255 / 271
第四章 魔女の国
063-4
しおりを挟む
「ダリアは、姉妹のように育ったキルヒシュタフを大切に思っていたの。
キルヒシュタフの孤独を助けたくても、相反する性質を持つが故に、どうしても共に生きることは出来なかった」
アマーリアーナ様の指がパフィの髪を撫でる。
「それでも助けようと動いた時にはもう遅かった。王子が死に、キルヒシュタフは壊れてしまっていたから」
「だから、キルヒシュタフの娘だけは絶対に助けようと決めたのよ」
二人の魔女は立ち上がり、頭を下げた。
どうしたんだろうと思っていると、ノエルさんが身体を震わせた。
辺りを見回していたら、真っ赤な髪の女の人がいた。七色の尾羽を持つ、人が乗れるぐらい大きな鳥に乗っていた。
「遅くなった」
「偉大なる始祖の魔女 ダリアよ、ようこそお越しくださいました」
「我らが親愛なる姉よ、あなたをお待ちしておりました」
アマーリアーナ様とヴィヴィアンナ様が挨拶をする。そうか、焦熱の魔女 ダリア様。
パフィやアマーリアーナ様たちと違って、いるだけで空気が重くなった気がする。
「加減出来ているか?」
ダリア様は自分の身体の周りを見る。
アマーリアーナ様が僕とノエルさんを見て、「ある程度抑えきれていると思うわ」と答えた。
ノエルさんの額に沢山の汗が浮かんでる。
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ、ありがとう、アシュリー」
ダリア様は僕たちを見た。
「早々に済まそう。人の子を傷付ける趣味はないのでな」
鳥から降りたダリア様はパフィのそばに座り、髪と頰を撫でた。
「我が盟友キルヒシュタフの子 パシュパフィッツェよ。そなたが命を賭してキルヒシュタフを止めてくれたこと、礼を言うぞ。本来ならば、我がせねばならぬことであった」
立ち上がったダリア様はノエルさんを見る。
「そなたたちはミズルの花を作り替えたであろう。その種をここに持って来るのだ」
「はい」
ノエルさんは僕を見た。
僕を置いて行くことを心配しているのだと思う。
「大丈夫です、ノエルさん」
「すぐ戻るから」
ノエルさんは部屋を出て行った。
「さて、パシュパフィッツェの弟子 アシュリーよ」
「はい」
「ミズル草を作り出したのは我だ」
魔素を好む草。あれをダリア様が?
「魔力を多く持つ人が生まれぬように、魔物に分散されるようにしたのだが、あれはそなたたち人の子に迷惑をかけた」
キルヒシュタフ様を止めるために。
「我ら魔女は何のために生まれ、何のために生きるのか、万の時を生きても答えが出ぬ。
アシュリーよ、おまえはどう考える」
パフィからよくされた質問みたいで、なんとなく胸が温かくなった。
アマーリアーナ様はパフィを魔女として育てたと言ってた。ダリア様もパフィを育てたのかもしれない。
「魔女も、人も、魔物も動物も、何かのために生まれるのではないと思います。
意味が欲しくなってしまうかもしれません。でもきっと、ないと思います」
「ほう?」
パフィは言ってた。
スキルに頼るなって。それはただの才能で、ないとしても死にはしない。
なくても好きになっていい。
やりたいことをやれ。
楽しめ。
「生きるためです」
パフィはいつも面倒そうだったけど、何かをすると決めた時は全力だった。
「生きればいいんだと思います。理由なんてなくて、自分を生きればいい、僕はそう思います」
「実にパシュパフィッツェの弟子らしき答えよな」
ダリア様はにやりと笑う。
「その通りだ、人の子よ。
あるがままを受け入れよ。流れるもまたよし、逆らうもよし。だが、奪うものは奪われる。傷付けるものは傷つけられる。それが道理だ。
己の選択により未来は作られるのだ。変えられない未来はある。神が干渉した場合はな」
神様。
「神様はどうして人にスキルを授けるのですか?」
「ただの祝福にすぎぬ。人は愚かにも与えられたものに優劣を付けるがな。
スキルはな、弱き人の子の人生に、少しでも幸いがあるようにとの願いが込められたものなのだ。運命を決めるものではない」
運命を、決めるものじゃない。
キルヒシュタフの孤独を助けたくても、相反する性質を持つが故に、どうしても共に生きることは出来なかった」
アマーリアーナ様の指がパフィの髪を撫でる。
「それでも助けようと動いた時にはもう遅かった。王子が死に、キルヒシュタフは壊れてしまっていたから」
「だから、キルヒシュタフの娘だけは絶対に助けようと決めたのよ」
二人の魔女は立ち上がり、頭を下げた。
どうしたんだろうと思っていると、ノエルさんが身体を震わせた。
辺りを見回していたら、真っ赤な髪の女の人がいた。七色の尾羽を持つ、人が乗れるぐらい大きな鳥に乗っていた。
「遅くなった」
「偉大なる始祖の魔女 ダリアよ、ようこそお越しくださいました」
「我らが親愛なる姉よ、あなたをお待ちしておりました」
アマーリアーナ様とヴィヴィアンナ様が挨拶をする。そうか、焦熱の魔女 ダリア様。
パフィやアマーリアーナ様たちと違って、いるだけで空気が重くなった気がする。
「加減出来ているか?」
ダリア様は自分の身体の周りを見る。
アマーリアーナ様が僕とノエルさんを見て、「ある程度抑えきれていると思うわ」と答えた。
ノエルさんの額に沢山の汗が浮かんでる。
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ、ありがとう、アシュリー」
ダリア様は僕たちを見た。
「早々に済まそう。人の子を傷付ける趣味はないのでな」
鳥から降りたダリア様はパフィのそばに座り、髪と頰を撫でた。
「我が盟友キルヒシュタフの子 パシュパフィッツェよ。そなたが命を賭してキルヒシュタフを止めてくれたこと、礼を言うぞ。本来ならば、我がせねばならぬことであった」
立ち上がったダリア様はノエルさんを見る。
「そなたたちはミズルの花を作り替えたであろう。その種をここに持って来るのだ」
「はい」
ノエルさんは僕を見た。
僕を置いて行くことを心配しているのだと思う。
「大丈夫です、ノエルさん」
「すぐ戻るから」
ノエルさんは部屋を出て行った。
「さて、パシュパフィッツェの弟子 アシュリーよ」
「はい」
「ミズル草を作り出したのは我だ」
魔素を好む草。あれをダリア様が?
「魔力を多く持つ人が生まれぬように、魔物に分散されるようにしたのだが、あれはそなたたち人の子に迷惑をかけた」
キルヒシュタフ様を止めるために。
「我ら魔女は何のために生まれ、何のために生きるのか、万の時を生きても答えが出ぬ。
アシュリーよ、おまえはどう考える」
パフィからよくされた質問みたいで、なんとなく胸が温かくなった。
アマーリアーナ様はパフィを魔女として育てたと言ってた。ダリア様もパフィを育てたのかもしれない。
「魔女も、人も、魔物も動物も、何かのために生まれるのではないと思います。
意味が欲しくなってしまうかもしれません。でもきっと、ないと思います」
「ほう?」
パフィは言ってた。
スキルに頼るなって。それはただの才能で、ないとしても死にはしない。
なくても好きになっていい。
やりたいことをやれ。
楽しめ。
「生きるためです」
パフィはいつも面倒そうだったけど、何かをすると決めた時は全力だった。
「生きればいいんだと思います。理由なんてなくて、自分を生きればいい、僕はそう思います」
「実にパシュパフィッツェの弟子らしき答えよな」
ダリア様はにやりと笑う。
「その通りだ、人の子よ。
あるがままを受け入れよ。流れるもまたよし、逆らうもよし。だが、奪うものは奪われる。傷付けるものは傷つけられる。それが道理だ。
己の選択により未来は作られるのだ。変えられない未来はある。神が干渉した場合はな」
神様。
「神様はどうして人にスキルを授けるのですか?」
「ただの祝福にすぎぬ。人は愚かにも与えられたものに優劣を付けるがな。
スキルはな、弱き人の子の人生に、少しでも幸いがあるようにとの願いが込められたものなのだ。運命を決めるものではない」
運命を、決めるものじゃない。
2
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる