前で練習してきた。
筋肉を維持する為のタンパク質重視の料理も覚えた。
「何だっけ? 昨日のメンツ」
「消防士」
消防士はマッチョが多いと聞いていた私。
毎年イケメン消防士のカレンダーを愛用してる私の期待値はとどまる所を知らず。本気で向かった戦場にいたのは、ただのチャラ男ばかりだった。
確かにマッチョではあった。筋肉は大事。私にとっては必須。
でもね、筋肉にも貴賤があるんです!
筋肉さえあれば全ての欠点を補える訳じゃない。
面子を見た時点で駄目かも知れないと思いつつも、一縷の望みをかける。
学生の合コンかとツッコミたくなるテンションで開始。
テーブルの下で本日のメンバーにLINEをする。
絶対に私の連絡先を教えないで下さい。
次々と返ってくる"OK"のスタンプに、幹事女子からのショックを受けた顔のスタンプ。
予想通りの展開だった。
消防士達はこちらを酔い潰したいのか、とにかくお酒をついでくる。……お持ち帰り狙ってる?
最初は笑顔だった隣の席の子たちから笑顔が消えていく。幹事の顔色が悪くなっていくけど、私たちも自分が可愛い。
ガードが硬くなってる私たちに消防士たちも焦りだす。盛り上げようとしても無理。連絡先を交換しようとあっちの誰かが言った時には、おつかれさま~の締めの挨拶をして強制解散。
以上が昨日の合コンの顛末。
「あんなあからさまなの、久々に参加した」
ため息を吐く私に、あらら、とエリが言う。
「梨紗は、マッチョに何を求めてるの?」
「普通の人格よ」
そう、何も難しい事は言ってない。
マッチョであれ──これは必須条件。
これまで出会ったマッチョと来たら、ナルシストとか、実は内面が草食だとか、マザコンだったとか、とにかく内面と外見のマッチョさが噛み合ってない。
何も肉食じゃなきゃ嫌だなんて言ってない。
チャラ男も嫌だ。
皆がイケメンを求めるように、私はマッチョを求めているだけなのだ。
「ラグビー選手とかアメフト選手を狙えば良いのに」
「大体が既に彼女がいるのよ! 細身のイケメンが好まれる日本ではね、マッチョなラグビー選手やアメフト選手は既に、その嗜好に目覚めた女子に取られてるの!」
「嗜好って……ストレートねぇ……」
「外国人を狙おうかしら」
そう、私はマッチョに目覚めたのが遅かった。
完全なる出遅れ。後発も後発過ぎて、先発組からしたら鼻で笑われるレベル。
それでも諦めずに努力はしているものの、連敗続きに凹んでくる。
「そう言うエリはどうなの?」
「私は3次元に興味ありませーん」
パッと見、そんな風には全然見えないけど、エリは2次元をこよなく愛する腐女子。BLと言う奴。
興味がないから聞かないけど、彼女の長時間労働によって稼がれた残業代、ボーナスはまるっと推しに注ぎ込まれているらしい。
エリは会社では絶対に趣味の話をしない。止まれない自信がある、と力強く言ってて、引いた。
「梨紗の理想は外国か、2次元にしかいないかもねー?
来ちゃいなよ、こっちにー」
「何の勧誘なのよ」
言いながらまたため息が出てしまう。
あぁ、本当にため息癖がついてる気がする。
*****
週末。
諸々のストックが切れていた事を思い出し、髪を後ろに一つにまとめ、メガネ、スッピン、上下ユニ●ロのスウェットで薬局に向かった。
丁度良い事にポイント5倍になっていた。
前から試してみたかったシャンプーやらリンス、トリートメント、フェイスパック、ハンドクリーム、入浴剤、etc……。
薬局でストレス発散もどうかとは思うけど、片っ端から買って、大きなビニール袋二つに分けられた荷物を持って店を出る。
店の入り口の、よくあるマット──いらっしゃいませ、と書いてあるアレ、の上を通り過ぎようとした時、制服を着たJKとすれ違った──筈だった。
ここ、何処よ?
JKと私、異世界転移しました。
何でそんな単語知ってるかって?
同期のエリが言ってたから。
幸せが逃げるなんて言う、迷信だか都市伝説だか分からないものは信用してないけど、ため息ばかり吐いてる自分を好意的には受け止められない。
つまり、よろしくない。
「梨紗、昨日の合コン……は、その様子からしてあんまりだったみたいね」
正面の椅子に座った同期のエリは、ランチののったトレイを置きながら苦笑いを浮かべた。
医者と合コンとか、弁護士との合コンとか、そんなのどうでも良い。
「梨紗は人気高いのに、勿体ない」
何が勿体ないものか、と思う。
私が求めているのはハイスペックではない。重量級マッチョ!
細マッチョ? ハッ、臍で茶を沸かすわ。マッチョとは、マッシブさを伴ってこそなのよ!
「本当に、梨紗ってば残念美人よねぇ」
「うるさい」
ランチのペンネを口に入れる。
適当に選んだ割には美味しかった。うちの食堂のメニューは大変ありがたい事に外れがない。
筋肉に目覚めてからと言うもの、その鍛え抜かれた肉体と並んで遜色のないように己を磨いて磨いて磨いて。
努力の結晶と言えるプロポーション。長く伸びた黒く艶やかな髪。
にっこり微笑む時の角度も研究を重ね、一番良く見える笑顔も鏡の前で練習してきた。
筋肉を維持する為のタンパク質重視の料理も覚えた。
「何だっけ? 昨日のメンツ」
「消防士」
消防士はマッチョが多いと聞いていた私。
毎年イケメン消防士のカレンダーを愛用してる私の期待値はとどまる所を知らず。本気で向かった戦場にいたのは、ただのチャラ男ばかりだった。
確かにマッチョではあった。筋肉は大事。私にとっては必須。
でもね、筋肉にも貴賤があるんです!
筋肉さえあれば全ての欠点を補える訳じゃない。
面子を見た時点で駄目かも知れないと思いつつも、一縷の望みをかける。
学生の合コンかとツッコミたくなるテンションで開始。
テーブルの下で本日のメンバーにLINEをする。
絶対に私の連絡先を教えないで下さい。
次々と返ってくる"OK"のスタンプに、幹事女子からのショックを受けた顔のスタンプ。
予想通りの展開だった。
消防士達はこちらを酔い潰したいのか、とにかくお酒をついでくる。……お持ち帰り狙ってる?
最初は笑顔だった隣の席の子たちから笑顔が消えていく。幹事の顔色が悪くなっていくけど、私たちも自分が可愛い。
ガードが硬くなってる私たちに消防士たちも焦りだす。盛り上げようとしても無理。連絡先を交換しようとあっちの誰かが言った時には、おつかれさま~の締めの挨拶をして強制解散。
以上が昨日の合コンの顛末。
「あんなあからさまなの、久々に参加した」
ため息を吐く私に、あらら、とエリが言う。
「梨紗は、マッチョに何を求めてるの?」
「普通の人格よ」
そう、何も難しい事は言ってない。
マッチョであれ──これは必須条件。
これまで出会ったマッチョと来たら、ナルシストとか、実は内面が草食だとか、マザコンだったとか、とにかく内面と外見のマッチョさが噛み合ってない。
何も肉食じゃなきゃ嫌だなんて言ってない。
チャラ男も嫌だ。
皆がイケメンを求めるように、私はマッチョを求めているだけなのだ。
「ラグビー選手とかアメフト選手を狙えば良いのに」
「大体が既に彼女がいるのよ! 細身のイケメンが好まれる日本ではね、マッチョなラグビー選手やアメフト選手は既に、その嗜好に目覚めた女子に取られてるの!」
「嗜好って……ストレートねぇ……」
「外国人を狙おうかしら」
そう、私はマッチョに目覚めたのが遅かった。
完全なる出遅れ。後発も後発過ぎて、先発組からしたら鼻で笑われるレベル。
それでも諦めずに努力はしているものの、連敗続きに凹んでくる。
「そう言うエリはどうなの?」
「私は3次元に興味ありませーん」
パッと見、そんな風には全然見えないけど、エリは2次元をこよなく愛する腐女子。BLと言う奴。
興味がないから聞かないけど、彼女の長時間労働によって稼がれた残業代、ボーナスはまるっと推しに注ぎ込まれているらしい。
エリは会社では絶対に趣味の話をしない。止まれない自信がある、と力強く言ってて、引いた。
「梨紗の理想は外国か、2次元にしかいないかもねー?
来ちゃいなよ、こっちにー」
「何の勧誘なのよ」
言いながらまたため息が出てしまう。
あぁ、本当にため息癖がついてる気がする。
*****
週末。
諸々のストックが切れていた事を思い出し、髪を後ろに一つにまとめ、メガネ、スッピン、上下ユニ●ロのスウェットで薬局に向かった。
丁度良い事にポイント5倍になっていた。
前から試してみたかったシャンプーやらリンス、トリートメント、フェイスパック、ハンドクリーム、入浴剤、etc……。
薬局でストレス発散もどうかとは思うけど、片っ端から買って、大きなビニール袋二つに分けられた荷物を持って店を出る。
店の入り口の、よくあるマット──いらっしゃいませ、と書いてあるアレ、の上を通り過ぎようとした時、制服を着たJKとすれ違った──筈だった。
ここ、何処よ?
JKと私、異世界転移しました。
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同期のエリが言ってたから。
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