上 下
226 / 271
第四章 魔女の国

055-1

しおりを挟む
 冬の寒さは日に日に増しているけど、去年ほどじゃないな、と感じるのは僕だけなのかな。

「寒いけど、いつもの年ほどじゃない気がする」

 僕の独り言をパフィが拾う。

『ダンジョンを封じて回った甲斐があったな』

 僕は行ってないけど、騎士団や魔法師団の人たちがダンジョンを回ってモンスターを倒し、ダンジョンの入り口を封印したんだって。
 だからこの冬もこの国から冬の王は出ないだろうって皆言ってる。

「北の国や南の国には出るのかな」

 他の国がどんな対応をしているのかは分からないけど、僕たちのいるこの国のようにやってくれているとは思えない。

『出たとして気にすることもない。東や西の国ならば救援要請がくるだろうがな』

 思わずため息を吐いた僕の手を、パフィのしっぽが軽く叩く。

『何を悩む』

「悩むっていうか……皆なんで仲良くできないのかなって思って」

『無理だろう』

 あっさりと否定されてなんとなく悲しくなる。
 長い時間を生きてきたパフィからしたら、僕たち人はとても弱くて愚かに見えるんだろうな。

『おまえも、スキルを手にした時に思ったはずだ』

「スキル?」

 聞き返すとパフィのしっぽがゆらりと揺れた。

『人並みの魔力が欲しい、と』

「それは、そうだけど。あったら色んなことができるのを知ってるから」

『なかったものを与えられたのに、何故それに感謝しない? 人と同じものを望む? 何故他者を羨む?』

「幸せになりたいからだよ、誰もがそう思うから優れたものを欲しがる」

 言葉に詰まってしまった僕の代わりにラズロさんが答えた。
 僕の肩をラズロさんはポンと叩く。それから困ったように笑う。

「子供にも厳しいなぁ、魔女様は」

『考えさせるための問いにおまえが答えてどうする』

 ははは、とラズロさんは笑う。

『欲を持つことが悪いことではない。その欲を満たすための方法が問題なのだ』

 パフィの言葉にラズロさんが真面目な顔で頷く。
 欲を満たす。

『甘い果実は魅力的だ。甘露は私も抗えん。
欲の全てを悪とは言わんがな。多くを人より求めたいと思った回数だけ、おまえは人の心を少しずつ失うことを覚えておけ』

 しっぽをゆらゆらと揺らし、パフィは泡が弾けるように目の前から消えた。

「……前から思ってたんだけどな」

 ラズロさんの眉間に皺が寄ってる。

「今みたいな問答、ずっとやってたのか?」

「はい。魔力が欲しいってパフィの元を訪れてからずっとこんな感じです」

 大きなため息を吐き、「こりゃアシュリーが老ける訳だ。子供への教えじゃねぇよ」とこぼす。

「子供の僕を、大人と同じように扱ってくれてるって分かってからは気にしてないです」

「その答えがそもそもだなぁ……」

 もう一度ため息を吐くと、ラズロさんは僕を見る。

「青春は味わえよ」

「青春?」

 そうだ、と力強く頷く。

「アシュリーは子供らしい子供時代を過ごしてないだろ。このままじゃ青春時代すら枯れそうで、オニーサンは不安なわけよ」

「青春ってどんなことをするんですか?」

 ラズロさんはニヤリと笑う。

「そんなん決まってんだろ、ウフフでアハハだよ」

「じゃあ今もラズロさんは青春真っ只中ですね」

「ちょっ! アシュリーさんってばオレのことをそんな目で?!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

テイマーズライフ ~ダンジョン制覇が目的ではなく、ペットを育てるためだけに潜ってしまうテイマーさんの、苦しくも楽しい異世界生活~

はらくろ
ファンタジー
時は二十二世紀。沢山のユーザーに愛されていた、VRMMORPGファンタズマル・ワールズ・オンラインに、一人のディープなゲーマーさんがいた。そのゲーマーさんは、豊富な追体験ができるコンテンツには目もくれず、日々、ペットを育てることに没頭している。ある日突然ゲーマーさんは、ゲームに似た異世界へ転移してしまう。ゲーマーさんははたして、どうなってしまうのか?

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...