229 / 271
第四章 魔女の国
056-1
しおりを挟む
洗濯をしなくて良くなったので、少し時間ができて嬉しい。最近はへとへとになってすぐに寝てしまって、本を読む時間がなかったから。
魔力は食べることで回復できても、身体の疲れまでは取ってくれないし、魔法は集中しないと危ない。
ちょっとでいいから本を読みたい。
文字を覚えて色んな本を読めるようになった。僕の知らないことが沢山書かれていて、想像するのが楽しい。想像してもよく分からないものはラズロさんや城の皆に聞けば教えてもらえる。
読めるようになってきたし、言葉も覚えたし、書けるようになってきた。
僕は王都から出られない。嫌ではないけど、たまに寂しくなる。いつか行きたいねっていう口約束もできない。それがどうしようもなく悲しくなって、でもそれはどうしようもないことだって分かってる。
ダンジョンメーカーは、ダンジョンの中でならなんでもできてしまう。僕が望まなくても、その力を悪用したいという人が僕を言いなりにさせたら……。それに、いくらダンジョンの中で再現できても、それは本物じゃない。
ノエルさんはこの力を持っていても危険じゃないことを証明したいって言ってくれたけど、無理だろうなって今なら思う。
そんな僕にとって、本は僕の知らない外のことを教えてくれるもの。だから、ほんのちょっとでいいから、本を読みたい。
それに外に出られないのは僕だけじゃない。殿下もそうだって気づいて、自分のことばかり考えてたなって思った。
「一日にできることって、そんなに多くないですよね。食事の準備とか、洗濯とか、掃除とか」
「アシュリーの言ってることが主婦すぎてオニーサンは泣けてきたよ……」
ラズロさんは僕に子供らしさを持って欲しいみたい。でもラズロさん、子供って意外と冷静だと思います。ラズロさんの優しさは他の人の優しさとも違ってて、あったかいなって思う。
「でもまぁ、アシュリーの魔法の使い方をおエライさんが知ったのは大きいことだったよなぁ」
夕食の準備をしながらの、ラズロさんと僕のおしゃべり。ラズロさんは休みの日以外は僕とこうして一緒にいてくれる。食堂を使う人が増えて僕一人ではまかなうことができないから。
休みの日は宵鍋に連れて行ってくれたり、ギルドの屋台に行ったり。
自分が作ったんじゃないメシが食いたい! って言って。
「僕のように魔力が少ない人もいますもんね」
トキア様は魔力が多い。魔法師団にいる人たちも同じように魔力が多くて、魔法や魔術のスキルを持っている人たちが集められてる。でも多くはないみたい。
魔法スキルを持ってる人はそこそこいる。でも魔力がないから仕事にできない。
僕のような魔力が少ない人でもできることがある、それを仕事にできるとトキア様たちは思ったみたいだった。
「魔力はあるが使えるスキルのない奴らに魔術師団が声をかけてるらしいぞ」
「術符に魔力を込めるんですか?」
そうそう、と答えながらラズロさんはトマトを鍋に入れる。
トマトを使った料理をパフィがとても気に入ってしまって、ダンジョンで育てろと言い出して……駄目だって分かってるけど、トマトを使った料理の美味しさに僕も負けてしまった。
高い山、雨が少なくて、朝と夜の気温の差が大きいところ、あと日差しが強いと甘くて酸味の少ないトマトが採れるんだって。この国でもトマトを作ってるけど、甘さはあんまりなくって、酸っぱいだけのものが普通。
酸味の強いトマトは煮込み料理にすると酸味が減るのもあって、この国のトマト料理は煮込みが普通。僕もそういった食べ方しか知らなかった。
たまに乾燥していないトマトがギルドに入ることがあると、ザックさんが買い占めちゃうらしい。高くて皆買わないから問題ないみたいだけど……。
ザックさんはトマトを生のまま使った料理を出してくれる。
僕が好きなのは、乱切りにしたトマトと、タマネギの薄く切ったものを酢漬けにしたもの。
これを食べて僕とパフィがトマト作りを決めた。
つい勢いで作り始めてしまったトマトを気に病んでいたら、南の国との関係が良くないのもあって、多めに採れたらギルドに卸す……という建前があるから気にすんなってラズロさんが笑って言ってくれた。優しい。
最近はザックさんのお店以外でも煮ていないトマトを出すところが増えたみたいで、今王都はトマトが流行ってる。
魔力は食べることで回復できても、身体の疲れまでは取ってくれないし、魔法は集中しないと危ない。
ちょっとでいいから本を読みたい。
文字を覚えて色んな本を読めるようになった。僕の知らないことが沢山書かれていて、想像するのが楽しい。想像してもよく分からないものはラズロさんや城の皆に聞けば教えてもらえる。
読めるようになってきたし、言葉も覚えたし、書けるようになってきた。
僕は王都から出られない。嫌ではないけど、たまに寂しくなる。いつか行きたいねっていう口約束もできない。それがどうしようもなく悲しくなって、でもそれはどうしようもないことだって分かってる。
ダンジョンメーカーは、ダンジョンの中でならなんでもできてしまう。僕が望まなくても、その力を悪用したいという人が僕を言いなりにさせたら……。それに、いくらダンジョンの中で再現できても、それは本物じゃない。
ノエルさんはこの力を持っていても危険じゃないことを証明したいって言ってくれたけど、無理だろうなって今なら思う。
そんな僕にとって、本は僕の知らない外のことを教えてくれるもの。だから、ほんのちょっとでいいから、本を読みたい。
それに外に出られないのは僕だけじゃない。殿下もそうだって気づいて、自分のことばかり考えてたなって思った。
「一日にできることって、そんなに多くないですよね。食事の準備とか、洗濯とか、掃除とか」
「アシュリーの言ってることが主婦すぎてオニーサンは泣けてきたよ……」
ラズロさんは僕に子供らしさを持って欲しいみたい。でもラズロさん、子供って意外と冷静だと思います。ラズロさんの優しさは他の人の優しさとも違ってて、あったかいなって思う。
「でもまぁ、アシュリーの魔法の使い方をおエライさんが知ったのは大きいことだったよなぁ」
夕食の準備をしながらの、ラズロさんと僕のおしゃべり。ラズロさんは休みの日以外は僕とこうして一緒にいてくれる。食堂を使う人が増えて僕一人ではまかなうことができないから。
休みの日は宵鍋に連れて行ってくれたり、ギルドの屋台に行ったり。
自分が作ったんじゃないメシが食いたい! って言って。
「僕のように魔力が少ない人もいますもんね」
トキア様は魔力が多い。魔法師団にいる人たちも同じように魔力が多くて、魔法や魔術のスキルを持っている人たちが集められてる。でも多くはないみたい。
魔法スキルを持ってる人はそこそこいる。でも魔力がないから仕事にできない。
僕のような魔力が少ない人でもできることがある、それを仕事にできるとトキア様たちは思ったみたいだった。
「魔力はあるが使えるスキルのない奴らに魔術師団が声をかけてるらしいぞ」
「術符に魔力を込めるんですか?」
そうそう、と答えながらラズロさんはトマトを鍋に入れる。
トマトを使った料理をパフィがとても気に入ってしまって、ダンジョンで育てろと言い出して……駄目だって分かってるけど、トマトを使った料理の美味しさに僕も負けてしまった。
高い山、雨が少なくて、朝と夜の気温の差が大きいところ、あと日差しが強いと甘くて酸味の少ないトマトが採れるんだって。この国でもトマトを作ってるけど、甘さはあんまりなくって、酸っぱいだけのものが普通。
酸味の強いトマトは煮込み料理にすると酸味が減るのもあって、この国のトマト料理は煮込みが普通。僕もそういった食べ方しか知らなかった。
たまに乾燥していないトマトがギルドに入ることがあると、ザックさんが買い占めちゃうらしい。高くて皆買わないから問題ないみたいだけど……。
ザックさんはトマトを生のまま使った料理を出してくれる。
僕が好きなのは、乱切りにしたトマトと、タマネギの薄く切ったものを酢漬けにしたもの。
これを食べて僕とパフィがトマト作りを決めた。
つい勢いで作り始めてしまったトマトを気に病んでいたら、南の国との関係が良くないのもあって、多めに採れたらギルドに卸す……という建前があるから気にすんなってラズロさんが笑って言ってくれた。優しい。
最近はザックさんのお店以外でも煮ていないトマトを出すところが増えたみたいで、今王都はトマトが流行ってる。
2
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる