上 下
220 / 271
第四章 魔女の国

053-2

しおりを挟む
 今日も宵鍋は大にぎわい。
 外にいても店の笑い声が漏れていた。
 扉を押すと、店から漏れた熱気が顔に当たって、一緒に料理の匂いが鼻とおなかを刺激してきた。

 奥の空いた席に座る。
 出来上がったチーズは、前にラズロさんが宵鍋に届けてくれた。

 乾杯用の飲み物を手に取り、グラスを軽くぶつけあう。

「大分寒くなりましたねぇ。エールで肝が冷えました」

「冬の入りだからね」

「今年も出ると思われますか? 冬の王」

「どうだろうね。さすがに毎年だと各国も大変だとは思うけど」

「昔は大変でしたよねぇ」

 ティール様が懐かしそうな顔をする。対照的にノエルさんは疲れた顔になる。
 僕の視線に気が付いて、ノエルさんが苦笑いを浮かべた。

「僕とティールがまだ駆け出しの頃、毎年のように冬の王がこの国に現れていたんだよ。
さすがに僕たちは討伐隊には参加してなかったけどね」

 頷くティール様の横で、テーブルに並んだ料理をラズロさんが皿によそり、みんなに回してくれる。

「それまでこの国は騎士と魔法使いが主戦力だったんだ。度重なる襲撃で戦い方を短期間で済むように、被害を最小限にするにはどうすれば良いかを模索していた」

「私の師匠が術符を使った戦闘を考案してから、魔術師の地位が向上したんですよー」

 ノエルさんやティールさんが駆け出しの頃、と言うことはそんなに前のことじゃないんだ。

「主な原因はクロウリーの作ったダンジョンだったり、術符だったんだよね。それを一つずつ片付けていくうちに冬の王が出現するのを抑えられるようになった」

「あれはあれで厄介でしたが、彼の残したダンジョンや術符のお陰でこの国の魔術が発展したのもあって、魔術師としては複雑な気持ちです」

「冬の王との戦いで命を落とした者も多かったからね、複雑だよね」

「おらおら、くっちゃべってばっかいねぇで、メシは美味い時に食え」

 しんみりした空気をラズロさんが吹き飛ばしてくれた。みんな顔を上げて、ザックさんの料理を口にする。

「あぁ、美味しい。このクロケット、中にチーズが入ってるよ。トマトのソースとの相性も抜群だね。何個でも食べられそう」

 クロケットをフォークで半分に割ると、中からとろりとチーズが出てきた。
 あ、もしかしてこれ?
 顔を上げてザックさんを見ると、頷いた。
 僕が作ったチーズを入れてくれたんだ。

 クロケットを頬張る。
 サクサクした衣に、いものほくほくした食感。とろりとしたチーズ。トマトソースの酸味で口がすっきりするからなのか、もっと食べられそうな気がする。ノエルさん、同感です。

『美味いな』

 気に入ったのか、パフィもクロケットをぺろりと平らげていく。
 結構熱々なんだけど、猫舌じゃないの……?

『美味いが、もっとがっつりしたものが食べたいぞ』

「おう、そのがっつりした奴だ」

 テーブルの真ん中に、ジュウジュウ音をさせた肉の塊が置かれた。
 肉の上にたっぷりのチーズ。

「肉は濃すぎるぐらいに味付けしてあるから、チーズに絡めて食えよ」

『大きいところを寄越せ』

「はいはい」

 大きな塊をパフィの皿の上にのせる。
 がぶりと肉に噛みつく。

『胡椒が効いて辛いぐらいだが、チーズのまろやかさと良い組み合わせだな。何をしている、新しいのをのせろ』

「チーズ美味しい?」

『悪くない』

 満足そうに目を細めた。

「アシュリーも食べて食べて」

 ノエルさんが肉とチーズを皿にのせてくれた。

「ありがとうございます」

 チーズをたっぷりつけてから肉を食べる。
 表面がカリッとしてるけど、肉は柔らかくて、じゅわっと肉汁が噛むたびに出てくる。
 中までしっかり味が付いていて辛いけど、チーズがやわらげてくれる。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...