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第四章 魔女の国

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 密偵としてこっちに送られた魔術師は北の国に送り返されるんだけど、パフィがそれだけで返すはずもなくって。

『スキルを封印して返してやった』

 楽しそうに言うものだから呆れてしまうけど、こちらからしたらそのほうがいいのかなぁ、と思ったり。
 それにしても、楽しそうだなぁ、パフィ。

「スキルの封印なんてできるんだ」
『できるぞ。新たなスキルを与えることや伸ばすことはできないがな』
「そうなんだ?」
『それは神の領分だ』
「僕のダンジョンメーカーを封印しようとは思わなかったの?」

 今の生活が嫌だとかそういうことじゃなくって。
 もし封印されていたら僕はまだ村にいたんじゃないかなって、ちょっと思ってしまって。

『村にいる分には問題ないと思っていたしな。それに今はアマーリアーナがいるから無理だ』
「あ、そっか」

 そうだった。
 アマーリアーナ様はヴィヴィアンナ様のために僕に魔力水晶トラスを作らせたんだもんね。

『前の生活が恋しいか?』
「母さんたちに会えなくなったのはやっぱり寂しいよ。帰りたいとはちょっと違うんだけど」
『おまえも村を出てから二度、冬を越しているからな。今回が三度目だ』
「あっという間だったよ」
『良いことだ。過去も大事だがな、明日はくる。できるなら先のことを考えて生きていけたほうがいい』
「そうだね」

 これからのことを考えると、不安もある。
 でもなんていうか、僕の気持ちに関係なく明日はやってくるから。

『ところで昨日の魚貝のスープ、熱すぎたぞ』
「え、そうだった?」

 たっぷりの魚貝を入れて作ったスープは好評だった。魚貝の売上に貢献しようということになって、レシピをギルドに教えた。元はギルドの人から教えてもらったものだったからお金はもらうつもりはなくて。こうしてみたよ、と報告みたいな感じ。
 あのスープがギルドの中の屋台でも食べられたらいいなぁ、っていう僕とラズロさんの下心。

『熱かった』

 でもみんなそんなこと言ってなかったけど……。

「あ、猫舌?」

 二股のしっぽで頰をビシビシ叩かれた。
 痛い……。

「ねぇ、パフィ、魔術師が来るのが終わったらどうなるの?」
『秘密だ』
「僕が子供だから?」
『国の取り決めをそう易々と教えるわけなかろう』
「あ、そっか。そうだよね、ごめん」

 魔術師たちはこの国で、ナインさんと同じように人として生きていけるようになるんだなって思うと、ほっとする。
 ナインさんも同じように思ってたみたいで、前に蜂蜜を溶かしたホットミルクを飲みながら呟いてた。

 自分だけ助かった。申し訳なく思う。

 ナインさんを連れてくると決めたのはナインさんじゃないけど、でもやっぱり、そう思っちゃうよね。
 自分だけって。

「魔術師の人たちは審査が終わったらすぐにこっちに来るの?」
『いや、この冬を越えるまでは無理だな』
「そうなの?」
『確認はしたがな、念の為という奴だ』

 パフィが調べて、それをくぐり抜けられるとも思わないけど……用心に越したことはないよね。

「食事とかどうするの? 着るものとか」
『レンレンが張り切っていたな』
「なんで?!」

 レンレンさんは魔法薬学の人なのになんで?
 あ、もしかして野草を……?

 ……生き延びてくださいね、魔術師さんたち……。
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