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第四章 魔女の国

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「ダリアは、姉妹のように育ったキルヒシュタフを大切に思っていたの。
キルヒシュタフの孤独を助けたくても、相反する性質を持つが故に、どうしても共に生きることは出来なかった」

 アマーリアーナ様の指がパフィの髪を撫でる。

「それでも助けようと動いた時にはもう遅かった。王子が死に、キルヒシュタフは壊れてしまっていたから」
「だから、キルヒシュタフの娘だけは絶対に助けようと決めたのよ」

 二人の魔女は立ち上がり、頭を下げた。
 どうしたんだろうと思っていると、ノエルさんが身体を震わせた。
 辺りを見回していたら、真っ赤な髪の女の人がいた。七色の尾羽を持つ、人が乗れるぐらい大きな鳥に乗っていた。

「遅くなった」
「偉大なる始祖の魔女 ダリアよ、ようこそお越しくださいました」
「我らが親愛なる姉よ、あなたをお待ちしておりました」

 アマーリアーナ様とヴィヴィアンナ様が挨拶をする。そうか、焦熱の魔女 ダリア様。
 パフィやアマーリアーナ様たちと違って、いるだけで空気が重くなった気がする。

「加減出来ているか?」

 ダリア様は自分の身体の周りを見る。
 アマーリアーナ様が僕とノエルさんを見て、「ある程度抑えきれていると思うわ」と答えた。

 ノエルさんの額に沢山の汗が浮かんでる。

「ノエルさん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ、ありがとう、アシュリー」

 ダリア様は僕たちを見た。

「早々に済まそう。人の子を傷付ける趣味はないのでな」

 鳥から降りたダリア様はパフィのそばに座り、髪と頰を撫でた。

「我が盟友キルヒシュタフの子 パシュパフィッツェよ。そなたが命を賭してキルヒシュタフを止めてくれたこと、礼を言うぞ。本来ならば、我がせねばならぬことであった」

 立ち上がったダリア様はノエルさんを見る。

「そなたたちはミズルの花を作り替えたであろう。その種をここに持って来るのだ」
「はい」

 ノエルさんは僕を見た。
 僕を置いて行くことを心配しているのだと思う。

「大丈夫です、ノエルさん」
「すぐ戻るから」

 ノエルさんは部屋を出て行った。

「さて、パシュパフィッツェの弟子 アシュリーよ」
「はい」
「ミズル草を作り出したのは我だ」

 魔素を好む草。あれをダリア様が?

「魔力を多く持つ人が生まれぬように、魔物に分散されるようにしたのだが、あれはそなたたち人の子に迷惑をかけた」

 キルヒシュタフ様を止めるために。

「我ら魔女は何のために生まれ、何のために生きるのか、万の時を生きても答えが出ぬ。
アシュリーよ、おまえはどう考える」

 パフィからよくされた質問みたいで、なんとなく胸が温かくなった。
 アマーリアーナ様はパフィを魔女として育てたと言ってた。ダリア様もパフィを育てたのかもしれない。

「魔女も、人も、魔物も動物も、何かのために生まれるのではないと思います。
意味が欲しくなってしまうかもしれません。でもきっと、ないと思います」
「ほう?」

 パフィは言ってた。
 スキルに頼るなって。それはただの才能で、ないとしても死にはしない。
 なくても好きになっていい。
 やりたいことをやれ。
 楽しめ。

「生きるためです」

 パフィはいつも面倒そうだったけど、何かをすると決めた時は全力だった。

「生きればいいんだと思います。理由なんてなくて、自分を生きればいい、僕はそう思います」
「実にパシュパフィッツェの弟子らしき答えよな」

 ダリア様はにやりと笑う。

「その通りだ、人の子よ。
あるがままを受け入れよ。流れるもまたよし、逆らうもよし。だが、奪うものは奪われる。傷付けるものは傷つけられる。それが道理だ。
己の選択により未来は作られるのだ。変えられない未来はある。神が干渉した場合はな」

 神様。

「神様はどうして人にスキルを授けるのですか?」
「ただの祝福にすぎぬ。人は愚かにも与えられたものに優劣を付けるがな。
スキルはな、弱き人の子の人生に、少しでも幸いがあるようにとの願いが込められたものなのだ。運命を決めるものではない」

 運命を、決めるものじゃない。
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