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第四章 魔女の国
053-2
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今日も宵鍋は大にぎわい。
外にいても店の笑い声が漏れていた。
扉を押すと、店から漏れた熱気が顔に当たって、一緒に料理の匂いが鼻とおなかを刺激してきた。
奥の空いた席に座る。
出来上がったチーズは、前にラズロさんが宵鍋に届けてくれた。
乾杯用の飲み物を手に取り、グラスを軽くぶつけあう。
「大分寒くなりましたねぇ。エールで肝が冷えました」
「冬の入りだからね」
「今年も出ると思われますか? 冬の王」
「どうだろうね。さすがに毎年だと各国も大変だとは思うけど」
「昔は大変でしたよねぇ」
ティール様が懐かしそうな顔をする。対照的にノエルさんは疲れた顔になる。
僕の視線に気が付いて、ノエルさんが苦笑いを浮かべた。
「僕とティールがまだ駆け出しの頃、毎年のように冬の王がこの国に現れていたんだよ。
さすがに僕たちは討伐隊には参加してなかったけどね」
頷くティール様の横で、テーブルに並んだ料理をラズロさんが皿によそり、みんなに回してくれる。
「それまでこの国は騎士と魔法使いが主戦力だったんだ。度重なる襲撃で戦い方を短期間で済むように、被害を最小限にするにはどうすれば良いかを模索していた」
「私の師匠が術符を使った戦闘を考案してから、魔術師の地位が向上したんですよー」
ノエルさんやティールさんが駆け出しの頃、と言うことはそんなに前のことじゃないんだ。
「主な原因はクロウリーの作ったダンジョンだったり、術符だったんだよね。それを一つずつ片付けていくうちに冬の王が出現するのを抑えられるようになった」
「あれはあれで厄介でしたが、彼の残したダンジョンや術符のお陰でこの国の魔術が発展したのもあって、魔術師としては複雑な気持ちです」
「冬の王との戦いで命を落とした者も多かったからね、複雑だよね」
「おらおら、くっちゃべってばっかいねぇで、メシは美味い時に食え」
しんみりした空気をラズロさんが吹き飛ばしてくれた。みんな顔を上げて、ザックさんの料理を口にする。
「あぁ、美味しい。このクロケット、中にチーズが入ってるよ。トマトのソースとの相性も抜群だね。何個でも食べられそう」
クロケットをフォークで半分に割ると、中からとろりとチーズが出てきた。
あ、もしかしてこれ?
顔を上げてザックさんを見ると、頷いた。
僕が作ったチーズを入れてくれたんだ。
クロケットを頬張る。
サクサクした衣に、いものほくほくした食感。とろりとしたチーズ。トマトソースの酸味で口がすっきりするからなのか、もっと食べられそうな気がする。ノエルさん、同感です。
『美味いな』
気に入ったのか、パフィもクロケットをぺろりと平らげていく。
結構熱々なんだけど、猫舌じゃないの……?
『美味いが、もっとがっつりしたものが食べたいぞ』
「おう、そのがっつりした奴だ」
テーブルの真ん中に、ジュウジュウ音をさせた肉の塊が置かれた。
肉の上にたっぷりのチーズ。
「肉は濃すぎるぐらいに味付けしてあるから、チーズに絡めて食えよ」
『大きいところを寄越せ』
「はいはい」
大きな塊をパフィの皿の上にのせる。
がぶりと肉に噛みつく。
『胡椒が効いて辛いぐらいだが、チーズのまろやかさと良い組み合わせだな。何をしている、新しいのをのせろ』
「チーズ美味しい?」
『悪くない』
満足そうに目を細めた。
「アシュリーも食べて食べて」
ノエルさんが肉とチーズを皿にのせてくれた。
「ありがとうございます」
チーズをたっぷりつけてから肉を食べる。
表面がカリッとしてるけど、肉は柔らかくて、じゅわっと肉汁が噛むたびに出てくる。
中までしっかり味が付いていて辛いけど、チーズがやわらげてくれる。
外にいても店の笑い声が漏れていた。
扉を押すと、店から漏れた熱気が顔に当たって、一緒に料理の匂いが鼻とおなかを刺激してきた。
奥の空いた席に座る。
出来上がったチーズは、前にラズロさんが宵鍋に届けてくれた。
乾杯用の飲み物を手に取り、グラスを軽くぶつけあう。
「大分寒くなりましたねぇ。エールで肝が冷えました」
「冬の入りだからね」
「今年も出ると思われますか? 冬の王」
「どうだろうね。さすがに毎年だと各国も大変だとは思うけど」
「昔は大変でしたよねぇ」
ティール様が懐かしそうな顔をする。対照的にノエルさんは疲れた顔になる。
僕の視線に気が付いて、ノエルさんが苦笑いを浮かべた。
「僕とティールがまだ駆け出しの頃、毎年のように冬の王がこの国に現れていたんだよ。
さすがに僕たちは討伐隊には参加してなかったけどね」
頷くティール様の横で、テーブルに並んだ料理をラズロさんが皿によそり、みんなに回してくれる。
「それまでこの国は騎士と魔法使いが主戦力だったんだ。度重なる襲撃で戦い方を短期間で済むように、被害を最小限にするにはどうすれば良いかを模索していた」
「私の師匠が術符を使った戦闘を考案してから、魔術師の地位が向上したんですよー」
ノエルさんやティールさんが駆け出しの頃、と言うことはそんなに前のことじゃないんだ。
「主な原因はクロウリーの作ったダンジョンだったり、術符だったんだよね。それを一つずつ片付けていくうちに冬の王が出現するのを抑えられるようになった」
「あれはあれで厄介でしたが、彼の残したダンジョンや術符のお陰でこの国の魔術が発展したのもあって、魔術師としては複雑な気持ちです」
「冬の王との戦いで命を落とした者も多かったからね、複雑だよね」
「おらおら、くっちゃべってばっかいねぇで、メシは美味い時に食え」
しんみりした空気をラズロさんが吹き飛ばしてくれた。みんな顔を上げて、ザックさんの料理を口にする。
「あぁ、美味しい。このクロケット、中にチーズが入ってるよ。トマトのソースとの相性も抜群だね。何個でも食べられそう」
クロケットをフォークで半分に割ると、中からとろりとチーズが出てきた。
あ、もしかしてこれ?
顔を上げてザックさんを見ると、頷いた。
僕が作ったチーズを入れてくれたんだ。
クロケットを頬張る。
サクサクした衣に、いものほくほくした食感。とろりとしたチーズ。トマトソースの酸味で口がすっきりするからなのか、もっと食べられそうな気がする。ノエルさん、同感です。
『美味いな』
気に入ったのか、パフィもクロケットをぺろりと平らげていく。
結構熱々なんだけど、猫舌じゃないの……?
『美味いが、もっとがっつりしたものが食べたいぞ』
「おう、そのがっつりした奴だ」
テーブルの真ん中に、ジュウジュウ音をさせた肉の塊が置かれた。
肉の上にたっぷりのチーズ。
「肉は濃すぎるぐらいに味付けしてあるから、チーズに絡めて食えよ」
『大きいところを寄越せ』
「はいはい」
大きな塊をパフィの皿の上にのせる。
がぶりと肉に噛みつく。
『胡椒が効いて辛いぐらいだが、チーズのまろやかさと良い組み合わせだな。何をしている、新しいのをのせろ』
「チーズ美味しい?」
『悪くない』
満足そうに目を細めた。
「アシュリーも食べて食べて」
ノエルさんが肉とチーズを皿にのせてくれた。
「ありがとうございます」
チーズをたっぷりつけてから肉を食べる。
表面がカリッとしてるけど、肉は柔らかくて、じゅわっと肉汁が噛むたびに出てくる。
中までしっかり味が付いていて辛いけど、チーズがやわらげてくれる。
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