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第四章 魔女の国
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皆の食べたいものをダグ先生が集めてくれたので、次の週から魚貝じゃないものを作ることになった。この季節でも手に入れられるものにはなっちゃうけど。
「魚貝は自分用にたまに食うかな」
「いいですね。僕も食べたい。前に庭で焼いて食べたの、美味しかったです」
「あれな! 休みの日にでもやるか!」
「賛成ー!」
ふと、魔術師の人たちのことを思い出した。
「北の国から逃げてきた魔術師の人たち、レンレンさんのごはんを食べてるって聞いたんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「それなぁ……。他の薬学師がきちんとしたもん食わせてるらしいから大丈夫だろ」
……魔法薬学の人たち、きっと見るに見かねたんだろうな……。
レンレンさんはあいかわらず野草を主食にしてるみたいだし。
ラズロさんは食事を終えて、コーヒーを淹れてくれた。僕のは蜂蜜入りミルク。
「気になってたんですけど、魔術師の人たちが沢山増えて困らないんですか?」
「魔法使いの数五百人、魔法薬学師四百人弱。魔術師百人だ」
魔術師がすごい少ないんだ。
魔法使いと魔法薬学師は同じぐらいいるのに。
「魔力を持つ人間は圧倒的に北側で生まれやすいみたいでな。南の国なんてうちの国よりいない」
「へぇー。なんででしょうね。なにか理由があるのかな」
僕の生まれた村は王都より西にある。
「遥か昔はそうじゃなかったと聞いたことがありますよ」
声のしたほうを見ると、ダグ先生だった。
僕たちを見て笑顔になる。手に紙の束を持ってるから、皆の食べたいものをまとめてくれた奴かも。
「お邪魔します」
ラズロさんは立ち上がって厨房に入った。ダグ先生にコーヒーを淹れるんだと思う。
「先生、昔ってどのぐらい昔ですか?」
「文献によれば、五百年前は南の国でも魔力を多く持つ者、魔法使いがいたようです」
「なんででしょうね」
『知りたいかしら?』
振り返ると白と黒の大蛇がそこにいた。
……今日はお客さんが多い。
「アマーリアーナ様、こんにちは」
赤い舌がチロチロと口から出てくる。
『ごきげんよう、アシュリー』
ダグ先生を見ると、目を細めていたぐらいで、いつも通りだった。コーヒーを淹れて戻って来たラズロさんが一番びっくりしてたぐらいで。
「アマーリアーナ様は理由を知ってるんですか?」
知っているわよ、と答えると、白黒の大蛇はズリズリと音をさせながらテーブルの横までやってきた。おなか痛くないのかな。
僕の蜂蜜入りミルクを差し出したら、喜んで受け取ってくれた。
『五百年より前はね、魔力を持つ者は世界中にいたのよ。今も魔法のスキルを与えられた者は南にもいるだろうけど、魔力が足りないわね』
「五百年前、なにかあったんですか?」
『魔女が生まれたの』
魔女が生まれると魔力を持つ人が減るの?
あれ? その魔女って。
『パシュパフィッツェが生まれたのよ』
魔女の中で一番若いのがパフィだというのは教えてもらって知ってた。
『パシュパフィッツェが何かをしたわけじゃないわよ?』
なにか隠してるような口振りだけど、僕にはそれがなんなのか分からない。
『六百年ぶりの新しい魔女の誕生を、私たちは喜んだものだわ』
今の話だけで、アマーリアーナ様が千年は生きてることが分かってしまった。知ってたけど、魔女って本当に長生きなんだなぁ。パフィは僕の村で暮らしていたけど、他の魔女たちは寂しくないのかな。
『生の胡椒をもらっていくわね』
「あ、はい。どうぞ」
裏庭のダンジョンの野菜や花、香辛料があっという間に育つのは、アマーリアーナ様の時間をもらっているからだ。
好きなだけ持っていって欲しい。パフィは拗ねそうだけど。
アマーリアーナ様がいなくなった後、ダグ先生とラズロさんが大きな息を吐いた。
「噂には聞いていましたが、肝が冷えますね……」
「なんでアシュリーは平気なんだよ……」
「パフィで慣れてるんだと思います。それに魔女だからといって、なんの理由もなく怒ったりしないですから」
「なにで怒るか分からんって話なんだよ」
第二王子たちが起こしたことを知って、人のほうが怖いと思った。魔女は確かに怒ると怖いけど、理由もなく怒らないから。
たまに無茶苦茶だって思うこともあるけど。
「魚貝は自分用にたまに食うかな」
「いいですね。僕も食べたい。前に庭で焼いて食べたの、美味しかったです」
「あれな! 休みの日にでもやるか!」
「賛成ー!」
ふと、魔術師の人たちのことを思い出した。
「北の国から逃げてきた魔術師の人たち、レンレンさんのごはんを食べてるって聞いたんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「それなぁ……。他の薬学師がきちんとしたもん食わせてるらしいから大丈夫だろ」
……魔法薬学の人たち、きっと見るに見かねたんだろうな……。
レンレンさんはあいかわらず野草を主食にしてるみたいだし。
ラズロさんは食事を終えて、コーヒーを淹れてくれた。僕のは蜂蜜入りミルク。
「気になってたんですけど、魔術師の人たちが沢山増えて困らないんですか?」
「魔法使いの数五百人、魔法薬学師四百人弱。魔術師百人だ」
魔術師がすごい少ないんだ。
魔法使いと魔法薬学師は同じぐらいいるのに。
「魔力を持つ人間は圧倒的に北側で生まれやすいみたいでな。南の国なんてうちの国よりいない」
「へぇー。なんででしょうね。なにか理由があるのかな」
僕の生まれた村は王都より西にある。
「遥か昔はそうじゃなかったと聞いたことがありますよ」
声のしたほうを見ると、ダグ先生だった。
僕たちを見て笑顔になる。手に紙の束を持ってるから、皆の食べたいものをまとめてくれた奴かも。
「お邪魔します」
ラズロさんは立ち上がって厨房に入った。ダグ先生にコーヒーを淹れるんだと思う。
「先生、昔ってどのぐらい昔ですか?」
「文献によれば、五百年前は南の国でも魔力を多く持つ者、魔法使いがいたようです」
「なんででしょうね」
『知りたいかしら?』
振り返ると白と黒の大蛇がそこにいた。
……今日はお客さんが多い。
「アマーリアーナ様、こんにちは」
赤い舌がチロチロと口から出てくる。
『ごきげんよう、アシュリー』
ダグ先生を見ると、目を細めていたぐらいで、いつも通りだった。コーヒーを淹れて戻って来たラズロさんが一番びっくりしてたぐらいで。
「アマーリアーナ様は理由を知ってるんですか?」
知っているわよ、と答えると、白黒の大蛇はズリズリと音をさせながらテーブルの横までやってきた。おなか痛くないのかな。
僕の蜂蜜入りミルクを差し出したら、喜んで受け取ってくれた。
『五百年より前はね、魔力を持つ者は世界中にいたのよ。今も魔法のスキルを与えられた者は南にもいるだろうけど、魔力が足りないわね』
「五百年前、なにかあったんですか?」
『魔女が生まれたの』
魔女が生まれると魔力を持つ人が減るの?
あれ? その魔女って。
『パシュパフィッツェが生まれたのよ』
魔女の中で一番若いのがパフィだというのは教えてもらって知ってた。
『パシュパフィッツェが何かをしたわけじゃないわよ?』
なにか隠してるような口振りだけど、僕にはそれがなんなのか分からない。
『六百年ぶりの新しい魔女の誕生を、私たちは喜んだものだわ』
今の話だけで、アマーリアーナ様が千年は生きてることが分かってしまった。知ってたけど、魔女って本当に長生きなんだなぁ。パフィは僕の村で暮らしていたけど、他の魔女たちは寂しくないのかな。
『生の胡椒をもらっていくわね』
「あ、はい。どうぞ」
裏庭のダンジョンの野菜や花、香辛料があっという間に育つのは、アマーリアーナ様の時間をもらっているからだ。
好きなだけ持っていって欲しい。パフィは拗ねそうだけど。
アマーリアーナ様がいなくなった後、ダグ先生とラズロさんが大きな息を吐いた。
「噂には聞いていましたが、肝が冷えますね……」
「なんでアシュリーは平気なんだよ……」
「パフィで慣れてるんだと思います。それに魔女だからといって、なんの理由もなく怒ったりしないですから」
「なにで怒るか分からんって話なんだよ」
第二王子たちが起こしたことを知って、人のほうが怖いと思った。魔女は確かに怒ると怖いけど、理由もなく怒らないから。
たまに無茶苦茶だって思うこともあるけど。
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